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現世に転移している異世界の剣姫に、僕は召喚獣として呼びだされた〜  作者: 猫ノあすき
第六章 魔神復活(王都の惨劇)
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5 王都の落日

  式典は、聖堂前の大広場で盛大に開催された。 

 広場を埋めつく数万人の民衆、その最前面の壇上に、サグリンが現れ大きな歓声があがる。

 壇上に立ったサグリンは、両手をひろげ詠唱を始めた。

 民衆は、これから起こる奇跡の始終を見逃すまいと、静まっている。


 詠唱が続くと、空に暗雲が広がり、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 不気味な光景だが、民衆は神の降臨を疑わず、手を合わし、拝み、救世主の到来を待ちわびている様子だ。


 すると突然、暗雲に稲妻が(とどろ)き、魔法陣が閃光を放つと、その中心から煙のようなものが噴出し、暗灰色の巨大な足が現れた。

 思いがけない現象に、民衆がどよめく。


 さらに、両足、続いて布を巻いた腰、筋骨隆々な石像のような巨大な体が、魔法陣の中から降りてくる。百mはあろう見上げるような巨体、山のような怪物だ。

 最後に巨人の顔が出てくると、その形相に民衆は震え上がった。頭に角が生え、充血した真っ赤な目、牙のはえた口、まさに鬼の顔だ。


 民衆は声がなく、呆然とその巨人を見上げ、ざわついている。

 サグリンは両手を広げ、その怪物を呼招し続けた。


「サグリン様、あれは、なんですか! 」

 叫ぶような声がする。

 サグリンは民衆を見下すように笑い、何も答えない。


「サグリン様!」

 民衆はサグリンに迫ろうとするが、配下の魔道士が結界を張り誰も近づけない。


 次の瞬間、地響きとともにその巨人が降り立つと、周囲の家が壊され、何人か下敷きなった。

「うわーーーー! 」

「キャーーー」

 異変に気づいた民衆は叫び声を上げ、逃げ惑い、周囲はパニック状態になった。


 さらに、魔法陣の中から、翼のある怪物ガーゴイルに、死神のような骸骨コウモリが、紙吹雪のように舞い降りて民衆に襲いかかってくる。

 人々は我先に逃げるが、空から襲いかかる怪物に、なす(すべ)もなく、次々と餌食になっていく。

 警備の兵隊が剣を抜くが、逃げ惑う民衆の中でバラバラになってしまい、孤立した兵隊に数体の魔物が襲いかかり、無駄に(しかばね)を重ねていくだけだった。


 しばらくすると、今度は街の中で悲鳴があがる。転移してきた冒険者が突如、ゴブリンなどの怪物に変わり始めたのだ。


 怪物になる者はガイア教のサーバーからログインしてきた冒険者で、知らずにパーティーを組んでいた仲間が突然変異し不意を討たれ、疑心暗鬼で怪物にならない仲間同士で、討ちあう者もいる。

 しかも、ガイア教は聖堂をロック・アウトしたので、転移者は死んでしまうとログアウト状態になり、蘇ることが出来ない。


 こうして、街の中や魔法陣から湧いてきた怪物は、女性、子供もかまわず殺戮する阿鼻叫喚の世界となった。

 民衆は、我先に王都から脱出しようと外門に殺到するが、門にも怪物が降りて逃げ遅れた人を容赦なく殺戮していく。


 その悲惨な光景を冷めた目で見つめているサグリンは、ラ・ムーアに向き直ると、王宮を指差した。

 すると、巨神ラ・ムーアは地響きを立て、一歩一歩と周辺の家屋を容赦なく踏みつぶし、王宮に向かって行く。


 その頃、シンドボルグは王宮に戻り、示し合わせていた流星騎士団を始めとする兵隊や、魔導士達を集め、城壁で囲まれた王宮全体を結界にして、ラ・ムーアの侵入を防ぐことにした。

 城壁の門は魔獣から逃げる民衆を助けるため開けていたが、魔獣も王宮に入り込もうとする。

 このため、まだ外に大勢の民衆が残っているが、シンドボルグは断腸の思いで門を閉めるように指示した。


「閉めないで! 」

「入れてください! 」

 門に殺到している人々が泣き叫ぶが、無情にも門は閉まっていく。自分が入れない親は子供を門の中へ投げ込んだ者もいる。

 門が閉まると、外では断末魔の悲鳴が聞こえ、助かった者もうずくまり、涙して苦渋の表情だ。


 その後、壁の外にラ・ムーアの足音が近づき、外壁を打撃する豪音が響くと、城壁の一部に亀裂が入る。

 ラ・ムーアは続けて王宮の外壁を叩き壊そうとするが、頑丈な外壁と、約二百人の王宮魔道士達が力を合わせて張った防御結界で、なんとか持ちこたえている。王宮魔道士は、エクアドルの最上級魔道士達だが、いつまで持つか、時間の問題だ。


 一方、王宮の空はがら空きで、ガーゴイルや骸骨コウモリが飛来してくるが、流星騎士団をはじめとする兵隊でかろうじて迎撃している。


 こうした、ラ・ムーアや魔獣に包囲され孤立した王宮の様子を、大聖堂に戻ったサグリンやカーズ、ガイア教の司教達が勝ち誇った様子で見ていた。


「王宮は完全に包囲し、近隣からの助けは来ない。こうなったら、急ぐこともあるまい。兵糧攻めにすれば数日で全滅する。その間に王都の民衆や、近隣の町や村を蹂躙しろ、フホホ」

 相変わらず、下品な笑いを大きな口からこぼすサグリン。その横にはハヤセもいる。

 虐殺とも言える民衆への攻撃に、ハヤセが

「やりすぎでは……」


 思わずつぶやくと、横のカーズが

「何を言う。王都の民衆は、これから奴隷、あるいは魔獣たちの餌となるのだ」

 ハヤセは、うつむくと

(………見ていられない)

 悲惨な状況に何もできない自分が歯がゆいが、そんな素振りをサグリンやカーズには見せられない。


「私はこのへんで」

 そう言ってハヤセはガイア教の魔道士に守られて、逃げるように王都を出て行った。


◇ 王宮の惨劇

 しばらくすると、ラ・ムーアの攻撃は収まり膠着状態になった。

 しかし、王宮は四面楚歌の状況が続き、特に深刻なのは民衆を多く入れ過ぎたため、食料が不足している。


 城壁の上で指揮をとるシンドボルグは

「どのくらいの人数が王宮にいる」

「正確には分かりませんが、十万人以上は……」

「十万人だと! 」

 愕然とした。


 王宮内を見ると、民衆が庭などにひしめき合っている。

 王宮士官の報告では

「王宮にある食料の備蓄は、全てかき集めても一万人分程度しかありません」

 つまり、一万人の食料を十万人で分けることになり、民衆の食料は一食の十分の一しかないのだ。

 さらに、水も足りない。王宮内の井戸ではとても十万人の水は(まかな)えず、すでに井戸が枯れている報告がきている。


 シンドボルグは、何の手立ても打てず、いたずらに時間が過ぎていく。

 一方、城壁の上から外を見ると、王宮に対峙するようにそびえる大聖堂の横に、魔神ラ・ムーアがこちらを睨み動きがとれない。

 街では魔獣が家をつぶし、隠れている民衆を見つけて殺戮する様子が見え、忸怩(じくじ)たる思いで拳を握りしめ震えていた。


 食料は1日で底をつき、三日後には水も足りなくなり、衛生状態も悪く病人も出てくる。

 ラ・ムーアの攻撃は断続的だが、次第に激しさを増し、結界を維持している魔道士達も疲弊し、防御結界の力も弱くなっていく。


 こうなっては、外壁が破られるのは時間の問題だ。

 その間も王都の上空から、ガーゴイルの群れがカラスの群れのように飛び回り、兵隊の応戦も虚しく、王宮の内部まで入り込み、餌をついばむように、人間を連れ去っていく。

 母親が連れ去られて泣く子。やせて立つこともできない老人や病人達、魔獣に食いつかれても、誰も助けることはできない。


 シンドボルグの周りに集まる騎士達は、これ以上の抵抗は無理だと考えている。

「このまま座して死を待つより、最後に一矢報いましょう」

 痩せた騎士たちから、最後の特攻を行おうとの声が上がる。

 シンドボルグは、苦渋の表情だ、そんな命令はできない。


 さらに、苦しむ民衆から、魔獣に殺されるよりは毒薬で安楽死を望みたいと申し出があるが、十万人分の毒薬などあるわけがない。


 飢えと、恐怖と、怪我人の凄惨な王都、そこには死を待つしかない人々の絶望しかなかった。


お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m


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