7章 王国マリア編 6話 緊急クエスト
昨日のうちに旅の準備を済ませた俺達は、早朝に宿屋を出発し国境都市ノスガンから旅立ち、スパイル王国領の西にあると言われる都市ニシバルへ向かい街道を進んでいる。
「みんな、ここから長旅だ・・のんびり行こう」
「「「は〜い!!!」」」
ノスガンを出て数日が経ち、みんなの野営生活も手慣れて役割分担も固定されている。
そして、途中からアルシアから御者のやり方を教えてもらい、今は俺が御者をしている番だ。
旅は順調に進み、雨も降らず大きな出来事もなく6日目の昼過ぎ辺りに4つ目の都市に辿り着いた。
「ようこそ、スパイル王国領地方都市ハバールへ!」
王国の門兵は、帝国で見かける門兵とは対照的で愛想の良い気がする。
「どうも・・。はい、人数分のギルドカードです」
「おぅ、手際が良いな。助かるよ・・っと帝国冒険者か」
「はい・・なんだか賑やかですね」
門兵がギルドカードを俺に返しながら口を開く。
「はいよ。まぁ、普段は静かな田舎街だからここまでじゃないんだ。けどな・・噂の勇者様が街に初めてやって来るからもうお祭り騒ぎなのさ」
「ゆ・・勇者様がこの街に!!」
「しっ!声が大きいぞ」
「すいません」
門兵の男がニヤッと笑い手を振りながら言った。
「まぁ、興奮するのもわかるぞ。詳しいことは言えないから行っていいぞ」
門兵に見送られながら街に入った俺達は、いつものように馬車を預けて宿屋を探した・・・・けれど。
予想外だったのはどこの宿屋も空き部屋が無いことだった。
「マズいな・・」
「ハル・・次でもう5軒目よ・・今夜は野宿かな?」
6軒目の宿屋に向かう途中に、右を歩くマリアが心配そうに聞いてくる。
「・・野宿は避けたいね」
そう呟きながら6軒目の宿屋に入り、受付の青年に空き部屋を尋ねたが大部屋は満室だが1人部屋が4部屋空いていると言うことだったため、俺は即決した。
1泊4人分を支払い鍵をもらい階段を上がる。部屋は3階にあるようで、手前からシェル、アルシア、マリア
そして俺の順で割り当てた。
ガチャ
久しぶりの1人部屋のベッドに飛び込み、目を瞑りながら手足を思いっきり伸ばし呟く。
「ん〜〜久しぶりの1人部屋だぁ〜っと」
リフレッシュした気持ちで目をゆっくり開け天井を見つめ静かな時間が流れる。
「・・・・・・・」
なんだろう・・最近感じている、なんとも言えないこの喪失感は・・。
王国に入って来てから感じとっている喪失感。
何か大事なモノを手放したままなんじゃないかと。でも、今はその答えに辿り着けない。
「はぁ〜〜」
長い溜息をついて上半身を起こし、窓際へ移動し外を眺める。
「どんなに俺の身近で何か辛い事が起きても、この街は・・この世界はいつもと変わらない日常が過ぎて行くんだろうな」
誰にも聞かれない声量で独り言を呟いていると、部屋のドアがノックされた。
コンコン・・
「ハル?」
ドア越しからマリアの声がする。
「開いてるよ」
ゆっくりとドアが開き半分ぐらいのところで止まり、マリアが顔を覗かせ視線が1度ベッドに向けていないことに気付くと素早く動かした後、窓際にいる俺を見つけると笑顔になる。
「ねぇ、今から冒険者ギルドにでも行って、活動登録だけでもしない?」
「・・そうだね、夜までに時間があるし。アルシアとシェルを呼んで来てくれる?」
「うん!わかった」
マリアはドアを閉めて、2人を呼びに行く。本音は1人でゆっくり過ごしたかったが、あの笑顔を見せられると断れない。
気持ちを切り替えて部屋を出ると廊下にはすでに3人が待っていてくれていた。
「お待たせ・・さぁ行こう」
受付にいる青年に鍵を渡すついでに冒険者ギルドの場所を聞いて宿屋を出る。
通りを歩きギルドに向かう途中にすれ違う人々は、皆楽しそうな顔をしている。
きっと勇者様が訪れることが嬉しいのだろう。
「なんか街全体がお祭り一色だな・・これじゃ、ギルドに依頼が1つも出てないかもな」
「よほど勇者が歓迎されておるのじゃろうな」
「だろうね。俺達は気にせずギルドに行こう」
賑わう通りを歩きギルドに入ると冒険者は数える程で、大勢のギルド職員が書類片手に慌しく動きまわっている。
「依頼掲示板は・・っと」
ギルド内を見渡し依頼掲示板を探していると、目の前を忙しく通り過ぎる女性職員が急に立ち止まり振り向き俺を見て威圧的な態度で近づいて来る。
「あなたたち!いつまでギルドにいるの?」
「はい?」
「はい?っじゃないでしょ!直ちに緊急クエストに行ってください!」
「・・いや、でも・・俺ら帝国冒険者なんだけど」
「・・・・帝国冒険者?」
胸元にしまっている帝国の冒険者ギルド発行のカードを見せる。
「あぅ・・コホン・・・・少々お待ちください」
女性職員は踵を返し事務所の奥へと戻り消えて行く。すると事務所の奥から彼女の声が微かに聞こえた。
「チクショーー!!やっちまったぁ〜!」
ドンッ!!・・・・キィ
さっき彼女が事務所へ入って行ったドアとは違うドアが開いて、澄ました顔の彼女が姿を現して受付窓口に座り何事もなかったような顔つきで俺を見て呼ぶ。
「そちらの帝国冒険者パーティーの皆さん、こちらの受付にどうぞぉ〜」
「「「「・・・・・・」」」」
「どっ・・どうぞ〜」
なぜか苛立っている彼女に2度呼ばれたところで受付窓口へ移動する。
「まずは皆さん、活動登録をしますのでカードを出してください」
彼女の指示に従いギルドカードを提出して活動手続きを終わらせると、カードを返す前に彼女が思わぬことを言ってきた。
「当ギルドの緊急クエストを受けてもらえませんか?」
「緊急クエスト?・・内容と報酬は?」
「ギルドに提示されている、勇者様一行の通過経路にいる魔物殲滅で報酬は金貨5枚です。特典は、勇者様一行に会えるかもです」
「・・その特典、微妙だな」
ギュッと俺達のカードを持っている彼女は、俺たちがクエストを受けるまで返してくれなそうに感じたため、振り向きみんなに聞いてみる。
「どうする?」
「まぁ、一目勇者様を見たい気もするな。
アルシアは、勇者に興味がありそうだ。
「私は・・・・」
マリアは過去に会っているため、避けたいような感じだ。
「ん〜勇者と共に行動する強い獣人達に興味があるから見たい気もするがのぉ〜」
シェルは、勇者よりは獣人の方が興味あるようだ。
「そっか・・悩むな。別に金に困っているわけでもないから受けなくても良いんだよな〜」
チラッと受付に座る彼女を見ると、俺と視線が重なりハッとした顔になりカウンターしたから何かを探し出してきた。
「あの・・特別ですよ!コレは、勇者様一行が通る予定の経路です。このセレンダ高原:を中心に集中的に狩っていれば確実に会えますよ!だから・・ね?お願い、お願いします勇者様!」
「勇者じゃないし・・」
「黒目黒髪は、勇者様の証と良い伝われています・・・・アレ?帝国から来たのですよね?」
「あぁ、帝国から国境を超えて王国領に来ましたけど何か?」
彼女が急にジッと俺の顔を見つめている。
「あぁ、似てる。とっても似てるの」
「似てる?誰にですか?」
「・・私のことを覚えてませんか?アメリアです」
ズキッ・・
彼女がアメリアと言ったと同時に頭痛に襲われる。
「いっ・・アメリアさんですか・・ゴメン思い出せないんだ」
「そう・・ですよね。すいません、私情を挟んでしまって」
俺が憶えていないことがショックだったのか、涙目になり俯いてしまった。
きっとアメリアに会っていたという俺に似ている男とそれなりの繋がりがあったのだろう。
少し申し訳ない気持ちになってしまった俺は、ギルドの緊急クエストを受ける決心をする。
「アメリア、そのクエスト受けるよ」
「あ・・ありがとうございます。ハルさん」
アメリアがカードを返してくれて、クエストの詳細を教えてくれる。
「ハルさん、勇者様は3日から4日以内にこの街に到着する計画で、ここからセレンダ高原は1日かかるため出発を急ぎ必要があります」
「わかったよ。明朝にはこの街を出るよ。俺達の他に参加しているパーティーはどれくらい?」
「はい、ハルさんのパーティーを含めて10 パーティーです」
「そうか、ありがとう」
アメリアと別れて、ギルドを出る前に3人の方を向いて告げた。
「みんなゴメン。なんか受けないといけないような気がしたんだ」
そういうとマリア達は了承してくれた。もちろん、勇者と面識のあるマリアにはアルシアとシェルが商店で自慢していた隠蔽マントを使い姿を消す約束をして。
ギルドを出て宿屋に戻る途中の通りに立ち並ぶ出店が気になり、夕食を食べ歩きすることにした。
皆にお金を渡し好きなだけ買って、残りはマジックポーチに収納すれば良いと告げると3人は喜びながら駆け出して行き、俺は1人取り残されてしまう。
1人になった俺は、立ち並ぶたくさんある出店の中で香ばしく漂う店の前に居た・
「いらっしゃい!当店自慢の特製タレに漬け込んで焼いた肉串は最高だぜ!」
白髪混じりのガタイの良いおっさんが、太い腕で器用に肉串を焼いている。
俺は、その手捌きをジッと見ていると視界を覆うように目に前に肉串があった。
「うわっ」
「ほらよ、食ってみな」
「でも・・」
「いいから、いいから」
おっさんから肉串を受け取り一口食べてみる。固過ぎない肉は口の中で、たっぷりとため込んでいた肉汁を溢れ出していき噛むほど美味さが広がっていく。
「んっまいよ」
「だろ?代々伝わる秘伝の特製タレを使っているからな」
「おっちゃん、今ある在庫全部焼いて」
「はっ?全部か?そんな食えないだろ?」
おっさんは1人で完食できない量を買おうとする俺を信じられないような表情で見ている。
「大丈夫だよ。俺のパーティーに食わせるから。コレで足りる?」
そう言って金貨30枚を手渡す。
「おぉ!こ、これは、もらい過ぎだ」
「良いよ受け取って。ちなみに今日の在庫はどれくらい?」
「仕込み終わったのが500本で、焼き終わったのが50本だ」
「十分な量だね。そのままコレに入れて」
アイテムボックスの口を開き、袋に包まれたままの500本を収納し焼き終わった50本のうち40本を袋に入れて収納する。
「若いのに、すげぇの持っているな」
「まぁね・・それじゃ」
「あぁ、また買いに来てくれな!」
肉串を持った袋を持ち、通りを歩いていると少し先の出店でマリア達が列に並んでいる姿が見えた。
「お〜い!」
「あっハル!こっちこっち」
マリアが手招きして俺を呼ぶ。
「何の店に並んでいるの?」
「わからんが並んでいるのじゃ!」
シェルが胸を張って答える。
「何それ・・もしかして2人も?」
「「・・・・」」
マリアとアルシアは、俺から視線を外し遠くを見ている。
「まぁ、あそこの広場で待っているから」
並んでいる3人と別れて広場の石垣に座りまっていると、満足そうな3人が並んで歩いて来る。
「なんだか満足そうだね・・」
「ウプッ・・たくさん食べたからな」
アルシアがお腹をさすり答える。見た目は美少女なのに仕草が、おっさんくさいのが残念だ。
「お前、また食べ過ぎじゃねーか」
合流し満足したところで宿屋に戻り明日の出発に備えて、それぞれの部屋に戻り眠りについた。
翌朝目覚めた俺は、昨夜に大事なことを伝えるのを忘れていたことに気付く。
「やべぇ・・朝の集合時間言ってなかった」
急いで支度を済ませ部屋のドアを開けようとした瞬間にドアが開けられた。
ガチャッ
「おっと・・」
「ハル、支度できた?」
支度を済ませたマリアがドアを開けて呼びに来てくれたようだ。
そのまま部屋を出て下に下りるとシェル達が受付の前にいる。
「やっと来たか」
「ゴメン・・遅くなった。アルシアは?」
「馬車を引き取りに行っているところじゃな」
「そうか、なら宿屋の外で待とう」
ちょうど宿屋を出たところで、アルシアの馬車が到着する。
「すまん、アルシア」
「おはよう、ハル。大丈夫だ、出発しよう」
「わかった」
俺達は、まだ静かな早朝に出発して、セレンダ高原に向かった。




