8-8 ローレシア戦記 ―大魔法使いコルベット―
僕たちは魔導師の集団を突っ切り、中央の大きなテントの前にたどり着くと、ミュールがテントを切り裂き中に突っ込んだ。
中がどうなっているかもわからないのに、怖いもの知らずだ。かなり自分の腕に自信があるのだろう。
僕達も後を追って入っていく、怖がっている暇はない。
テントの中はいくつもの仕切りがあり、狭い通路や部屋に分かれているが、これは近接戦が優位な剣士のほうが有利だ。
しかもミュールはハイランダー!
走りながら敵と突然出会っても、駆け抜けざまに剣を振るう。後ろにも目があるような前後左右、全く隙がない。魔導師が杖を構えるまもなく、コンマ数秒で叩きのめす。一方、ゴンゾーは相変わらず相手の魔法杖を払う程度しかできない。
こうして、ミュールを頼りに、次々と遮る魔導師を振りきり、奥に駆け込んで行った。
そして最後の扉をあけて、広い空間に転がり込むと、すでに数人の魔導師が待ち構えていたが、これも想定内
「カズヤ、いけ!」
ミュールとゴンゾーのHPが削られるが、魔導師の魔法攻撃を盾となって受けてくれる。僕はその間を抜けて、玉座の前に走った。
こうして、魔導師の親玉の前に駆け込んだが、足がもつれて頭から無様にこけてしまった。
一瞬、振り返ると、ミュール達が魔道士の緊縛の術に捕まっている。ついでに、傀儡もだ。
僕は、両手をついて前を見上げると。
正面に、紫のロングドレスを着た妖艶な女性が、大きな背もたれの豪華な椅子に足を組んで座っている。
この人が、コルベット……
覚めた目で、肩肘をついて僕を蔑むように、余裕で見下ろしている。
息が詰まるオーラで、これまでの魔導師とは格が違う。魔女というより怪物のような威圧感だ。
僕は背中がぞわーとして震えが止まらない。レベルは……マックスの百、いや、それ以上の軽く限界突破クラスだ、これほどとは想定外だ、考えが甘かった。
「この部屋までたどり着くとは、どんな猛者かと思えば、まだガキではないか」
どうやら、最初から感づいていたようだ、これは、完全にシクったかも。後悔しても、もう遅い。
「し……知ってたのか……」
僕は、震えながら言うと。
「あたりまえだ。魔族と人間がつまらん戦いをするので、暇で仕方なかったのだが。そこに、お前達が突っ込んできて見物していたのだ。負け戦の腹いせに、死を覚悟で一矢報いようと、大将の首を取りに来たのか」
そうではない、と話そうとしたが。
「あっ……あの、その……」
恐怖と緊張で言葉が出ない。
「なんだ、ビビッて話もできないのか。しかし、お前はレベル20にも満たないではないか。なんのつもりだ」
威圧的に言われ、頭が真っ白になり、言葉が浮かばない。
「あわ…アワ……」
なにも言えない僕に、コルベットは呆れ、落胆し、怒っているようだ、これはまずい……落ち着け、落ち着け、と思うほど冷や汗がでてくる。
「なんだ、つまらん! 余興にもならんわ。失せろ! 」
そう言って杖を振り上げた瞬間
ヒュルルルーーーー
風切り音がすると、直後にバキッ! と鈍い音がした。
コルベットが手元を見上げると杖が折れている。
「………! 」
何が起こったのか、コルベットも驚いている。
背後の壁に、矢が突き刺さっていた。
ルークだ!
「お前の仲間か! 何処から射ってきた 」
コルベットが慌てて周りを見ると、テントの天井に僅かの隙間が幾つかある。
「あそこから通して……」
コルベットはすぐに、その隙間を防ぎ、考え込むように
「……この細い杖を射抜くとは。その気になれば確実に私に当てることができたはず………しかも、これほどの使い手なら、私は急所を射抜かれ即死だった」
すこし青ざめている
「さらに、防護の魔法を張っていたのに、それを突き破ってくる対魔法の矢……ここまで追い込まれたのは初めてだ」
苦々しい表情だ。
コルベットは矢を掴み、矢の残留思念から持ち主をトレースする。
これはやばい!
ルークはこの世界の人間だ、もし殺されたら本当に死ぬ、ミランダさんが悲しむ。
こうなったら最後の手段しかない、かの諸葛孔明、孫氏、竹中半兵衛、稀代の名軍師も思いつかないであろう奇策……
土下座!
僕はいつでも、どこでも、だれにでも土下座ができる特技がある。相手が小学生や幼稚園児にだって土下座できる自信がある。さらには回転土下座に、ジャンピング土下座もマスターしている。
地面に平伏しこれ以上、下げようない頭、これほどまでに相手に優越感を与え、怒っている相手でも大抵許してくれる魔法のようなパホーマンスだ。
そして僕は土下座をすると、落ちついて頭も回り、まともに声が出るのだ。アパンマンでいうところの替えのアンパン、仮面ライダーの変身のきめポーズ、古いけどポパイのほうれん草なのだ。
こうして、土下座をすることによって、パワーを得た僕は能弁になる。
「コルベット様! 矢を射った者は、女の子を撃つことはしません。だから、殺さないでください。僕たちは、コルベット様の魔導師を殺害していません。どうかお助けください」
命乞いは得意中の得意だ。
そう、僕は殺し合に来たのではない、だからみんなにも魔道士を殺さないように頼んでおいた。
でも、それを実行するとは、たいしたものだ。
コルベットは驚いて、横の魔導師に聞くと
「なんだと! 確かに私の配下に誰一人死者はいない。わが配下をみね打ちで倒すとは……こいつら、ただものではない。それを、お前が率いているのか……」
すこし感心したように言う
「しかも、仲間のためなら話ができるようだな」
いや、土下座したからだけど、そのことは黙っておこう。
そこに、配下の魔導士がなだれ込んで僕たちを囲んだ。ルークも捕まって連れて来られ、仲間全員が引き立てられた。
これはやばい……
そのとき
「まて! 」
意外にもコルベットが制した。
「命がけでここまで来たのには、わけがあろう。しかも、巫女を殺害してない、一言だけ話を聞いてやる」
僕は顔をあげて、胸をなでおろした。
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