6-3 晩餐会(ミランダとレイカ)
会食の席で、ミランダは隣に座るレイカに
「アシュルムのことですが、心根はやさしく、レイカ様のことを、なにより慕っております。しかも、オーク家とレイカ姫の縁談が進めば、両家にとってもよいと思っているのですが」
レイカは全く乗り気ではないが、笑顔をたやさず
「これは、私には過分なお話でございます。ただ、私は結婚には、まだ早い歳です。見聞を広め、それから後にと考えております」
ミランダのつけている、真声貝の耳飾りからは何も聞こえてこないので、この返答に嘘はない。ただ、期待はしていなかったが、やはり残念だった。
「すみません、つい弟のことが気がかりで、いらぬおせっかいで失礼しました。父の紫斑病も進んで、いつどうなるかわかりませんので、気になっているのです」
「そうですね、早く治るとよいですね。それより、ミランダ様のほうこそ、御縁はないのですか。そういえば、隣国の王子から、お誘いがあったとか。あの方は、素敵な方ですよね、精悍で、やさしくて、おまけにイケメン、もう絵に書いたような王子さまではないですか。あのような方に見初められるなんて。私なんて、子供扱いですよ。あー、うらやましい」
レイカが冷やかすように言うと、ミランダは顔を赤らめて
「いえ、そんな。まだ、二、三回、お会いしただけで、手紙のやりとりしか、していません」
「えー! 手紙のやりとりを、なさっているのですか。いいですねー」
レイカが自分のことのように微笑んで言うと、ミランダも面映いようで嬉しそうにうつむいた。
◇
そのあと、ミランダは話を変えてきた。
「ところで……ポー様は、父の病気のことを何か言ってませんでしたか。あの方は博識ですから、そのー……病のことも詳しいのでは」
父のことを心配してのことだろうが、なぜか口調はぎこちない。誰かに言われての質問の感じがする。
レイカは、あいまいに返事をしようと思い
「いえ、特には、何も言ってませんが」と……答えてしまった。
それは、真声貝の耳飾りを通してのミランダには違うように聞こえた。
(レイカ姫は、やはり父の病気を疑っておられる)
レイカは、ポーが「何も言ってない」と言ったが、実際のポーは、頭首が病気ではなく呪詛だと言った。つまり、レイカは本当のことを言っていない。
レイカではなくポーの意見を聞く、からめ手のような質問だ。
ミランダは、心苦しいが、さらに質問を投げかける
「ところで、最近、勢力を伸ばしてきたガイア教については、どうお思いですか」
ミランダのさらに場違いな質問に、レイカも慎重に答える
「どうして、そのようなお話を」
「レイカ姫がガイア教を取り潰しになると、巷で噂になっていますもので」
「根も葉もない、噂ですよね」
レイカは、はぐらかすつもりだが
「ええ、そのとおりです。まさか、レイカ姫がそのような物騒なことを、お考えとは思えませんので」
質問ではないが、問いかけてはいる。”はい”とも”いいえ”とも答えにくく、黙っていることもできないので。
「ええ、そうですね」
素っ気なくだが、つい流れで答えてしまった。
ミランダの誘導尋問に乗せられた形だ。
真声貝を通した答えに、ミランダの表情が曇った。
隠し事や、心配事があると、ミランダはすぐに表情にでる。そんな、ミランダにレイカは
「お疲れのようで。お父上がご病気で大変でしょうが、決して無理なさらず。何か、あったら力になりますから」
レイカの言葉に、ミランダは返す言葉がなく。レイカを騙すようなことをしている自分の、心が痛む。
「いえ……大丈夫です。こうして、私の招きに応じていただき……感謝しています」
「お気を使わないでください、ミランダ様のためなら、いつでも馳せ参じます。私はミランダ様を姉のように思っています」
真声貝から聞くレイカの答えに、嘘はない(レイカ姫は、心底私たちのことを思っていただいている。私はなんてことをしているの………)。
ミランダは、うつむいて言葉がない。
◇
そこに、突然ポーが割り込んできた。
「歓談中にすみません」
「どうしたの」
「レイカ姫にお伝えすることが……」
レイカはうなずくと、隣のアシュルムとミランダに
「すみませんが少し席をはずします」
そう言って席をたった。
ポーはレイカを、会場の外に連れ
「レイカ姫、ミランダになにか聞かれましたか」
「アシュルムのことや、ガイア教のことなどを」
「それで、何か、お答えに」
「ガイアをどうすると聞いてきたので、特になにもしないと」
ポーは険悪な表情になり
「ミランダ様の耳飾りですが、装飾していますが間違いなく真声貝です」
「………! 」
レイカは絶句した。
「どうして、そんな物を。人の心を覗く魔具は禁忌。見つかれば、処刑ものです。そんな物はだいたい出回っていないはずでしょ。あの、ミランダ様がそのようなことを」
「ガイアが手引したのでしょう。場合によっては脅されているかもしれません」
そういえば、ミランダはいつもとちがい、話もぎこちなかった。となれば、先程の答えで本心を言ったのと同じ、レイカは迂闊だった自分に歯噛みした。
「レイカ姫が王都に帰って、ガイア教を取り締まることが知れた可能性があります。いや、間違いなく知れたでしょう。しかも。今夜ここに来ているのは、ほとんどがガイア教のシンパばかりです」
ポーが、深刻な表情で言うと、少し考え。
「大聖堂が落成し、ラ・ムーアの復活が一週間後の、このタイミングで呼び出されたのも気になります。しかも、サグリンが来ているとなると、さきほどの商人の言ったことは本当なのかもしれません。そうだとしたら、ここは、王都の庇護結界の外、我々は罠にはまったようなものです、すぐここを離れましょう」
レイカも真顔になり
「………わかりました」
そう答えると、会場に戻っていった。
◇
レイカは席に戻ると、隣のミランダに
「すみません、少し疲れたので、先に部屋に戻りたいのですが」
これは本心だった。
真声貝からも、違う声は聞こえない。ミランダは
「そうですか、承知しました。ご無理を言って、すみませんでした。それでは先におやすみください」
アシュルムもなにか言おうとしたが、その前に席を立ち、来賓に挨拶して会場をあとにした。
レイカは部屋に戻ると、すぐに屋敷を出る準備をした。
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