2 門の番人 ―ジャイアント・ベヒーモス―
扉をゆっくりと開け、恐る恐る中を覗くと、闘技場のような円形で平らな何もない不気味な空間。
正面の壁に大きな鉄格子があり、その中に………いるのだろう。
皆が入ると扉がしまり、どこもにも逃げられない北の関所と同じパターンだ。
しばらくすると、金音をたてて鉄格子が開く。
全員、息を呑んだ。
中から蠢く巨体、それは左右に揺れながら、地響きとともに姿を現す。
出てきたのは、恐竜トリケラトプスのような四足で全身を硬質な甲羅で覆われ、頭に大きな二本角を持った、獣王とも呼ばれる、ジャイアント・ベヒーモスだ!
硬い甲羅、強烈な尾と角の打撃、さらにメティオという、隕石を頭上から落とす範囲魔法攻撃もある。
さすがに、これまでの神獣とは桁違いで、ビビってしまう。
ゴンゾーが少し声をこわばらせて
「カズヤ……こいつって、通天回廊のラスボスクラスか」
「いや、八十階層くらいかな。確か五体いた」
するとミホロが、叫ぶように
「五体だって! しかもこれで八十階。まだまだ強いのがいるの」
信じられないようだが、事実を言ったまでだ。
「レイカ姫は、こいつを倒したのか」
ミュールもひきつった表情で言う
「そうだよ、しかも一人で」
みんな絶句するが、コルベットだけは拳を握り。
「レイカ姫が………私も、やる! 」
レイカに負けじと、闘志を剥き出してやる気満々だ。
その声に、皆もやる気が出てきたようだ。
僕は皆にむかって
「いつもの連携をくずさないで。そうすれば絶対に勝てる! 」
「ああ、カズヤに言われると負ける気がしない! 」
そう言いながらミュールが抜刀すると、コルベットも魔法杖を斜めに構え
「今度は、カズヤの言う通り動くぞ」
他のみんなも準備万端
さあ、戦闘開始だ!
まずは、コルベットが火炎魔法のエクスプローションを放つが、さすがに硬い甲羅でダメージは十分でない。軍隊を一撃で吹き飛ばすコルベットの大技も、ジャイアント・ベヒーモスには一割程度のダメージを与えただけだ。
しかも、このクラスになるとHP回復スキルがあるので、相手の回復より早くHPを削らなければならい。
ルークが壁際を回り込んで、相手の体の至るところに矢を射て急所を探っている。コルベットも雷撃、氷撃、火炎の魔法を間断なく打ち込み、どの技が効果的か試している。
ゴンゾーとミュールは、コルベット達の攻撃で少し動きが停まったとき、一撃離脱で斬撃を討ち込む。多少は反撃を食らうが、魔道士より防御やHPは高く、一点攻撃では剣の方が強い。
しかし、効果的な攻撃の糸口がつかめぬまま時間が過ぎて、ベヒーモスのMpチャージが溜まり、後ろ足で立ち上がった。
「メティオが来る! 」
僕が叫ぶと、周囲に隠れるところがないので、防御力の最も高いゴンゾーが大盾をかざし、全員その傘下に隠れた。
頭上から、闘技場全体に凄まじい数の隕石が降り注ぐ。
盾になってくれるゴンゾーのHPは一気に半分以下になる。他のみんなも余波を受けて、かなりHPが削られたが、ゴンゾーがいなければ、防御力の弱い僕やルーク、魔道士は即死だろう。
なんとか凌いで次のMpチャージが貯まらないように。さらに敵のHPも回復しないよう、波状攻撃を続けなければならない。しかし、こちらも相手からの攻撃を受けてHPはジリ貧だ。
そこに、何度かベヒーモスに斧を撃ち込んだゴンゾーが
「首への打撃が一番きく! 」
ベヒーモスは防御力も高く硬い、そこになんとか弱い部分を見つけたのは幸いだ。それを聞いた他のみんなもジャイアント・ベヒーモスの首を狙う、あるいは狙えるように援護する。
そんな中、コルベットの強力な魔法攻撃も硬い甲羅に跳ね返され、なかなか効かないので苛立っているようだが
「火炎や、電撃など攻撃魔法はあまり効かない、でも、動きを止める魔法は効果あるようだ。私がベヒーモスの動きを止める間に物理攻撃を頼む」
魔法で動きをとめ、その間にゴンゾー、ミュール、傀儡のアタッカーが正確な急所攻撃が出来るので、この連携はかなり効果がある。コルベットは今回はチームプレイに徹してくれているようだ。
こうして、効果的な攻撃方法を見つけると、波状攻撃がかなり効いてきた。
背後から、コルベットの魔法攻撃が絶え間なく続き、ルークの矢の攻撃に、ミホロの回復と攻撃補助魔法。その隙にミュール、ゴンゾーとニ体の傀儡の斬撃。
見事に連携の取れた戦闘だ。
(これはすごい。強い! 強すぎる! )
凄まじい攻撃で、まったく相手の反撃を許さず、あらゆる方向からの連続攻撃にジャイアント・ベヒーモスは、頭をふり、角や尻尾を無造作に振り回すだけで、完全に翻弄されている。
こんな攻撃をされたら、一軍隊でも壊滅させられそうだ、
このメンバーなら、レイカの攻撃に匹敵し、通天回廊の攻略も十分対応できる。
ただし、この見事な連携の中で場違いなのが………僕だ。
まったく役に立たない、下手すれば足手纏いになる。
みんな、かばってくれるけど、実質、居場所がない……
◇
ベヒーモスのHPが九割以上減った。
「もうすぐです! 攻撃を緩めないで」
僕は叫ぶだけ。
再び、コルベットのエクスプローションがさく裂し、ジャイアント・ベヒーモスが僕の足元までふっとばされてきた。
「ミュールさん、ベヒーモスはもう瀕死だ。ミュールさんの一撃で終わりです。僕たちの勝ちです! 」
僕が興奮しながら叫ぶ。
「こころえた! 」
ミュールはニタリと笑って、剣を構えて向かっていく。
一方、僕は危ないので逃げようとしたが、なにかひっかかった……
僕はベヒーモスの背後で攻撃を避けていたのだが、尻尾で引っ掛けられ、よたよたと、こけたところに、振り向いてきたベヒーモスが迫ってくる。
次の瞬間、後ろ襟が引っ張られ体が宙に浮いた。
「ええーー! 」
僕は、ベヒーモスに襟元を咥えられ宙づりになる。
うかつだった……これはもうだめだ。
でも、考えてみれば、ここで案内役の僕の役目は終わったのだし、死んでも問題ない。
レイカの元に行けないのは残念だけど、そもそも低レベルの僕がここに居ること自体場違いなのだ。このまま飲み込まれて胃酸で溶されるか、牙で噛み砕かれるのか。どっちも嫌だけど、さっさと殺してくれと思ったが……
ベヒーモスは、僕を咥えたまま飲み込まない。
「まさか……」
僕はジャイアント・ベヒーモスの口に咥えられ、みんなの前に晒し者にされている。
うそだろ、僕を人質か盾にするのか!
(またまた、みんなの足を引っ張った。ほんとに、情けない……)
止めをさそうとしたミュールだけでなく、みんなの動きが停まる。
時間が無駄に過ぎ、ベヒーモスのメティオを発動するMPゲージがどんどん溜まっていく。
これはまずい……
皆のHPはかなり減っているので、次にメティオを喰らえば、全滅だ。
「僕のことは、構わずこいつを殺って! 」
やっぱり、僕はドジだ、ここで死んだほうがいいんだ。こんなことで、みんながレイカのところに行けなければ、なんにもならない。
みんな、苦虫を噛みつぶしたような悲痛な表情で、手も足もでない。
「だめだ! 早くしないと、メティオを放つ」
やむなく僕は、腰のレイピアを抜いた。
ほんとに不甲斐ない、なさけない。僕はレイピアを握りしめた。これは敵を倒すための武器ではないのか。
みんなの「やめろ!」と言う声が聞こえる。
僕は、自分の喉元に剣先をあてた………
そのとき、柄の碧玉が閃光を放つ!
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