7章 王国マリア編 7話 仲間の死
移動で1日を消費して夕方になった今は、セレンダ高原の北側に辿り着いた。
「マリア、気配探知スキルで周囲を捜索してみて」
「わかったわ」
マリアが御者台で立ち上がり集中し、少しして口を開く。
「ここから右前方に6人が魔物と交戦中みたい・・それと、同じ方向のさらに向こうに何かいるみたい」
「わかった。ありがとう」
マリアの気配探知で高原一帯の存在が明らかになった。
「それじゃ、交戦中のパーティー支援に行こう。アルシア頼む」
「わかった」
アルシアが止めていた馬車を動かそうとした瞬間にマリアが止める。
「待ってアルシア!何か変な気配が近づいているんだけど、消えたり現れたりしながら移動してるの」
マリアの言葉で俺は気配探知スキルを発動すると、ここから遠くの街道をこちらの方向に向かって移動する5人を捉えた。
この5人は、探知系スキルから欺瞞する何かを使っているようでハッキリ捉えている俺には効果無いが、練度の低いマリアはハッキリ捉え続けれないようだ。
「マリア、その5人の移動ペースだと日没後に高原にくる感じだよ」
「そうなんだ・・その5人って何者なんだろうね・・」
俺は、その5人を常時監視対象に設定しながら、交戦中のパーティーの元へ向かうようアルシアに指示した。
数分後に辿り着いた俺達は、フォレストベアと対峙中のパーティーに近付き声をかける。
「ギルド要請で来た。支援は必要か?」
パーティーリーダーと思われる男剣士が振り向き答える。
「ここは大丈夫だ!この先にいるパーティーに怪我人がいて、身動きが取れないらしいんだ!そっちの救援に向かって欲しい」
「わかった!無理するなよ」
少し離れた位置に止めていた馬車に戻り、シェルを馬車の直接警戒で残しマリアとアルシアを連れて怪我人がいるパーティーの元へ向かう。
「マリア、気配探知は発動している?」
「うん。あれからずっと発動してるよ・・あの茂みの向こう側にいるわ」
マリアが捉えている気配探知スキル能力は向上していて、近い範囲なら詳細にわかるようになったようだ。
抜剣して茂みを抜けると6頭のウォーウルフに囲まれた4人パーティーが見えた。
パーティーのうち2人が血だらけで倒れていて、それを守るように男剣士と女剣士が剣を構え対峙していた。
「アルシアは左、マリアは正面を!俺は右のウルフを狙う」
「「オッケー!!」」
「よし、戦闘開始っ!」
俺の合図で3人同時に地を蹴り間合いを詰めて行く。
急襲に気付くことに遅れたウォーウルフは、標的を俺達に切り替え襲いかかってくるが手遅れだ。
マリアは、チラっと見せる白い太ももから抜き出した2ほんのスローイングナイフを華麗に投げて正面の2頭の眉間に命中させ、転倒したところを短剣で素早く斬り捨てる。
「・・あれはもう、お姫様の動きじゃ無いな・・アサシンのマリアだ」
マリアの向こう側のアルシアに迫る2頭のウォーウルフは、連携して頭上と足元からの同時攻撃を仕掛けている。
「はぁぁっ!!」
アルシアの持つ細剣は、まるで2本あるかのような素早い刺突をギリギリの間合いで、まずは頭上のウォーウルフの喉元を貫き、まばたきも許さぬ速さで足元のウォーウルフの眉間を貫きながら左に体をズラして肉の塊となった2頭との衝突を回避する軽やかな身のこなしだ。
残り2頭は、本能を剥き出しで俺に襲い掛かっていたところで体を捻り茂みの方へ逃げて行こうとしている。その2頭に火魔法ファイヤアローで焼き殺そうと左手を前に伸ばした瞬間に背後から聞こえるマリアの声でしゃがみ込む。
「ハル!伏せて!!」
シュッ・・シュッ・・
ギャン・・ギャッ・・
頭上を時間差で2本のナイフが空を切って進む音が聞こえた後に、2頭の悲鳴が短く聞こえ前を見ると2頭のウォーウルフがマリアのスローイングナイフが足に刺さり動けなくなったところを、マリアが近付き短剣でトドメを刺され絶命していた。
俺は、手負いの冒険者パーティーに近付き男剣士にポーションを渡すと、急いで倒れた仲間の元に行き2人に飲ませようと上半身を起こしてやっていたが・・どうやらすでに事切れていたようだった。
仲間の死を悲しんでいた2人が、落ち着いたようで男剣士が俺のところにやって来る。
「あの・・助けて頂きありがとうございます。僕は、キースです」
「ハルだ・・間に合わなくてすまなかった」
「そんな、これは僕達が過信していた結果です」
頭を下げて礼を言う彼の姿は、後悔の念でいっぱいのように見える。
「冒険者なら、亡くなった2人の志しを忘れずに生きろよ」
「「・・はい!!」」
キースは、亡くなった2人からギルドカードと装備類を回収し石で地面に穴を掘り始めている。
「キース!2人を火葬しようか?」
「いいんですか?」
「あぁ、宗教的に問題無ければだけど」
キースは、女剣士と確認を取り問題無いと教えてくれた。
「わかった。無理に答えなくて良いけど、あの2人は親密だった?」
「はい・・幼馴染で、やっと最近恋人になったばかりだったんです」
「・・なら一緒がいいな。2人をもっと側に寄せてあげてくれる?」
「はい。わかりました」
キースは、女剣士と協力し2人の手を繋がせたところで俺は治癒魔法ヒールで2人の傷付いた体の傷痕を綺麗にして生活魔法クリーンで綺麗にしてあげた。
「まるで、寝てるみたいだねキース」
「リカ、ホントだね。今にも起きてきそうだ」
俺は、2人の背後からそっと呟く。
「・・キース、2人に最後のお別れを」
キースと女剣士は、亡くなった2人に寄り添い話し掛けた後にゆっくりと離れた。
「ハルさん、終わりました」
「わかった・・始めるよ」
「「お願いします」」
俺は魔力を圧縮し2人の亡骸を蒼白い炎で覆い一気に燃やす。
シュゴッ!!
「す・・すごい魔力だ!」
「綺麗な炎だわ」
蒼白い炎を地面から離し浮かせた形を球体に変化させる。
「キース、リカ・・今から2人を天に送るから、最後までちゃんと見届けるんだよ」
「「はい」」
「いくぞ!サン・ニ・イチ」
ドンッ!シュゴォォォォォ・・・・
蒼白い球体の炎が尾を引いて、雲一つない空へと高く飛んでいく。
しばらく見上げていると、球体の炎は見えなくなり、引いていた尾も見えなくなった。
「ありがとうございますハルさん。これで2人も満足していると思います」
「そうだといいね。これから2人は街に戻るの?」
「はい。このことをギルドに報告しないといけないので」
「そうか、気をつけてね」
「はい、失礼します」
2人の背中を見送り姿が見えなくなった後、シェルがいる馬車へ戻ろうとした時だった・・。
「んぐぅ〜ん〜」
「アルシアー!!」
「ん?」
後ろを歩いていたマリアが、突然泣き叫ぶ声でアルシアの名を呼んだ声に驚き振り向くと、アルシアの胸から真っ赤に染まった剣が突き出しポタポタと血が垂れ、アルシアが大量に吐血しその背後に男がニヤついた顔で立っていた。
「ぐへへへ・・初めて成功したぞぉ〜」
「なっ・・アルシア!」
ドサッ
男がアルシアを投げ捨て、マントを被り姿が消えていくところにマリアが叫びながらスローイングナイフを投げるが、ギリギリのところで男は躱し姿を消す。
アルシアは血溜まりの中で倒れ意識を失い、ドクドクと鮮血を胸から溢れ出している。マリアは震える手でHP回復ポーションを振りかけて呼びかけるが止血できていない。
「アルシア起きて!・・アルシア!お願い起きてよ!・・アルシアー!」
俺は気配探知スキルで完璧に捉えているアルシアを刺した男を追うか、マリアを手伝ってアルシアを治療するか一瞬迷ってしまい、すぐに動くことができなかった。




