8-3 ローレシア戦役 ―旗揚―
ところで、イケメンのグランブル騎士団長は、ミュールに興味があるようで、頻繁に声をかけている。
「アリーア姫のナイトではないのか! 」
と言いたいけど、まだ幼さの残るアリーア姫には臣下の礼は尽くしているが、子守気分のようだ。
ここの世界には、当然ながら美少女ゲームやアニメがないので、美少女の良さをわかっていない!
一方、ミュールは垢抜けて貴賓もあり、北の素朴な女性とは一線を画し、まるで女優かアイドルのように見えるみたいだ。波打つ紅髪に、スタイルのよい体、白く艷やかな素足を惜しげもなく露出したミニスカートに、蛮族の田舎野郎が憧れるのも無理もない。
こうしてグランブルは頻繁にミュールに話しかけているが、ミュールは面倒くさそうに腕を組んで聞いている。
辟易として戻ってきたミュールに
「何を話していたのですか」
ミホロが聞くと
「実家でワインを作ってお金持ちだとか、たわいもない自慢間話だ。一度、家に来いとしつこい」
「ええ、それって! お誘いでは」
二人の会話に、僕たちは思わず聞き耳をたててしまう。
「私は、自分より弱い奴は好かぬ」
即座に言い切るミュール。
「でもー、ミュールさんより強いのはシンドボルグ団長くらいでしょうから、お相手はいませんよ」
グランブルはレベル的には最近強くなったゴンゾーとほぼ同格の感じだが、ミュールほどではない。しかしながら、ローレシアではかなり強い方だろう。
ミュールは笑って
「そんなことはなかろう。強さにもいろいろある」
そう言って、目線が僕たちの方を向いた。
ミホロは「えっ!」といった表情だ。
(……ひょっとして、僕のことか! )
と、ゴンゾーと、三平太も思ったようだが
「言っておくが、恋愛対象は別だぞ」
「でしょーねーー」
ミホロが笑い、僕たちはがっくりした。
そんなことより、翌日はいよいよ出陣だ。
◇
翌未明
朝霧の中、無数の猛者たちの、荒い息遣い、殺気、剣や盾の金音が響く。
次第に霧が晴れ、部隊の全容が朝陽のもとに露わになると、山腹から平原に集結した蠢く人の群れが絨毯のように地面を覆いつくし、兜の頭が海の波のように揺らいでいる。
この大部隊を前にしたステージに立ったのは、白を基調とし赤と金色の艶やか甲冑に身を固めたアリーア姫
アリーアは剣をかかげ
「この聖戦に集いし勇者諸君! 魔族の悪逆無道なる横暴は、家を焼き、愛しき同胞を無慈悲に殺戮し、落涙した者も数知れぬ。よくぞここまで耐え忍んでくれた………」
拳をきつく握り、震えるように言葉を紡いだあと、顔を上げ、声を高らかに
「その無念を今こそ晴らす時がきた。鬼畜にも劣る魔族の痴どもに正義の鉄槌を下すのだ! 同胞の無念、苦痛を胸裏に刻め! 仇を討て! 死を恐れるな! 今ここに、正義の兵十万の決起を宣言する! 」
姫の宣言に高揚する兵士たち。
激を飛ばす姫は、いつもと全然違い、凛として貫禄すらあり、集団心理というやつだろうか魅入ってしまう。
「オオオオーーーー」
地響きのような歓声が、地面を揺るがすように湧き上がる。
太鼓が鳴り、ホーンの響きが山間にこだまする。
「出陣! 」
姫が、叫ぶように言うと。
そのうねりは、巨大な津波のように移動し、大蛇のように狭隘な山道を下り始める。
ローレシア奪還のための決起だ。
その兵列ははるか彼方の山並みにまで続いている。
「十万の軍だって、すごいね」
ミホロが言うが、僕は冷めた口調で
「そんなの、盛ってるに決まってるよ。ざっと見ても三万ほどじゃない」
ミホロは、そう言われれば、と言った表情だ。
ところで、軍団の構成は歩兵が主体で、武器は槍と斧がほとんどで、剣を持っている者や騎兵は少ない。
エクアドルの軍隊に比べればかなり貧弱な感じがする。寄せ集めの軍なのでしかたがないのだろう。
そんな、混成部隊の中、僕たち六人も軍団のうねりに浮かんでいる木の葉のように流されているが、兵卒達にまぎれて歩く僕の足は重い。
(こんなことしていて、いいのだろうか……ミホロが言っていたように、早くレイカのところに行かなくてはいけないのに)
あとで、あーしたら良かったのに、こーすれば上手くいったのに、などとタラ・レバの多い僕だ。そんな僕に付いてきてくれる、ミホロ達五人には、なんだか申し訳ない。
◇
軍団は山の街道を濁流のように、ローレシアを目指す。
ちなみに僕たちは、アリーア姫の希望で姫直属のグランブル騎士団のそばにいる。よくもまあ、よそ者の僕たちを信頼してくださるものだ。というか、監視されているのだろうか。まあ、どっちでもいいけど。
山間部を降りて平原地帯に入ると、魔族が占領しているかつてローレシアの居城が幾つかある。
占拠している魔獣は、多くて二百体程度なので軍団は圧倒的な兵力をもって、それらの居城を次々と奪還しながら進んだ。
魔獣は、姫の馬車を襲った獣頭人身の怪物や、骸骨のアンデッドボーン、ゴブリンで、たまに翼を持った魔獣ガーゴイルなどが出てくるが、どちらかといえば雑魚キャラだ。
敵は全体に弱いこともあり、さほど被害もなく連戦連勝で、拠点を攻略し順調に進撃していく。
こうして快進撃が続くので、噂を聞いた諸国が参戦し、軍の規模は倍近くになった。
兵たちの指揮も上がり、兵站も十分だ。
「これは、勝てるぞ! 」
僕だけでなく、皆がそう思い始めた。
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