3 追っ手
山岳地帯は続き、相変わらず地山が露出した山道や谷道を進む。
褐色の山間に深い谷があり、谷底のわずかな平地に小さな森がある。森に入ると、ところどころ廃屋があり人が住んでいた形跡はあるが、実際に人を見たことがない。
僕たちはその森の中の一本道を歩いていると薄い靄がかかり、木々の間が白く霞んで先が見えなくなる。
昼食をしながら休憩していると
「何者かに追われているようだ」
ミュールがつぶやくように言う。
僕も気になっていた ゴンゾーやミホロもうなずいている。
昼食のあと、出発しょうとしたが
「疲れたー」
ミホロがなかなか立とうとしない。
「そういえば、僕も体が重い」
見れば、ミュールやゴンゾーも顔には出さないが、結構疲れているようだ。
山の上から見渡したときの森は小さく、長くても一時間ほどで森を抜けられると思っていたが、半日ほど歩いていも森を抜けていない。
僕たちは重い体に鞭打って、再び出発する。
しばらく歩いて、木の幹に十字の傷を見つけ、僕は立ち止まった。
「どうしたの」
考え込む僕にミホロが聞く
「この木の傷、さっき僕が付けた傷なんだ」
「ということは、私達は同じところを歩いているの」
僕がうなずくと、後ろのミュールも
「私も、そんな気がしていた。どうも、森に入ってから違和感がある。疲れ方もひどい」
僕達は立ち止まって周りを注意深く見渡した。
森は薄い霧で、奥の方は白く先が見えない。
すると、ミホロが急にうつろな表情になり
「ねえ、休まない……」
と言うやいなや、地面にへたり込んだ。
アバターの体は一日歩いてもほとんど疲れないのだが、僕も脚がフラフラだ
「何かのトラップにハマっているのかも……」
立っていられなく座り込んだ。ミュールとゴンゾーも耐えきれず、剣や斧を杖にしてなんとか立っている。
そのとき、森の先から、人の足音が近づいてくる。
ミュールとゴンゾーが剣を抜くが、片膝をつくのが精一杯で立つことができない。
森の木の間から、足元まであるローブを着た男が出てきた。
「まだ意識があるとは、さすがだな」
顔をフードで隠し、魔法杖を持った痩せた壮年の魔導師のようだ
座り込んでいる僕は見上げるように
「魔導師か。いったい、何のつもりだ」
魔導師はフードの陰から白い歯を見せて
「お前の持っている、剣の柄を渡してもらいたいのだ」
「なぜ……柄のことを知っている。どうする気だ……」
「何もせぬ。捨てるだけのことだ」
「きさま……ガイア教の……」
魔導師は笑みをこぼして、それには答えず。
「この一帯の霧に幻覚の妖術を仕掛けている。神経はマヒして動けないはずだ」
魔導師の罠は巧みだった。
強い幻覚ならすぐに気づくだろうが、森に入りじわじわと効いてくるので、気づいたときには奴の術中にハマっていたようだ。
こちらにレベルの高い魔導師がいればいいのだが、ミホロではまだまだだ。魔導師を希望する者は多いが、魔導師は知識が必要なので、レベルの高い魔導師になるのは難しい。その分、貴重な存在で高い戦闘力を持っている。
ちなみに、この魔導師もレベルは低い、それ以上に自分たちの魔法に対するレベルが低いだけだ。
魔導師が僕に近づくと、袋の中に手をのばす。
僕はなにもできず
「くっそー……こんなところで…」
死んで時間ロスになるのも辛いが、柄を取られるのは最悪だ。
これが無くなると、レイカの元へは行けなくなる。死ぬよりもつらい。
抵抗しようにも、体がしびれたようで動けない。
「観念するんだ。この霧の中では人間も動物も生きるものすべて動けない」
ミホロやミュールも苦々しい表情で見ているが、何もできない。
◇
その時、森の奥から木々の枝が折れる音がして、何かが強引に森の中から向かってくる気配がする。
魔導師も驚いて
「動物なのか……この霧の中では動物や魔獣でさえも動けないはず」
目前の草木が揺れた瞬間、その中から一人の女性剣士が僕と魔道士の間に飛び込んできた。
「なに! 」
驚いた魔道師は飛び避けたが、さらに後ろにもう一人出てきた。
見ると、二人とも短パンとミニスカートの女性剣士で、魔道師をはさんで対峙している。
しかも美人で……なぜか見覚えがある。
魔道師は、信じられない様子で。
「この、妖術の中でなぜ動ける! 」
二人の女剣士は問答無用で、容赦なく魔導師に交互に剣を打ち込んでいく。
「きさまら! 何物だ!」
女剣士は何も答えず、ひたすら剣を打ち込む。魔導師もわけがわからないようで防戦一方だ。僕達も思わぬ援護に驚いた。
最後に、女性剣士が魔法杖を折った瞬間、周囲の靄が消え体が軽くなると、ミュールとゴンゾーも立ち上がり、剣に手をかける。
僕も、くらくらする頭を抑えるが、もうこれで魔導士の運命は尽きた。
すぐに、ミュールが魔道士を抑え込み
「貴様、なぜ私たちを狙う」
魔術師は、不敵に笑いながら
「簡単に言うと思っているのか。これで、貴様らともども」
魔道士の手の中で赤い魔石が点滅する、ミュールが蒼白な表情で
「こいつ自爆する気だ! 逃げろ!」
僕たちは逃げようとしたが、足に紐のような物が絡まって、こけてしまう。
「金縛りの妖術だ、貴様らは私もろとも死ぬのだ! 」
そのとき、助けてくれた女性剣士の一人が、飛び込んで魔術師を抱えて森の奥に走り出す
「貴様! なぜ先程から、妖術が効かない! 貴様も死ぬぞ」
担がれた、魔術師は叫びながら、女性剣士と森の奥に消えていった。
次の瞬間、大爆発が起こる。
鼓膜が破れそうな爆音と爆風とともに木々の破片が飛散してきた、自分たちもふきとばされそうで地面に這いつくばる。
「凄まじい! そばにいたら全滅だった……」
僕は蒼白で、他のみんなも絶句している。
ただ、助かった安堵以上に、先の娘は僕たちを身を挺して助けてくれた。
だれか知らないが、やりきれない思いだった。
助けてくれた女性剣士のステータスは見えなかったので、モブキャラのようだ。ということは、死んだら、ほんとうに死んでしまう。
「あの女私したちを助けるため……」
ミホロが涙声で言う。
僕は申し訳なく、もう一人の娘に振り返ると、仲間が死んだのに平気な顔で微笑んでいる。
「君たちは……」
その娘は笑っているだけ、口がきけないのだろうか。それに、やはりその露出の多い女剣士のコスチューム、見覚えがある。
とりあえず、亡くなった人の遺品だけでもと思い、僕たちは爆発のあった場所に向かった。
木々がなぎ倒され空き地のようになっていて、今更ながら巻き込まれたら確実に死んでいた。
よく見ると、その爆発箇所の中央で、何者かが屈んでいる……
僕たちは慎重に近づくと、灰色のローブをまとった小柄な人だ。
「あ…あーー……バ…バラバラだ」
聞き覚えのある声、しかも吃音!
ミュールたちが剣を抜くが、僕は制して
「お前は……もしかして……もしかして! 」
その何者かは、落ちている手足のようなものを持って立ち上がる。
見覚えのある顔、めちゃくちゃ見覚えのある顔!
「やっ……やあ、か……かずや」
「三平太! 」
僕は走り寄った。
ミュール達も寄ってくると、ミホロが
「この人知り合いなの」
「ああ、同じクラスの三平太だ。どうして、ここに」
「そのー……白鳥さんに…言われて」
「ひょっとして、助っ人って! 三平太のことか」
「ええ……そうかも」
それで、この女剣士は
「ぼくの……人形……」
すると、ミュールが後ろから
「もしかして、これは人形に妖術をかけて人間のように使役する傀儡。そうか、それで精神魔術が効かなかったのか」
三平太は
「み……皆出発したあと急いで追いかけたけど、間に合わなくて、……そしたら、へんな男が追っていたので…しばらく、様子を……みてた」
「そうか。ありがとう、三平太」
僕が一番信頼できる仲間だ、麗華も粋な計らいをしてくれる。
「それで、この女の子は、あのフィギアか」
「ああ、和也が好きな」
……それは、言うな!
すぐにミホロが食いついてきた。
「それで、やたらスカートがみじかいわけね」
ミホロが白い目で僕をみくだす。ミュールとゴンゾーも呆れているようだ。
「ええ! ち……ちがう、こともないことも、ないけど」
ぼくがしどろもどろになっていると、ミホロは「はぁー」とため息をついたあと。
「まあ、カズヤの変態は慣れたし。でも、傀儡ってすごいね、この世界にはほとんどいないよ。それに強いし、カズヤも頼もしい友達がいるじゃない。ボッチと思ってたけど」
おいおい、ボッチはあるいみ僕のステータスのつもりだぞ、あんまりうれしくないけど。でも、頼もしいし、信頼できる奴だ。
僕たちは一緒に、壊れた三平太の傀儡の人形のパーツを集めた。
それを、三平太は自分の体より大きな箱の背負籠に入れ込むが、なんだかバラバラ死体を詰め込んでいるみたいだ。
さらに、もうひとりの女性剣士の妖術も解くと、マネキン人形みたいになり、体をグニャグニャ曲げて籠に詰め込んだ。足と手と胴体と顔が重なり合って、人形とは思っても結構リアルなので、気持ちわるい。
◇
その後、僕たちは三平太を加えた五人で、森を抜けていった。
道中、ミュールが
「そいえば、出発の前にポー殿に占星術で我らのことを占ってもらったのだが。七人の戦士が、レイカ姫の元に集うと出たそうだ。もしかしたら、三平太くんもその一人かもな」
七人の戦士なんて僕は聞いていなかった。
するとミホロも
「そうそう、そんなこと言ってた。三平太さんも頼もしいし、すんごい人が集まりそうだね。私と、ゴンゾーとミュールさん、一応カズヤで五人。だとしたら、あと二人が仲間になるのだね。ワクワクするね」
七人の戦士なんて、荒野の七人、七人の侍、最近では七つの……とか、なんかカッコイィぞ。でも、なんで僕だけ一応なのだ。
三平太に経緯を聞くと、父の逮捕騒動の頃に麗華が三平太をストレインワールドのゲームに誘い、僕を助けてほしいと、お願いしたらしい。
ここでは、あまり詳しく聞けないが、それなら最初から言ってくれればと思ったが。不穏な動きもあり、三平太にも危害が及ぶ可能性があるので、ひそかに進めていたのだろう。
「し……しらとりさん…和也のこと……とても、心配してた。それと、リアルのことは、心配するな……と伝えてと」
うれしいことを言ってくれるではないか。これで元気百倍だ!
ちなみに、三平太の職業は「技工士」。魔法使いの一種だが、白魔法、黒魔法とは全く異なる魔法で、直接相手に対する魔法ではなく、傀儡のように物に術をかけるのだ。
この世界ではかなり珍しいタイプで、傀儡の場合精神系魔法は全く効かない。盾にもなるし、揺動や、最初に突破口を開く捨て身の攻撃もできる。その気になれば数百の傀儡を操って、一人で一軍隊の働きをすることも出来るらしい。さらに、トラップなどの仕掛けにも精通している。
エクアドルの王宮騎士団が、喉から手が出るほど欲しがっていると聞いたことがある。
さらに、三平太は技工士なので、武器や防具などの修理をしてくれるので、めちゃくちゃ助かる。
ゴンゾーの斧にブースターをつけてくれたり、あの碧玉の柄を僕のレイピアに付けたりしてくれた。、
安物の剣だが、柄が違うだけで重厚な剣に見えてくる。
しかし、追っ手を差し向けるとは……
この先、油断ならない。
お読みいただき、感謝でございますm(_ _)m




