4-3 死闘!北の関所(凄戦)
北の関所は、山脈の峠を塞ぐ壁のように、堅硬な城壁が造られ、スコルピオンが守っている。
僕たちは城壁の門の前に整列し、示し合わせた隊列を組むと、口数が少なくなり、息を飲んでいる。
皆、生きて帰れないことを覚悟の上なのだ。
シンド・ボルグが、最前列に立つと。
「みんな、心してかかれ! 」
兵士を鼓舞すると、門がゆっくりと開き、隊列を組んで中に入っていく。
中は野球場ほどの闘技場のような広い空間で、地盤はレイカと行った砂漠のピラミッドの砂地と似ている。この地面の中にスコルピオンがいるのだ。ミノタウロスならば、さほど恐怖心はないけど、今の生身の僕では処刑台に立たされた気分だ。
ミホロは僕の背中の服を必死で握って震えている
(ごめん、怖い思いをさせて)
今更だけど、連れてくるのではなかったと思った。
僕たちは、円形の闘技場の壁にそうように広がって待機した。
スコルピオンは中央に出現するので、全周囲から攻撃する戦法で、正面は陽動、両脇にシンド・ボルグとミュールの部隊が別れて挟撃する形だ。
しばらくすると、地響きがして砂地盤が渦を巻まいて蟻地獄のように、中心に流れこんで窪んでいく、そこからスコルピオンが出てくるはずだ。同時に、入ってきた門が閉まりスコルピオンを倒さないかぎり、出ることはできない。
ただ、事態は思わぬ状況に陥った。
渦は闘技場の真ん中ではなく、正面の主戦力側に中心があるのだ。
「みんな散れ! 」
シンド・ボルグがあわてて正面に集中している兵に叫ぶ!
蟻地獄は壁側で広がり、壁際に待機している正面の兵隊を一気に飲み込んだ。
他の兵も壁伝いに両脇に逃げようとしているが、次々と砂の漏斗に飲み込まれてしまう。僕たちは違う側面だったので反対側の壁際に逃げたが、戦闘が始まった直後に三分の一の戦力が失われた。しかも、部隊は壁際にばらばらに分散してしまう。
すぐに砂の中から、あのおぞましいサソリの化物、スコルピオンが這い上がってきた。地表に出たスコルピオンは、一気に片方の部隊に襲い掛かる。兵隊は逃げている途中になので、全く反撃できない。
シンド・ボルグとミュールは、僕たちの側に来て、奴の背後から攻撃をしかけるが、もう遅い。
こうなっては作戦もあったものではない、出鼻をくじかれ、統率もなくなっている。僕は逃げながら
(これまで何度、北の関所で戦ってきたのだ。このような状況は想定できたのではないのか! )
と言いたくなる。流星騎士団は学習していないのか!
それとも、このような状況を想定すらできないのか。
レイカと召喚獣の僕なら三秒で倒せるのに、不甲斐ない騎士団に歯がみした。
もうだめだ! これでレイカへの道は閉ざされてしまう。
この北の関所の討伐は、かなり困難だとはわかっているけど、レイカへ至る唯一の道だ。このまま、麗華を早瀬に奪われるのではないか、焦りと、絶望で涙が出てきそうだ。
それでも僕は気を取り直し、指示どおり後ろで兵士のバックアップをした。当然、僕が前に出ても何もできない。ミホロやゴンゾーも、負傷した兵の回復と武器の補給を行った。
それでも、多少体制を整え、魔導師がボンデージ(緊縛)系の魔法で、少し動きを止めたところに、一撃離脱でアタッカーが攻撃をしかける。
しかし戦力はすでに三分の一、いや四分の一で、ほとんど効いていない。
スコルピオンがトゲトゲの脚を振り回しただけで、数人が吹っ飛ぶ。見るまに反対側の部隊が全滅すると、今度はこちら側に頭を翻す。
「もうだめー!」
涙声で叫ぶミホロ。シンド・ボルグやミュールも果敢に応戦するが、全く歯が立たず、次第に押されてくる。僕たちは壁際に押しやられ、十人程度になってしまった。
前にシンド・ボルグとミュール、ほか数人の剣士が剣や鉾を構えて、僕たちをかばうように立っている。一応、騎士らしく僕たちを守ってくれている形だ。
しかし、迫るスコルピオンには全く刃が立たないだろう。覚悟を決めなくていけない。僕はミホロと震えてうずくまり、死を待つしかない。
そこに、ゴンゾーが斧をもって前に出て、シンド・ボルグの横に立った。
シンド・ボルグは、笑みをうかべ。
「ゴンゾー、久しぶりにやらないか。レイカ姫を追い詰めた連携技を」
「あー、姫に叩き込まれた、定点攻撃の基本だな」
シンド・ボルグとゴンゾーは掛け声もなく、同時に二手に分かれて走り出す。まさに、阿吽の呼吸で、スコルピオンの両脇に回り込む見事な連携だ。
でも多分、スカートめくりの連携技だろう……
しかし、スコルピオンは、どちらにも向けず。シンド・ボルグの剣とゴンゾーの斧が、スコルピオンの甲羅の隙間にめり込み、スコルピオンは振り払おうと起き上がり、あの六本の足を蠢かすおぞましい腹をむき出しにする。ミノタウロスの僕でも、なかなかできなかったスコルピオンを立たせたのは、さすがだ。
間髪を入れず、弱点といえる腹にミュールや他の兵が突っ込んでいくが、攻撃力が弱く、なによりスピードがない。あのレイカの動きとくらべたら、スロモーションだ。
たどりつくまでに、数人が倒され、ミュールもなんとか一撃を与えたが、やっと剣先が届いただけで弾き飛ばされ、シンド・ボルグとゴンゾーは、スコルピオンのハサミで即死だった。
もう、部隊はバラバラだ。付近の倒れた兵士を、ミホロは真っ青な顔で手当をしている。
「こんなの……無茶だよ……もう。死ぬわ」
泣きながら、ヒール魔法を使っているが、ほとんど手遅れだ。こうなっては、僕らも万歳突撃をして玉砕するしかない。
すると、スコルピオンの動きが止まり、しっぽが震えだす
「まずい、毒霧がでる!」
闘技場全体に、止めの毒霧がかかってきた。
「みんな、逃げろ! 」
と言っても逃げ場はないが
「ミホロ、こい! 」
僕はミホロの手を引いて、隅に置いてある三本の棒を立てた。
毒霧を想定して、あらかじめ先端を括っていたので三脚の状態になり、毒霧は地面から2mほどの高さまでしか影響はないので、その上に顔を出せば助かるからだ。
「のぼって! 」
ミホロと僕が登ると。怪我をしたミュールがそばに来た。僕たちを罵ったこともあり、うつむいて戻ろうとするが
「きて! 」
僕は手を取ってミュールも引っ張り上げた。次の瞬間、紫の毒霧が周囲を覆うが、僕とミホロとミュールは、顔を霧の上に出して凌いでいる。すると、ミュールが
「………すまない」
申し訳なさそうに言うが。実は、今の僕は……ムフフ状態なのだ。ミホロと、あのミュール様に抱きつかれ、これはプチハーレムではないか。
下からミホロとミュールを支えて、しかも頭がミュールのあの大きな胸に当たっているのだ。ミュールが三脚から落ちそうになり、僕にさらに抱きついてくる。
「苦しいか。本当にすまない」
申し訳けなさそうに言うけど。
(とんでもないですーーー!)
心の声は、感謝の言葉でいっぱいだ。
本来の目的を忘れ、ここで死んでも構わないと思ってデレっとしていると。そんな僕に気付いたミホロは、怪訝な表情を向けている。とにかく、ミホロはいらんことにすぐ気づくのだ。
◇
しばらくして、霧が晴れる。
ただ、スコルピオンは健在だ。しかも、ほぼノーダメ。地面に降り立つと、ミホロが
「言いたいことはあるけど、なんとか生き延びられたのは、たいしたものだわ。それで、このあとは」
「………」
僕は、沈黙するしかない。スコルピオンの前に、生き残ったのは三人だけ、
「ちょっと、何も考えていないの! 起死回生の逆転。2019年のラグビー、ワールドカップで日本が勝てる見込みないオール・ホワイトを倒した劇的な勝利のようなカタルシスの定番、ジャイアント・キリングを! 」
ミホロがわめくが、日本が倒したのはアイルランドやスコットランドだろ。新型コロナのことを知らないとか、それに、オール・ホワイトってなんだ。とにかくミホロは時々とぼけたこと言う。しかし、今はそんなこと言っている場合ではない。
「そんなの、都合よくあるわけないよ」
「これじゃあ、死ぬのが少し伸びただけじゃない」
ミホロが泣きながら言う。ミュールは、怪我して走るもの辛そうだ。
「だって、どう見ても勝てないよ。ミュールさんだって怪我してるし」
僕たちは出口のない闘技場の中で、逃げ惑うしかなかった。いずれ、力尽きてスコルピオンのあの爪に引き裂かれるまで。
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