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7 真夜中の脱出

第二部の佳境に入っていきます!!

 晩餐会が終わり、レイカはすぐに服を着替えると、急用で急ぎ王都に帰る旨の書き置きをして、ポーと一緒に自分たちの馬車のところに向かった。


 しかし、連れてきた衛兵も、馬車もいない。


 ポーが近くの、使用人に聞くと。レイカ姫はオーク家で泊りなので、一度王都に帰って明日、迎えに来る、とのことだった。


「だれが、そのような命令を。姫様を置いて帰るとは! 」

 何を考えてるのだと憤慨するポーだが、自分たちもオーク家に断りなく出てきたので、他の馬車も借りられない。


「最初から、レイカ姫を孤立させるつもりだ。私としたことが、迂闊でした」

 ポーはうつむいて、悔しさを隠しきれない。

 帰ろうにも王都までは遠く、歩いて帰れるものではない。

 部屋に戻るしかないが。このような孤立した状態にされたこと自体、身の危険を感じる。何か策がないか、途方に暮れていると。


「レイカ姫……」


 庭の陰から、小声で呼ぶ声が聞こえた。

 周りに人がいないのを確かめて出てきたのは、懇親会で挨拶に来たスーツ姿の男だった。

「あなたは確か、ハヤセさん」


「これは、大勢の来賓のなかで、覚えていただいたとは」

 うれしそうな口調で言う。

「名刺をいただきましたし、サインまでさせられましたよね」

 レイカは少し、皮肉を込めて言うが、顔は笑顔だ。


「ええ、その節は。ところで先ほど、あわてたように席を離れたレイカ姫を見て、もしやと思って来てみましたが。やはり、屋敷から出るのですね」


 言い当てられたことに警戒し、ポーがレイカの前に立って、ハヤセをにらんだ。

 ハヤセは両手をだして、手を振りながら


「ご心配なさらないでください。このことは誰にも言いません。それより、夜道を進むのは危険です。私どもの商品の中に、夜目の利くオゥル馬を何頭か持っています。よろしければ、お譲りします」


 思ってもみない、ありがたい提案だが、ポーは慎重に。

「どうして、我々に」


「商人が売るのは物だけではありません、恩も売るのです。そして、信頼を得て、次の商売につなげていくのです」

 すると、後ろのレイカが、ポーの横から顔をだして

「ここは、この人の情けにすがりましょう」


「でも、商人に借りを作るのは……」後ろを向いて小声で言うが、聞こえていたハヤセは

「とんでもない! この程度のこと、貸しなどとは思っていません。先ほどいただいた許可証書に比べれば些末なものです」


「ね! ポー、いいでしょ。この人を信用しようよ」

 レイカの言葉に、ポーは他に手もなく、うなずくしかなかった。


 ◇

 ハヤセは、屋敷の裏手に回り、馬車などが停めている場所に向かったが、ハヤセの場所は敷地の外の道端だった。


「私のような新参者で異世界転移者は、敷地内には停めさせてもらえません。泊まるところもなく、このテントで過ごしています」

 確かに、馬車の横にテントがある。


「まあ、ひどい」

「いえ、キャンプ気分で結構楽しいですよ。でもこれが幸いしました。ここはすでに敷地の外、だれにも見つからずに出発できます。私も今夜は休んで、明日朝早く帰るので、このあとオーク家の人に会うこともありません」


 そのあと、奥から二頭のオゥル馬を連れてきた。

 足が短く、あまり速そうではないが、がっちりした体格の馬だ。


 レイカは馬にのると

「ハヤセさん、馬の代金は必ず支払います」


「懇親会で話したように、信用してくださったレイカ姫に、信用でお返しするだけのことです。お気になさらずに、受けとってください」

「というより、私が、お金に繋がるからでしょう。ある意味、投資ね」

 ひやかしたように言うと、ハヤセも笑って


「そうでした。レイカ姫に、おべんちゃらは利きませんでした。その通りでございます。ですから、私の儲けのためにも、必ず王都に戻ってください」

「歯にものを着せぬ言いっぷり、きらいじゃないわ。ハヤセさん、ありがとう、とりあえずお礼を言うわ」

 ポーも頭を下げたが、口に出して礼は言わなかった。


 深夜、月のない夜

 レイカとポーは、オゥル馬で夜道に消えていった。


◇ミランダの(あやま)


 宴席が終わり、ミランダがレイカの部屋を訪ねると、急用で王都に戻る書置きがあった。

 アシュルムは、ふてくされて部屋にこもってしまった。

 一方、ミランダは、レイカが王都に戻ったことに少しほっとして。自分の控室に戻ると、サグリンが待っていた。


 大きな腹を波打たせ、椅子に短い脚を蟹股に広げて座り、あいかわらず、股間をボリボリ掻きながら、分厚い唇でニヤニヤ笑う所作(しょさ)に、ミランダは吐き気がしそうだ。


「どうやら、レイカ姫は帰ってしまわれたようですな」

 ミランダは何も言わない

「なにか、話していましたか」


「いえ、とくには」

 小さく言うと。再び、いやらし目でミランダを見つめ

「レイカ姫は、頭首の病気のことも気づいたのではないですかな。あれは病気でなく呪詛だと」


「………いえ、気づいていないようです」

 少し口こもって答えた。ミランダは真声貝(まこがい)の耳飾りでレイカの本音は知っていたが。サグリンには言わない。


 すると、サグリンはなぜか、ニヤリと薄気味悪く笑うと

「そうですか。アシュルム様は、家のお金を勝手に使いこんで、それが頭首様にばれて勘当されるとろでした。そこで、頭首様にしばし、眠っていただくことにしたのでしたね」


「でも、お金を工面するまでの間だけで。あんな、ひどい呪詛とは思っていませんでした。もう呪いを解いてください、あそこまで父が苦しむのは見ていられません」

 すがるように言うミランダに、サグリンは冷めた目で


「それは、お金を返してから言ってください、私は、ミランダ様の言いつけ通りにしたまでですよ。頭首様に呪詛をかけるのも、結構苦労したのです」実際は、サグリンがそそのかしたのだが。難癖を言うサグリンに、言い返せない


「ところで、レイカ姫が近くガイア教を、取り締まるようなことは言ってませんか」


 ミランダは、これ以上レイカに迷惑をかけられないと思い

「そのようなことはないと。言っていました」

 サグリンは、再びニヤリと不適な笑みを浮かべると。


「嘘は、いけませんなー」

 口は笑っているが、眉間をよせ、瞳は脅すように(にら)んでいる。


「………それは、どういうこと」

 ミランダは、背筋が凍った。

 睨むサグリンに身動きできない、蛇に睨まれたカエルのような状態だ。


 サグリンはおもむろに、片方の耳にぶら下げている大きな丸い耳飾りをとると、その中から、真声貝を取り出した


「なぜ! 」ミランダは絶句した

「耳飾りは二つで一組です。あなたには片方しか渡していません」


 ミランダは蒼白になり、震えている。

 そんなミランダを、にらみながらサグリンは.


「まさか、レイカ姫が本気でガイアをつぶそうとされているとは思いませんでした。危うく、ラ・ムーアの復活が阻止されるところでした」

 ミランダは、何も言えない


「まあ、もともと今回の晩餐会は、レイカ姫を王都の結界の外に出すのが目的。アシュルムと御成婚できれば、問題なかったでしょうが、このままレイカ姫が王都にもどれば、ガイア教を潰しにかかるでしょう。そうすればここまで我々と癒着したオーク家もただではすみません」


「それで……どうする、つもりですが」

「大丈夫です、レイカ姫は王都には帰れません、手はうっております」

 むろん、その方法はサグリンは答えない。


 しばらく黙ったあと、サグリンは表情をくずし

「夜も更けてまいりました。ミランダ様、このあとお時間はありますかな」

 突然話題を変え、ミランダを誘いにかかる。ミランダは恐る恐る


「晩餐会も終わりました………このあと何を」

「なーに。美しく、高貴なご令嬢など、私にもっとも縁遠い存在でした。さすがに、その辺の尼僧とは格が違う。そこで、今宵も」

 あからさまに、いやらし目で見つめるサグリンに、ミランダは体が冷たくなる。


「……もう、いいでしょ。あのときだけと」

「あのときは、途中まででした。さらに親睦を深めたいのですが。ミランダ様が、今宵お付き合い、いただければ、レイカ姫の命までは奪わないでおきますが」


 くさい息を吐きながら迫るサグリンに、ミランダはうつむいて、涙がこぼれてきた。

「フホホ! 泣き顔がたまらない」


「鬼……」

 思わずつぶやいた、言葉に

「今何んと! 私を騙しておいて、それはないでしょう」

「す……すみません。とにかく、レイカ姫の命は保証してくださるのですね」


 サグリンは、満面の笑顔で口からよだれを垂らしながら。

「えへぇー」


 適当な返事のサグリンは、その気はないと言っているようなものだが。ミランダはその言葉を信じてしまい、サグリンの誘いを断れなかった。

 


 ミランダは部屋に戻ると、大切にしていた、隣国の王子と交わした何十通もの手紙を、泣きながら廃棄した。


読んでいただき、ありがとうございます。m(_ _)m

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