6 精霊の森の弓使い
もしもの話
無人島に女の子と二人だけ取り残され時、美少年が流れついた、あなたならどうする。
年歳の頃は十四か十五歳、ミホロとほぼ同じだろう。
童顔で華奢な体、プラチナブロンドの癖毛に色白の肌、頭に輪を乗せてハートの矢を持たせたら、まさに天使だ。
美少女と言っても確実に通じる少年。男の僕でもドキッとするほどで、盆踊り部にきたら、間違いなくマッチョ先輩の餌食になる。
さっきの、もしもの話しで、この少年が流れついたら、八割くらいの男は禁断の行動をとるのではないだろうか……
しかし、この少年がエクアドル精鋭の流星騎士団の副団長を含み、アンデッドの大群を倒すことのできるプラトーンを、一撃で葬り去る実力を持っているとはとても想像できない。
僕達は、そんな美少年の後ろをついて、森の奥に入っていく。
しばらく進むと森の中に小さな家が見えてきた。
周囲には小さな小屋のような家が数軒あり、獣人や妖精が畑仕事や家畜を飼い、せわしなく野良仕事をしている、妖精の森の村といった感じだ。
その中央の家の中から、エプロンをして、洗濯籠を持った女性がでてきた。
「母上!」
少年が叫んで、かけていく。
農村の生成りの服を来ているが、丁寧に結い上げたブロンドの髪、整った顔立で優雅な仕草は、元は高貴な家柄ではないかと思わせるような女性だ。
僕達を見て警戒する少年の母親は
「どうしたのです。この人達は」
「はい、以前母上がおっしゃっていた、冒険者ではないかと思います。レイカ姫のことを言ってました」
「レイカ姫……」
少年の母は驚いた様子で
「あなた方は、レイカ姫の行方を知っているのですか」
僕は碧玉の柄を見せて
「はい、この碧玉が行く先を示してくれるのです」
柄をみて、女性はさらに驚いて
「これは、聖剣プレアデスの柄! 」
プレアデスのことを知っているとは……この前襲ってきた魔導士と関係があるのでは、と思ったけど。もしそうなら、先ほどの森で僕達の命はなかった
母親はしばらく、柄を見たあと
「わかりました、よければお入りください」
◇
僕たちは家の中に招かれ、テーブルに座ると、猫耳の可愛い獣人がお茶をもってきた。
母親は貴婦人のような手つきでお茶を飲みながら。
「私はミランダと申します。以前はエクアドルの貴族でした。このたびは息子のルークがとんだ失礼を」
元貴族とは……やはり、振る舞いや言葉遣いが普通の人と違うはずだ。そんな貴族様がなぜ、こんな僻地にいるのかと思ったけど、いきなり聞くのも失礼だろう。
「いえ、僕達が森に突然入り込んできたのです。警戒されるのも無理はありません」
「最近、北のローレシア国が魔族の手に落ちたと聞き、警戒していたのです。この森は北の地では数少ない、精霊の守る森で、簡単に魔族は入れませんが、油断できませんので」
ミランダは、話ながら優雅な手つきでお茶を飲む。ほんと可憐な女だ。僕の母ちゃんとはえらい違いだ、こんな人が自分の母親なら、いいのになあー。
そのあと、僕たちも自己紹介をして、これまでの経緯を話した。
「……そうですか、カズヤさんはレイカ姫に召喚されていたとは、すごいですね」
ミランダさんが感心している。
「いえ、たまたま召喚されただけです」
レイカにまんまと騙されたとは、言えない。
「ところで、息子さんは凄腕ですね」
すると、ミランダは少し誇らしげにルークを見つめ
「以前ここに住んでいた弓の名手に、教えを受けたのです」
「以前ということは、その方は」
「高齢でしたので、半年前に亡なりました」
「そうですか……」
その弓の師匠というのは、ローレシア最強の弓使いだったそうで、老齢になってここで隠遁生活をしていたらしい。
横で話を聞いていたミュールは
「ルークは少なく見積もっても、レベル換算で80以上はある。本気を出せば、神獣とも互角に戦える」
ミホロは驚いて
「80だって! アーチャーでそこまでのレベルはエクアドルにはもちろん、ラピス三国にもいないよ。在野にそんな凄腕がいたなんて、凶暴なモンスターがこのあたりにいるの」
それには、ミュールが
「強いモンスターがいなくても、毎日動物を狩っていたらレベルは上がるでしょう。しかも、命中精度だけでなく、相手の動きを先読みする戦略的な射撃、戦いの勘もするどい」
全くそのとおりだ、僕たちはルークを見て唸っていると、ミランダは意外なことを言い始める。
「実は……この子は森から出たことがありません。このとおり、人見知りで内気な子です。そこで,この子をみなさんと一緒に連れて行ってもらえないでしょうか」
「ええ! 」
突然の驚くべき提案、というか思いつきにしては突拍子もない。
「そ……、それは…願ってもないことですが。いいのですか」
「はい、外の世界を見るのは、この子にも勉強になりますし。実は、カズヤさんのような方が来るのを持ち望んでいたのです」
「僕を待っていた……」
すると、ミランダは少し顔を伏せながら
「レイカ姫が幽閉された原因は、私にもあるのです。詳しくは言えませんが、その過ちをなんとか償いたいと思っていました。そのことを、息子に委ねるのは気が引けますが」
悲壮な決意のような感じがする
「でも、ミランダさんは大丈夫なのですか」
「ここは、精霊の森、獣人達も守ってくれます」
そう言い終えた後、ルークに向かい
「いいですねルーク。この方達の力になり、レイカ姫の元にいくのです」
「わかりました、母上」
ルークは素直に即答する、母親思いの本当にいい子だ。
しかし、敵にしたら恐ろしいが、味方だとこれほど心強いやつはいない
◇
翌日、朝早くからミランダとルークがバタバタしている。
ミランダがルークに、新しい服や、靴など用意し、旅支度をしている。
最後にルークの弓矢を渡すとき
「できれば、もっと立派な武器をわたしてあげたいけど。そこは、あなたの腕で補うのですよ」
ルークがうなずいて、弓矢を手に取ったとき、僕は
「それは、ご心配なく。僕たちには優秀な技工士がいます。実は、昨夜ルークの弓矢をこの三平太がバージョンアップしていたのです」
横から三平太が出てきて
「こっ……これ……弦を螺旋繊維にかえ、弓の胴体にダグクラスタイト合金をまぜて強化した……どう…かな」
ルークにその弓矢を渡すと
「これは! 」
ルークの目が輝き、少し興奮している
「試射して、いいですか」
「どっ……どうぞ」
すぐに使いたいみたいで、ルークは矢をつがえ、弓を引き絞る。
体幹が全くぶれない、狙いを定める殺気ともいる気迫は、さっきまでの、なよなよしたルークとは別人のようだ。
僕達は圧倒され見惚れてしまう。
次の瞬間、弓がしなり矢が放たれると、弾道軌道を描いて遥か彼方に飛翔する。
「3百mはあるんじゃないか」
ゴンゾーが手で目の上にひさしを作って、矢の行方を追っている。
放たれた矢は、山の裾の2mほどの巨石を破壊した。
「狙ったの……」
ミホロが震える声で言うと、ルークはミホロを見て笑顔でうなずいた
「それに。すごい破壊力」
確かにすごい。
頼もしい!
頼もしすぎる味方だ!
僕は、おもちゃをもらった子供のように興奮した。
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