第六話
完全ご都合主義ですが何か?
いいじゃない都合よくてもリアルでそんなことないんだから。
俺は今非常に不味い状況にいる。
「お前、何を言ってるのか分かっているのか?」
「勿論分かってるよお兄」
まだ髪を洗うだけならいい。
だが恐らくこの雰囲気的に身体も洗わされる気がする…
後ろはともかくとして、前は流石に兄妹的にアウト。
これがシスコンだったならきっと喜ばしい事だろうが、俺は別にシスコンではない。
「一応聞くが…洗うのは髪だけでいいよな?」
無駄な抵抗をしてみる。
「勿論」
その言葉を聞き俺は歓喜する。
が…
「身体もだよ?」
その言葉を聞き俺は窮地に立たされる。
どうする…いや待てなぜ俺はこんなに慌てているんだ?
相手は妹、つまり恋愛対象ではない。
いやこの際それは無視していやらしい感情を消し去って無心で洗えばきっと大丈夫だ。
本当か?
俺今色々混乱しておかしくなってないか?
相手はうら若き乙女…妹ではあるが乙女なのだ。
そんな乙女の身体を兄である俺が洗ったりしたら…
ダメじゃないか!
完全に兄妹でやることの範疇越えてるじゃん…
(いっそ抱いてしまえばいいのでは?)
それはダメだって!
ずっと何も言わなかったのになんでこういう時だけ出てくるんだ…
(いいじゃないですか、妹さんは貴方を愛していますよ?)
……
これは俺がヘタレだからこんなに迷っているのか?
昔、他の生徒と一緒に話している所を見かけた事があるがあの時の妹は同性に対しては楽しそうに接していたが、異性に対しては一線の壁を敷いているようなそんなに感じがした。
あんまり異性に興味がなさそうにしていた。
妹は間違いなく身内贔屓でもなんでもなく美少女であることは周りも含めそう認識している。
本人は言わないが恐らく周りから告白された事もきっと多いだろう。
だが、そんな妹は今まで一度も男と付き合った事などない。
俺は寧ろ彼氏が出来たら連れてきていいと言っている。
なのにそれは向こうの世界ではただの一度もなかった。
それに、俺に向ける表情と周囲の男へ向ける表情は全くの別物だということも知っている。
考えないようにしていた…
していたが女神様にまで言われてしまってはもう考えないことなど出来ない。
妹であると、家族であると一線を引いていた。
恋愛対象として見ないように俺は何年も続けてきた。
平静を保ち続けてきた。
妹をただの鏡華として一人の異性として、彼女を好きになって意識しまったら…
きっと俺はもう妹の兄であることはもう出来ない。
それが俺はとても怖く恐ろしい。
彼女の幸せを願う俺が。
世界で一番幸せになって欲しい彼女の願いを聞かないなんてことは出来ない。
「…鏡華」
「なに?お兄」
「好きな人はいたか?」
「……」
「答えてくれ鏡華」
鳥の鳴き声、風のせせらぎその一切が俺の耳には聞こえてこない。
心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。
「いるよ…」
「それは…一体誰なんだ?」
妹は…鏡華は俺に振り返る。
その表情は目に涙を浮かべせっかくの美人の顔が歪んでいる。
心が張り裂けそうだ…
こんな表情をさせたい訳じゃないのに。
だが…
「私は…」
聞かなければいけない。
本人の言葉で。
鼓動が早まるのを感じながら次の言葉を待つ。
「私はお兄が…真堂 智が世界の中で誰よりも好き」
涙を流し無理矢理作った笑顔でそう答える鏡華。
この気持ちはなんだろう、嬉しさ愛おしさ心苦しさ色々な感情が混ざって言葉が出てこない。
きっと妹はもし地球で生き続けられたなら、その気持ちを永遠に心の中に閉まっていたのだろう。
兄を好きになってしまった葛藤があったのだろう。
心が締め付けられる思いで今まで生きてきたのだろう。
それがこの異世界に来て抑えきれなくなった。
だから鏡華はあんなにも俺に積極的だった。
分かっていてもブレーキが聞かない気持ちがきっと彼女にそれをさせたのだ。
好きになってしまった相手と知り合いなど誰もいない地球でのあれこれもない。
そんな世界だから…
なら、彼女の幸せを願う俺は答えなければならない。
「鏡華…聞いてくれるか」
「うん…」
「俺は、今までお前の事を妹として見てきた」
大事な家族だったから。
「……」
「これからもお前を妹としてお前が結婚するまで大事にしていこうと思っていた…」
大事な妹だったから。
「……」
「お前の幸せを願っていた…」
好きで愛おしくて最高の妹だったから。
「だけど…」
「っ…」
俺は鏡華を抱きしめる。
彼女の身体が強ばっているのがわかる。
ああ、本当に…
なんて俺は情けないんだ。
俺よりも年下の妹がこんなにも辛い思いを抱いていたのに…
「俺はお前を…真堂 鏡華をお前が思うより前から好きだったよ」
「お兄…」
「ごめんな…今まで苦しかっただろ?」
「う゛ん…」
「だよな…だけどもう我慢しなくていいんだ…」
「うん…うん…大好きだよ…お兄」
「俺もだ…鏡華、俺はお前を絶対に幸せにする」
禁断の兄妹愛?
知るか、前の世界での価値観などに俺はもう囚われない。
もう迷うことなど決してない。
俺はもう鏡華を一人の女として好きになると決めたのだから。
「お兄…キスして」
「…ああ」
頬を染め今までよりも一層美しく見える鏡華。
そっと唇を合わせお互い抱きしめ合う。
「んっ…」
鏡華の声もその表情も何もかもが愛おしい。
何分唇を重ねていたか分からない。
離れたくない、ずっとこのままで居たい。
そんなことを考えるが、そっと唇を離す。
「あっ…」
鏡華は物足りなさそうな寂しそうな顔をしている。
「先に身体を洗わなきゃだろ?キスはその後でも出来るさ」
「うん…お兄身体洗って?」
「よろこんで」
先程までの緊張が嘘のようだ。
俺は鏡華肢体を傷つけないように痛めないように洗っていく。
一緒に風呂につかり風邪をひかぬように身体を拭き着替えを済ませ俺と鏡華は一緒に部屋に入る。
今まではそれぞれ別の部屋だったがもう今は違う。
お互いがお互いの気持ちを知っているのだから。
「そういえば」
「どうしたのお兄?」
ベットで鏡華と横になりながら向こうの世界でやり残したことを思い出す。
「いや誕生日祝ってなかったなって…」
「そういえばそうだったね」
「欲しいものはあるか?」
「あったよ」
「そうか」
言わずとも分かる、彼女がこの世で一番欲しかったものは俺からの愛なのだから。
「ねえお兄」
「なんだ?」
「キスの続きしよ?」
「全く…甘えん坊な嫁さんだ」
明かりを消し、暗い部屋の中で俺達は…
いやぁ、俺達は…なんでしょうねぇ?おじさんにはちょっとわからないですね。