8-4 ローレシア戦役 ―グランブル騎士団長―
行軍が続く中、ゲリラ的に攻めてくる魔獣との小競り合いも頻繁に起きている。
そんな中、敵の拠点を攻略中に軍の側方を突かれて、姫の馬車にゴブリンが襲ってきた。
連戦連勝で侮っていたこともあったのだろうか、その時は、グランブル騎士団の他、ミホロやゴンゾー達も離れた場所にいて、姫の馬車が、がら空きになってしまった。
突入してきたのは、雑魚ともいえるゴブリンが三体で、たまたま姫に呼ばれて馬車のそばにいた僕が立ち向かったが、僕には強敵だ。
振り向くと、アリーア姫が不安そうに見ている。
僕は腰のレイピアを抜いて構えた。本来なら、姫様の前で勇者としてかっこいいところを見せられる絶好のチャンスなのだけど………絶対無理だ
それでも姫様を守ろうと思って、僕より小さいゴブリンに刺突したけど簡単にかわされ、足が絡まってよろけたところに、他のゴブリンに殴打され、無様に倒れてしまった。
自分でも呆れるほど弱い。本来こんな所に居られるキャラではない。初心者のフィールドで、スライム相手にレベル上げをしているべきだろう、姫様を守るなんて百年はやい。
そのあと、ゴブリンにタコ殴りにされ、うち一体が姫様の馬車に向かう。
「姫さまぁーー!」
僕は情けなく叫ぶしかなかったが、グランブル騎士団長が間に合って、一気に魔獣をたおしてくれた。さすがに騎士団長だ、ゴブリンなどはものの数ではない。
姫は、馬車から出てきて、グランブル騎士団長に
「ありがとうございます、グランブル! 」
「姫様お怪我は」
「大丈夫です。ところでカズヤ様は……」
僕は顔をボコボコに腫れ上がらせて倒れたままで、グランブルに手を貸してもらって起き上り
「大丈夫です。グランブル騎士団長、ありがとうございます」
頭を下げると
「私が離れていたばかりに、すまない」
そう僕に言ったあと、アリーア姫に
「申し訳ありません。これからは、私がそばでお守りします」
「はい……」
姫は、羨望の眼差しで騎士団長を見つめた。
しかし、危なかった。
こんな雑魚キャラに御旗にまで迫られるとは、無防備すぎにも程がある。
それに、なんだか腑に落ちない。
わざと姫の周りを手薄にし、弱い僕だけを残して危機のところを助けた感じもする。助けにきたときも、僕は死んでいたかもしれないが、姫は十分に助かるタイミングだ。
これはゲスの勘ぐりかもしれないが、よく姫に呼ばれる僕を妬んでのことかもしれない。やっぱり気をつけたほうがいい。
そこに駆けつけて、頭に来たのはミホロだ
「ねえ、今の絶対、カズヤを落としこもうとしたんだよ。さっき、グランブル騎士団長に、姫様がカズヤに聞きたいことがあるので、ここは安全だから、私達は先に食事をしろって言われたの」
「でも、証拠もないし。グランブル騎士団長を刺激してもね」
そう答えると、ミホロは納得いかない表情で、それ以上言わなかった。
実は、僕としては、どうでもいいと思っている。
この快進撃だ、もう僕たちの必要はないだろう。早くレイカのところに行きたい焦りがあり、遠征とは離れたい。
最近それしか考えていない。
◇
ちなみに、僕達は姫に呼ばれて軍の幹部達が集まった席で一緒に食事をすることがある。それにはグランブルも反対しない。言うまでもなく、赤髪の美人剣士ミュールが来るからだ。
その夜の会食にも招かれたが、最近グランブル騎士団長が仕切っている。
「姫様! 我々は快進撃を続け、一致団結した反攻作戦に敵は恐れをなしているようです。偵察部隊からの情報でも、この先の拠点の魔獣は次々と逃げているようです」
グランブルが意気揚々と話している。昼間に姫を助けたこともあり、いい気になっているといえるが……僕にはどうでもいい。
グランブルは何度もミュールに目線を移し、さらに自慢話が続く。
「先の拠点の攻略では、私の言ったとおり正面の敵は囮でした。そこで、私は側面から来る敵を待ち伏せして攻撃して圧勝しました」
やたら、自分の功績を誇るやつだ。そもそも雑魚ばかりだし、誰でも勝てるだろう。
入社の面接やオーデションで自分をアピールするのは大事だが、やりすぎると耳障りだ。他人の自慢話などあまり聞きたくない。
しかし、アリーア姫は
「そうですかグランブル騎士団長、すばらしいです! それに、昼間は助けていただき、ありがとうございます」
姫はお世辞でなく本気で感心し、感謝し、信頼しているようだ。
ゲスの勘ぐりばかりする僕とは違って、純粋で心優しい人だ、僕などそばいるのも憚られる。
すると姫は、何も言わない僕の方をみて
「カズヤ様、お怪我はだいじょうぶですか」
「はい大丈夫です」
まだ、傷の癒えない僕は、目や口を腫らして豚のようだけど、そんな僕に気を使ってくれる姫はやさしーな。
そんな姫は、つぶらな瞳を僕に向けて
「なにか、ご意見はありませんか」
「いえ、特には」
僕は守れなかったこともあり、グランブル騎士団長の機嫌も損ねたくないので、それだけ答えた。
「そうですか……」
何も答えない僕に、姫はどことなく不満で、不安そうだ。
本当は姫を危ない目に合わせた張本人を探すべきなのだが、もう面倒くさい。レイカのところに早く行かなければならない、その焦りだけが募っている。
それもあって、そのあとアリーア姫とは目を合わさなかった。
そんな、様子をグランブル騎士団長は、なんだか満足そうに見ている。つまらないことには気のつくやつだな……と思った。
◇
食事のあと、皆で自分たちの天幕に戻るときにミホロが
「やる気なさそうね」
「まあね。グランブル騎士団長は、姫に媚を売っているのがみえみえで、軍も規模は大きいけど、なんだか纏まりがないし。周りの参謀たちも、何を考えているかわからない」
そんな僕の愚痴にミホロも
「確かにそんな気がするね」
僕は、両手を頭に組んで
「このまま付いて行っても時間の無駄だし、折を見て軍から離れて本来の旅に向かおうか」
「カズヤに任せるよ」
他のみんなも、うなずいている。
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m。




