3 聖剣プレアデス
翌日、ハヤセJrは聖剣プレアデスを破壊、もしくは持ち帰るため、兵隊や石切職人を連れてオルフェス山の麓にあるポーの所に向かった。
オルフェス山は、緩やかな緑の丘陵地の中にポツリと突出する、花崗岩の白い岩肌が露出した小高い岩山で。かつて、その山頂でレイカは秘術「次元断層」を撃ち放った。
ハヤセは、その山を見上げながら、ポーの居るあばら屋に向かった。以前、剣を抜こうとして抜けなかったとき以来、数年ぶりだ。
しかし、ポーの住居につくと。
「ポーがいない……」
ハヤセは周りを探したが、人の気配がない。
族にでも襲われたのだろうか。にしては、荒らされた形跡はなく、食器などが出しっぱなしで、準備して出ていったのではなく、突然拐われたか、連行されたような感じだ。
そして、プレアデスの聖剣は、岩に突き刺さったまま残っている。
(以前ポーは、聖剣に布をかぶせて大切に養生していたが、抜身で野ざらしのまま刺さっている。それに、なぜポーがいない)
連れ去られたとすれば、ガイア教の可能性が高い。
(だとすれば、間違いなくカーズだろう。聖剣プレアデスのことも知っているとなれば)
ハヤセは、周辺を注意深く探りながら、不可解に思っていると、まずは兵隊が作業を始めた。
大きな鉄のハンマーで剣を砕こうとする。
(まあ、無理だろうな)
ハヤセは、そう思いながら眺めていると。
兵隊が容赦なく巨大な鉄のハンマーを撃ちつけるが、逆に跳ね返されて、後ろに吹き飛ぶように倒れた。
その後、他の者に代っても同じで、剣を破壊するこができない。兵隊は、両手を横に広げて「だめです」と言った表情をハヤセに向けた。
なんらかの、術式が施されているのだろう。これは、想定内のことだ。
ハヤセはうなずくと、石切職人が大きなノミとハンマーで聖剣の周りの岩に亀裂を入れて砕き始めた。
その後、2日がかりで、プレアデスの刺さった岩を切り出し。岩ごと荷馬車に乗せて王都に向かった。
◇
王都に着いたハヤセは、サグリンとカーズに疑われないよう、あえて岩に刺さった聖剣プレアデスを見せて、聖堂の地下に運び込むことにした。
サグリンとカーズの前で少し緊張しながら、被せていた布を取ると、サグリンは初めて見る聖剣を眺め始めた。カーズはすでに聖剣を見ているはずなので、ハヤセはカーズに話しかけた。
「オルフェス山に、ポーがいなかったのだが。なにか知らないか」
明らかに疑っている口調で聞くと
「まあ、お察しのとおりですよ」
「……殺したのか」
「いえ、いざという時に、まだ使いみちはあるので、とっておいてますよ」
ハヤセは少し皮肉を込めて
「……抜け目のないことで」
そう言うとすぐに「それでは、聖剣は地下に持っていきます」
さっさと剣に布をかぶせ、地下に運んで行った。
◇
聖剣を地下に置いたあと、ハヤセはそのまま地下牢に行ってみた。
だいたい教会に地下牢がある事自体おかしい、まともな宗教ではないことが伺える。暗く、ジメジメした石積みの牢獄の奥にポーはいた。
かなりやつれ、腕や体は傷だらけで、髭のない面長の白い顔は、目がくぼみ青あざが痛々しく、死人のような虚ろな表情で動かない。
(拷問だけでなく、自白の魔法もかけられただろう。レイカ姫が見たら、卒倒するだろうな)
声をかけても返事がない、というより自分がハヤセと知って、無視しているように見える。
しばらく粘ったが、完全にシカトされ拉致があがず(まあ、ガイアに与している者に話しなどないのだろう)
仕方なくその場を立ち去った。
「とりあえず、リアルで麗華にこの一連のことを伝えないと……夏休みの登校日に会う約束もしているし」
そう考え、そのままログアウトした。
◇
リアルに戻って数日後、麗華と会う約束をしていた登校日に生徒会室に来てみたが。
「白鳥さんは休みなのか」
「はい、家族と海外旅行だそうですよ」
女生徒が羨ましそうに言う。
早瀬は愕然とした。
(おそらく旅行ではないだろう)
さらに、それとなく和也のことを探ると、和也も休んでいる。こちらは、理由までわからないが、偶然ではないだろう。
ハヤセは歯噛みする思いだ。
聖剣が奪われたことのほか、大事なことを伝えられない。
(こうなったら、どうしようもない。残念ながらレイカ姫、そしてエクアドル王室は見捨てるしかない。俺も、今やハヤセ商会の会長として、数千人規模になった商会を維持する義務がある。会員達の家族のこともあるのだ……麗華………いい女だったのにな。まあ、仕方ない)
ため息をついて、再びストレイン・ワールドの世界に戻って行った。
ラ・ムーアの復活は目前だ。
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