10 星空の帰還
5章のエンディングです。
満点の夜空の中、水平線に浮かぶ十四の月の一つに向かって僕は飛んだ。
振り向くと、一面の雲海の中にポツリと頂部が突き出た通天回廊が遠ざかる。
苦労して制覇した、通天回廊。
みんな、感慨深げに見つめていた。
頂きにあった白骨化した人の御遺体は、さすがに乗せることはできないので、遺品を幾つか持って帰ることにした。中には、涙なしでは読めない遺書もあった。
この人達はみな、通天回廊を攻略するレベルだ、リアルに戻れば間違いなくチートレベルで比類なき強者だろう。そんな、勇者が血のにじむ思いで攻略して、あの結果とは………
あまりに、ひどすぎる。
一方、僕たちは幸運としか言いようがない。
レイカは、遠ざかり小さくなる通天回廊を見ながら。
「頂きに居た人も、あの月のどれかに故郷があるのでしょうね」
悲しそうに言う。
この世界はいったい何なのだ、通天回廊は誰が何の目的で作ったのだ。
知るすべのない僕たちは、ただ、やるせない……
◇
通天回廊は彼方に消え去り、どこまでも続く雲海の上をひたすら飛んでいると、ゴンゾーがおもむろに
「なあ、ドラゴンは火を吐くのだろ。カズヤ、一度はいてみないか」
そういえば、ドラゴンと言えば火炎だ。
でも、どうすればいいのか
首をかしげている僕に、コルベットが
「簡単だ、息を吸い込んで、火炎をイメージして吐けばいいだけだ……たぶん」
そんなものなのか。
まあー、ものは試し、僕は思いっきり息を吸い込んで
「ブハーーー !」
すると眼前が真っ赤に閃光し、周囲が一瞬昼間のように明るくなると、ブレスの炎が口から爆発的に噴出する。
「すごーーい !」
叫び役のミホロが……さけぶ。
ゴンゾーもさすがに驚いたようで。
「さすがドラゴン、コルベットのエクスプローションに匹敵する威力だ。しかも、炎の射程は遥か雲海の果てを貫いている」
みんな、ビビった。
僕もビビった。
◇
その後もドラゴンの僕は夜空の雲海の上空を飛んだ。
僕の背中のたて髪の中で転がっているミホロは
「でも、このたてがみの中、モフモフの毛みたいで気持ちいいね。なんだか、軟らかいお布団の中にいるみたいで……温いし」
うとうとして、寝落ちしそうだ。
みんな国際線の夜間飛行のような状況でくつろいでいる。さらに夜も更けて(ずっと夜だけど)、他の皆んなも疲れもあって、半分寝ている。
すると、レイカが僕の頭の後ろにきて。
「みんな眠そうだけど、モフモフ……ああ、ごめん、カズヤは大丈夫」
実は全然眠くないし疲れない。
ありあまる体力、ドラゴンはさすがにスゲー。それに、ほとんど翼を広げて滑空し、たまに翼を仰ぐだけなので、さほど疲れない。
「グホーー(大丈夫)」と答えると
「わるいけど、私も眠らせてもらうね」
僕は、首を縦に大きくふった。
「ありがとう……カズヤ」
そう言って、レイカも僕の背中に戻って、シートベルト代わりのたて髪を腰に巻き付けて眠ったようだ。首を曲げて背中を見ると、いつのまにか、簡易トイレと、シャワー室まであり。小さな魔光石を読書灯代わりにコルベットが本を読んでいる。きっと三平太が、用意したに違いない。
まあ、みんな疲れただろ、ぼくは元気だ。
ゆっくり、夜間飛行でくつろいでくれ。
◇
こうして、みんなが眠っている間も僕は飛び続けた。
数時間は飛んだだろうか、いつしか目指す月以外は消え去り、目標の月だけの夜空になる。すると、それまで水平線にあった目標の月が次第に天上に動き始めた。
さらに飛び続けると、月は天上を通過し雲海の果てに沈むころ、夜空が白み始め水平線から太陽が昇ってくる。
しばらくして、背中のメンバーも、ぼつぼつと目をさましてきた。
ミホロが起きてくると
「カズヤ、一晩中飛んでくれていたんだ。大丈夫」
僕は、首を後ろに向け
「グホグホ」と笑顔? でうなずく
「ありがとうカズヤ」そう言って周りを見ると、周囲の様子が違っているの気づいたミホロが。
「海だ! 」
そう、僕はしばらく前から海上を飛んでいる。
雲が晴れ、一面の海原だ。
レイカも起きてくると、涼やかな海風に黒髪をなびかせて、気持ちよさそうだ。すると、水平線を見つめながら
「方向はわかるの、海しか見えないけど」
確かに夜が明けて月は消えたのだが、方角はなんとなくわかる。
僕は、うなずくように首をふると、コルベットが
「渡り鳥みたいな野生の感だろう」
まあ、そんなところでしょう。
全員が起きると、ゴンゾーが僕の背中で料理を始め、朝食を作ってみんなで食べている。
ほんと、海外旅行の国際線の機内だ。
◇
朝食の最中ミホロが
「姫様。実は聞きたいことがあったのですけど」
「なんですか、ミホロさん」
「エクアドルでは、アッシュルム殿下に恋い焦がれたレイカ姫は、叶わぬ恋に次元断層に見を投げた。といった話で書籍化され、お芝居にもなって大人気になのですけど。やはり、今もレイカ姫はアッシュルム様のことを」
「………! 」
レイカは一瞬絶句したあと、顔が真っ赤になって、完全に怒りの形相。
そのあと
「ゲホー! 」
僕の背中に一撃を入れられ、エアースポットに落ちたように、二十メートルほど落下した。
僕は関係ないですーー。
「ひ……姫様」
切り出した、ミホロが真っ青になている。ここまで、怒りのレイカ姫みたことがない、レイカも我に返り
「オホホ……エクアドルに帰れるうれしさのあまり、つい力が入ってしまいましたわ。もし、会えば、簀巻きにして、ラピス海に放り込んであげたいと思っておりますの」
仰々しく言うレイカの口元は笑っているが、目は引きつっている。そんなレイカにだれも、何も言えない。
◇エクアドル大陸
しばらくすると、水平線に小さな島が見えてきた。
「あの島は、南猫島じゃない!」
近づくと、丸い島の両脇に2つの三角の大きな岩が突き出ている。まさに、猫の耳頭のような形の島だ。
「南猫島……ってことは。ここは、エクアドルの南のラピス海、この島はストレインワールド最南端の島。戻ってきたんだ! 」
ミホロが泣きそうな声で叫ぶ。
ほかにも、島がちらほらと見えてくる。立ち寄りたいが、先を急いだ。
島の住人が僕たちを見て驚いている。
(そりゃあ、神獣の頂点の伝説のドラゴンだしな。僕だって、驚くわ)
さらに飛び続けると、水平線に黒い線状の模様が……
「エクアドル大陸だ! 」
今度は、みんなが叫んだように聞こえた。
レイカは、先程から無言で瞳を見開き、涙目で震えている。
二百年ぶりに戻ってきた故郷、万感胸に迫る、どころではないだろう。僕も胸が熱くなる。
しかし、近づくと、大陸のあちこちに黒煙があがっている。
「なんなの、あの黒い煙……」
ミホロが震える声で言う。
異変が起きているのは間違いない。魔族が、町や村を襲撃しているのだろう。
レイカはこぶしを握り締め、故郷を冒涜する輩に怒り心頭のようだ。
エクアドル出身のミュールやゴンゾーもだ。
僕だって、同じだ。
相手が、魔神ラ・ムーアであろうとも、絶対に一歩もひかない!
僕たちはエクアドルを救う。
そのために戻ってきたのだ。
さあ、最後の大決戦が待っている!




