7章 王国マリア編 9話 再会と拒否そして一瞬の・・
「朝か・・・・」
窓から差し込む朝日で目が覚める。
「ハル・・」
「ん?・・アルシア」
ソファに座る俺の横に、いつの間にかアルシアが体を寄せている。
「その、なんだ・・助けてくれてありがとう。あの時はもう・・」
死を感じたアルシアの手が震え怯えている。俺は、その手を握りそっと俺の魔力を流し込んであげる。
「・・あっ」
俺の魔力を感じ、安心したような表情になったアルシアは俺の肩にゆっくりと頭を預けてきたところで、ソッと語るように呟く。
「アルシア、俺のスキルを教えるから、目を瞑って流れてきた魔力を受け入れてほしいんだ」
「んっ・・わかった」
その後、俺はマリアに教えた同じやり方でアルシアに気配探知スキルと念話スキルを習得させた。
「はぁ・・はぁ・・コレはすごいな」
アルシアは、火照った体を冷やすかのようにソファから立ち上がると、部屋の窓を開けて外の冷たい空気を浴びている。
窓を開けてしまったため、冷たい空気が部屋に入り寝ていたマリアとシェルが布団に包まったまま上半身を起こす。
皆が起きたため、昨日の出来事を伝えた。勇者とギルドで遭遇し、なぜか俺を知っているような態度で嫌悪感を持っていた。そして、勇者と別れギルドを出て宿屋に戻る途中に猫人族少女に尾行されていたが、捕まえて追い払ったことを。
「そんなことが・・・・」
マリアが不安そうな表情になる。
「だから俺は、勇者達に合わない方がいいと思っていて、この街を出たいと考えている。もちろん、シェルのアレを解決してからになるけどね」
皆は頷き賛同してくれた。とりあえず、俺とマリアそしてアルシアは外出を控えることにして、シェルは1人でこの街で感じるモノの捜索に出掛けて行った。
宿屋から1歩も出る事もなく、食事も食堂に済ませて3人で部屋で過ごす。そして夜になり日付が変わる時間まで起きていてシェルの帰りを待ったが帰ってくる様子はない。
「シェル・・あいつ遅いな・・」
シェルが帰ってくるまで、ソファに座り起きていたが眠気には勝てず、いつの間にかソファで眠ってしまっていて朝を迎え部屋を見渡したがシェルの姿はなかった。
「帰ってないのか」
俺は気配探知スキルを発動し対象をシェルに絞り捜索すると、ここからそう遠く離れていない場所で捉えることができた。
「マリア、アルシア起きてくれ!」
「「ハル??」
「シェルが帰って来ていないんだ。場所は気配探知で捉えているから一緒について来て欲しい」
2人はベッドから飛び起きて支度をすぐに済ませた後に、俺の側で立つ。
「準備終わったわ」
「こっちもだ」
2人とも寝起きにすまない。マリアとアルシアは隠蔽マントで姿を眩まして俺の後ろをついて来てくれ。俺は、コートのフードを深く被って行くから。そう言って部屋を出て通りを歩きながら念話を繋げる。
『マリア、アルシア聞こえるかな?』
『聞こえるよ、ハル』
『こっちも聞こえるぞ』
『ここからは、念話でよろしくな』
『『わかった(わ)』』
周囲から見れば俺は1人で歩いていることになる。気配探知スキルで捉えたシェルの居場所に近づいて行くと、どうやら冒険者ギルド内にいるようだ。
ギルドに入る前に俺は裏路地で隠密スキルを発動し、ギルドへ向かおうとしたらマリアに呼び止められてしまった。
『待ってハル!』
『っどうした?』
『そのスキル使うと、私達も見失うの!』
『マジか・・』
これは誤算だった。仕方なく隠密スキルを解除してフードを深く被り顔を見にくくさせた後にギルドへ入って行く。
ギルド内は、いつもと同じ光景だったが空気が張り詰めているように感じながら受付にいるアメリアのところへ移動しシェルを見ていないか聞くことにした。
「おはよ、アメリア」
「おはよう・・ハルさん?」
覗き込むように俺を見上げるアルシアは、不思議そうな顔をしている。
「俺のパーティー仲間のシェルを見てない?」
「シェルさんをですか?今日は、遅出出勤で来たばかりなので見てないですね」
「そうか・・なんか今日のギルド雰囲気がいつもと違うね」
「やっぱりわかります?」
アメリアは、カウンター越しに上半身を出し手招きし小さな声で告げてきた。
「じつはですね、2階のギルドマスター部屋に勇者様一行が来ているんです」
「勇者一行が?」
驚きを隠せない俺が、勇者に会えると喜んでいると勘違いしているアメリアが、聞いてもいないのに詳細を教えてくれた。
「なんでも、連れ回している猫人族少女の1人が男冒険者に乱暴されて殺されそうになったと聞いて、その男を連れ出して来いとマスターに詰め寄っているみたいなの」
「・・マジか?」
背後にいるマリアとアルシアから冷たい視線を感じる俺は、乱暴なんかしていないと念話で伝えたが納得してくれなかった。
「しかもですね、その連れ回している獣人少女が4人いるのだけど、銀髪と金髪の子がかなりご立腹らしいんです。しかもただならぬオーラを持っているから只者じゃないって職員達で噂になっています」
「その男は終わったね。巻き込まれないよう、俺は帰るよ」
「それが賢明だと思いますよ」
俺はアメリアと別れて、まだ営業していない酒場の椅子に座る。
『ハル・・どうするの?』
『参ったな・・ここで勇者と会うのはマズイよな』
『でも、シェルを探さないとだよ』
『わかってる』
マリアに見つめられながら、ここを一旦出るかシェルを捜索するか悩んでいた時だった・・。
ズドーンッ!!!!
突然、2階のギルドマスター部屋のドアが轟音と共に粉々に吹っ飛び、破片と共にボロボロになったシェルが頭を下に1階に落ちて行く姿を捉えた。
「シェル!」
俺は、受け身を取ろうとしないシェルの頭が床に叩きつけられるギリギリのところで、自身の体を入り込ませ緩衝材の役目を担った。
ドドンッ!!
「ぐぁっ!」
抱き抱えたシェルの全身は、自らの血で真っ赤に染まっている。顔や手足に防御創が1つも無いことに違和感を感じていると、2階のギルドマスター部屋から少女の怒鳴り声がギルド内を響き渡る。
「お前なんて知らない!突然現れて、親だなんて言うなぁー!」
感情を爆発させた銀髪少女が、俺達の方に殺気を飛ばし睨みながらスッと右腕を上げ俺達に向ける。
「ダメだよリルちゃん!」
銀髪少女の隣に茶髪の猫人族少女が必死に止めようとしている。
「止めないでミリナ!」
「ミリナ、その手を放して上げて」
「・・クウコちゃん」
茶髪の猫人族少女の隣に新たに姿を現したのは金髪少女で、銀髪少女の行動を支持しているようだ。その言葉に茶髪の猫人族少女は仕方なく受け入れたようで、掴んでいた銀髪少女の手を放して後ろに下がった。
「ありがとう、ミリナ」
2階のやりとりを見上げていると、その背後から勇者と他の黒髪少年達が廊下に姿を現す。
「なるほど・・アレが噂に聞く勇者ハーレムの獣人シスターズか・・」
そう呟きながら、今ある時間を使いシェルに治癒魔法エクストラヒールをかけて全身の傷を癒し、頬を軽く叩いて意識を覚醒させる。
「シェル!起きろ!」
「・・んっ・・くぅ・・ハル?」
「迎えにきたぞ。さぁ、帰ろう」
「そうか・・負けたのか。ハル、娘が想像を遥かに超えた力を身に付けていて負けてしまったのじゃ」
「なんだ・・シェルの娘より俺は遥かに強いぜ」
「ふふっ・・ハルらしい言葉じゃな。なぜか安心できる。不思議じゃの」
俺はシェルを抱き抱えて立ち上がり、宿屋へ変えるため念話でマリアとアルシアを呼び出口へと向かうと、少女の声が俺を呼び止める。
「その銀髪の女を置いて帰りなさい!」
俺は振り向き顔が見えないよう、フード越しに2階廊下にいる銀髪少女を無言で見る。
「・・・・・・」
「何よあなた!私の言う事に従いなさい!」
「それは無理だな・・」
そう言い残し踵を返し出口に向けて歩き出していると、巨大な魔力を一瞬のうちに圧縮したのを感じ取った俺は立ち止まり再び銀髪少女を見上げ呟く。
「マリア、アルシアは俺の後ろに」
2人は素早く俺の背中に隠れてくれる。
「最終警告よ!その銀髪の女を置いて去りなさい!」
「・・はぁ、キミね・・勇者のハーレムは、そんなに偉いのか?」
「なっ・・何言ってるの!勇者ハーレム?私は勇者のモノじゃない!過去も今も未来も1人の男しか認めていない!」
目を見開き俺を見て否定している。
「それが、そこの黒髪黒目の勇者様なんだろ?」
「違う!!」
なぜか勇者ハーレムを全力で否定する銀髪少女の意味がわからない。世間で獣人少女は勇者ハーレムの一員だと認知されているのに。
シュッ
隣にいた金髪少女から放たれた鋭利な風に襲われ、顔を隠していたフードが切れて吹き抜ける風でフードが捲れ俺の顔があらわになってしまった。
「やべっ」
俺の顔を見た銀髪少女と金髪少女は時間が止まったように硬直し目を見開いているように見えたが、俺はそんな事よりも、背後にいるマリアとアルシアを俺に抱きつかせてから隠密スキルを発動し姿を消してギルドから逃げるように立ち去った。
ギルド内に叫ぶような声がした感じだが、聞き取れなかったため追手がいないことを確認しながら馬車預かり所でアルシアの馬車を引き取りこの街を出て王都方面へ出発し、2日経ってから久しぶりに隠密スキルを解除する慎重振りな俺をマリア達が笑っていた。




