4-2 死霊の村(後編)
ミホロが震えながら
「なんか、囲まれているよ。しかも、いっぱいいるし」
魔法杖を握りしめ、ウイッチハットを被り臨戦態勢で、恐る恐る外を見ている。
ミュールとゴンゾーも得物を携え、戦闘用の服に着替えている。
「どうする……」
ミホロが僕に聞いてきた。
「少数劣勢の部隊が、大軍を相手にする戦術は、基本的に相手の弱点を突くこと。確か、兵法にそんなのがあった」
つぶやくように言うと
「兵法って……三十六計逃げるにしかず。しか知らないけど」
「それも立派な兵法だけど、今は周りを囲まれているし、逃げ場はない」
「だったら、どうするの。弱点なんてあるの、万歳突撃は嫌だからね」
ミホロが涙声で言う。
「弱点がなければ、弱点を作るんだ」
「どっ……どうやって作るのよ」
ミュールやゴンゾーも、僕の話に聞き入っている。
「いろいろあるけど、まずは陽動かな、少し揺さぶってみよう。ちょうど、三平太の傀儡がいるから、また犠牲になってもらっていいかな」
僕が、三平太に申し訳なく言うと
「わ……わかった」
三平太は嫌な顔ひとつしない。ほんと、素直なやつだ。
さらに、各人がバラバラに戦っては各個撃破されるので、連携するよう作戦の指示をした。
さあ、戦闘開始だ!
◇
月夜で、なんとか周囲の状況は確認できる。
アンデッドの群れはもうすぐ、玄関に入ってきそうだ。
まずは、家の屋根の上に潜ませていた傀儡に、そのまま屋根の上から、アンデッドの群れの真ん中に飛び込ませた。
人間には絶対させられない………
意表を突かれたアンデッドの群れが。あわただしく動き出す。
ゴンゾーがカーテンの隙間から様子を見て
「多少は手薄の箇所ができたが、どうやって討って出る。まだまだ多いぞ」
「次は不意打ちです。織田信長の桶狭間の戦いや、義経の鵯越の逆落としみたいに、相手の思わぬところから討って出たら……と、思うのですけど」
僕は、策士さながらに話すけど、みんな聞いてくれるだろうか。
学校では、僕の話なんか三平太くらいしか聞いてくれない。そう思いながら、みんなを見ると意外と真剣に聞いてくれている。
緊迫した状況だけど、初めて人間扱いされているようで、なんかうれしいー。
思わず、うるうるしていると、ミホロがそんな僕を察して
「カズヤは、北の関所で助けてもらったし、頼りにしているよ」
笑顔で言うと、ミュールやゴンゾーもうなずく。
ゲーム脳もここでは真価を発揮できるんだ!
◇
僕たちは一階に降りて、まずは表玄関と裏口を厳重に固めた。
こうしておいて、押し寄せるアンデッドに対し傀儡の陽動で手薄になった、建物の側方にある風呂場の小さな窓から飛び出した。
アンデッドの群れは玄関と裏口に向かっているので、側面に割って入るように躍り出ると、両方に向かうアンデッドの背中から攻撃する形になる。
ミホロが流連浄火を乱れ撃ちし、怯んだところにミュールとゴンゾーが突撃する。
ミュールは連撃を放ち、ゴンゾーが斧をプロペラのように回転させて、なぎ倒していく。相手は、ほとんど反撃できない。
三平太は、旅館の上の隙間から傀儡をコントロールしている。
僕たちは、最初に陽動になってくれた傀儡と合流したが、一体は倒れて動かなくなっていた。
「よく頑張ってくれたね」
ミホロが手を合わしたが、もう一体は………すこしやばい
左腕が取れ、残りの右手で剣を握っている。髪は乱れて引きちぎれ、服はボロボロ、口が裂け、片目が飛び出して、敵のアンデッドより不気味だ。
でも、僕たちに突破口を開いてくれた、ありがたい仲間のようで、しかもまだ戦ってくれる。傀儡は動かなくなるまで、主人の攻撃命令を忠実に遂行するんだ。
統率のないアンデッドはもう、敵ではなくなった。
ふらつく案山子を倒していく感じで、もはやお掃除だ。ミュ―ルやゴンゾーは一回の攻撃で数体をなぎ倒す。僕も一体ずつなら、なんとか倒せた。
「さて、最後に。こいつらを操っていた、親玉は……」
想像がついている。
「出てこい! 」
アンデッドの後ろから、宿のカウンターにいた男が現れた。魔法杖を持って、足元までのローブを着込んだ魔導師だ。
そいつは不敵な笑みを浮かべ。
「これだけのアンデッドを倒すとは。普通の異世界人ではないようだな」
「何者だ! 」
魔導師は答えず
「きさまらが、レイカ姫のところに向かう者達か」
なぜそれを……と思ったが、こちらも答えるわけにはいかない。
「一体、何のつもりだ! 」
魔導師も僕の質問には答えず。
「一対五ではさすがに勝ち目はありません。ここは一度引いたほうがよいですね。少し侮ったようです。それでは皆様、熱水大墓でお待ちしております」
慇懃に言うと、不敵な笑みを浮かべ魔法杖を掲げた。
僕はミホロに
「逃げる! ミホロ、流連浄火を」
「わかった」
しかし、ミホロが撃とうとした直後、魔導士の胸元に強い閃光が発して目がくらむ。
次の瞬間、魔導師はフクロウの姿に变化して闇夜へ飛び去った。
「逃げられたか………」
◇
空が白み始めた。
陽が昇るとアンデッドは灰になり消え去った。
僕達は、宿の前に座り込む
「あー疲れたーーー」
ミホロが、ヘロヘロな口調で言う、僕も
「もう一回寝ようか」
「そうだね」
すると、村の家の戸が開いて、次々と人が出てきた。
「おい! まさか今度は村人が……」
と思ったが、武器もなく笑顔で向かってくる。昨日までの、暗い表情とは全く違う。
「どうしたんだ」
続々と村人が集まると、長老のような老人が前に出て。
「冒険者様! ありがとうございます」
いきなりお礼を言ってきた。
どうやら、僕たちは村を占領していた魔族を退治したらしい。
長老は続けて
「奴らは一か月ほど前に突然来て、村を占領したのです。そのあと、エクアドルから冒険者がくると、昨夜のように、泊まりに来た旅人を……」
「襲っていたのですか」
苦渋の表情でうなずいた。
「でも、何のために……」
「わかりません」
村人は、本当にわからないようだ。
一か月前といえば、北の関所を突破したころだ。来られては、困ることがあるのだろうか。
するとゴンゾーが
「この前の森の魔道士といい、俺たちのことを警戒しているではないのか」
僕もうなずいて
「魔導士が“侮っていた”と言ってすぐに逃げた。ということは、僕たちを試していたような気もするけど」
「俺もそう思っていた。実際に戦って相手の力量を探り、あわよくば倒す。威力偵察ってやつだな」
「あと一つ気になることが……」
「なんだ」
ゴンゾーが聞く.
「この宿でエクアドルの冒険者がかなり、やられたらしいけど。ここで死んだなら聖堂に戻って、ここの様子がエクアドルに伝わるはずだけど、その情報がない。ということは、聖堂に戻っていないのでは」
ゴンゾーは蒼白になり
「それは、本当に消される。つまり、アカウント自体が消されるということなのか」
「……多分」
僕は深刻な表情でうなずくと、ゴンゾーやミュールも黙っている、ミホロが震えながら
「ちょと、やばいのじゃない。万歳突撃、厳禁だよ! 」
みんなに緊張の表情が伺える。
ところで、そんなことができるのはゲームの主催者だけど、その主催者、運営ってガイア教ではないのたろうか……?
お気楽なゲームではなくなった。
真剣勝負だ。
◇
その後僕たちは、村人から食料などを分けてもらい出発した。
その際、村人に北の様子を聞くと、二十年前に北の国最大のローレシアに魔族が攻め込んで、大変なことになっているらしい。
それは、ポーが言っていた、ラ・ムーが復活した頃と合致する。
さらに、魔導師が言っていた熱水大墓とは。
スワンヒルへ導く碧玉が、物騒な場所を避けてほしいと、願うしかない。
お読みいただい、ありがたき幸せですm(_ _)mm




