7 馬車の姫君
僕達はミランダさんに別れを告げ旅立った。
森に立ち寄って西に大きく迂回したけど、美少年が収穫できた……
道は再び険しくなり、山を越え、谷を越え、ひたすら碧玉が示す北に進む。
険しい岩場、砂嵐、橋が流されて川の中をずぶ濡れになって進むこともあるが、秘境ともいえる山中には巨大な滝、深い渓谷、荘厳な峰々、満点の星空………などなど、リアルの僕では到底経験できない壮大な自然が眼前に広がる。
それらの圧倒される緊張感、無限の宇宙の一部を間近に体感し、自分の小ささを感じていると、日頃の些細なわだかまりなど、小さく、小さく、いつしか消えていく。
他のみんなも、こうした景色を見つめるときの瞳は、好奇心旺盛な子供のようにまんまるに見開いている。
ところで、仲間になったルークだけど、見た目そのままに気が弱く、いつも寡黙なゴンゾ―やミュールには怖くて近寄れず、三平太とは、お互い話をしないので沈黙が続く。
そこで、自然とミホロのそばに行くようになった。
ちなみに、僕にも近づこうともしない……どうも、ミホロが僕のことをドスケベだと言って、男でも油断するなと、あらぬ性癖を吹き込んだみたいだ。
完全に、ミホロの飼い犬状態だ。
そんなルークは森で毎日狩りをしてきた経験から、魔獣の気配に敏感で、進路の先にいる野良魔獣にいち早く気づいてくれる。
「ミホロ、魔獣がいるよ」
ルークは、なぜかミホロに伝える。ミホロはとんがり帽子のウイッチハットを目深にかぶり、面倒くさそうに
「だったら、さっさと退治しなさいよ」
「うん、わかった」
素直にうなずくと、近くの木に登って矢を射る。
こうして、モンスターの姿を見る前にルークが一人で退治してくれるので、最近は野良魔獣など近づいたことがない。
魔獣を掃討すると、ルークはミホロのところに行って
「ミホロ、やったよ」
うれしそうに言うが、ミホロは
「……そう」
なんかそっけない。
僕は小声で
「少しくらい、褒めてやれよ」
「だって、私あんなオカマみたいな、なよなよした子、苦手なの」
「その割には面倒みているな」
すると、ミホロは少し赤くなり
「だって、しかたないじゃない。気が弱くて、人見知りだけど、貴重な戦力だし」
辟易としたように言うが、性根のやさしいミホロなので、放っておけないようだ。
◇
そんな旅の途中、いつものように山道を進んでいると、崖下で騒ぎ声が聞こえる。
「なんだろう」
後ろのミュールが
「金音も聞こえる、剣の討ち合いが起こっているようだ」
皆をまたせて、僕とミュールで身をかがめて覗くと、街道を走る馬車を多くの魔獣が襲っている。高貴な人が乗るような立派な馬車だ。
でも、馬車を守る兵士が殺られて、護衛はほとんどいない。
そのうち、車輪がはずれて動かなくなった馬車に魔獣が迫り、その馬車の窓から女の子の顔が覗いた。恐怖の表情で震え、このままだと間違いなく殺される。
ミュールは僕に向かって
「どうする」
「どうするって、見過ごせないけど」
「関わらない方がよいのではないのか。時間もないし、寄り道するわけにいかないだろう」
冷たいミュールさん
「でもー……」
僕が考え込んでいると
「白馬の王子様を気取る必要はないぞ。それ以上に重要な使命があるだろう」
「……レイカ姫は、いじめられている人を見捨てるなと言っていた」
ミュールは笑って
「私は宮廷騎士団。第一王女のお言葉なら私は従うしかない。カズヤ指示してくれ」
ミュールも助けたいようだが、大義名文がないと動きにくいのだろう、宮廷騎士って面倒くさい。それに、なんだか僕を試しているような気もした。
僕はうなずくと、みんなのところに戻り、状況を説明した。
そして、ゲーム脳をフル回転して作戦を指示する。
「幸い僕たちはやつらの上にいる。ルークは、あの岩陰から矢を放って馬車に取りかる魔獣を討ってください。それで、ミュールさんやゴンゾーが突っ込むまでの時間をかせいで」
「はい! 」
こういうときのルークは、母の忠告もあり、僕の言うことを素直に聞いてくれる。
攻撃の編成は、ミュールとゴンゾーがアタッカー、後衛がルークとミホロの魔法。三平太の傀儡は、サッカーで言うならミッドフィルダーで前衛にも後衛にもなり、サイドからの奇襲もできる、便利なマルチプレィヤーだ。
僕は、一応アタッカーだけど、ミホロと後ろに待機して、戦況をみて指示を出す立場に落ち着いた。
だけど、ちょっと不満……
指示を終えると皆うなずいて、持ち場につく。
相手は二百近い武器を持つ魔獣の群れだけど、このメンバーを見ると、負ける気がしない。
さあ、戦闘開始だ!
◇
手に斧や棍棒を持ち、頭は狼や熊などの獣、体は毛むくじゃらで真っ黒な人身の魔獣が女の子の馬車に襲い掛かろうとしている。
馬車を守る護衛は全滅し、御者も殺られて馬車は車軸が折れて動かない。
一頭の魔獣が馬車の扉を引き破ると、中に少女と侍女のようなメイド服の女の子がより沿って震えているのが見えた。
(ルーク早く! 間に合わない)
僕たちは崖を駆け下りながら、心の中で叫んだ!
少女に向かって人間の二倍はある魔獣が、斧を振り下ろそうとした瞬間
魔獣の動きが止まる………!
その巨体はゆらりと揺れ、膝から崩れ落ちると、背中に矢が突き刺さっていた。
突然倒れた魔獣に、少女達は呆然としている。
さらに、馬車に向かう魔獣に次々と矢が命中し、どれも一撃で急所を射抜き、倒れていく。
馬車の少女も思わぬ事態に驚いて周りを見ているが、どこから射っているのか、たぶん見つけられないだろう。ルークは皆の想像の遥か彼方から射っている。
ルークの矢で魔獣が次々と倒れるが、魔獣達はおかまいなしに同胞の屍を踏みつけて、馬車に迫っていく。次第に肉薄し、ルークも必死で矢をつがえて連射しているが、数が多くて間に合わない。
とうとう、魔獣が馬車にとりつき、三人の少女達が外に転げ出た。
防具などはなく、寄り添って魔獣の餌食になるのを待つだけの状態で震えている。そこに、数体の魔獣が襲いかかった!
ルークの矢で一体はなんとか屠ったが、同時に襲うので今度は間に合わない。
寄り添いうずくまる少女たちに、容赦なく魔獣が斧を振り下ろす!
その刹那、ミュールが飛び込んだ。
キィーーーン!
鋭利な刃物が、かち合う金属音
ミュールの剣が少女達のまさに眼前で、魔獣の斧を受けた!
すぐさま、魔獣の斧をいなして、相手が体制を崩した瞬間、ミュールは可憐に体を返して一撃で仕留めた。まるで舞を舞っているようだ。
続いたゴンゾーが他の魔獣を蹴散らす。
少女たちの前に、ゴンゾーとミュールが盾のように立ちふさがった、もうこれで大丈夫だ。
少女たちは、ミュールとゴンゾーの背中をみて、涙を流して両手を合わせている。
魔獣は次々と襲い掛かるが、ミュールとゴンゾーは全く寄せ付けない。
僕とミホロも少女達のそばに行き
「お怪我はないですか」
「大丈夫です……あなたたちは……」
涙ながらに聞いてくる
「旅のものです。話はあとで」
僕も少女たちをかばうように立った……が、僕の出る幕はない。
完全にこちらが優勢となったが、駄目押しで三平太の傀儡も加わった。さらに、魔獣は明らかに死霊なので、ミホロのファイアー・ボールの乱れ撃ち(流連浄火)で次々と消え去っていく。もはや、オーバーキル、見る間に残りの魔獣を掃討した。
強すぎじゃないか……
ミュールは、剣を鞘に収めながら、余裕の表情で
「ルークの矢で相手を翻弄してくれたので、楽勝だ。久しぶりに体を動かせたよ」
僕たちは呆然としている少女たちのそばに集まった。
想像以上だ……
奇襲とはいえ二百を越す魔獣を、こちらはたった六人で無傷で全滅させたのだ。これは、一軍隊並の戦力ではないのか。
いや、実質僕を除いた五人だけど………
◇
助けたのは白いドレスの少女と、その侍女のようなメイド服の女の子。
ドレスの少女はブロンドの巻毛で、頭にティアラを載せたお姫様といった容姿だ。
そのドレスの少女は僕たちを見渡した後、ゴンゾーの前にきて
「助けていただき、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うが、ゴンゾーは「ええ! 」といった表情。
このメンバーを見て、一番の年長のゴンゾーおっさんがリーダと思ったのだろう。ゴンゾ―は、両手で“違う、違う”と手をふる。
「これは失礼を」
次にドレスの少女は、ミュールの前に行くと
「精悍でお美しい剣士様、王宮騎士団の方でしょう。助けていただきありがとうございます」
次は、圧倒的な強さの剣技を見せた、紅髪をなびかせるハイランダー、ミュールだろうが。ミュールも面映い表情で
「それは、どういたしましてだが………私はリーダーではない」
驚いた少女は、残りのぱっとしないメンバーを見て困っている。
僕は、周りを見ると、皆うなずくので
「あのー、多分僕が窓口というか、添乗員というか、代表だと思います」
申し訳なく答えると、少女は一瞬絶句したあと
「わ……わかりました」
自分と同じ歳頃で、全く仕事をしていない、根暗そうな僕を見て納得いかない表情だ。まあ、そういう反応には、学校で慣れている。
「改めまして、私はローレシア王国のラグ・アリーアと申します。このたびは、窮地をお救いいただきありがとうございます」
丁寧に挨拶する少女、馬車のエンブレムから王族に間違いない、しかもかなり高位だろう。僕は恐る恐る
「……まさか、王女殿下では」
「………」
答えように困っている。
否定しないということは図星だろうが、誰とも知れぬ相手に素性を知られるのは危険だ、警戒するのも無理もない。
だが、隠しきれないと思ってか、うなずくと
「何もお礼をするものはありませんが」
そう言って、髪のティアラを渡そうとするが、丁重にお断りした。
◇
「さて、どうする……」
僕は、みんなを見渡した。
馬車は壊れている、護衛の兵士もいない。これはワニの池の中に、肉を放り込んだ状態だ。放おっておけば、この娘達は野良魔獣に襲われて、半日も命はないだろう。
姫様は、不安そうな表情で僕たちを見つめている。
さらに、皆は僕の答えを待っている。
「ああーー、これは放っておくわけにいかないじゃん! 安全なところまでだよ」
やむを得ない選択だけど、みんなもうなずいてくれる。
少女たちは、ほっとした表情で、深く頭を下げた。
こうして僕たちは、またまた寄り道になるが、アリーア姫を安全な所まで送ることにした。
その後、僕たちは魔獣との大きな戦乱に巻き込まれるが、決して無駄な寄り道ではなかった。
お読みいただき、おおきに、だんだんm(_ _)m




