8 十四の月
扉の外に出ると視界が一気に広がり、見上げると砂粒を撒き散らしたような星空。まるで宇宙空間の中にいるようだ。
僕達の立つ通天回廊の最上段は、高層ビルのヘリポートのような平坦な広場で、中央に支柱があり、その上に丸い灯りが街灯のように灯っているだけの、他に何もない閑散とした場所だ。
「ほんとに、ここが、到達点、ゴールなのか? 」
仲間内から、声がする。
塔の周りは、雲海が下界を隠すように360度の視野全域を覆い尽くし。異様なのは、雲海の先の水平線(地平線?)の全周囲に、満月が等間隔で、十四個浮かんでいる。
ただし、明るい満月の月は数個で、ほとんどが、錆びた血の色を彷彿させる赤黒い色だった。
静かで、幻想的で、不気味な世界。
さらに、僕たちを驚かせたのは、あちこちに散在する………
白骨の死体
ここにきて力尽きたのだろうか、数体の白骨が野ざらしのままだ。その御遺体のまわりには、錆びた剣や、ポーションの空の瓶が落ちている。
するとミホロが、白骨化した御遺体の横に落ちている、錆びた鉄の塊を持ちあげ
「これって………銃! 」
さすがに僕たちも驚いた
「エクアドルに銃はない。この人が持っていたのだとすれば、エクアドルからだけでなく、他かの世界から来た人がいるということか」
そういえば、ボロボロになった服は、中世の冒険者のような服だけでなく、迷彩色の軍服のような人もいる。
「これが、到達点なの。せっかく、苦労して、命がけでコンプリートして、スキルもめちゃくちゃ上がったというのに。その結果が……これ」
ミホロが、涙声で言う。
「さっきの王将は、神座と言ったよな」
ゴンゾーも、皮肉たっぷりに言う。
それでも、何かギミックがないか、全員でこの野球場ほどの広場を探ってみたが………何もない。
「出てきた扉も閉まって戻れない、これでは餓死するしかない。いったい、何なんだ! 」
僕も最後は、吐き捨てるように言った。
疲労と、怒りと、絶望で、憔悴しきった表情で、全員へたり込んだ。
塔の端に立つと、目もすくむような高さの下に、地平まで広がる一面の雲海が、下界を覆い尽くしている。
そこに立つコルベットが
「最後は気が触れて、ここから飛び降りたやつが、いたかもしれないな」
「飛び降りたらどうなるの。塔の中からだと、スタートに戻るのでしょ」
ミホロが震える声で言う
すると、先ほどから塔の端を探っていたミュールが、ルークと一緒に
「それはやめたほうがいいいわ」
そう言うと、ルークが下の雲に向かって矢を放った。
矢が雲の中に消えた瞬間、フラッシュバックのような強烈な光が発光し、稲妻が集中する。ここから見ても数百mの範囲が閃光に包まれ、雲の中で大爆発が起こっているようだ。
小さな矢、一本でこの爆発だ。
みんな、息を飲んだ。
ミホロが、目を丸くして
「この雲なんなの! 土星か木星の強烈なガス雲みたいじゃない……見たことないけど」
「一瞬にして、お陀仏だな」
ゴンゾーも唸るように言う。
こうなったら、飛ぶしかないと思い。
「コルベットさん、杖で飛ぶことができないですか」
僕は聞いてみたが、コルベットは力なく
「ここは、マナ素粒子がかなり薄く、私のMPは底を尽きている。エクアドルなら一晩もすればもとに戻るが、全くMPがたまらない。こんな状態なら、私が全回復するには、おそらく一年近くかかるだろう。それに、杖には三人ほどしか乗せられないし。飛べたところで、どこへいく。いくら私でも、魔力を使ってあの月までは飛んでいけない」
………なす術がない。
この先、どうすればいいんだ。
せっかく上がったスキルも、この先、使えないのか。
途方にくれ、みんな言葉かない。
◇
僕はふと、何か手掛かりなるかと思い
「そういえばレイカ、碧玉をかざしてみたらどうなるかな」
レイカはうなずき、碧玉の柄をとりだして頭上に掲げると、碧玉の光線が十四ある月のうちの一つを指し示した。
僕は、光の指す方を見ながら
「多分プレアデスのブレードと呼応しているんだね、ということはあの月の方向が、エクアドルだろう。でも、この十四の月は、いったい」
するとミホロが
「そう言えば、あの月、違う模様をしていない」
「確かに」
僕も、気づいて他の月も見てみると、その中に僕たちの世界にある月の模様を見つけた。三平太とレイカもうなずいたが、ミホロは
「ええ! 違うでしょ」
「どうして、うさぎがお餅ついているように見えるよ」
「うさぎが、お餅? 」ミホロは、何を言っているのかといった表情で
「月の模様は鶴が羽を開いて飛んでいるんだよ」
そう言って、他の月を指差した。
その月は確かに、鶴が首を伸ばし羽を広げている模様だ。
「………」
僕たちは目を合わせ絶句した。さらに、ゴンゾーも違う月を指差す。
ゴンゾーの場合、もともとエクアドルから異世界に行った、複雑な経緯があるようだが。
「あの月の先にはそれぞれ、別の世界があるということなのか。となると、ミホロは僕たちとは違う世界からきているんだな」
そう言われれば、新型コロナの話も噛み合わなかった。
そんな、ミホロは
「あの月のひとつひとつに、違う現世があるとしたら、ここに倒れた人達は、自分の故郷に戻れなかった人たちなのかな。だとしたら、通天回廊、そしてスワンヒルはいったい、なんなの! 」
やりきれない、といった口調で、最後は語気があらくなる。
横で話を聞いていたレイカが
「スワンヒルには、異世界からの異物が紛れ混んで、見たこともないような物もあった。スワン・ヒルや通天回廊は、多次元世界の要のような場所のような気がする」
僕も頷いて
「ガイア教やラ・ムーアもそんな別の世界から来たのかもしれない」
「多分そうでしょう。ガイア教やサグリンの意図はわからないけど、他の世界に干渉して混乱させてようとしているのは間違いない」
「熱水大墓や僕たちを襲ってきた魔導師のカーズ。さらにリアルで僕の親父を落とし込んだのも、それに関係するのだろうか」
「その可能性が高いでしょう」
レイカは、気づいていたようで、現世で手を打ってくれたのだ。
すると、先程から考えこんでいたゴンゾーが
「気になっていたのだが、ガイア教は、次元断層に落ちて、どこに行ったか分からないレイカ姫をよく見つけ出したものだ。さらに、カズヤとの接点まで探り出してくるとは。ゲーム内のログなどをハッキングして検索でもすれば可能かもしれないが、ガイア教にそんなIT技術はないはず。そもそも、レイカ姫が、異世界に飛ばされたのは、ガイア教と、ポーしか知らないはずだ」
確かに、ポーとガイア教しか知らない。
ええ、ほんとうにそうか……
「いや、もうひとりる! 」
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