3-2 異世界人
「いい大人が、子供相手に剣を抜くことはないのじゃない」
群衆の中から突然の女性の声に、男は驚いてレイカの方を向く。
フードを被ったレイカは、倒れた母親と子供の前に立ち、男達に対峙した。
「女がなに出てきてんだ、この世界は男尊女卑だと聞いてるぜ」
あからさまに差別発言をする男に、レイカの眉間が引きつった
「男尊女卑……だと」
「ええ、知らないのか。ガイアの教えらしいぜ、異世界人は別だがな。それより顔をみせな」
そう言って剣先でフードをまくし上げると、レイカの顔が露わになった。
その顔を見て驚いた少年に、レイカは口に人差し指をあて、黙っているように伝える。
一方、男はレイカの顔をみると
「うわ、めちゃ可愛い! 」
「マジ、すげー。こんな美女、ここにきて初めてだぜ。というか、リアルにもそうそういないぜ」
興奮している男をレイカはきつく睨む。
男たちは、レイカを舐めるように見ながら
「顔も可愛いけど、スタイルいいし、胸もでかいぜ。ちなみに、ステータスは………なんだ、レベル5か、しかもここの世界の人間……というとモブキャラだな。やっちまうか」
にやけながら言う男に、となりの男も、
「おれ、このまえリアルで好きな女に告って振られてさ、むしゃくしゃしてんだ。こんな美女なら、振られた女なんて、どうでもいいや。少しケガさせて、宿につれていこうぜ」
男の会話に、レイカは虫唾が走ったが、冷静に相手を観察している。
威勢がいいわりに、剣を鞘から抜いた動作や扱いを見て、遊びでこの世界にきて剣をふり回しているだけの、素人だと判断した。
「まあ、その間抜け面と、態度ならフラられて当然だろうな」
レイカの煽る言葉に、男たちは完全に切れた
「なんだこのアマ! マジ、ムカついた、ただじゃおかねー! 」
本気で剣をレイカに向けると、レイカも懐から得物を取り出す。
「おい、こいつ短剣をもってるぜ……って、果物ナイフじゃないか」
拍子抜けしたように嘲笑うと、横の男も
「おい、ねーちゃん。俺たち、これでもレベル30なんだぜ。レベル5の、ど素人がどういうつもりだ」
レイカは小さな果物ナイフをもちながら、
「おまえらなど、これで十分だ。リンゴの皮をむくより簡単だ」
「ははは! やっぱりこの世界の女は剣術を知らないようだ、正義感だけではどうしようもないんだぜ。しかも、俺たちは死んでも聖堂でよみがえるが、モブキャラの姉ちゃんは死んだらおしまいだ」
その言葉に、レイカはうなずくと、
「そうか、貴様らは死んでも聖堂でよみがえるのか。ならば容赦はしない! 」
そう言った直後、レイカは片方の男の間合に一瞬で詰め寄った。懐に入られたら、長剣は逆に不利だ。男はどうすることもできず、青ざめている。
「なっ! なんなんだ」
「さっきの威勢はどうした」
「………」
喉元に、ナイフの切っ先を突きつけられ、男は動けない。
「二度と、ここえ来るな! 」
次の瞬間、男は消え去った。
いったい何が起こったのか、もう一人の男も驚いている。
「こいつ! 本当にレベル5なのか……」
仲間の男を倒したレイカの背後から切りかかるが、まるで後ろに目があるかのように、レイカは簡単にかわして、逆に相手の背後に回り込んだ。
「やすやすと敵に背中を取られるとは、ど素人が! 」
そう言って、相手を消し去った。
◇
一瞬のことに、周囲で見ていた者達は唖然としている。
少年は足を震わせながら立ち上がると、今までかすかに繋がっていた勇気と緊張の糸が切れたように
「レイカ、ひめーー! 」
泣きながらレイカの腰に抱きついてきた。レイカは少年の頭をなでながら
「こわかったろう。もう大丈夫だよ」
さらに「レイカ姫」の言葉に周囲は騒然となった。
まさか、姫様が下町に!
周囲の町人はざわつき、少年の母親がレイカの足元にかしずいて、涙ながらにお礼を言っている。
レイカは面映ゆいようで、顔を上げるように促した。
一方、レイカのお腹に顔をうずめていた少年は涙に濡れた顔をあげ
「姫様、鍛錬にいけなくてごめんなさい」
「いいよ、苦労しているのでしょ。それは私が至らないから。あやまるのは私の方」
そして、回りを見渡すと、異世界人と目が合い、その者はすごすごと居酒屋の奥に逃げていく。
「あんな痴れ者が他にもいるの」
「うん、異世界人がはびこって、僕たちをモブキャラとか言って、奴隷みたいにこき使ったり、簡単に殺したりするんだ」
「そうみたいね。わかったわ、私がなんとかするから」
「姫様、僕も姫様と一緒に。異世界転移者をやっつける! 」
それには、レイカは困った表情で
「大人になったらね、でも。もう無茶してはだめよ。馬鹿にされたり、脅されたりしても、命だけは大切にしなさい」
「………」
黙っている少年に、レイカはしゃがんで少年の目線になると、顔を見つめて微笑み
「わかったわね」
念を押すように言うと、少年は涙をふいてうなずいた。
「それと……」
レイカは、急に眉間を寄せ
「さっき抱きついてきた時。わたしのお尻を、しきりに触ってたでしょ。今度したら……私もあなたのお尻、生で触って、真っ赤にしてあげる」
黙って真っ青になる少年を、レイカはきつく睨みながら
「わかったわね、ゴンゾー! 」
ゴンゾーは震えながら、何度もうなずいた。
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