4-2 死闘!北の関所(出陣)
北の関所の討伐隊は、流星騎士団の精鋭二十名と、その他の補助員五十名ほどの編成で、僕とミホロ、そしてゴンゾーは、その補助員として参加した。
出発に際しては、壮行式が王宮内の広場で行われる。
初めて入った王宮の広場は、国立競技場を思わせる大きな式典場で、周囲を城壁で囲まれている。
広場には多くの兵士が左右に整列し、その真ん中を流星騎士団の精鋭が颯爽と進むが、僕らは広場に入ったところで止められた。
正面の大きな宮殿の壇上で激励に立ったのは王の代理の執政官で、今やガイア教の法王となったサグリンだ。
僕は、遠くからしか見えないが、初めて見る法王はかなり太って、心臓疾患になりそうな人だ。話は形だけで、重い体をよたよたと揺らせて、さっさと奥に下がってしまった。
ミホロが小声で
「このゲームで初めて偉い人を見たけど、なにあのメタボ。あれが法王だなんて、幻滅だわ」
確かに、このゲームのキャラ設定はセンスがない。ミホロは腕を組んで
「それに、仮の王のアッシュルムって、全く表に出ないらしくて、あの法王が実質のエクアドルの支配者みたいなものらしいよ」
それは、聞いたことがあるが、どうでもいいことなので聞き流した。
このあと、王都の目抜き通りを民衆の激励を受けながら行進する。周りには屋台が出て、花火も上がり、まさに毎年恒例のお祭りのようだ。
◇
部隊は王都を出て、北に向かう。
僕とゴンゾーは、荷物を積んだ馬車の手綱を引いて一日中歩いた。
ミホロは魔導士なので、魔石やポーションなどを、リュックいっぱいに詰め込んで背負っている。体より大きな巨大リュックで、まるでリュックが歩いているみたいだ。
リアルでは、とてもそこまでの体力はないが、アバターの体なので出来るのだろう。
一週間ほどすると、彼方に天啓山脈が見えてきた。緑の地平から突き出した灰色の岩峰の上に、白い砂糖まぶしたような峰々が、城壁のように地平線いっぱいに連なる爽快な景色だ。
ミホロは目を輝かせて
「私、リアルではあまり外に出たことないし。なにか、わくわくする」
「僕も最近、旅行に出たことないよ」
見たことのない植物や小動物、途中で立ち寄る村々では、珍しい食べ物や、民族衣装に目を奪われる。
僕もミホロもレベルが低いこともあり、こんなに遠くまで遠征に出たことはない。なんだか、本格的なRPGゲームの冒険世界といった感じだ。
山脈が近づくと、稜線が大きくV 字にえぐれている鞍部があり、そこに目指す北の関所がある。
天啓山脈の頂は頻繁に雲に覆われている。南のエクアドル側から吹く風が山肌にあたり、斜面を駆け上がる上昇気流とともに雲が発生し、雨が降るのだ。
雨は麓に広大な森を作り、水を涵養した山体は洪水を防ぐだけでなく、絶え間なく豊富で清い水を湧き出し、エクアドルに豊かな水の恵みをあたえている。
一方、山を越えた北の大地は、フェーン現象で湿り気を失った乾燥した風が吹き曝し、荒漠とした大地となる。
北の蛮族が山脈を超えて攻めてきたこともあったらしいが、その気持ちもわかる。でも、この恵みの違いによる国力の差は歴然だろう。
◇
関所を目前に、各チームが最後のテントを張った。
標高も高くなり夜は冷えるので、エールや酒も振る舞われ、この遠征で知り合い、仲間になった人達と、スコルピオン討伐の話で熱く盛り上がる。
野宿にも慣れてきたが、食事はゴンゾーがほとんどやってくれる。しかも、料理が旨いのだ。
今夜も特性たれで煮込んだボルシチ風の牛鍋は、周りの冒険者のメンバーにもふるまって高評だ。
そこに突然、厚手のガウンを着た流星騎士団の剣士がやってきた。
団長のシンド・ボルグ!
背後には副団長のミュールが、ハーフコートの普段着の姿で付いてきている。素足が露出し寒くないだろうかと思ってしまうが、皆その美脚に目が釘付けだ。
ちなみに、ミホロは膝までの貧乏くさい黒のローブで、魔女の○急便の少女みたいで、さすがに大人の魅力のミュールには敵わない。
しかし、流星騎士団の団長、副団長がこんな末端の天幕にくることはまずない。
僕とミホロは立ち上がり、直立不動で固まった。
シンドボルグは、僕たちを手で制して。
「いや、気楽にしたまえ」
すると、後ろのミュールが
「叔父上、どうしたのです。こんな素人の冒険者のところにわざわざ来るなど。しかも、そこの三人はレベル30にも達してないではないですか。はっきり言って足手まといです。ここで帰ってもらったほうがいいですよ」
いきなり、小馬鹿にするようなミュールの言葉に、僕とミホロは少しムッとした。
シンドボルグは苦笑いしながら
「そんなふうに言うものではない。せっかく我々の、遠征に志願して来ていただいたのだ」
「しかし、昨年も低レベルの冒険者に、連携を掻き乱されたではないですか」
何も僕達の前で言わなくても。
せっかくの美人で威厳あるミュール様なのに、その一言でなんだか人柄を察してしまう。
そういえば、ギルドに来たときも、どことなく偉そうだった。あんなにきれいな人なのにもったいない。
少し気圧されている僕達に、シンドボルグが
「ミュールは、隠し事とかできない真っ直ぐな性格なのだ。気にしないでくれ」
確かに剣士らしい愚直さで、根は悪い女ではないのだろう……決して顔で判断しているのではない。念のため。
一方ミュールは納得いかないようで、黙ってしまった。
するとシンドボルグは、隅で鍋の番をしているゴンゾーの前に行き
「久しぶりだな、ゴンゾー」
僕とミホロは再び顔を見合わせ
「えええ! ゴンゾーは、かのシンド・ボルグ団長とお知り合いなのですか! 」
シンドボルグは僕たちに微笑んで、うなずいた後ゴンゾーに向かい
「まさか、また剣を取るとは思わなかった」
ゴンゾーはボルシチの鍋をかき混ぜながら
「勘違いしないでくれ。俺は荷物運びと飯炊きだ」
そこに、ミュールが割って入るように
「この方が、伯父上が唯一、敵わなかった御仁ですか! この人のレベルは20ですよ」
ミュールの喚くような言葉にゴンゾーは、小娘が何を言っている、と言った調子で
「かつて、レイカ姫はレベル5でレベル30の相手を一撃で倒した。ロングソードに対して姫は果物ナイフだった。しかも相手は二人だ」
ゴンゾーの話に、ミュールは何を馬鹿なことを、と言った表情だ。
レベル5なんて超初心者だ。どう見たって、敵うわけがない。僕もミホロも信じられない。
するとシンドボルグが話題をかえ
「しかし、お前が異世界人とチームを組むなんて信じられないな。あれほど、異世界人を毛嫌いしていたのに」
「ええ! そうなの」
ミホロが意外だと言った感じで言うと、シンドボルグは少し笑み浮かべながら
「こいつは、一度アカウントを取り消されているんだ。異世界人やガイア教と大喧嘩してな」
そんなこと、聞いたことがなかった。しかも、ガイア教とまで。
ゴンゾーは、リアルではニートだと言っていたけど、シンドボルグと知り合いで、さらにレイカを知っているということは。
異世界人と思っていたけど、このエクアドルの人間なのか。うう、訳わかんねー!
ゴンゾーは、迷惑そうに
「もう、その話はやめてくれ」
「そうだな、すまん、過去のことだ。皆も聞かないでやってくれ、思わず口が滑ってしまった」
ところで、先程から納得いかないミュールさん
「しかし、叔父上が敵わないなど信じられません。一度その技を見て見たいものです」
シンドボルグは笑いながら
「ひさしぶりに、みせてやってくれないか。ゴンゾーの技を」
「……まあ、しかたない。こんなガキの相手をするのは正直つまらないが」
うんざりしながら、立ち上がるゴンゾー
さすがのミュールもシンドボルグがそこまで言うので緊張し、僕も周りの者達も、どんな剣技が飛び出すのか固唾を飲んで注目した。
次の瞬間、ミュールとミホロのスカートがひらりとめくりあがる!
今は戦闘服ではないので、二人とも見せパンではなく、ミュールは純白、ミホロはクマさんの、マジパン!
周囲の冒険者達も、目が釘付けになった。
「また、つまらぬものを、めくってしまった…… 」
そう言って、ため息をついたゴンゾーだが
「なにすんの! 」
「コノ変態! それに、つまらぬものって何よ! 」
ゴンゾーは、ミュールとミホロに叩きのめされた。
これは、過酷な戦場に向かう兵士にとっての、ひとときの清涼剤、死ぬ前のエンドルフィンだ………と、周りの男達は思った
しかし、ミュールは真っ赤になってカンカンに怒っている
「なんですか叔父上、この変態男は!! 」
「ハハハ、こいつはレイカ姫のスカートめくり最高記録保持者だ。だれも、敵わない」
ミホロは、唖然として
「スカートめくり! 」
ミュールも力が抜けている。
シンドボルグは笑いながら
「まだ、腕は衰えていないようだな。まあ、いいものを見せてもらった」
「叔父上まで、なんですか! 」
ミュールが苦言を言う。ゴンゾーは
「しかし、また姫と勝負したいものだ。姫に比べればお前らの動きは、ほんとにガキンチョだ」
ミュールをさらに怒らせてしまう、ゴンゾーだった。
この先思いやられる……
貴重なお時間の中、お読みいただき感謝です。m(_ _)m




