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たまには村娘と交流を

 この世界に転生してから既に百日ほどが経ったあるの日のこと。


 今日も朝起きて村長さん宅の庭先で剣の訓練。と言っても、型の素振りと藁を巻いた木に打ち込む日々である。

 時折マーリンさんからチェックが入るが、なかなかサマになってきているとのこと。


 そもそも俺は地味な作業をコツコツやることが嫌いではなかったから、朝の訓練も全く苦にならない。陸上部の地道で地獄な朝練に比べれば、肺の可愛がり具合が甘いんじゃないの、というくらい苦にならない。


 素振りも当初に比べれば風を切る音が変わってきた。まだまだ素人もいいところだが、そろそろ次の段階に入るとマーリンさんから通達があったばかり。

 次の訓練とは何だろうか。胸が躍るな。


 最近毎日が充実している。


 起きて剣の素振り、ゾブラさんやユウラさんと朝ごはんを食べ開拓場へ。ひとしきり働いて日が暮れ始める時間に仕事が終わるので、そのままマーリンさん宅へ。最近は気温が高く日も長くなってきた。

 こちらにも春夏秋冬はある。肌をじりじりと焦がすような日差しと水分を含んだ空気が、この世界の夏を告げていた。


 先輩ジズさんや他の村人たちとも仲良くなってきた。


 つい先日は開拓の仕事ではなくこの時期採れる農作物の収穫を手伝うことになり、ジズさんと村の外れの畑に出向いて収穫作業に精を出した。


 開拓場に比べればこちらのほうが女性や子どもが多い。開拓場は木片とか飛んできて意外と危ないからだろう。

 畑に着いた途端、なぜかジズさんが俺におせっかいを焼き始める。この人が面倒見がよいことは知っているが、その野畑に響き渡るが如き声のボリュームはなんだろうか。まあ、同年代の女子がチラホラ見える事から察することはできる。


 ジズさんの過度なサポートを賜りつつ地道にナスっぽい野菜をもぎっていると、女子一団の中から二人がこちらに近づいてくる。気づいたジズさんが俺のみぞおちを軽く殴ってきた。興奮しすぎだ。ちなみにその場に留まっていたそれ以外の女子たちは、ご年配の女性に一喝されて散り散りとなっていた。


 しかしジズさんの荒い鼻息が少々うざい。この三か月ソラさんミエナさん、そしてユウラさん以外とはあまり接点のなかった俺も、若い子が近づいてくればドキドキするかなと思ったが、隣で極度に興奮している男がいると途端に冷静になれた。それに俺は前世ロリコンではなく年上好であったし、隣の青年ほど興奮はしない。


 近くまできた二人組は一度立ち止まり、しゃがんでナスをもいでいた俺に合わせて、女の子の一方もしゃがんで目を合わせる。

 好奇心の詰まった丸く輝く瞳と、物怖じってものを知らなそうな明るい口調で彼女がしゃべりかけてくる。


「黒髪だし、あなたがヨウ?」

「そうだけど……どなた?」


 聞き返すと、女の子は八重歯を見せてニッと笑った。きれいな歯だった。

 プラチナブロンドの淡い金髪が一房肩から落ちる。


「わたし? リュシーよ。あ、あーごめんごめん、シエル姉の妹。姉さん知ってると思うけど」


 ―しえるねえ? しえるねえシエルねえ。ああ、シエルね!


「思い出した。そっか、シエルさん妹と弟いるって言ってたけど妹さんのほうか。よろしく」

「よろしく!あ、ミリーも来なよー、さっきまで騒いでたじゃん」

「ちょちょちょ!やめてよっ、別に騒いでないし」


 こちらを目の端で見つつ、慌ててしゃがむ。


「母さんたちに怒られちゃうからさ、野菜取りながら話そうよ。あ、ジズさんもこんにちはー」

「ぃようリュシー。相変わらず元気そうだな。ミリーも久しぶりだな!」


 挙動不審なジズさんとリュシーは気心知れた仲らしい。そしてペコリと頭を下げるミリーさん。こちらはそれほどの繋がりはなさそうである。

 ひとまず四人で固まって、会話をしながら簡単な作業を進める。


 会話の中心はやはりリュシーで、彼女が話すだけで、なんて事のない話がキラキラとしたとっておきの話に聞こえてくる。生まれながらの陽キャだ。間違いない。


「シエル姉がヨウと会った日はしゃいでたからさ、ずっと気になってたんだけど。お母さんやシエル姉から興味本位で見に行くのはよしなさいって言われるし、ヨウがいる場所って開拓場と村長さん家とマーリンさんの家でしょ。全然接点なかったから遠目、じゃなくて全然話せなかったんだよねー」

「シエルさんってはしゃぐの?あんまり想像できないんだけど」

「……俺もほぼ見たことねえんだが」


「なんかきれいな黒髪黒目の子がいたーって。きゃーきゃー言ってて旦那さん悲しそうだったよ」


 旦那の話が出た時点でジズさんが少し項垂れた。おお、ジズさんそういうことだったのか。


「本当に黒髪で黒目。真っ黒だ。絶対どっか遠い国から来た、良いとこの子だよね」


 話せないんでしょ。大丈夫だよ。と言いつつ、無邪気な笑顔を向ける。


「……この村の先生が言うには、遠い東の国は黒髪の人が多いそうです。最近は東の国から事情があって逃げてきた貴族の子、というのがもっぱらの通説です」

「ただの妄想を通説にしないでくれるか?」


 ミリーが突然たくましい妄想を口にする。せめて俺のいないところでどうぞ。


「ヨウくん、マーリンさんの組み合わせも素晴らしいです」


 ……その言い方やめてほしい。


「マーリンさんはなんかすごい人だったらしいんだけど、村長さんとソラさんの旦那さんとか男衆の一部の人以外本当のこと知らないようです。そんなミステリアスな二人の掛け合わせが私らの間でひそかな話題に」

「おいちょっとやめろ。掛け合わせとか言うな」


 「組み合わせ」よりもひどい。マーリンさんとギクシャクしたらどうしてくれんだ。


「あははっ。まあそんな冗談は置いといて。やっぱヨウくんは話題によく上がるからみんな気になってたんだよね」

「確かにな。男のほうでもヨウの話題は結構上がるぜ。どちらかというと魔状者ってのが理由だけど」

「そこそこ! そこも私らの妄想をより健やかにするっていうか。絶対やんごとなき階級の人だよって」


 ジズさんが話を振ってくれて若干落ち着かない話題が幾分変わってくれるかと思ったが、すかさずリュシーが奪い返す。

 と、そこでリュシーが「そういえばさ」と思い出したように瞳を上にあげた。


「ヨウくんはマーリンさんの弟子になるんだよね。マーリンさんって魔状で村の手伝いをしてくれたり別の村の害獣を駆除したりしてるけど、ヨウくんも同じことはしないの?」

「確かにな。けっこう魔状使えるようになってきたんだろ。全然わかんねえけどそれってかなり早いんじゃねえの? マーリンさんには及ばないだろうけど、手伝いくらいはできそうだけどなー」


 リュシーとジズさんから同じことを聞かれるが、マーリンさんのような仕事ができない理由は実力不足のほかにも理由がある。


「できれば俺もマーリンさんと仕事がしたいんだけど……。まだ村の偉い人に認められてないみたいで」

「? どういうことですか?」


 ミリーが聞いてきた。


 いま俺ことヨウは開拓の仕事を日中のメインに置いている。であれば村の備蓄を分け与え、村長宅に住まわせることも理解できるが、それは開拓の仕事に従事しているから。マーリンさんの仕事の手伝う弟子をメインにするならば、まだ役に立つかも未知数な俺に貴重な食糧をくれてやるわけにはいかない、ということだ。


 何とも居心地の悪くなる話だが、救いなのはそう主張する人はごく一部だということ。しかし、その中の一人が厄介らしい。というあらましを話すと、リュシーが顔のパーツを中心に寄せていた。


「えー、そんなこと誰も気にしないと思うけどな。ちなみに誰がそんなこと言ってんの?」

「さあ?名前は知らないよ。ゾブラさんは村一番の金持ちって言ってたけど」


 あぁ、と三人が納得の顔をした。


「間違いなくハンザさんだね」

「だろうな。あの人が言いそうなことだ。気に入らないと難癖付けたがるんだよ。ただ、村一の金持ちでこの村に貢献していることも確かだからさ。ゾブラさんも言いにくいんだろうなあ」


 ゾブラさんも似たようなことを言っていた。「俺に方針を決められるのが我慢ならないのかもな」と、疲れたように笑っていた。


「村長と言えば、そういえばさ」


 リュシーが思い出したように告げる。


「さっき別の村から来客が来たっぽいね。けっこう急いでたみたいだけど」

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