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6-1 晩餐会(異世界の商人)

 夕刻になり、城の大広間では立食での軽い食事に、酒肴(しゅこう)がふるまわれ懇親会が始まった。

 音楽が奏でられ、踊りやマジックショーなどの余興のほか、社交ダンスも催されている。


 オーク家ゆかりの貴族、豪族や、大地主などが出席する中、異彩を放つのが、レイカとミランダだった。


 パール・ホワイトを基調としたロングドレスのレイカは、髪を結いあげ、大人の(あで)やかさの中にも、若々しい清純さを(かも)し出している。

 一方、ミランダは、青紫の落ち着いたドレス、大きくあいた胸元に真珠の首飾りが見るものの目を奪う。

 この二人を中心に、宴が進んでいると言ってもいい。


 レイカの元には間断なく貴族や豪族たちが、代わる代わる挨拶にくる。今回の主賓とも言える王家の第一王女レイカと、お近づきになりたいためだ。

 アシュルムもレイカのそばにいるが、気の利いた声もかけられず、レイカの後ろでオロオロしているだけだった。


 そんなレイカは幾人もの客人と挨拶し、顔や名前、何を話したかすらほとんど覚えていない。結構疲れもして、やっと最後になったところで、一風変わった、三十歳前後の男がレイカの前に来た。

 周囲が中世ヨーロッパ風の貴族服で出席している中。この世界では見られない、シンプルな紺色のズボンに上着、ネクタイを締めた、いわゆるスーツ姿の異世界人だ。


「はじめまして、私くし、近隣で商売をしているハヤセと申します。御覧の通り異世界から来た商人でございまして、エクアドルだけでなく、最近は他国もめぐり、あらゆる商品を扱い、流通も担っております」

 レイカは異世界の転移者と聞いて身構たが、とりあえず話を聞くと、リアルの世界でもベンチャー企業を立ち上げて成功し、その知識をここに持ち込んでいる、とのことだった。


 自己紹介をしたあと、ハヤセという男は、胸元から小さなカードを取り出して、レイカに渡した。

「なんですかこれ」

「名刺と言いまして、私どもの世界では、自分の名前を知って覚えてもらうため。カードに自分の名前や会社名、住所などの連絡先を書いて渡すのです」


「なるほど、これなら、会った人を思い出せるわね」感心しながらレイカは名刺を見て

『ハヤセ商会。代表取締役、ハヤセ、コウノスケ』

 読みあげて顔を上げると、男はにこりと笑い


「以後、お見知りおきを」

 胸に手をあてて(うやうや)しく挨拶したが、レイカが異世界転移者のことを、よく思っていないと聞いてたので、少し前置きをする。


「異世界からの召喚者には、横暴を働くものが多いと聞いております。私は、そのようなことはありません。私は、武器は持っておらず魔法の(たぐい)も使えません。レベルは、10にも満たないのです。というか、レベルなどに興味ありません。この世界の発展、引いては、エクアドル王国の繁栄を願って、商売を続けています」

 両手をあげて説明をしたあと、小声になり


「というのは、建前で……ここでも一旗あげるため、商会を大きくし、ゆくゆくはこの世界の流通網を一手に担いたいのです。そこで、ガイア教のサグリンに大金を積んでこのパーティーに参加し、こうしてやっと、悲願でした王女殿下にお会いできました。私は異世界人なので、謁見出来る順番は一番最後、宴が終わってしまわないかと、ヒヤヒヤしておりました」


 腹の内を臆面もせず語るハヤセは、何か魂胆があるとしか思えない。

 レイカは心よく思っていない異世界人でもあり、これまでの作り笑顔から一転し、真顔で相手を見つめ

「それで、王家とのパイプを作り、なんらかの既得権を得たいのですか」

 少しきつい調子で相手の目を見つめて話すと、曇った考えを持っていると案外表情に出る。特に目線が定まらなくなるが、ハヤセは動揺することなく。


「さすが、レイカ姫は美しいだけでなく、お察しも早い」

 ハヤセは少し()びてみた。

 好感の持てる相手なら痘痕(あばた)もエクボだが、気に入らない相手の言葉は、何を言っても皮肉にしか聞こえない。

 よい顔をしないレイカの表情に、お世辞は通じないと見て


「それでは、単刀直入に私の要望を話します。実は、冒険者ギルドというのを立ち上げようと思っているのです」

「ギルド……それは、ハヤセさんの現世(リアル)にあるのですか」


「いえ、我々の世界のゲームで冒険者などのために組織されている、共同体のようなものです。ギルドでは、町や村、企業や庶民、王宮などからも、困りごとや護衛など色々な依頼を受け、冒険者たちを募って、それを解決するクエストを斡旋し、報酬を冒険者に分配するのです。もちろん、その一部を王宮にも税としてお支払いします」


 ゲームというのには引っ掛かるが、理にはかなっている。

「確かに、異世界転移者も、漫然と過ごすのではなく、何か目標ができるし、情報も共有できますね」

 少し肯定的になったレイカの意見に、ハヤセは脈ありと見てたたみかける。


「はい。さらに、横暴をふるう異世界転移者をギルドで監視し、場合によってはその横暴する異世界転移者の捕縛といったプレイヤー・キルのクエストも………ありです」

 レイカの懸念していることを、射抜くような提案だ。


「プレイヤー・キル。異世界転移者を異世界転移者で取り締まるのね」

「そうです」

 ハヤセは、笑顔でうなずいた。予断ならない男だが、サグリンのような、自分の欲望で動いている感じではない、あくまで計算ずくのビジネスに徹している……ようだ。


「わかったわ。悪いことではないわね。ところで、あなたもラ・ムーアを神とあがめるガイア教の信者なの」

 レイカはガイア教を警戒しているので、念のため聞いてみた。

「とんでもない。わたくし達の神は……」そう言って両手をひろげ、真顔で


「お客様なのです」


「プッ! フハハハ」

 思わず吹き出してしまうレイカに、周りも驚いた。

「ごっ、ごめんなさい。思ってもみない答えだったので。お客は神じゃないよ、でも面白いわ、いいでしょう、王家もその話に乗るわ」


 意外とあっさり即決するレイカに、ハヤセは驚いた。

 軽薄なのか、頭の回転がいいのか、とにかく気が変わらないうちに、次の行動に出る必要がある。


 ハヤセは、深くお辞儀をすると、レイカを少し離れた人目のつかない机にいざない、小声で

「そこで、姫にお願いがあります。ここにサインをいただけませんか。王家の承認とあれば、公に実施できます。我々は王家が承認したエビデンス(証拠)がほしいのです」


「でもガイア教の後ろ盾があるではないですか……」と、そこまで言った後、レイカはハヤセをジト目で見つめ

「そうか、日和見ってわけね。万が一ガイア教がつぶれた場合、あるいはガイア教が王家と敵対した場合の保険ということかしら」


 苦笑いするハヤセは

「ご明察。そこで、このことはガイアには内密に進めたいのです。正直、ガイアのサグリンは食えぬ男です、いつ裏切るかわかりません。簡単に約束など破棄するでしょう。一方、王家いや、レイカ姫は違うように思います。商売は信用が大切です、裏切る者には、こちらも裏切ります。逆に、信用のおける人には、信用でお返しします。そうでないと、こちらの信用も失います」


「やっぱり商人は打算的ね。いえ、これは悪い意味ではないですから」

 そう言って、レイカはサインをしたあと

「ただ、一言付け加えさせてください」そして有無を言わさず、サインの下に但し書きで


『このギルドは、王室レイカを、最高経営責任者として、神様、仏様、女神様として(うやまい)(たてまつ)ること』


「これでよろしいですか」

 レイカは、ニヤリとわらう。

 ハヤセは、やれやれと言った表情で笑みをこぼしながら。


「委細承知いたしました。思った通りのお方だ、お会いできてよかった」

 証書を受け取り、これまでの緊張から解きほぐされ、肩の力がぬけた軽やかな口調は、本心からでた言葉だと、レイカにもわかる。


 ハヤセは、立ち去ろうとした間際に

「そういえば、サグリンがこの城にきています。妙な動きをしているようなので、宴会がおわったら、裏口から王都にお帰りになったほうがよろしいかと思います」


 意外な忠告に、レイカが驚いた表情をするが、ハヤセは構わずに

「それでは、今後とも、ごひいきに」


「こちらこそ。王家の許諾を得る大仕事をなし終え、安堵された殿方のお顔は素敵です」

 最後は、可憐に微笑んで挨拶するレイカの言葉に心打たれ、ハヤセはうっとりし


「さすが、ストレイン・ワールドの世界三大美女のお一人だ」


 そうつぶやいて、胸に手をあて頭を下げると、レイカのサインの入った証書を大切にしまって、宴会場の一番隅の末席にある自分の席に戻って行った。


読んでいただき、ありがとうございます。m(_ _)m

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