依頼
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。
「今日は突然で申し訳ない」
午後の遅い時間、村長であるゾブラ宅で、武装した壮年の男性と別の村の村長は深く頭を下げた。
「いやいや」と頭を上げさせて、明らかに急いて来たらしい二人の要件を早速確認する。
だが、ここハイシェット村をわざわざ訪ねてきた理由は明らかだった。
「ヘケット村から、お急ぎの様子ですが何がありましたか?」
「ああ、もう粗方わかっていると思うが、魔獣がかなりの数発生している。既に人への被害も出ているし、活動が活発になる夕方は不用意に外には出られない」
「そこで、毎度申し訳ないが、マーリンさんに依頼を出したい」
やはりそうだろう。わかっていながら表情は苦くなる。
村長と連れ立ってきた男のほうが、ゾブラの様子を見て色を変えた。
「まさか、マーリンさんは今いらっしゃいませんか」
それを聞いたヘケット村の村長も血相を変えてこちらを見るが、ゾブラは首を振った。
「いえ、マーリンはまだこの村にいます。……なのですが、実は昨日ナハセ村からもマーリンに急ぎの依頼がありまして」
ほっとしたのもつかの間、ヘケット村の二人は絶句した。
ゾブラもまた伝えるのが辛くもあるが、聞くことは聞かなければならない。
「その魔獣とは『一角兎』ですか」
「その通りです。もしやナハセ村も?」
「はい。アドミラジが大量発生しているようです。しかし、二つの群れが里まで下りてくるとは、これまで聞いたことがないですね」
「……なんとか、マーリンさんが来るまで、うちの村のもんだけで耐えるしかないですね。幸いナハセとの距離は近い。マーリンさんには申し訳ないが、討伐が完了次第そのままヘケットに来ていただけるようお願いできないでしょうか」
緊急だ。ゾブラの判断ですぐに頷く。
「承知しました。マーリンにはすぐに伝え、必ず了承してもらいましょう。アドミラジは魔獣の中ではクラスとしては最弱ですが、それでも群れで来られれば危険です。それに、上位個体がいる可能性もありますからな」
話が済んだならすぐにでも戻らなければならない。宅を辞すところで、ゾブラは思い出す。
「そういえばゼンネルさん。マーリンの方から、あなたに依頼したいことがあるようでしたよ」
すぐに戻らなければいけない時だが、これにはゼンネルと呼ばれた男だけでなく村長さえも驚いた顔をした。
「マーリンさんが? 私に?」
「ええ。行けばわかると思います」
この状況で不謹慎ではあるが、ゾブラの顔は微笑んでいた。
――
村長と連れ立ってハイシェット村を歩く。いくつか見知った顔を見つけるたび、ゼンネルは片手を挙げて挨拶をした。
「マーリンがすぐには来れん以上、悠長にはできんが」
「分かっています。依頼とやらを聞いたらすぐにでも発ちましょう」
ヘケット村で一番剣の腕が立つのは自分だ。
実を言えばそれさえ控え目な表現であり、ヘケットだけでなく近隣の村を含めてもゼンネルが剣士としてNo.1であることは共通認識でもある。
―ヘケット村はゼンネルの故郷。十五で開拓者になるため村を出たが、ゼンネルとしては村人も村も心から愛していた。ある程度開拓者として過ごし、まとまったお金を送金し、いくらか蓄えができた時に、いついかなる時でも代り映えのしないであろう村に戻りその後の生涯をそこで暮らすつもりでいた。
しかし、ヘケット村は昔のままではいてくれなかった。
村人ではどうあがこうと敵わない魔獣の襲来。一個体であったにも関わらず、村は魔獣の狩場となる。
茜の空が広がる夜前の出来事だった。最初に襲撃された家族は全員死亡。二つ目の家族を殺したところで村全体が魔獣に気づき、女子供に老人を逃がすため獣を包囲した勇気ある男たちもほとんどが殺された。
ヘケット村と近くの村々がかき集めた金銭で開拓ギルドに依頼を出し最終的に魔獣は討伐されたが、ヘケット村は以前の状態には戻らなかった。
傷の癒えぬ者、そして伝手のある者は別の村に移り住み、戻ってきた村人は四割程度だった。
殺された村人の中にはゼンネルの両親と弟がいた。
家族を殺した魔獣のクラス(等級)は「濃い橡」。最近ではわかりやすく数字でも表されるが、その場合はクラス3。クラス1の下等級が最弱であり、下から三つ目であった。「濃い」というのは橡等級の中でも上位の魔獣であったという意味だ。
全盛期でも一対一であれば勝てないだろうが、当時組んでいた奴らとであれば殺せただろう。
ゼンネルが村の惨状を目にしたとき、そのまま絶望と後悔の底まで沈み、永遠に殻に閉じこもってしまいたかったが、幸運にも妹は生きていた。その事実が彼を死んだように生きることを許さなかった。
今なら妹の存在が生にしがみつくための、留まらず歩き続けるための光であったとわかる。
もう二度と家族とこの村を失いたくなかった。開拓者として銅等級にまで辿り着いていたが、地位よりもこれ以上後悔することが怖かった。
以来十年余り、ゼンネルはヘケット村を守っている。
――
「マーリンさん、いるかい?」
青い瓦が特徴的な家の扉を叩く。家の奥側にある庭から物音が聞こえるのでいるとは思うが。と思った矢先、家の脇にある庭へ続く道から白髪の男が顔を出した。
「ゼンネルか、久しいな。それとヘケット村の村長の、ホズルさんか」
「お久しぶりですね、マーリンさん」
ゼンネルとホズルがそれぞれ挨拶を行う。そして、先ほどゾブラ村長に了承された依頼を、再度マーリンにも伝えた。
するとマーリンは険しい顔になり、一度目を閉じた。
「ナハセとヘケット、どちらも斑の森に近い。だが二つの群れが同時期に森から出るというのも聞かない話だ。いずれにしても、急ぐ必要があるな。俺も先ほど同じ話を聞かせていた」
「? 誰にですか?」
問い返すと、にやりとマーリンが笑み返す。
「赤子の手でも借りるべき今の状況にちょうどいい。俺の手伝いができる人間が近頃増えたんでな」
「は?」という言葉がゼンネルから漏れたが、マーリンとは別の足音がそれをかき消した。
「ああ、そういえばお前に依頼したいことがあったのだ。剣の訓練をしてほしい奴がいる。ここらで教えるに足る腕を持つ剣士はお前しかいない。すまんが、できれば頼みたい」
「はあ?」という先ほどより大きい声が出る前に、近づいてきた少年に意識が逸れた。
黒髪で、黒目か?かなり珍しい。都市でも見たことがないほど、完全な黒だ。
切れ長で理知的な目が、幼そうに見えた少年の年齢をあやふやにする。
「今回の急ぎの件もこいつに手伝ってもらえば、幾分早く解決するだろう。変わりというわけではないが、お前の剣を教えてやってほしい」
「は?」
私ではなく、黒髪の少年から疑問の声が漏れた。
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。




