8-9 ローレシア戦役 ー勇者とは―
なんとか、コルベットと話をする突破口が開けた。
僕は土下座で両手を地面につけたまま顔をあげ
「ラ・ムーアのことはご存知ですか」
一瞬、コルベットの表情がこわばり
「それがどうした」
突き放すような答えにビビった僕は、ゴクリと唾を飲み込み。
「ラ・ムーアが近く復活します。そうすればエクアドルはおろか、この世界が消滅します。ここは、魔族と結ぶべきではありません、ローレシアと手を組んで……」 そこまで言ったとき
「そんなこと、わかっている! 」
話を遮って、突然コルベットが怒りだした。
「魔族は好かぬが、ローレシアの奴らは……! 」
コルベットの表情が鬱々としている。
(これは、しくったかも……)
確か、ノーザンエミレーツの参謀も言っていたが、コルベットはローレシア国に恨みがあるようだ。
僕は恐る恐る。
「ろ……ローレシアに恨みでも」
「お前に、言う必要はない! 」
(そうですよねーー、言う必要ないですよねーー)
怒りの形相のコルベット、どうやら逆鱗に触れてしまった。
子供が願うような世界は一つ、手を取り合おうなど、と言って聞いてくれる人なら、今頃、魔族側についていないだろう。
終わった……万事休すだ。
土下座状態で、後ろの仲間たちを見ると、全員諦めの表情だ。
でも……やるだけのことはやったし。また最初からやりなおしか……
それに、アリーア姫には申し訳ない。
そのとき、テントの天井の隙間が風で開き、そこから月の光が漏れ込んできた。
その光は僕の腰に携さえているレイピアの柄に反射して、いつものように、細い光がレーザ光線のように北を指す。
コルベットはその光を見ると
「こっ! これは……」 驚いた様子で席を立ち
「導きの碧玉……なぜ、貴様が! 」
僕は腰の碧玉の柄を見て(ああ、これか…)といった感じで
「スワンヒルにいるレイカという人の居場所を指しているのです」
「レイカ…とは、レイカ姫のことか」
身を乗り出して聞いてきた。
「そうですが」
何の気なしに答えると
「そんなバカな。レイカ姫が言っておられた勇者とは、お前のことなのか……」
「実は僕、レイカの召喚獣なのです」
「お前が! 」
呆れるというか、信じられないと言った表情。
もしかして、コルベットはレイカと関係があるのか、これはストライクかも! 続けなくては。
「今の僕は、人間ですけど、召喚されたときは、ミノタウロスに変化するのです」
モフモフと猪八戒はおいといて。
すると、コルベットはさらに動揺したようで。
「レイカ姫は、これまで召喚獣にろくなのはいなかったと言っていた。おまえも、通天回廊に挑んだのか」
「はい、挑みました」
「……それで、どこまで行った」
「最上階の百八階層まで。でも、そこで敗れましたが」
コルベットは驚き、興奮したように
「それはまことか! 私でも五十三階層までだ、そんなひ弱なお前が……」
ということは、まさかコルベットも召喚獣だったのか。これは、幸運……というより、巡り合わせのような気がする。
コルベットは納得いかない様子で
「しかし、お前の持っているのは間違いなく、レイカ姫の言っていた碧玉…」そう言うと、壇上の玉座の椅子から降り、まだ土下座している僕の横に来て
「その柄を見せてくれないか」
口調が丁寧になった。レイカの物だからだろう。
(でも、それはできない)
「すみません。それだけは、死んでもできません。これは、レイカ姫と僕を繋ぐ唯一のデバイス。心許せる相手意外に、手を放すわけにいきません。これを取られるのは死んだも同じこと、いっそ僕の首を刎ねてお持ちください」
これは本心だ、いつも思っていることだから、すらすら答えられたのだろう。
しばらく、沈黙のあと。
「わかった。顔をあげなさい」
顔をあげると、コルベットはこれまでと違い、おだやかな表情だ
「立ちなさい」
そう言われて、僕は立とうとしたが……足がしびれてひっくり返った
「すみません、足がしびれて……」
後ろで、ミホロ達がなさけない顔をしているのが一瞬見えた。
コルベットは呆れて
「わかった、座ったままでいい」
「す……すみません」
「ほんとに、お前がレイカ姫の言ってた勇者なのか。後ろの者の方がよほど、勇者らしい」
「あはは……僕は勇者ではありません」
するとコルベットは
「先程のお前の言葉………勇者とは、力や剣術が強い者だけを言うのではない」
口元を緩ませて答えると、後ろのミュールも大きくうなずいたように見えた。
「わたしは、これまで天界へ行く道を探していたが、どうしても見つからない。恐らく、なんらかの鍵が必要なのだ。それがその碧玉だろう」
コルベットは再び椅子に腰掛け。
「話を聞こう」
再び起死回生のチャンス、冷や汗ものの、一進一退の攻防。
これが僕の戦いなのか………
お読みいただき、ありがとうございます。m(_ _)m




