表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

6-1.スコルピオン戦

 紺碧(こんぺき)の空、そこに浮かぶ真綿のような雲の合間をペガサスは()け抜ける。

 僕は露出したレイカのお腹に抱えられ、仰ぐと、暖かな気流にレイカの黒髪がなびき、駿馬の手綱を引くレイカの胸の息遣いが(じか)に感じられる。

 本来なら至福のドライブのはずが、このあとの過酷なバトルを思うと……直ぐに帰りたい。  


 森を越え砂漠地帯に出た。

 彼方に続く砂の海の中に、褐色に風化した大小幾つかのピラミッドが散在する場所があり、レイカは高度を下げ、ピラミッドの間に舞い降りる。


  僕はすぐにミノタウロスに变化させられると、レイカは途中の神木で積んできた木の実を砂地に放り投げた。

 木の実は砂の中に沈み、そこを中心に砂が渦を巻き始める。

 次第に渦は大きくなり、蟻地獄のように中心が窪地状になると、その中心から火山が噴火するように、砂煙が地面から吹き上がり始めた。


  その吹き上がる砂の中から、黒い物体がもぞもぞと出てくる。

 僕は息を飲んだ


(何が出てくるんだ……)

 黒い物体は、砂の中から這上るように、盛り上がるように出てきた。


 大きい……まだ出る……大きい…大きい…サソリ、でかーー!! 


 有に十m近くあり、黒光りした甲羅に八本の足と二本のハサミがせわしなく動き、ゴキブリを思わせるような巨大な昆虫に、背中がぞわ―っとしてくる。

 僕は見上げて、腰が抜けそうだ。


 こんな化物、人間が到底(かな)うとは思えない。軍隊に匹敵する流星騎士団でも歯が立たないのは当然だ。ウルトラマンにでも、タッチ交代してほしい。、

 僕は震えながら振り向くと、レイカは後ろにさがって、ピラミッドの壁を背にして腕を組んで見物している。


(ええ、連携じゃないの? )


 僕は、自分とレイカを交互に指差すと、レイカも気がついたようで

「ああ、連携技のこと。モフモフがダメージを与えて、私が(とど)めをさすの」


(……それが、連携技かー! )


 連携といえば、二人の技を合わせての相乗効果、挟撃や陽動、敵に息もつかせぬ波状攻撃じゃないのか。これでは僕は単なるあて馬じゃないか……

 召喚獣は主人公が勝つために、できるだけ相手にダメージを与えておく捨て駒とでも思っているのだろう。


 あるいは、レイカはこういった戦闘戦術に、かなり(うと)いのかもしれない。

 そういえば、レベル上げの狩りも要領が悪い。手当り次第に狩りをしているようで、手強いのにポイントが低かったり、同じモンスターを何体か連続して倒せばボーナスが入るのに、途中でやめたりする。

 まあ、ゲームで使う脳と、勉強で使う脳の領域は違うのかもしれないな。


  すると、レイカが後ろから

「モフモフの斧では背中の甲羅には歯が立たない。足がいっぱいあるけど、やわらかい、お腹を狙うのよ」

 ありがたいアドバイス、そんなこと、わかっているさ。

 わざわざ、あの凶器(うごめ)く足の中に飛び込みたくないのが、わかんないかなー。あの蠢く足が届かない、背中を叩いて(無理ですーー!)と言って(うめいて)撤退しようと思っていたのに。


 そう言われてしまっては、覚悟を決めるしかない。まあ、いつもの半殺されモードだ。


「グフォー!」


 雄叫びをあげ、砂に足をとられながら、やけっぱちで突貫した。

 痛いのはいやだけど、これが召喚獣の定めなのだ。


 敵は八本の足の爪と二本の巨大なハサミと尾の毒針。僕は一本の斧だけ、全く相手にならない。視界の全領域から、サソリの爪が迫る! 


 フック! ストレート! ボディ! おまけにヒザ蹴り! 回し蹴り!


 それらを一度に食らい、一瞬意識が飛び、数メートルは吹っ飛んだ。

 ミノタウロスの頑丈な身体でなければ、爪の一発でも食らえば即死だろう。僕は、頭を振って立ち上がり、再び突貫した。


「ゲホ! グホ! グホホーーー! 」


 もう、スコルピオンの足でサンドバック状態でボコられ、斧を振り下ろす間もない。

 こうなれば、数発喰らうことを覚悟で、捨て身で迫るしかない。


 顔面、胸、腹、足にスコルピオン足の爪が食い込む。

 ただ、あのハサミと尾にある毒針だけは避けなければならない、あれに挟まれると一刀両断だ。


 もはや、戦いとは言えない。

 飛んで火にいる夏の虫状態。


 血まみれになりながら、食い込んだ爪をそのまま激痛に耐えながら、ゴリ押しでサソリに肉薄して、なんとか斧を降ったが届かず、斧は虚しく空を切る。


 次の瞬間、スコルピオンの強烈な一撃を喰らい、レイカの足元まで跳ね飛ばされた。


(ゲホー!)


 僕は血反吐(ちへど)を吐いて、レイカの足元で無様(ぶざま)にも仰向けに倒れた。見ると、レイカは腕を組み、肩をおとして落胆した表情で僕を見ている、いや見下している。


(すずしい顔をしやがって! どうせ、レイカと、僕は格が違うのだろ……)


 すると、レイカは

「もういいわ、私がやる」

 そう言って、落胆した表情で進みだす。


 もう、辞めてもいいのじゃないか……

 たかがゲームじゃないか、しかも、このゲームではリアルの痛さでほどではないものの、殴られたときは痛いし、苦しい。

 そこまでして、やる価値があるのか……


 でも、人を高めるのは人だ、僕はレイカから離れてはいけない。

 幸運にも僕はここで、レイカと戦う権利を得られたのだ。それはレイカのためであり、さらには僕の下心のためでもあるのだ。


―幸運の女神は前髪しかない―


  人生なんてすべて運だ、努力したって成功するとは限らない。でも、数少ない幸運の女神が振り向いてくれた時、その髪を掴めるのか、見逃してしまうのかは、自分次第だ。

 このチャンスを逃してはならない! 

 せっかく掴んだ女神の前髪を離し、そっぽを向けば、もう掴むことはできない。だから、僕は(さげす)まれようと、冷たくされようと、全力をつくして、その髪を離してなるものか。


 ◇

  僕はレイカの足首を(つか)み、その歩みを止め、斧を支えに立ち上がった。

 驚いて振り向いたレイカを睨み返すと、レイカは少し気圧(けお)された表情をして、立ちすくした。

 今の僕はレイカの二倍の背丈はある、見下ろしながらレイカを守るように、手でレイカを後ろに下げ、よろけながら前に進む。


 レイカは呆然と僕を見ている。いつも精悍なレイカもこんな女の子のような表情をするんだ。


 そして、勝つ見込みもないのに、僕は再びスコルピオンを前にする………


 いや、僕もそこまでバカじゃない。

読んでいただきありがとうございます。

※よろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ