7. 月光
僕は、レイカの言うオルフェス山の洞窟に、ミホロとゴンゾーと共に来た。
王都から歩いて半日ほどの所に、小さな岩の山が密集した所がある。その麓の洞窟の前に、粗末な干し物や、井戸、小さな鶏小屋などがあり、人の住んでいる気配がする。
暗い洞窟に向かって声をかけると、奥から繕いだらけでヨレヨレのローブを着た、浮浪者のような人が出てきた。
伸ばし放題の汚れた髪、色白でやせ細った髭のない面長の顔で、女性か男性か一見するとわからないが、背が高く体つきから男のようだ。
その男は、うつろな瞳で何も言わないので、こちらから
「現世のレイカに言われてきました、カズヤと言います。あなたが、ポーさんですか」
男はめんどくさそうに。
「そうですか、この前も同じことを言う若者が来ました」
「ええ! 」
僕は驚いて、一瞬詰まったあと
「ハヤセJrでは」
他に考えられないが、ポーは何も言わない。
返事くらいしてくれてもいいのにと思ったが、仕方なく次の質問をした
「あのー。レイカ姫とは、どういったご関係で」
「今は、関係ありません」
かなりそっけない。
「そのー……僕は、レイカ姫の召喚獣なのです」
すると、意外にも
「先般来た者も同じことを言っていました」
まさかだろ!
確かに、ハヤセJrはこのゲームをしているが、召喚獣だとは……そういえば、レイカは僕が召喚される以前に、他に召喚獣がいたようなことも言っていた。
絶句している僕に
「レイカ姫は、天界のスワンヒルにいると、言うのでしょ」
「そ…そうですが」
ハヤセJrに先を越されてしまったようだ。奴もレイカに言われて来たのだろうが、これ以上話せる雰囲気ではなくなった。
すると、ポーが
「それで、君はどうしようと言うのです」
「えっと……そこに、行こうかと思っているのです」
ポーは、嘲るように
「どうやって行くのです。具体的な場所はわかりせん、道もわかりませんよ」
……僕にそれを聞くかぁー、逆に教えてほしいくらいなのに。
「もう、いいですか。私は異世界の人とは話したくないのです」
異世界人に恨みでもあるのだろうか、さっさと追い返したい感じだ。
すると、横からミホロが
「あのー、カズヤはレイカ姫様を、逆召喚したのですよ」
それは少し、気になったようで
「ほほーーう。にわかに信じられませんが、それなら、そこにある剣を抜いてみてください。レイカ姫が戻ってくるための道標として突き刺した剣です。もし、抜くことができれば、レイカ姫の場所へ導いてくれるでしょう。ちなみに、この前の男は抜けずに帰っていきましたが」
これはよくある王道パターン。だれも抜けない剣を主人公が抜いて、運命の勇者となり、レイカとのハッピーエンドまっしぐら!
僕は、剣の柄を握って、力を入れる
「うううーー! 」
びくともしない。そこにミホロが
「私もやってみたーい! いちど、このパターンを経験してみたかったんだ」
遊び半分で引っ張るが、ダメだった。
さらに、ゴンゾーもチャレンジする。自分がレイカと運命の人だと、ひそかに思っているふしもある。
真剣に抜こうとしたが………やはりダメで、めずらしく、かなり落胆している。
僕は、もう一度
「このーーー! 」
思いっきり引っ張る! 引っ張る! 引っ張るーーーー
スポッ!
と音がして、握った剣の柄が軽くなり思わず後ろに背中から倒れた。
両手は万歳状態になったが、片手に剣の柄をにぎっている。
「抜けたーー! 」
へんな音だったけど、抜けたのではないのか!
やっぱり、僕は主人公だ。でも、やけに軽く、恐る恐る手元をみると……
ブレードがないーーー!
「やっ…やってしまったー」
僕は、柄の所だけ抜き取ってしまい、ブレードはつき刺さったまま。
僕は真っ青になった。
ミホロが呆れた顔で
「壊しちゃったじゃない! どうするのカズヤ」
僕は、あわてて、つけようとしたが付かない。紐でくくるものかっこ悪いし……
「姫様の、大事な聖剣の柄を壊すなんて、なんてことするのよ!」
ミホロが僕を責める
「すみません……すみません! 」
僕はポーに平謝りだ。
ただ、ポーは驚いた表情のあと
「あなたは、レイカ姫を召喚させたそうですね」
「はい、たまたまですが。そのあと、ミホロの魔石をかりてやってみたのですけど、全く反応なしで……」
「召喚は、モンスターを強い力で隷属させるか、お互いが強い絆で結ばれていないとできません。あなたはレイカ姫のところに召喚獣として、召されているとのことですが。逆にレイカ姫を召喚したということは、おそらく、レイカ姫との絆が深いのだと思います」
急に態度が変わり、話を始めたポーは僕のそばに来ると
「聖剣プレアデスとこの柄は強い妖力で接合し、はずれることはありません。それがはずれるとは、何か意味するものがあるのでしょう。この柄には碧玉が埋め込まれ、月の光に照らすとレイカ姫のいる場所を指し示します。しかも、これは絆の深いカズヤ君にしか反応しないでしょう」
レイカと絆が深いと言われると、なにか嬉しくなってくる。
「汚いところですが、よければ泊まっていってください。ぜひ、レイカ姫の今を私に教えて下さい」
◇
薄暗い洞窟の中で、粗末な囲炉裏を囲んで夜更けまで話しをした。
リアルの麗華の話はできないので、僕はスワンヒルのレイカの話をすると、ポーもエクアドルでのレイカの話しをしてくれた。
ゴンゾーも言っていたスカートめくりの話は、現世の麗華からは想像がつかない。僕は後学のため、ゴンゾーにレイカのパンツの趣味と傾向を聞くと……ミホロに話しを寸断された。
今度、男だけの時に聞いてやる!
一方、僕がレイカのホーリ・スラッシュを見た話をすると、ポーは感極まったようで
「姫様がホーリースラッシュを! さすが、姫様! ………成し遂げられるとは」
涙を、ポロポロとながしていた。
さらに、僕たちが驚いたのは
「ガイア教が崇めているラ・ムーアは、実は魔神なのです。ガイア教は異世界人を導き、洗礼と言って異世界人のアイテムの中に、禁止されている人の心を操る魔道具を潜ませるようです。すでに多くの異世界人が洗脳され、ガイア教の手先となり、ゆくゆくはその異世界にも侵攻するつもりでしょう」
すぐには信じられないが、ゴンゾーはうすうす気づいていたようで、腕を組んで沈黙している。
ポーは真剣な表情で
「もう時間がないのです。ラ・ムーアが復活すると、エクアドルは壊滅します。ひいては、他の世界も危機です。なんとかそれまでにレイカ姫を連れ戻して来てもらえませんか。カズヤ君の話しだと、レイカ姫には助けが必要です! 」
「ぼくが……」
「そうです、おそらくカズヤ君しかいません」
「でも、今の僕たちでは無理では……」
僕が考え込んでいると、ミホロがうれしそうに
「行こうよ! 冒険だよ! せっかくのRPGゲームだし、冒険しないでなにするの。ゴンゾーみたいにスローライフはやだよ」
ゴンゾーは、引き合いに出され不服なようで
「別に俺は、スローライフをしにきているわけじゃない。ただ、天界とはおもしろい。一度行ってみたいとは思っていた」
珍しく前向きな発言、レイカが絡むと人が変わるのだ。
僕はみんなの話しに押され
「こうなったら、行くしかないでしょ! 」
流れもあって言ってしまった。
しかし、急がないとエクアドルのこともあるが、麗華を、早瀬を始め他の男どもに取られそうな焦りもある。
まあ、麗華が僕になびくのは、道を歩いていて宇宙から降ってくる隕石に当たるくらいの、天文学的な確率だろうが。この前の告白で、わずかな望みがないとはいえない。
出来るだけ早く準備して、見切り発車でも行くしかない。
最後にポーは
「ガイア教に知られるとまずいので、ひそかに出立してください」
僕たちはうなずいた。
◇
話が終わったあと、外に出ると夜空に月が昇っている。
月光に碧玉の柄をかざすと、一筋の光が北の方角の道を示していた。試しに、他の者がかざしても光はでない。
しかも、これまでのように漠然と北の方角を指すのではなく、具体的な道の方向を示している。
まるで、僕を導くように。
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