来訪
初めての投稿です
よろしくお願いします
足元に横たわる大木を乗り越える。足を持ち上げると背負った荷の重みが片脚に集中してのしかかり、蓄積した疲労を改めて感じる。
気を紛らわそうとそこら中に群生する植物の名を、かすかに残る祖父の教えに照らし合わせながら唱えていくが、あまりの疲れにその作業すら苦痛でしかない。
(何でこんな山奥に住んでるんだか)
キョウという少女は内心で悪態をつき舌打ちをしながらも、とりあえず足を進めた。今日中に、遅くても夕暮れ前までには着かなければならない。
どこへ、と言えば彼女の雇い主か師匠か、はたまた夫になるかもしれない男のもとへであった。
いや、さすがに夫はないかな、とキョウは思い直して首を振った。痩せてお世辞にも可愛らしいとは言えないキョウを、初見で嫁にしたいなどと思う物好きが、世の中にそう簡単に存在しているとは思えない。キョウとしても、そんな悪趣味な男はこちらから願い下げである。
ともかくキョウが訪ねようとしている男は彼女の来訪を知らない。突然押しかけては追い返される可能性が、正直一番高いように思われたが、何としてでも近くに置いてもらわなければならない。
何より、この荒れた山道を再び引き返すことになるなど、考えただけでげんなりした。