12 現世(うつしよ)
スワン・ヒルの自然は美しい。どこまでも続く緑の丘に、木漏れ日の森、遠くに青い山脈が連なり、鏡のような湖、せせらぐ川、どこをとっても絵になる風景だ。
レイカは、スワンヒルを茜色に染め上げる夕陽を眺めながら
「ここで二百年が過ぎた。エクアドルでは、約二十年が経ったことになる。エクアドル王国はどうなっているのでしょう。父や母は………」
そのことを思うと胸が詰まってくるが、知るすべはない。
「はやく、戻りたい……」
いつも強気に振る舞うレイカだが、ごくまれに見せるレイカのあやかない姿は、見た目は美しく、頑強で、威厳ある宮殿のようでも、その心の土台は堅強な支柱に支えられていないことを物語っている。
顔を伏せて嘆くレイカに、ルルルは何も言えない。
◇
ある日、ルルルは異世界から聖堂に落ちてきたへッドギアなどのゲーム機器を見せた。
「これは、異世界を体験できるゲーム機器です。これを使って異世界に行って、召喚獣を呼び寄せてはどうでしょう。マナを使っての召喚は、ゴールドでの召喚と違い、相手との絆でより強くなります。そういった相手を、異世界で探して来ては、いかがでしょう」
攻略が進まず時間がいたずらに過ぎて、焦り、落ち込んでいるレイカを、励まそうという思いもあるようだ。
「異世界へ……」
異世界と聞いて訝るレイカに、ルルルは
「向こうからみればこちらは異世界。こちらかれ見れば、向こうの世界は異世界なのです」
「そういえば、以前ポーが言ってた」
『現世と幻想、リアルとバーチャル、それらを明確に区別することはできない。それは、仕組みや力のベクトルが異なっても現象は同じ、重力と遠心力のように、現世と幻想世界も、そこに集う者に違いは気づかない』……と
ルルルは微笑んで
「そうかもしれませんね。どんな異世界か分かりませんが、そこで剣姫に共感、あるいは慕って、一緒に戦ってくれる人がいるかもしれません。さらには、召喚に応じてくれる魔獣や魔道士などがいるかもしれません」
「そうね、こちらに来る異世界人相手の世界を、知っておくのも必要かもね、わかった、行ってみる。でもなにか、王子様さがしみたい」
「ふざけないでください。召喚獣さがしです」
「はいはい」
レイカは舌を出して笑った。
◇
ヘッドギアを被ると、眼前に見慣れない部屋が現れた。
四角い壁に囲まれ、机に椅子、ベッドが配置された狭い部屋で、棚には、本やぬいぐるみが並べられ、パソコンが置かれている。レイカには、見たことがないものばかりだ。しかも、バーチャルなはずが、全て実体感があり、現実世界にいるようだ。
そこに、機械的なアナウンスが流れてくる。
『始める前に、このゲームの世界に慣れてもらうため、チュートリアルを始めます』
「チュートリアル……」
アナウンスの声は続けて
『あなたの設定は、今のプレイヤーの状況を反映したものになります』
しばらくして、眼前に字幕が現れる。
プレイヤー設定:
・女子高生
・家庭は大富豪の御令嬢
・海外からの帰国子女
さらに、住所や家族構成などが示されたあと
『それでは、しばらく自由に町の中を回ってください』
部屋を出て下の階に行くと、広い居間に静止した壮年の男女がいた。自分の両親にそっくりで、ここでの父母に相当するのだろう。
部屋の様子を見渡したあと、玄関から外に出た。
電車や自動車など、レイカは初めて見るものばかり。
歩き回る間に、政治情勢、地理、歴史、買物、交通ルールなど、一般常識が解説され、この世界のことを教え込まれた。
レイカは町の様子を見ながら
「ここは、人間ばかりだ……」
動物は多少いるものの魔獣や獣人が全くいない。さらに、魔法が使えず、機械が魔法の代わりをしている。
「マナ素粒子がない。不思議な世界だ……」
◇
何度かチュートリアルをこなし、この世界に慣れてきたレイカは、本格的にゲームを始めることにした。
「それではレイカ姫、頑張ってください」
ルルルに見送られ
「それじゃあ行ってくる」
レイカはヘッドギアを被り、スイッチを入れる。
『名前を入力してください』
目の前に最後の入力項目が出てきた
「ユーリアス・レイカ・エクシード」
入力すると
ピーーー!
『日本語でお願いします』
「日本語……」
確か、ここは日本と言う国だからか、まあなんでもいいのだけど
スワンヒル(白鳥の丘)のレイカで……
『白鳥麗華』
入力が終わると、画面がエフェクトし、軽やかな音楽のBGMとともに、背景は青空に流れ雲。続いて、遠くの山並から、学校や家並み、電車などが走る町の風景が映し出される。
そこに、始まりのメッセージが流れた。
『それでは、理想の王子様を見つける、恋愛シミュレーションゲーム「ストレイン・ワールド」をお楽しみください』
「ええ! これ恋愛シミュレーションなの! 」
レイカは思わず叫んでしまう。
そして……
『立花高校入学式』
麗華は桜舞い散る校舎の、正門に立っていた。
◇ 第二部 <了>
お読みいただき、ありがとうございます。m(_ _)m
引き続き第三部もよろしくお願いします。




