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現世に転移している異世界の剣姫に、僕は召喚獣として呼びだされた〜  作者: 猫ノあすき
第四章 ロード・オブ・アドベンチャー
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8-6 ローレシア戦役 ―クレイ・フィールドの戦いー

 決戦の日、朝霧が昼前まで立ち込めていた。

 作戦は三方向からの同時攻撃、これは時を同じくして、一斉に行わなければならない。どこかの軍が先に突出すれば、被害がそこに集中してしまう。


 その合図は、狼煙(のろし)で行う予定だが、霧のため煙が見えず作戦開始が遅れている。

 それは、僕の思った最悪のシナリオを、さらに助長するものだった。


 霧が晴れた時、正面にいる僕たちは信じられない光景を目にした。


「敵がいない……」

 昨日まで、あれだけの数が(うごめ)いていたのに。


 そのとき、前戦の右側で大きな音がする。

 敵は右翼に集中攻撃していたのだ。

 どうやら、僕の想像していた通りになってしまった。しかも、霧が立ちこめている間に、魔族は右翼の味方にすでに肉薄し、ほぼ奇襲された状態になっている。

 遠くてよくわからないが、味方の陣地が無数の黒い怪物に蹂躙(じゅうりん)されているようだ、一瞬にしてほぼ壊滅状態だ。


 僕たち正面の軍も援護に向かったが、落とし穴や、防護壁などいくつものトラップが仕掛けられて、なかなか進めない。

 しかし、左翼の軍勢がなんとか先にたどりつけそうだ。


 ………って! それも相手の作戦だ。


 正面の主力と、左翼の軍が結集しないように、正面から攻める僕たちに特に強い防御を敷いているのだ。

 こうして、左翼側が援護に着いた時には、すでに右翼の味方は全滅し、魔族は余裕で左翼の反撃軍を迎え撃っていた。


 魔族は完全に予測している動きだ、これは作戦がバレバレなのだろう。完全に敵の術中にはまってしまった、これでは勝てる戦も負けてしまう。

 しかも、左翼の軍勢は、反対側の右翼が大敗したのを知り、大部分が逃げ出すありさまだ。


 そもそも、ノーザンエミレーツは、複数の部族、宗教が寄り集まった国々だ。そこで、ローレシアの王室も、異部族、異宗教を寛容に受け入れて、どちらかといえば民主的ともいえる。

 だがそれは逆に、自分達の国益を優先するので、首長達の結束も決して強固とはいえない。


 だからこそ、結束の(かなめ)であるアリーア姫の御旗(みはた)の元で一致団結して、戦うことも必要だったのだ。


 僕たちは、正面のグランブル騎士団のアリーア姫のそばにいて、戦況を遠望していた。

 味方は総崩れ状態になっている。


 アリーア姫は震える声で

「カズヤ様の言ったとおりだわ」


 こんな状況が的中しても、ドヤ顔もできないし、うれしくもない。

 でも 僕はちゃんと言ったし………ゲスの後知恵だけど。


 残ったアリーアの主力もトラップに苦戦してボトルネック状に戦線が間延びし、最前線は少数になってしまい、待ち構えている大軍を相手に、無駄に(しかばね)の山を築くだけだ。


 グランブルは一度、全軍を退却させて体制を立て直しているが、背後にも敵が回ってきた。

 こうなったら、守りを固めるしかないが、前後を封鎖され逃げ場がなく補給路もない。


 全滅は時間の問題だ。

 敵としては無理することはない。ゆっくりと、兵糧責めにすればいい。


 戦線は膠着した。 


 相手は昼、夜となく少数で責めて来ては、場合によってはなにもせず撤退する。一方、こちらは、そのたび全力で守らないといけない。

 つまり、こちらは夜も眠れないのだ。


 数日で兵卒は眠れずヘトヘトだが、容赦なく魔族は絶え間なくちょかいをかけてくる。

 しかも、こちらの状態を探るように、徐々に攻撃を強くしてきた。こちらは、次第になぶり殺しの状態になり被害も増えている。

 兵は疲弊し、逃げ出す者も後を絶たず、兵力は半減などいうものではない。


 陣中の姫も、かなりやつれている。

 グランブルは、苦渋の表情で

「姫、お逃げください」


 アリーア姫は、悲壮な決意で

「ここまで、兵を死なせて、私だけがおめおめ生き残ることはできません。そもそも、どこへ、逃げるというのです」

 確かに、前後を塞がれ左右は険しい山岳地帯、逃げ場はない。


 しかも魔族は人間ではない、捕虜などの考えはなく、皆殺しにする。

先程から、鮮やかな装飾の短剣を握っているアリーア姫の手が震えている。

 これは、敵と戦うものではないのだろう。

 司令部のある陣幕の中は、沈鬱な様子だ。


 こうなってしまっては、僕たち六人で、なんとかなるものではない。そこまで、無双の勇者ではない。 

 僕は、申し訳なく

「あのー、僕たち先を急いでいるので……言いにくいのですが、私たちも大事な使命があります。ここで死ぬわけにいかないので……」


 周囲の武将が、一斉に僕を睨む。

 その、悲壮な表情に、僕は後退(あとずさ)りして、周りをキョキョロみて狼狽(ろうばい)してしまった。


 こんな時に言うことでもないだろう、場をわきまえない僕の言葉に、武将達は怒り心頭のようだけど、仕方ないよなぁ。


 グランブル騎士団長は

「貴様ら! ここまで、同じ釜の飯を食って、血も涙もないのか」

 その剣幕に、僕は真っ青になって

「ああ…でも……その……ぼくたちだって……」

 ボソボソと言い返せない僕に、ミホロ達か後ろで情けない表情をしている。


 すると、姫は

「いえ、この方達には関係ないことです。他の参謀も逃げた者もいます。これ以上、迷惑をかけられません。皆様の力量なら、戦線を離脱できるでしょう」

 それを聞いたグランブル騎士団長は、俯いて拳を握り締めながら


「姫を連れていってもらえないか………」


 いつも偉そうなグランブルが、最後は頭を下げて頼んでくる、なかなかの忠誠心で少し感激した。

 しかし、姫は強い口調で。

「グランブル、私の話を聞いてなかったのですか! 私は逃げません」

 少し涙を浮かべながら言う。

 姫は自分が足手(まとい)いになることもわかっているのだろう。


 僕も、なんとも言いようがない。

「すみません、とにかく急いでおりますので。ご武運をお祈りしています」

 それだけ言ったが、ご愁傷様です、と聞こえただろう。


 グランブル騎士団長は、最後にミュールに向かい

「エクアドルの流星騎士団とは、仲間を見捨てるような団ですか、見損ないましたぞ」

 怒るというより悲しげな表情だ。

 ミュールは背をむけ、相手にせず立ち去ろうとするが、辛そうに、悔しそうに、歯噛みしている。


 周りを見ると、奥でにやりと笑う参謀が目に入った。こいつらは多分、敵の内通者だやばくなったらすぐに逃げるだろう。

 まあ、知ったことではないけど。


 陣を出る前に振り向くと、グランブルが消沈しているアリーア姫に

「あいつら! やはり口先だけ! いざとなれば、逃げ出しやがった」

 との吐き捨てる声が聞こえた。


 でも、グランブルもなかなかの騎士だ、逃げずに最後までアリーア姫の元にいる、なんだか見直したぞ。


 僕たちは側方の山岳地帯の絶壁を登り、戦線を迂回した。


 山中を歩いている時

「姫様の剣、自害するためだよ。他の人達も……と言っても、私達六人だけではどうしようもないしね」

 ミホロが少し言葉を詰まらせて呟く。


 ミュールは何度も振り返り、後ろ髪を引かれるように沈鬱な表情だ。

 他のみんなも口数が少ない。


「ところでカズヤ、この先どうするの」

 僕は後ろのミホロ達に振り返り


「こうなったら、背後にいる大魔法使いを懐柔(かいじゅう)するしかない」


 ………!


 皆、一瞬絶句した。


「ええ! 逃げるのじゃないの」

 ミホロが、驚いたように聞く


「あそこでこの作戦を言うと、先手をうたれるかもしれない。大魔法使いが、こちらに寝返れば、逆転できる」

 ミホロは、ため息をついたが、ミュールは一瞬呆然としたあと、涙目で僕を見て微笑だ。

 やはり、戦士として、味方を見捨てるのは忍びなかったのだろう。


  ミホロは納得いかない表情で

「敵を欺くには味方からってこと。だったら、あの陣中で逃げ出す話も演技なの」

「そう、兵は危道なり。戦いは騙し合いさ」


 ミュールは感心して羨望の眼差しだけど、ミホロは「ほんとか」と言った表情だ。まあ、武将に睨まれて、ビビったのは事実だけど。


「でも、懐柔なんてできるの」

「直接攻めてこないってことは、完全に協力していないから、多少の望みはある。とにかく今は、それしか方法がない」


 ミホロはため息をついて

「また、危なっかしい作戦ね。ところで、西の魔女ってオズの魔法使いにも出てくような恐ろしい魔法使いなのでしょ、情報はあるの」


「名前だけは聞いたよ」

 その魔法使いの名は……


 ―コルベット―


お読みいただいて、ありがとうございますm(_ _)m

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