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6-3 晩餐会(ミランダとレイカ)

 会食の席で、ミランダは隣に座るレイカに

「アシュルムのことですが、心根はやさしく、レイカ様のことを、なにより慕っております。しかも、オーク家とレイカ姫の縁談が進めば、両家にとってもよいと思っているのですが」


 レイカは全く乗り気ではないが、笑顔をたやさず

「これは、私には過分なお話でございます。ただ、私は結婚には、まだ早い歳です。見聞を広め、それから後にと考えております」


 ミランダのつけている、真声貝(まこがい)の耳飾りからは何も聞こえてこないので、この返答に嘘はない。ただ、期待はしていなかったが、やはり残念だった。

「すみません、つい弟のことが気がかりで、いらぬおせっかいで失礼しました。父の紫斑病も進んで、いつどうなるかわかりませんので、気になっているのです」


「そうですね、早く治るとよいですね。それより、ミランダ様のほうこそ、御縁はないのですか。そういえば、隣国の王子から、お誘いがあったとか。あの方は、素敵な方ですよね、精悍で、やさしくて、おまけにイケメン、もう絵に書いたような王子さまではないですか。あのような方に見初(みそ)められるなんて。私なんて、子供扱いですよ。あー、うらやましい」

 レイカが冷やかすように言うと、ミランダは顔を赤らめて


「いえ、そんな。まだ、二、三回、お会いしただけで、手紙のやりとりしか、していません」

「えー! 手紙のやりとりを、なさっているのですか。いいですねー」

 レイカが自分のことのように微笑んで言うと、ミランダも面映(おもはゆ)いようで嬉しそうにうつむいた。


 そのあと、ミランダは話を変えてきた。

「ところで……ポー様は、父の病気のことを何か言ってませんでしたか。あの方は博識ですから、そのー……病のことも詳しいのでは」


 父のことを心配してのことだろうが、なぜか口調はぎこちない。誰かに言われての質問の感じがする。

 レイカは、あいまいに返事をしようと思い


「いえ、特には、何も言ってませんが」と……答えてしまった。


 それは、真声貝(まこがい)の耳飾りを通してのミランダには違うように聞こえた。

(レイカ姫は、やはり父の病気を疑っておられる)


 レイカは、ポーが「何も言ってない」と言ったが、実際のポーは、頭首が病気ではなく呪詛(じゅそ)だと言った。つまり、レイカは本当のことを言っていない。

 レイカではなくポーの意見を聞く、からめ手のような質問だ。


 ミランダは、心苦しいが、さらに質問を投げかける

「ところで、最近、勢力を伸ばしてきたガイア教については、どうお思いですか」


 ミランダのさらに場違いな質問に、レイカも慎重に答える

「どうして、そのようなお話を」

「レイカ姫がガイア教を取り潰しになると、(ちまた)で噂になっていますもので」


「根も葉もない、噂ですよね」

 レイカは、はぐらかすつもりだが


「ええ、そのとおりです。まさか、レイカ姫がそのような物騒(ぶっそう)なことを、お考えとは思えませんので」

 質問ではないが、問いかけてはいる。”はい”とも”いいえ”とも答えにくく、黙っていることもできないので。


「ええ、そうですね」

 素っ気なくだが、つい流れで答えてしまった。

 ミランダの誘導尋問に乗せられた形だ。


 真声貝を通した答えに、ミランダの表情が曇った。


 隠し事や、心配事があると、ミランダはすぐに表情にでる。そんな、ミランダにレイカは

「お疲れのようで。お父上がご病気で大変でしょうが、決して無理なさらず。何か、あったら力になりますから」


 レイカの言葉に、ミランダは返す言葉がなく。レイカを騙すようなことをしている自分の、心が痛む。

「いえ……大丈夫です。こうして、私の招きに応じていただき……感謝しています」


「お気を使わないでください、ミランダ様のためなら、いつでも()せ参じます。私はミランダ様を姉のように思っています」


 真声貝から聞くレイカの答えに、嘘はない(レイカ姫は、心底私たちのことを思っていただいている。私はなんてことをしているの………)。

 ミランダは、うつむいて言葉がない。


 そこに、突然ポーが割り込んできた。

「歓談中にすみません」

「どうしたの」

「レイカ姫にお伝えすることが……」


 レイカはうなずくと、隣のアシュルムとミランダに

「すみませんが少し席をはずします」

 そう言って席をたった。


 ポーはレイカを、会場の外に連れ

「レイカ姫、ミランダになにか聞かれましたか」

「アシュルムのことや、ガイア教のことなどを」


「それで、何か、お答えに」

「ガイアをどうすると聞いてきたので、特になにもしないと」

 ポーは険悪な表情になり


「ミランダ様の耳飾りですが、装飾していますが間違いなく真声貝です」

「………! 」

 レイカは絶句した。


「どうして、そんな物を。人の心を(のぞ)く魔具は禁忌(きんき)。見つかれば、処刑ものです。そんな物はだいたい出回っていないはずでしょ。あの、ミランダ様がそのようなことを」


「ガイアが手引したのでしょう。場合によっては脅されているかもしれません」

 そういえば、ミランダはいつもとちがい、話もぎこちなかった。となれば、先程の答えで本心を言ったのと同じ、レイカは迂闊(うかつ)だった自分に歯噛みした。


「レイカ姫が王都に帰って、ガイア教を取り締まることが知れた可能性があります。いや、間違いなく知れたでしょう。しかも。今夜ここに来ているのは、ほとんどがガイア教のシンパ(支持者)ばかりです」

 ポーが、深刻な表情で言うと、少し考え。


「大聖堂が落成し、ラ・ムーアの復活が一週間後の、このタイミングで呼び出されたのも気になります。しかも、サグリンが来ているとなると、さきほどの商人の言ったことは本当なのかもしれません。そうだとしたら、ここは、王都の庇護結界の外、我々は罠にはまったようなものです、すぐここを離れましょう」


 レイカも真顔になり

「………わかりました」

 そう答えると、会場に戻っていった。


 ◇

 レイカは席に戻ると、隣のミランダに

「すみません、少し疲れたので、先に部屋に戻りたいのですが」


 これは本心だった。

 真声貝からも、違う声は聞こえない。ミランダは

「そうですか、承知しました。ご無理を言って、すみませんでした。それでは先におやすみください」


 アシュルムもなにか言おうとしたが、その前に席を立ち、来賓に挨拶して会場をあとにした。


 レイカは部屋に戻ると、すぐに屋敷を出る準備をした。


読んでいただき、ありがとうございます。m(_ _)m

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