8-2 ローレシア戦役 ―苦境のアリーア姫―
その夜、僕たちは会食に招かれた。
アリーア姫の他、首長国から派遣された軍の参謀や将軍も集まり、ローレシア奪還作戦の話も始まった。
辺境のアネス国に、余力のあるノーザン・エミレーツの数カ国が集結し、アリーア姫を旗頭にして魔族に占拠されたローレシアを奪還するらしい。
末席ではあるけど、こんな重要な場所に、よそ者の僕を招いて大事な作戦の概要を話していいのか……。
これは、絶対に巻き込まれそうだ。
まずは、グランブル騎士団長が口火を切った
「アリーア姫も無事到着され。これまで魔族に蹂躙されていたノーザンエミレーツの諸国がやっとの思いで、反撃に転ずることができます。皆様にはこれまで苦労をおかけしました。明日未明、出陣となります、一致団結して勝利を勝ち取りましょう!」
グランブルが力強く言うと、集まった者たちは、机を叩いて同調の意思を示した。
そして、乾杯とともに食事が始まったが、食事の開始早々参謀の一人が
「姫様、今回の反攻作戦は、ローレシアの奪回が最優先なのはわかりますが、ローレシアの軍は先に到着している、グランブル騎士団だけだそうで」
なぜか、ひにくたっぷりの発言だ。
「二個大隊ほどの軍を預かったのですが……途中で、敵の待ち伏せにあって……」
口ごもるアリーア姫にグランブル騎士団長が
「ここは、姫様だけでも来られたのは幸いです。アリーア姫の元にノーザン・エミレーツの御旗を掲げられます。さすれば、まだ決起していない、他の部族も合流してくるでしょう」
少し苦しい言い訳だ。
二個大隊といえば二千ほどの軍だ、それが待ち伏せで全滅するとは……これは、内通者がいると考えたほうがいい。
すると、さきほどの参謀が
「それはお気の毒ですが、首長国の代表のローレシア王宮は、魔導師カーズに牛耳られたと聞いています。さらに、西の大魔法使いも魔獣側についたとか。あの、大魔法使いは、ローレシアに恨みがあるとの噂があります」
「……」
言葉に詰まるアリーア姫、かなり苦境に立たされている。まだ、僕と同じ年頃の姫だ、さすがにこの場を仕切るのは荷が重い。
ちなみに、西の大魔法使いとは、今やストレイン・ワールドの二大魔法使いの一人で、その魔法力は計り知れない。
姫も送り届けたことだし、僕達はさっさとスワンヒルに向かいたい。
すると、アリーア姫は
「実はここに、エクアドルの戦士様が、いらっしゃいます! あの北の関所の神獣スコルピオンを倒し。二百を超す魔獣をたった六人で、しかも無傷で全滅させたのです」
それには、席上がざわつく。
(ええーー! )
突然、僕たちに振られ、口に入れた肉を喉に詰まらせそうになった。
確かに、近衛騎士団を失った姫の立場は盤石でない。そこに、勇者とも言える僕たちが現れた……これは利用するよなー。意外にしたたかなとこも、あるのかも。
「カズヤ様、どうかお力添えを」
すがるような瞳で見つめられ。
「ええ……あの……その…」
しどろもどろになる。
こんな、瞳で可愛い女の子に見つめられたことは記憶にございません。周りを見るとめちゃくちゃ注目を浴びている。
ここで、断ることなんてできそうもない………
冷や汗が出て、横の仲間を見てオロオロしていると
「カズヤ様」
再び、アリーア姫のすがるような瞳。
「……わかりました」
つい言ってしまった。
後ろで、ミホロやゴンゾーがため息をついたようだ。
一方、アリーア姫は両手を組み満面の笑顔で僕を見つめてくれた。
ところが、周りの参謀の幾人かは、なぜか渋い顔をしている。
その中に、グランブル騎士団長もいるが。こいつは、姫に頼られている僕への、つまらぬ嫉妬心のほうが強うそうだ……
ほんと、関わりたくないなぁー。
◇
宿舎に戻るとミホロが
「ねえ、こんな大事に巻き込まれていいの。国家規模の戦争だよ。私たちは早くレイカ姫の所に行かなきゃいけないのでしょ」
「うん…でも」
「もう! 相手は大軍だよ、しかも大魔法使いも敵に回ったし。これまでの相手と桁違いだし。いいの!」
「だけど………」
ミホロに詰問されて、しどろもどろになってしまう。
また、強く頼まれると断れない悪い癖がでた。
僕が小さくなっていると、ミュールが
「レイカ姫は、困っている人を放おって置くなといったのだろ。だったら、よいではないか。カズヤはそういう奴だ、しかたあるまい」
思わぬ助舟に、僕は涙目になる
「ただ、もう少し、堂々と答えてほしいものだな。すっかりなめられているぞ」
ちょっと引っかかるけど、笑顔で言ってくれたミュールさん、本当にありがたい。さすがに、ミホロは閉口するしかない。
他の男連中は……どうせ意見はなく、とりあえず話がまとまり、ほっとした。
なんだか女子が強いチームだ。
ところで、やはり気なることがある。
参謀の中には、アリーア姫が来たことを、苦々しく思っている者もいるようだ。
ローレシアを内心敵視している国か、あるいは魔族の間者の可能性など、いろいろ考えられる。いずれにしても、一致団結すべき時に内輪揉めはまずい。
その夜、さっそく懸念していたことが起こった。
◇
アリーア姫のテントが騒然とし、寝込みのアリーア姫が襲われたのだ。
僕たちも駆けつけると、寝所が荒らされていた。
グランブルはすでに来ていたが、姫の様子に呆然としている。
「ひ……姫…ご無事……のようで……」
蒼白な表情で、声が震えている。
無理もない。
アリーア姫は、血だらけの寝間着で手には短剣をもって立っているのだ。
押し入った三人の屈強そうな賊は、みな返り討ちにあっている。か弱いアリーア姫が勝てる相手ではない。
しかも、血みどろで立っている姫の胸に剣が胸を貫通して突き刺さっているのに、何食わぬ顔で立っているのだ。
グランブル騎士団長を始め、駆けつけた兵士は蒼白な表情で
「姫……まさかゾンビに……」
と思ったみたいだが、僕は知っている。
すると、後ろから使用人と隠れていた、メイド服姿のアリーア姫が出てきた。
唖然とするグランブ騎士団長は
「姫様が二人………」
どう見ても、短剣を突き刺されて立っているのもアリーア姫だが……
そこに、三平太がひょこひょこと出て来て呪文を解くと、胸に剣が突き刺さった姫が、グニャグニャと倒れた。
グランブルは驚いた表情で
「これは……傀儡! 初めて見た、なんて精巧な」
実は密かにアリーア姫に頼んで髪の毛を一本貰い、三平太に傀儡を作って貰ったのだ。本当にそっくりで、アリーア姫も、僕も驚いていた。
「カズヤ様に言われて、影武者を立てていたのです」
そして、僕に向かって「ありがとうございます。カズヤ様! 二度も命を救っていただきました」
メイド服のアリーア姫は、僕の手を握って涙目でお礼を言ってくれた。
姫の細くしなやかな手に、心臓がはち切れそうになる。そもそも女の子に手を握られるイベントは、小学生の低学年以降発生していない。
これは、高感度アップ! よだれを垂らしそうな品のない顔で笑っているのが、自分でもわかる……だけど、グランブル騎士団長をちらっと見ると、苦々しく見つめていた。
見た目は清潔感たっぷりだけど、意外に嫉妬深そうだし、出し抜いたように思われるかもしれない。一応、気をつけなくてはいけない。
さらに、この連合軍は寄せ集めの軍だ。魔族の内通者か、ローレシア国の政敵が画策した可能性がある。これは、かなり気をつけなくてはいけない。
ところで、三平太の傀儡はあまりに精巧だ。これはいずれ、レイカかミュールで実践するときのプロトタイプとなった。でも、これを作ったときのミホロの目が、なんだか疑り深かったので、こっちも気をつけなくてはいけない。
こんなに、気をつけなくてはいけないことがあると、どれか抜けそうで、気をつけなくてはいけない………
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