表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/100

4.ストレイン・ワールド

 『ストレイン・ワールド(迷走世界)』


 最近普及したヘッドギアをつけて、仮想世界を実体感覚でフィールドをめぐる、VRMMOゲーム。


 麗華にスマホで召喚される半年ほど前、同じように広告が入ってきて、おためし版ということで始めたのだった。

 このゲームは課金要素がなく、純粋にプレイヤ―のスキル、やり込み度だけで進めていくもので。個人の自作ゲームということだが、クオリティは半端じゃない。


 ヨーロッパの中世を思わせる街並みは、レンガや壁の凹凸、それらの汚れ具合まで詳細に表現され。背景の木の葉一枚のゆらぎ、人や動物の髪の毛一本から再現したグラフィックは現実世界と全く変わらない。

 どころか、ここが現実世界かと勘違いするくらいだ。


 ただし、個人制作のためか、(おおやけ)の広告は一切なく、SNSでもゲームの話題は全く聞かない。だれが作成しているか定かではなく、怪しい気もするが、似たようなゲームが跋扈(ばっこ)する時代。このような個人配信のゲームも多く、単にマイナーなゲームなのだろう。


 ということで、お試しと思って参加したものの、結構ハマってしまった。



◇ 十二番街の酒場にて


 大衆食堂のような酒場の隅のテーブルで、向かいに座って僕に語りかけてきたのは、先の尖ったウイッチ・ハットを被り、装飾のない生木の魔法杖を持った、かけ出し魔導士の少女ミホロ。


「カズヤ、ヘッドギァや触媒なしでいきなり召喚されるなんて、信じられないね」

 カズヤとは僕のプレィネイム

 本名は中川和也(カズヤ)、ゲーム内では安直(あんちょく)にカズヤと名乗っている。


 いちごジュースを飲みながら話すミホロ。

 その横にはごつい体で腰に斧を下げている、格闘士のゴンゾーが、エールをがぶ飲みしている。


 ちなみに、リアルのミホロは不登校の中学生、ゴンゾーは三十代、結婚経験なしで無職…(いわゆるニート)のおじさんらしい。

 僕達三人はパーティーを組んで一ヶ月ほどで、このエクアドル王国の都の下町で、しょぼいクエストをこなして暮らしている。


僕は真剣に話を聞いてくれているミホロに

「しかも召喚獣でだよ。いったい、どうなっているのか。このゲームをしている最中でも呼び出しを食らうんだ」

「だったら、今、この瞬間にも」

「ないとは言えないけど。最近、呼ばれるタイミングが読めてきたんだ、多分今は大丈夫」


 この一ヶ月の間、毎日のように麗華に呼び出されているためか、最近呼び出されるパターンがわかってきた。今の麗華は塾か稽古ごとに行っている時間みたいで、呼ばれるのはたいてい、寝る直前のようだ。


「ところで、スワンヒルって聞いたことがあるだろ」

 ミホロは少し考えながら

「幻のフィールド、このゲームの最終到達点ではないかと言われている天界の桃源郷のこと」


「実は、そこに呼ばれているんだ」

 ミホロは丸い瞳をパチクリし、ゴンゾーは思わずグラスの手をとめた


 僕は、二人を交互に見据えたあと

「それでさあ、王都精鋭の流星騎士団が、天界へ通じる天啓(てんけい)山脈へ入るための魔物が守る関所を攻めるクエストに参加者を募集しているんだ。その、クエストに参加してみようと思うんだ」


「まさか、スワンヒルに行くつもり! 」

 呆れた表情のミホロに僕が頷くと、ゴンゾーも苦笑(にがわら)いしながら。


「王都が主催している毎年恒例の行事のようなものだ。やめとけ、俺達のレベルでは、荷物運び程度しかできない。しかも毎回、全滅して聖堂で蘇生している。そのとき王都から出る報酬目当てで行くやつもいるが、かなり過酷なクエストだ」


 ゴンゾーは長くこのゲームを続けているようで、そういった事情も知っている。

 一方、初心者のミホロは震えて、

「そうなの……。やめようよ、私まだレベル8だし」

 ゴンゾーも続けて


「そうだな、流星騎士団はレベル60 以上のマスタークラス以上だ、それが二十人程度集まっても歯が立たない。関所の守護神のスコルピオンが最後に放つ毒霧で死ぬのは、かなり辛い」


 確かに無謀だろう、僕もレベル15だ。

 でも参加条件は二人以上のパーティなので、ミホロかゴンゾーが一緒でないと参加できない。とはいえ無理強(むりじ)いもできないので


「わかった。でも、今は何も手がかりがないんだ、無理は言わないけど、考えてくれないかな」

 ミホロはすまなそうに俯き、ゴンゾーはエールをおかわりして、何も答えなかった。


 酒場を出ると夕暮れ、見上げると王宮の明かりが鮮やかだ。

 通りは露店が立ち並び、毎日が祭りのように賑わっている。

 しかし、マイナーなゲームなのに人が多い……いや多すぎる。ログイン数を見ると、この街だけでも数万人以上に上っていた。 


 普通なら超人気ゲームとして大々的に話題になるだろうに……


読んでいただきありがとうございます。

※よろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ