10 スワン・ヒルの妖精
レイカは次元断層を発動し、断層に飲み込まれたあと気を失い、目を覚ますと大きな聖堂に倒れていた。
ずきずきと頭が痛む、体も節々が痛い、でもなんとか生きていた。
レイカは起き上がると、そこは荘厳な広間だった。
極彩色のステンドグラスに、ローマ風の支柱、壁には彫像が並べられ、高い天井にまで壁画が描かれている。
そこに、手のひらほどの小さな妖精が飛んできた。
妖精はレイカを見て
「あなたは、だれ」
レイカは、まだクラクラする頭を抑え
「わたしは………レイカ」
「どこから来たの」
矢継ぎ早の質問に、ついていけず。
「少し休ませて」
妖精は、はっとして
「ごめんなさい。怪我してる! 歩ける、ベッドがあるから来て」
レイカはうなずいて、ふらつきながら妖精のあとに付いていった。
◇
その後、怪我の手当てと、着替え、軽い食事をして、これまでの経緯を妖精に話した。
ちなみに妖精の名はルルル・ルルル
「ルルルでいいよ」
とのことだった。
レイカも妖精に、この場所のことを聞くと
「ここは、天界の桃源郷、スワン・ヒル。姫様は、時空を強引にこじ開け、ここに飛ばされてきたのです。ちなみに、ここでの時間はかなりゆっくり進みます、胸に手をあててください」
レイカが胸を抑えると
「心臓がとまっている! 」
「止まってはいませんが、今の姫様はマナ素粒子で構成されたアバターです。ここでの一年はエクアドルでは一か月ほどでしょう。さらに、ここで死んでも、マナ素粒子は聖堂で再構築されるので、蘇ることができます」
エクアドルで異世界転移者を呼ぶガイア教と同じシステムだ。ただ、自分の体はどこにあるのだろうか……それは、妖精にもわからないらしい。
その後、屋敷や敷地周辺を案内された。
聖堂の周りには芝生や花壇、噴水のある庭が広がり、敷地の中に大きな宮殿のような屋敷が、島のように点在して建っている。
レイカはそれらの建物をめぐった。
「いろいろな物や書物があるね。まるで、博物館か大学のよう」
「ここは時空の交差路、あらゆる世界の物が聖堂にこぼれ落ちてくるのです。私はそれを集めてこの建物に入れてきたのです」
「でも、人の気配が全くない」
レイカは周囲を見渡して言うと。
「ここには、私一人しかいません。人間はもちろん、獣人もいません。姫様は、ひさびさにここへ来た人間なのです」
「ひさびさ、ということは、以前はいたの」
「はい。もう千年も前のことです」
ということは、エクアドルでは約百年前となる。ただ、建物はきれいで、周囲の芝や、森も整備が行き届いている。ルルルが管理しているだけだなく、時間が止まっているのと同じ状態なので、腐食や、汚れが進まないこともあるようだ。
そのあと、ルルルは
「ただ、外の森にはモンスターがいます」
意外な話に、レイカは驚いて
「でも、ここは楽園、桃源郷ではないのですか」
「はい、かつては………」
ルルルは力なく言う。
「妖精はモンスターや魔物を寄せ付けません。以前はスワンヒル全体に妖精がいて、魔物はいなかったのですが………」
今はスワンヒルの妖精はルルルだけになり、この屋敷と周辺の森は安全だが、その外にはモンスターが出るらしい。
どうして一人になったかは、口を渋ったので、レイカも深くは聞かなかった。
レイカは話を変え
「私は、エクアドル王国に戻らねばならないのですが。ここから出ることは出来るのですか」
ルルルは、申し訳なさそうに首を横にふりながら
「ここは、終着点、この先はなく。また、戻ることもできません」
「でも、ここに来る方法はあるのでしょ」
「そうですね、天界の神坐にある、永遠の門を通ればスワンヒルへの道が開かれます。ただし、一方通行で、入ったあとに扉は消え、こちらから帰ることはできません」
「死んで、天国に行くようなものね」
「まあ、そのようなものです。しかも、地上から天界への道のりは遠く、厳しく、場所も知る人はいないでしょう。さらに、永遠の門は強力な神獣が守ってます。姫様のように強引に来たのは、かなり……というか初めてのケースで。無数にある異世界空間の中から、ここへ来られたのも、神がかり的な偶然です」
レイカは、ふと
「そういえば、千年前に来た人はどうなったの」
すると、ルルルは北の空を見つめ
「北に通天回廊という、天に向かう塔があります。そこだけが、このスワンヒルで謎の場所なのです。中は、超がつく強力なモンスターがいるダンジョンで、その先になにがあるのか、わかりません。その者は約七百年の間、何度も通天回廊に挑み、最後は戻って来ませんでした。攻略したのか、力尽きたのか……わかりません」
最後はどことなく寂しそうに話した。
「ここえ帰ってこないのだから、聞けないわね」そう言ったあと、レイカは
「でも七百年も、かかったのか……そんなに待てないなー。ちなみに、その人は七百年の間、何をしていたの」
「その人は悠久の時間のなかで、究極の剣技を考案していました」
「究極の剣技って……まさかホーリースラッシュとか」
ルルルは驚いて
「ええ! どうしてそれを」
「わが、王家の秘伝なのです」
「でもなぜその奥義がスワンヒルの外へ………もしかして、通天回廊は外の世界に通じている……」
レイカも同じ意見のようで笑顔でうなずき合い、ここへ来られたのも、何かしらの意図、あるいは縁を感じさせる。
「だとしたら、なんとしても。その通天回廊を攻略しないと」
「でも、七百年かかったのですよ……」
ルルルは申し訳なそうに言うと
「やるしかないでしょ! 」
わずかな希望だが、レイカの瞳が輝いた。
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