表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武人─Bujin─  作者: 快喜 妖
1/3

帰還

身体中に傷を負った男が、帰って来た。

生まれ育った国に、帰って来た。

戦争に勝って、帰って来た。




「帰って来てすぐに迎えてくれたのはお前か。

もう誰も迎えに来ないなんて考えてたが、現実は甘いな。」

「やあグレイスお帰り、何年ぶりだ?」

「さあな、戦場じゃあ年なんて数える余裕はなかったよ。

俺はそうだな、自分の名前すら忘れていた。グレイスか。」

「極限状態だったそうだな。無理もない……死地を一人で潜り抜けたのだからな。」

「ええと、ところでお前は誰だ?挨拶して名前を呼んでくれたってことは知り合いなんだろうが。」

「ジェレミー。お前はそう呼んでいた。」

「ジェレミーか。ああ、大変だったよ。死なないだけで痛覚は残ってる。」

「赤く染まったな、お前の制服も。」

グレイスの制服は血まみれだ。敵を殺せば殺すほど、そうなる。

もちろん、そこには自分自身の血液も混じっているわけだが。

「はは、ある意味連中の勝利かね。で、ブラウン少尉は?いるんだろ?」

「今は中将だよ、名前を覚えてるのか?」

「『敵』の名前を忘れるスットボケ兵士になったつもりはない。やれやれ、残酷なヤツほど出世するもんだな。通してくれ。」

「じゃあ、また後でな。ああ、バーの名前、覚えてるか?」

「もちろんだ、その頃には服の赤さが増してるかもな。」

「着替えてこいよ、仕事服でバーに来るヤツがあるか。

お前は尚更そうだ、クレイジー・グレイス。」

「あー、あー……何だ、その……実に残酷なアダ名だ。

クレイジー?誰がつけた、その呼び名。」

「お前が戦ってる最中に国のバカどもがつけやがったよ。お気楽なもんだな、愛国愛国と喚いてりゃ愛人を抱ける。」

「なるほどな、すぐには殺さないでおこう。」

「気を付けろ。ブラウン中将殿ならお前を永久拷問しかねない。

折り紙つきの小物だからな。」

「心配するな、酒の禁断症状だけで共産主義者を張り倒してきたのがこの俺だ。」

グレイスは笑って、ジェレミーと別れる。


連合軍研究所の建物を出てすぐ、『迎え』だ。

部下からの信頼が厚い彼はそういうことが出来る。

「お帰りなさい、大尉。

良い報せと悪い報せがありますが……。」

「ええと、誰だったかな?」

「フランクです。」

「フランク、俺は好物は最後に食べるんだ。御褒美的な意味合いでな。

悪い報せから頼む。」

「クソッタレのブラウンが中将になりました。」

「それは知ってるとも、だが問題はないな。」

「何でです?」

「言い忘れたな、ジェレミーとは戦場に向かう前からの約束だったんだ。

必ずブラウンを殺すって。素敵だろう?」

「……相変わらず無茶ですけど止めても止まる人じゃないですよね。」

「分かってるなら全速力だ。ブラウンを殺して酒を飲んで妻を抱く。

こんな素敵なことがあるか?これからずっと、欲望のままに生きさせてもらいたいねえ。」

「俺だってそうしたいもんですけど……そうはいかんですよ、中々ね。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ