8-5 ローレシア戦役 ―愚策―
その後もノーザン・エミレーツの連合軍は快進撃を続け、噂を聞いた諸国も参戦してくる。
そして、いよいよローレシア王都が視野に入ったとき、偵察隊より情報が入った。
魔獣の軍勢がローレシアの近郊にある、クレイ・フィールドという平原に集結して待ち受けていると言うのだ。
ローレシアの王都の南に火山灰の固まった、草木もほとんどない乾いた灰色の平原があり。そこに、魔族の軍勢が集結しているらしい。
さらに、魔獣の背後には、西の大魔法使い率いる部隊かいるようだ。
その魔法使いは魔族側に組みしているが、これまで襲ってきたことはなく、戦いには参戦しないと名言している。ただ、魔族側が窮地になったときは、援護する可能性は高い。
◇
数日後、途中の拠点攻略などで分散していたノーザンエミレーツの反撃軍も、クレイ・フィールドの手前で集結した。
集結すると兵力的には反撃軍の方がかなり有利で、これだけの差があればバカでも勝利できるだろう。
もう、マジで僕たちの必要はない。
というか、実はこれまでも軍について行くだけで、まともに戦ったのは、僕がゴブリンにタコ殴りにされたときくらいだ。
そんなことで、僕達は暇乞いに姫の天幕に向かった。
まだあどけなさの残る、琥珀の瞳の可愛いお姫様と別れるのは、ちょっと、もったいないけど仕方がない。
「姫様、ここまで兵力が集まれば勝利間違いなしです。私どもは、早く先に旅をしたいので、ここで、お暇をいただきたいのですが」
僕は片膝をついて丁寧に伝えると、姫はさみしそうに
「確かにそうですね、ここまでお付き合いいただき、すみませんでした。でも、やはり決戦直前の今は」
当然、今は無理だ。ノーザンエミレーツにしてみれば、僕たちが敵に情報を漏らさないとも限らない。
「それは承知しております。決戦が終わるまでは、後方の姫のそばにいますので」
そう答えると、アリーア姫は少し躊躇したが
「………わかりました」
とりあえずは、許しを得た。
ミホロ達もほっとした様子だ。
すると、アリーア姫は
「カズヤ様、これまで助けていただき、何もお礼をしなかったので」
そう言うと、侍女が金子を持ってきた。
(おおー、やっとキター! )
どうも、これまでのお礼、餞別のようだ。しかし、僕は
「金のために、姫様をお助けしたのではありません! 」
とカッコよく辞退………なんてするか!
貰えるものは貰っておく。あくまでゲームの世界、最初に姫を助けたとき、ティアラを辞退して後悔していたのだ。正当な対価だ、遠慮なく受け取った。
僕がヘラヘラと笑いながら受け取るのを、ミホロ達は情けなさそうにみている。
アリーア姫は改まって
「これまで、ありがとうございました。できれば、ローレシアまでご一緒にと思ったのですが」
僕は金子を懐のアイテムボックスに入れながら
「そうしたいのも山々ですが。私どもも、先を急いでいますので」
「そうですね、ご無理を言いました」
寂しそうに、というより不安な様子だ。
そのあと、おもむろに
「この前、私とカズヤ様がゴブリンに襲われたことですけど……」
やはり、姫も気にしていたようだ。
あれは僕を狙っていたかもしれず、なんとも言えないので
「あれから、グランブル騎士団長もそばにおられるようですから、大丈夫ですよ」
少しそっけなく言ってしまった。グランブルも怪しく、真実を確かめないといけないが、正直なところ面倒くさい。
貰うものを貰ったら、もう知らないのだ。
「分かりました………」
姫は何かもの言いたそうだけど、そんな僕の態度に気づいたようで、それ以上聞いてこなかった。とにかく、あまり関わりたくないので話題を変えようと。
「ところで、いよいよ明日は決戦ですね、どのような戦法で戦うのですか」
興味本位で聞いてみたが、作戦は最高機密なので簡単には話せないだろう。
僕は話題を逸らせたいだけなのだ。
姫はすまなそうに口を閉じている。
「ああ、すみません。これは、機密ですよね。言わないで結構です。それでは、失礼します」
上手く席を立つ口実が出来て、僕達は立ち上がると
「まってください! 」
どこか、思い詰めた表情のアリーア姫。
まさか、そんな重要なことを部外者の僕達に話すつもりなのか。僕の意見を聞きたいのだろうか。
でも、少し興味もある。
◇
そのあと、布陣などの詳細は話してもらえないが、概略を教えてくれた。
兵力的にはノーザンエミレーツがかなり有利なので、主力のアリーア姫の軍が正面から攻撃し、さらに兵力を二手に分けて、それぞれ敵の左翼、右翼からも襲い掛かる手はずらしい。
敵は一塊なので複数方向から攻めて、相手の攻撃力を分散させる定点攻撃の基本だ。
が………!
聞かなければよかった……
僕は、唖然として、真っ青になって震えがとまらない。
後ろのミホロ達も、そんな僕の態度にどうしたのかと言った表情だ。
固まっている僕に
「どうされたのですか」
姫は心配そうに聞いてくる。僕は言うべきか迷ったが
「………姫、この作戦はダメです! 最悪全滅します! 」
姫は驚いた。
ミホロ達も何を言うのかと思ったようで、こんな優勢なのに、なぜにと言った感じだ。
複数からの定点攻撃は、動かない陣地へなら有効かもしれないが、相手は大軍といえどもここまで遠征し、機動性がある。
もし、その大軍が分割したそれぞれの軍に全軍で対したら、分割して少数になった味方の軍隊は、各個撃破されるだろう。敵の攻撃を分散させる戦法が、逆にこちらが戦力を分散させられた状態になる。
しかも、僕が見る限り、敵の四方の守りが不自然で、かなり粗密があり、特に右翼側ががら空きだ。
戦力的に優勢なので、駆け引きのない真向勝負をしないと危険だ。
「どうして、こんな作戦が決まったのです! 何のために集結したのです。このまま全軍一丸となって勇戦すべきです! 」
僕は、つい息を荒げてしまった。姫は、後ずさりして
「首長たちの総意で決まったのです……」
何もわかっていない。
「グランブル騎士団長はなにか言わなかったのですか」
僕は必死で詰め寄る
「いえ、この作戦に感心され、自分が先頭に立つと意欲満々です」
僕はこぶしを握り「あいつは馬鹿か! これでは姫を守れない」
思わず小声で言ってしまった。
姫には聞こえたようで、驚いている。そばにいたミホロ達にも聞こえたようだ。
「これまで敵の攻撃が手ぬるいのも不自然で、我々を油断させている気もする。あえて勢力を分散する戦術を提唱し、それを待ち受けている体制にも見える。だとしたら間違いなく参謀の中に敵と内通している奴がいる」
とまでは、憶測なので言えず。
「姫、なんとか、作戦の変更はできませんか」
食い下がったが、すでに軍隊は配置についている。
「私は軍議には口出しできません、カズヤ様のような意見もありましたが一蹴されました」
……確かに、僕の意見が正しいとも言えない。この作戦でうまくいく可能性もある。だけど、立派な橋があるのに、わざわざ川を泳いで渡ろうとするようなものだ。
軍議で僕の意見も出たようなら今更聞いてくれそうもない。どうせ、そんな会議では、常に喋りまくり、声の大きい者の意見が通り、冷静な意見は駆逐される。
ただ、姫を不安にさせたくもないので
「すみません。優秀な参謀達の作戦なら大丈夫でしょう、これは私の浅知恵で、単なる老婆心です。お気になさらずに」
そう言って深く頭を下げ、ゴンゾーやミホロ達と、姫の御前を下がった。
僕の表情を見てアリーア姫は心配そうな顔をしているが、どうしようもない。あとは、僕の意見が間違いであるよう祈るだけだ。
◇
テントに戻るときミホロに
「どうするの」
ゴンゾーも
「確かにカズヤの言うとおりなら全滅になるのではないか。心中はごめんだぜ」
わかっている……
僕のゲーム脳をフル回転させた結論は
状況をみて危なくなったら戦線を離脱する、日和見、自分本位、無責任作戦をすることにした。
僕達はローレシアに、何の義理も恩義もない。
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m




