3-1. 異世界人
レイカはポーをともない、数騎の衛兵を連れた馬車で、アシュルムの屋敷に向かった。
たまに車窓を見ると、大通り沿いには小綺麗な屋台が立ち並び、野菜や果物、日用品や雑貨の他、ピザや紅茶を出す店もあり、屋外のテラスで人々がくつろいでいる。
レイカはそんな様子を観ながら
「ここは、獣人がいませんね。それに時々、かわった剣を持っている者がいるけど、異世界の人でしょうか」
向かいの席に座るポーは
「そうです、ガイア教団が、最近、異世界との繋がりに成功したらしく、そこから冒険者や魔導師を召喚しているようです」
「まさか、本当に異世界と繋がるとは。その異世界の者たちは、大丈夫なのでしょうか」
「私も懸念しております。その世界がどのような世界かわかりませんし、不用意に世界を交差させると、文化や文明の違いによる混乱だけでなく、時空のパラドックスによる災害や、ありえない事象が起こる場合があります。忠告はしているのですが」
レイカは、同感だと大きくうなずくと、さらにポーは
「ガイア教は結界魔術で、異世界の情報をこちらに持ちこめないよう、もとの世界のことを話すと警告を発し、従わない場合はこの世界への転移を抹消するようには、しているようです」
「それだけでは、不十分でしょう。とにかく不用意なことは辞めさせないと」
レイカは腕を組んで、外を見つめた。
馬車は王都の目抜き通りをくだり、正面に、建造中の大聖堂が見えてきた。
「あれが、ガイア教の大聖堂。すごいわね」
天に突きさすような、大きな主塔の間にバロック形式の荘厳な教会。一部骨組みだけの箇所もあるが、ほぼ完成している。
「来週に完成するとのことですね。起工式典も盛大だったとか」
「そうです、私も出席させられましたが、どこから費用が集まるのかと思いました。信者から多大の寄付を募っているのでしょう。特に司教のサグリンは、聖職者のくせに、まるまる太って、金銀の財宝を身に着けているのです。しかも、まわりには美女の修道女を侍らせているのよ」
「すでに何人もの子供を孕ませていると言う噂も。ガイア教の教えに男尊女卑が根強くあるようで、サグリンは教会の奥で何人もの女性を奴隷のように囲ってハーレムを作っているようです」
「まったく………クソムシだわ」
姫とは思えぬ下品な言葉だが、ポーも諫める気はしない。
「ところで姫は、どうして庶民の服を着ているのですか」
レイカは、晩餐会に行くにしては、あわせ襟の生成りの服に膝下までのスカートといった、素朴な町娘の服装だった。
「少し寄りたいところがあるの。いいでしょ、それが終わったら礼装に着替えるから」
「いいですよ、でもどちらへ」
「最近、剣の鍛錬に来ない子がいるの。ちょっと心配で様子を見に行こうかと思って」
「なにか、学校の先生みたですね。いったいどんな子ですか」
「おそらく、今来ている子供のでは一番優秀でしょう」
レイカは、少し含みのある笑顔で言う。
「そうなのですか、あのボルグって子かと思いましたが」
「いえいえ、その子は、ダントツで私のパンツを見た最高記録保持者です。その子が来たときだけは、さすがにノーパンにはなれません。将来有望な子ですよ」
レイカは、苦笑いしながらも口調は嬉しそうだが、ポーは何が有望なのか、と思って呆れている。
◇
聖堂は目抜き通りを塞ぐように立地しているため、馬車は聖堂の周りの公園に突き当たると、その外周を回っていく。
この辺りからが庶民の居住区だったが、住んでいた人たちは一掃され、聖堂の周りを囲むように広い芝や木々、噴水などが整備された美しい公園となっている。
さらに中央大通りを下り、王都外縁の下町に差し掛かると、馬車を本通りに停め、レイカはフードを被って馬車を降りた。
心配するポーは護衛を、と言ったが
「必要ないでしょ、ここに私より強い衛兵がいますか」
ポーはもっともだといった表情でそれ以上言わず、レイカはそのまま下町の中に向かっていった。
◇
スラム街というほどではないが、無造作に寄せ集まった家の間の道は、曲がりくねり迷路のようで、ガラクタを含めいろいろな店や物が溢れ、顔は猫や犬だが、体は人間と言った獣人も多くいる。おもちゃ箱をひっくり返したような街の中は、聖堂の手前の大通りに比べ、ゴミゴミして、人がひしめき合い、道端で寝ている者も多く見かけられる。
「確かあの子、聖堂の建設で住むところを追われたと言ってたな。それで、獣人やホームレスも多いのか」
レイカは人ごみの間をすりぬけて、聞いていた十二番街の住所に行くと、少し広い十字路に出た。
間口を開けっ放しの飲食店が数件あり、昼間から酒を飲んで騒いでいる者が結構いるが、ほとんどが異世界からの転移者のようで、剣や、魔法杖などを持っている。
レイカは、深く被ったフードの下から、苦々しくその様子を見ていた。
そこで、向かいの居酒屋の横で団子を売っている目当ての少年を見つけた。少年の顔は人間だが、耳は犬か狼の形で、こうした人間と獣人の間の子供も大勢いる。
レイカがその子に、向かおうとしたとき、店から出てきた二人の男が、よろけて少年にぶつかり半分ほど団子が落ちてしまった。
数個は踏みつけてぐちゃぐちゃになっている。その男は、長剣をさげ、防具を着た、明らかに異世界人だ。
男は少し酔っているようで
「なんだ獣人のハーフか、邪魔なんだよ! おいおい、団子を踏んじゃったぜ、きったねーな! 」
捨て台詞を吐いて、立ち去ろうとした。すると団子を拾っていた少年は、真っ赤になって
「あやまれ! 」
そう言って突っかかっていく。
それを見ていたレイカは(ふふ、あの子らしい)と微笑んだが、事態はあらぬ方向に向かう。
「なんだーー、クソガキ! モブキャラのくせしやがって」
(モブキャラ……?)
レイカには聞き慣れない言葉だが、褒め言葉とは到底思えない。
しかも、男は少年を見下しながら無言で腰の長剣を抜いた。
剣は高価で定められた者しか持てない。当然、下町の住人に長剣を持っているものはなく、そもそも不要だ。明らかに異世界からの転移者で、長剣を抜いた瞬間、周りの者は恐れて遠巻きになり、近づけない。
レイカは、横で見ている老婆に
「モブキャラとはなんですか」
「どうも、物語の群衆や通行人のことらしくて。異世界人にとっては、その他大勢のどうでもいい背景みたいなもので、人間とは思っていない。遊び半分で乱暴したり、逆らったりしたら、簡単に殺されるの」
「警察とかは何もしないの」
「警察だって、彼らからしたらモブキャラよ。いつも、見て見ぬふりさね」力なく、諦めたように言うと
「特にあいつら。この前、声をかけた女が、誘いを断っただけで殺したの。あの子も、殺されるわ」
老婆は、涙声で言う。
するとそこに、少年をかばうように壮年の女性が駆け込んできた
「すみません! この子が粗相を、どうかお許しください! 」
繕いだらけのみすぼらしい服は少年と同じで、母親のようだ。男の足元に、額ずいて謝っている。
母は、わが子を守るためには何でもする、いや何でも出来るのだ。レイカは、そんな少年の母親に胸が熱くなる思いだった。
しかし、男は
「なんだクソババア! お前みたいな、ババァは引っ込んでろ。俺は、リアルでちょっとあって、むしゃくしゃしてんだ」
そう言って、蹴り倒した。
「かあちゃん! 」
少年は倒れた母親をかばうが、剣を突きつけられ恐怖に震え、ズボンが濡れていた。
「うぜーな! ションベン漏らしやがって、ゴミクソは死ねや! 」
そう言って、男は長剣を振りかざすが、少年は恐怖に震えながらも、相手を睨みつけて一歩もひかない。
レイカは、ため息をついて、火中の栗を拾いに歩み出た。
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