10-1 熱水大墓 ―高熱隧道―
熱水大墓は、碧玉の光の指す先にあり、避けて通れない。
周囲は燃え盛る火炎のような、荒々しい玄武岩の岩が折り重なる溶岩台地が広がり、至るところで噴煙や白い蒸気が吹き上がっている。
「尖ったギザギザの岩ばかりで、地獄みたいな風景だね」
ミホロが、不安気に歩んでいる。
溶岩台地をさらに進むと巨大な崖が行く手を遮るように連なっていた。その崖の下に沖縄にある亀甲墓のような、ドーム状の白い石造り建造物があり、下に人がやっと入れるほどの入口のようなものが開いている。
僕たちは、その入口に立ち
「さてどうするか、闇雲に入るのも危険だし……」
情報が全くないダンジョンの場合、最初は死ぬことも覚悟で入って、トライアル・アンド・エラーで何度も挑戦して攻略法をみつけるのだが、今は死ぬことができないので思い切ったことができない。
考えこんでいると、いきなりコルベットが中に入っていく。
「コルベットさん! 」
「うだうだ考えてる暇などないのだろ、さっさといくぞ! 」
「ええーー! 」
確かに、いちいち攻略法をさがしていては、いつまでたってもたどり着かない。さっさと行くしかないのは、わかるけど結構強引だ。
みんなも、どうしたものかと僕の様子を伺うが、何も言えないので思わず付いていってしまった。
◇
中に入ると、岩がむき出しのトンネルとなり、奥からむせるような、熱風が吹き付けてくる。
「熱いトンネル……火山地帯で、溶岩が流れてるのかな」
ミホロが息も絶え絶えに言う。
僕たちは懐中電灯代わりの発光する魔石をかざしながら奥に進む。
硫化水素の匂いがして、むき出しの岩盤に硫黄や、沸石の白い結晶が厚くこびりつき、白と黄色のごつごつした不気味なトンネルだ。奥からの熱風は次第に温度が上がり、まるでオーブンの中にいるようだ。
ミホロが汗を吹きながら
「サウナだね。行ったことないけど」
壁や足元に、ところどころ熱水が湧き出て、グツグツと沸騰し、熱いだけでなく湿度も高く、頭がクラクラしてくる。ミホロはよたつきながら。
「暑いーー!、もう、帰ろ」
「でも、ここを通らないと」
そう言って、ふと後ろを見ると、コルベットが下着だけになっている。
「コルベットさん! 」そのまま女性下着のモデルになりそうな姿に息を呑んだ。
「暑いから、しかたないだろ。ミホロも脱げばよいではないか」
「ええ! 」
僕たち、男連中には願ってもない光景だが。
「そんなの、だめです! 」
ミホロが喚くが
「熱中症になるぞ」
「……なら、せめて水着で」
こうして、女子は水着になり、僕たちも短パン一枚になった。
ミホロはセパレーツのスク水で、グラビアモデルのようなミュールとコルベットのビギニ姿の間で、ちょっとかわいそう。でも、これは目に焼け付けておきたいのだが。
男連中は前を歩き、振り向くことを許されない。
「水着だし、いいじゃん 」
「だめーー! 」
ミホロが喚く。
◇
奥に進むにつれて、さらに温度が上がってくる。
「五十度近いのではないか」
「だめ、もう死ぬ……」
吸い込む空気が熱く、喉が焼けるようだ。熱中症なんてものではない、本当に焼け死ぬ。マジでやばい。
そのとき、後ろから冷風が吹いてきた。心地よい風に、一気に力が抜け、火照ったからだが癒やされる。
振り向くと、コルベットが魔法杖をかざしてフリージングの魔法を放っていた。敵を氷漬けにする魔法をゆるく解き放ってくれている。
「ああー涼しい、ありがとう。でも、もっと早く使ってよ」
コルベットは苦笑いしながら。
「結構MPを消費するのであまり使いたくないのだが。まあ、このくらいは問題ない」
確かに氷結魔法を連続で使うので、なみの魔導師では数分、いや数秒ももたないだろう。
それでも暑いが、壁を触ると火傷しそうに熱く、コルベットがいなければ、このトンネルを通るのは絶対無理だった。
◇
トンネルの遥か先にオレンジ色の光が見えてきた。
「出口…なのか。しかし、オレンジ色の光って」
その光は近づくにつれて、奥が広い空洞のようになっているのがわかる。魔族の本拠地かもしれないので、僕たちは慎重に近づいた。
出口付近で、体を隠して外を見ると、ドーム球場ほどの広い岩盤がむき出しの空洞で、壁の一部から溶岩が流れ出て、そこから吹き出る炎で、全体にオレンジ色に照らさている。
その眼下に、空洞を埋め尽くすうごめく魔獣!
僕は息を飲んだ。
周囲の壁全体には、蜂の巣のように黒い穴が無数にあり、それが墓場なのだろう。
そこから生き返った死霊魔獣のお出迎えだ。
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