5-2 星空の庭園(並行世界のこと)
ここは電気のない世界だけど、篝火と、マナ素粒子に反応して発光するシャイニング・クオーツの街灯が、聖堂を淡く照らしている。
その淡い光が、聖堂に埋め込まれている宝石に反射し、神戸のルミナリエのような、光のオブジェクトの聖堂を闇の中に浮かびあがらせ、荘厳で神秘的だ。
そんな、夜の光のイルミネーションの庭園を、僕はレイカと歩いていた。
全く、信じられないシチュエーション。
前を歩く肩を出した白いワンピースの色っぽいレイカに、下心ありありの僕は、興奮が収まらない。いや、誰だって興奮しないやつはいないだろう。
でも、清純で女神様のように気高くて、そもそも女子と夜に二人きりの経験のない僕は、とても近寄れず、一定の距離を開けて歩いている。
でも、沈黙が続くので何か話しかけないと、と思い。以前から気になっていたことを聞いてみた。
「レ……レイカ姫は、もしかしてエクアドルの人なのですか。以前もそんなこと言っておられたようですし」
すると、急にレイカは立ち止まり、振り向いて苦笑いしながら
「……そうよ。実はカズヤ君のいるリアル世界での私は、アバターといってもいい」
やはりそうか……
「僕の世界の白鳥麗華様がアバターなら、今のレイカ姫は実体なのですか」
ゲーム世界の話になって口は回るようになってきた。
レイカは再び、苦笑いしながら
「実は、そうじゃないの。私はエクアドルの人間だけど、次元断層で時空の間に落ちたとき、体はどこかに行ったみたい。だから、ここで死んでも聖堂で蘇ることができる」
やはり、生身の人間でスワンヒルの怪物を相手にできるわけがない。
そのとき、ふとミュールやシンドボルグなど流星騎士団のことが思い浮かんだ。
流星騎士団は異世界のゲームからアクセスしている者もいるが、シンド・ボルグやミュールのようにエクアドルの人間も聖堂で蘇る。
「エクアドルの流星騎士団も、実はアバターなのでしょうか」
「ミュールさんが所属していると言ってたね。実は私、流星騎士団って知らないの。私が、ここに来ている間に組織されたのでしょう」
レイカが知らない。とすれば流星騎士団とは………まあ、これはミュールに聞いたほうがよいだろう。
「でも、エクアドルや、僕の現世もゲームの中だとしたら、この世界はいったい……」
レイカは少し考えたあと、星空をみあげ
「世界はね、一つではないみたいなの。私のいたエクアドル、そしてカズヤ君のいる世界、他にもあるかもしれない。そして、ゲームなどの電脳空間は、それらの世界を繋げる、格好のインターフェースになリ得るようなの」
思いもよらないお話に少し驚いた。並行世界というやつか、謎めいた話だ
「だとしたら、他の世界はどこにあるのでしょう」
「わからない。ただ、このスワン・ヒルは私の世界やカズヤ君の世界とは違う」
「違う……とは」
「スワンヒルの聖堂には、いろいろな世界の物が現れる……落ちてくると言ったほうがいいかな。異世界の書物や絵画、見たこともない機械、VRMMOのゲーム器もそう。それと、ここでは時間が流れていない。感覚的な時間は二百年だけど、生物は成長しないし、星の動きもない、止まってはいないけど、変化のない世界。ちなみにカズヤ君の脈をみて」
レイカに言われて自分の手首の脈をみると
「止まっている! 」
レイカの前で緊張して、本当に心臓が止まった……わけではないよな。
「まるで生きていないみたいでしょ。ある意味、ゲームの世界のようなもの」
「ゲームの世界」
「ここは、ジオラマのように、何者かに創り出された世界。あるいは、どの世界や次元にも属さない、世界の端境かもしれない。とにかく、普通の世界とは違う」
確かに、スワンヒルは他と違う気がする。これまで、召喚獣で戦ったときも、ゲームバランス無視の強敵だ。でも、そこに対応するレイカも、人智を超えていると言ってもいい。
「となると、ストレイン・ワールドの最終到達点のスワン・ヒルの、さらに先にある通天回廊。それが、鍵でございますね」
「そう、何にしても、通天回廊を突破しないと……」
レイカは、そう言って、少し沈黙のあと
「ところでカズヤ君。いいかげん、変な敬語はやめてくれない。同級生なんだし」
お堅い話が続いて話題を変えたいのだろうか、意外なことを言われ僕は戸惑い
「で……でもレイカ姫は、お姫様であらせられ」
「だから、レイカでいいって! リアルでもよ」
なんだか、怒ったように言うけど、呼び捨てなんて恐れ多い。
しかもリアルでも呼び捨てなんて……もし周りの者が聞いたら、気が振れたか、嫌がらせと思うだろう。
しかし、レイカは睨むように僕を見つめる。
「は……はい、レイカひっ!……レイカ」
女の子を名前で呼ぶなんて、めちゃくちゃ恥ずかしいし、面映い。レイカは、ほっとしたように微笑むと、話題をかえ
「それより、通天回廊の攻略、お願いね」
そっちの話は気が楽だ。というか、得意分野だ
「はい、学校でも話したように、レイカのホーリー・スラッシュを最上階まで温存すれば、絶対攻略できます」
僕は、力を込めて言ったあと「でも、みんな精鋭ばかりで、僕が足を引っ張っているみたいで」
レイカは笑いながら
「ミノタウロスになれば、強いじゃない」
「もう……勘弁してよ」
「ごめんごめん」
「でも、できれば召喚獣でなくても強くなりたいです」
すると、レイカは
「私は、今のカズヤも召喚獣のカズヤも大好きだよ」
大好きとは、ありがたいお言葉……
でも、さらりと言った「大好き」が、召喚獣だけを修飾していないぞ!
僕は、あぜんとしてレイカを見ると、レイカも少し焦った感じで黙ってしまった。
僕は何も言えず、しばしの沈黙と、動きがなくなってしまった。
どうしよう………
しばらくして
「ハァー 」
と、レイカはため息をついて、肩を落とすと
「それじゃあ、明日は早いし。帰りましょうか」
「はい」
素直に返事をすると、レイカはなんだか怒った感じで、さっさと戻っていた。
◇
その後、部屋に戻るとゴンゾー、コルベット、ミュールが待っていて。
「何を話していた! 」
と、皆に詰問攻めにあってしまった。
そのあと、妖精に呼ばれ
「カズヤ様、剣姫に何をされました。部屋に戻られて、ふてくされていましたよ」
「ええ、どうして。僕何もしてませんよ」
「何もしてない………」妖精は、しばし絶句したあと
「どうして、なにもしないのですか! 」
「ええ! なにもしないって」
訳がわからない。
「姫は、今夜カズヤ様に会うために、かなり気合を入れておられたのです。だって、二百年ですよ! 二百年待ち焦がれた、白馬の王子様、ナイト、勇者なのですよ。見てくれは………なんとも言えませんが、今のレイカ姫には十倍、百倍の、イケメンに見えているのです」
見てくれは、で詰まったのが少し気になったけど………マジか!
「生まれてはじめてのデートだと言って、あんな嬉しそうな姫様を見たことがありません。しかも、雰囲気を出そうと庭をライトアップしたり、万一のためと言って、下着まで、とっておきのを召されたりしていたのです」
(ええーー! 万一ってなんだ……まさかそれって……大チャンスだったのか! )
妖精は呆れて、去っていった。
幸運の女神は前髪しかない。
つかみ損ねた………
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m




