5 スナイパー
村を出たあと、僕たちは北に進むべきなのに、なぜか西に迂回していた。
「道が違うのじゃない」
ミホロがテクテク歩きながら、納得いかない感じで言う。
「でも、碧玉の光はそっちを指しているんだ」
僕も、多少不安はあるが、他に頼りがない。
ちなみに、碧玉は月光にあてないと道を示さないので、迷うような分かれ道にさしかかると、夜を待たないといけない。だから、夜になると、碧玉の柄を月光にかざすのが僕の日課だ。
その夜も、柄を月光にかざしていると。
「道は間違ってない」
ミホロが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫だよ、この道でいいはずだ」
「この前は昼だったから行き過ぎて、戻ったことがあるものね」
「ごめんごめん、まさかあの細い道がそうだとは思わなかったし」
「でも、この碧玉がないと、絶対行けないね。もう、戻る道もわからないくらいだし」そう言って、ミホロは僕の横に座ると、しみじみと
「あー、このままずっと、カズヤと冒険の旅をしたいな」
突然、思いもよらぬ事を、ぽつりとこぼした。
「リアルで何かあったのか」
少し思い詰めた様子なので聞いてみたが
「ああ、ごめん、リアルのことは話せないしね。カズヤもいろいろあるのでしょ」
「まあ、ないことは、ないけど」
ミホロは不登校とだけ聞いたことがあるが、とても不登校になるようには見えない。
そんなミホロは膝を抱え、おもむろに
「カズヤみたいなのが、お兄ちゃんだったらなー」
「ええ? 」
再び、思わぬミホロの言葉に僕は唖然とした。
「ああ! いや、カズヤみたいなのがお兄ちゃんだったら、扱いやすいなーってこと」
めずらしく照れたように話すミホロだった。
なんだか、いつものミホロらしくない、何かあったのだろうか。
状況も分からないし、気の利いたアドバイスもできない、どうしようもない。
そこで、子供のころ妹の結衣にやってやったように、ミホロの頭を撫でてやると
「なっ! なにするのよ」
「まあ、いつも頑張ってくれているから頭なでてやるよ」
「………わかった」
拒否られるかと思ったが、意外に素直におとなしくしている。僕をウンコとしか思っていない愚妹より、はるかにましだ。
「僕もミホロが妹なら、と思うよ」
そう言うと、なぜかミホロは黙ったままだった。
◇
2日ほど進むと次第に緑が多くなり、森となる。
これまでにない大きな森で、鳥のさえずりが聞こえ、小動物を見かけ、果実のなっている木も見かける。
「エクアドルを思い出すね」
ミホロがほっとしたように言う。
しばらく森の中の細い道を進むと、木々の間から木漏れ日がキラキラ輝いている、森の先に池があるようだ。
そのとき!
ヒュルルルーーーー
風切り音
「伏せろ! 」
ゴンゾーが叫ぶと
バシッ!
頭上の木に矢が突き刺さる。
僕は、心臓が止まりそうで、冷や汗が吹き出した。
みんなも茂みに飛び込んで身を伏せた。僕はそばのゴンゾーに
「スナイパーだ、どこから、撃ってきたんだろう」
「多分、あの木の上だ」
矢の刺さった角度の延長方向を見ると、池の手前に大きな木があり、そこから射っているようだ、
さらにゴンゾー、ミュール、ミホロ、三平太の頭上にも、次々と矢が通過、もしくは頭上の木に突き刺さる。
ミホロが胸をなでおろしながら
「よかった……なんとか、外れた」
するとゴンゾーが
「ばかやろ! 相手は威嚇しているんだ。矢は全員の頭上を同じ間隔で射抜いている。つまり、いつでもドタマを撃ち抜けるぞ、ということだ」
ミホロは震え上がり
「それって……今ので私達は一瞬にして全滅していたってこと」
ゴンゾーはうなずき
「しかも、気配すらない、かなりの凄腕だ……命中させないところを見ると、立ち去れってことか」
確かにそのようだが、そういう訳にはいかない。なんとしても、天界に行かなければならない。勝てるかわからないが、反撃するしかない。
とにかく、相手はこっちを捉えているが、僕らは相手がわからない。かなり不利だが、同じ木の一点から来るので、相手は恐らく一人、しかも木の上なので動きが取れない、さらにこちらの方が数に勝っている。
まずは、敵を捉え、注意をそらし、隙きをつくり、複数方向から攻めるのだ。
「三平太、悪いけどまた傀儡を」
「わっ……わかった」
僕たちが迫るまで、矢の攻撃を受けてもらう囮りが必要だ。三平太は背中の箱の中に折りたたんだ傀儡を組み立てる。
ゴンゾーとミュールは左右に分かれ、僕も分散して迫っていく。相手は池のほとりの木の上に一人なので背後はなく、複数の方向から迫れば対応できない。
ミュールとゴンゾーはうなずくと、盾をかざして散らばった。
ミホロはミニフレアーと流連浄火で、敵のいる木の上あたりに撃ち込んで撹乱する。とにかく、敵の木の真下に行くんだ。
真下に矢は撃ちにくい。
僕たちは敵のいる木を囲む形で配置について、草や木のかげから、じわりじわりと移動する。
位置についたところで、まずは正面から、突破口の傀儡が飛び出した。
また、相手を引きつける捨て身の攻撃だ。本当に三平太は助かる、レイカは最高の助っ人を寄越してくれた。
敵の矢は傀儡の体をかすめ、服を切り裂いていく……が体に当ててない
それを見て、多分敵は男と思った。さすがに、女の子に矢を射ることはできないようだ。
その隙に、ミュールは左の藪に駆け込み、ゴンゾーも右から回り込む。
傀儡が正面から突っ込んで相手をひきつけ。ゴンゾーとミュールも池のほとりに出ると、動きを止めず一気に、敵のいる木の下に走り込む。
これで、敵を追い込んだ、袋のネズミだ。
そのとき、想定外のことが起こった。
次々と、全員の頭上に矢が突き刺さる。
僕たちは、その場に立ち尽くして動けない。
「なんで! 」
さらに、木の上には誰もいない。背後は池、逃げ場はない。
「だとしたら……」
僕は、蒼白になった。
「敵は、池の向こうだ!」
信じられない。
「やつは、池の向こうから放物線の弾道軌道で、同じ木の上を通して俺たちを狙い、さも木の上から狙っているようにみせかけたんだ……一度に二つの的を当てるのと同じ、神業だ」
ヒュルルーーー
再び矢の風切り音
僕の足元に突き刺さる。
「と、いうことは………僕らはまんまと、遮蔽物のない丸見えの場所におびきだされた」
僕たちは、全員池のほとりに立って敵からは丸裸だ。
とても勝ち目はない……
しかし、その気になれば確実に命中させられていたのに、威嚇しかしていない……多分、悪い奴ではない。
「いちかばちだ」
僕の後ろに隠れてるミホロが
「どうするの」
「無条件降伏!、命乞いしてみる」
僕は両手をあげ
「降参だ! 僕は、ここを通りたいだけだ。お願いだ、通してくれ。君に、危害を加える気はない」
すると、池の向こうから声がする。
「お前たちの目的は」
もう、正直に話すしかない
「僕たちは、天界に向かって旅をしています。そこに幽閉された姫様を助けにいくのです」
しばらくして、池の対岸から、色白で童顔、白に近い金髪の巻毛、チュニックのように腰に紐を巻き、手に弓を持った、まるで天使のような少女……
いや、美少年がでてきた。
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