1章 はじまり 9話 新人騎士団の初陣①
アイナ副騎士団長Side
どうして・・どうして・・お兄ちゃんだけが連れて行かれないとダメなの?
お願い・・大好きなお兄ちゃんを連れて行かないで・・・・。
周りにいる大人たちは、どうしてそんな顔してるの?お兄ちゃんは悪くないのに・・。
あっ・・・・・
「アイタタタ・・ここは?」
確か昨夜は、王城正門前で対峙した冒険者の元へ行ったことは覚えているが、その先の記憶が曖昧だ・・。
近くに獣人の娘が寝ているが、いつも側にいる男が見当たらない。私は体を起こしテントから出る。
テントを出ると、毛布に包まりイスで寝ている男を見つける。近くに歩み寄り顔を覗くと、初対面のはずなのにどこか懐かしい感覚になってしまう。
そっと無意識に目元まで隠している毛布を下げて顔が見えるようにした。
「何故か安心する寝顔だな・・」
近くに置いてあったイスを彼の正面に置いて、私は座る。
ずっと見ていられる彼の寝顔に惹かれてしまっている。すっと自分の顔を近づけて、近くで彼の顔を見つめる。
とても愛おしく感じる・・初めて会ったはずなのに。
「アイ・・ごめんな・・」
突然、彼が呼ぶ名前に心がギュッと締め付けられる。私には関係ない名前だが、まるで本能が反応しているような感覚だ。頭で考えるより先に体が動いてしまう。
気付けば、そっと彼を抱きしめて涙を流す自分に気付き驚愕する。
慌てて離れようとするが、心と体が拒絶する。次に私がこんな行動をしてしまうとは・・。
「ん・・・・」
彼と口付けを交わしていたのだ。ありえない。私は王国騎士団副団長のアイナ=スクートだ。
だが、ものすごく安心する力に包まれている感覚になる。
名残惜しい気持ちを抑えて彼からそっと離れ、起きる前に自分のテントに戻ることにした。
帰り際、右手で唇に触れて笑顔になっていることを部下に指摘されるまで気付くことはなかった。
ハルSide
「くぅ〜アイタタタタ」
目が覚めると思った通り全身がバキバキだ。ふと首筋がくすぐったいと思い、右手で払うと長い金髪の髪が落ちていた。
「お?この髪は・・確か副団長様の?・・あぁ確か昨夜は一緒に飲んでいたな。居ないってことは無事に自分の寝床へ戻ったのか」
ガサガサ
テントからミオを出てきた。
「おはようございます、ご主人さま」
「おはよう、ミオ。頭は痛くないかい?」
「はい。大丈夫です」
「そうか・・飯にしよう」
消えた焚き火に火をつけて暖をとる。流石にこの季節でも朝方は冷えている。
節約のため昨日残った野菜スープを温めてミオに渡す。そのあとにパンと干し肉を渡して今日の朝飯とした。
朝食を食べ終え、素早く野営セットを撤収すると、遠くで出発の合図が聞こえてきた。
前方の方は出発しているが、最後方の俺達が出発するにはまだまだかかりそうだ。
やっと動き出し南の森へと向かう。3時間ほど歩いたところで隊列は止まっている。
前の方から護衛の冒険者と新人騎士達の混合編成を作り森へと入っているようだ。
数十組の混合編成で森へと入っているようだが、俺達の近くにいる騎士は女騎士ばかりだ。
昨日の出発時は隊の真ん中にいたはずだが、今日は最後方に配置されている。
「ご主人さま、なんかハーレムみたいですね」
「だな・・まぁ男は他にもいるけどな」
冒険者パーティーには男が大半を占めているが、屈強な女冒険者も存在する。
女騎士の護衛には女冒険者がいる冒険者パーティが配置されている感じだ。
「私達の護衛をする方はあなたですか?」
赤眼で赤髪を肩まで伸ばし背はミオと同じくらいの女騎士が反仕掛けてくる。
「あぁ、そうみたいだな」
「新人騎士のリン=マードラです。この騎士隊のリーダーです」
「冒険者のハルだ。家名は無いよ。こいつは、相棒のミオ」
「ハルさん、よろしくお願いします。私のことは、リンとお呼びください」
「そ・・そうか・・よろしくな、リン」
リンは一礼して隊の元へ戻って行く。新人騎士の護衛だが、基本的に戦闘訓練の支援はしない。
対処できない魔物や生命の危機に陥る可能性が予期されるまでは近傍で静観することになっている。
「それでは冒険者の皆さん、私達も森へ出発します」
10数人程の騎士隊のリーダのリンは、順調に指揮を取って行動している。
俺達、護衛冒険者も後方に少し距離をとり行動する。
念の為気配探知スキルを発動し周囲の警戒をして、森の中を30分ほど移動していると前方に魔物の反応が数体あった。
新人騎士達は気付いていなそうだが、十分軽快しながら進んでいるから対処はできるだろうと思い忠告はしなかった。
「リーダー!前方に何かいます」
女騎士の一人が、やっと気付いたようだ。
「よし! 前衛の盾隊は陣形を取れ!」
盾役の5人が横一列になり態勢を整えて待ち構える。
深い茂みから、姿を現したのは鉈を持ったゴブリンが4体。
グギャギャ・・ギャギャ
ゴブリン達は獲物を見つけ喜んでいるような顔付をしているように見える。
「「「わわわわ・・」」」 「「魔物だ・・」」
新人女騎士達は、初めての戦闘で不安と恐怖に包まれている。特に盾役が全身がこわばっている。
「み・・みんな・・おちつくんだ訓練を思いだせ」
女騎士リンが隊の統制を維持しようとしているが、初陣で浮足だっている。
初陣だろうが関係ねぇと言わんばかりにゴブリン達が女騎士達へ仕掛ける。
ギャギャッ
キャッ
ガゴゴン!!
ゴブリンは連携して盾役に打撃を与えた。2体同時に打撃を受けてしまった盾役の一人が尻餅をついて倒れてしまった。
この間隙を利用し2体のゴブリンが女騎士隊陣形を崩す。
「慌てるな・・直ちに全員攻撃にうつれー」
女騎士リンが、戦術を無視して突然の全員攻撃を指示した直後に盾役の女騎士達が盾を捨てて抜剣する。
「おいおいマジかよ・・ミオ、いつでも行けるよう準備しといて」
「はい、わかりました」
俺の支持を聞いたミオは、側から離れて攻撃に優位な場所へ移動して行く。
もちろん、俺の視界から見えにくい位置を選ぶことはない。
リン達女騎士は、連携も取らず個々に攻撃をしている。ゴブリン達の方が連携して戦っている。
きっと経験値の差だろう。優位に立てない戦況にリンが中央にいるゴブリンに攻撃を躱された隙に、後方から他のゴブリンの打撃を背中に受けて弾き飛ばされ地面に倒れ込む。
倒れ込んで立ち上がらないリンを見た女騎士達は呆然として、動きが止まってしまった。
その隙をついたゴブリン達はリンを集中的に攻撃し始めようと近寄り、鉈を高く振り上げたと同時のタイミングでミオに合図を送る。
「はい」
強く短い声で返事をしたミオは、全力で飛び出す。
俺の周囲にいた冒険者達は新人女騎士達の異様に気付き反応しているが、そこからの距離では間に合うはずはない。
ミオは一瞬で動けないでいる女騎士達の間をすり抜けて、リンの元へたどり着くとフル装備のリンを軽く持ち上げて離脱する。
ドドゴンッ
ゴブリン達はリンがさっきまで倒れ込んでいた場所を力強く打撃したがそこに彼女の姿は無く、ただ地面を叩くだけの動作になっていた。
突然居なくなった獲物を探すため周囲を見渡し、まだ近くにいる女騎士達を狙うことにしたようだ。
もう戦闘意欲を失っている女騎士達は、ゆっくりと下がり一か所に自然と集まっていく。
防衛本能だろう、集団で居た方がマシだということを知っている。
「はぁ〜こりゃダメだな・・」
「戻りました、ご主人さま」
リンを肩に担いだままのミオが戻ってきた。
「ミオ、お疲れ様。ありがとう」
戻って来たミオの頭を撫でてあげると、目を細めて気持ち良さそうな表情になる。
撫で終わった後にリンをその場で横にさせて、ミオに見張りを任せる。
「サクッと倒してくるよ」
「はい」
アイテムボックスから剣を取り出し、隠密スキルを発動し気配と足音を消して飛び出す。
震える女騎士達に迫るゴブリン達の背後から忍び寄り右端から首を切り落とす。
血飛沫を上げて倒れこむゴブリンは、すでに絶命している。
最後に残った左端のゴブリンは仲間の異変に気付き振り向くが、俺の剣が認識させることなく首を切り落とした。
「みんな大丈夫?」
目の前にいる女騎士達に話しかけるが、反応が薄い。
剣についた血糊を拭き取り鞘にしまう頃、護衛の冒険者達が到着した。
「すいませんが、彼女達を宿営地に連れて行ってもらえますか?今日はこれ以上の戦闘は無理なようです」
冒険者達にそう伝えると、女冒険者達が積極的に動いてくれて宿営地への出発したのを見送ると、リンを担いだミオが側にやって来た。
「ご主人さま、この方はどうなさいますか?」
「あ・・忘れてた。このまま宿営地へ戻ろう」
ミオにリンを担がせたまま森を抜けて宿営地に戻ることにした。
森一帯で新人騎士の戦闘訓練をしているためか魔物に出会う機会がない。
何もなく森を出て宿営地にたどり着くと一際大きなテントが建っている。
そのテントの前には副団長様が仁王立ちになり、新人騎士達の帰還を待っているようだ。
俺はこのままリンを副団長様に預けることにした。
「お疲れ様です、副団長様」
「あ・・あぁご苦労だった。それで、その騎士は?」
「ゴブリンの攻撃を背中に受けまして・・今は気を失っていますが命に問題はありません」
「そうか・・・・」
副団長は、周囲にいた騎士を呼び、リンをヒーラーがいるテントへと運んでいった。
「では、失礼します」
「・・・・あぁ」
素っ気ない副団長と別れて自分達の寝床へ移動する。
出発の際、テントを撤収しようと思っていたが中には毛布しかないためそのままにしておいて正解だった。
テントに入り生活魔法クリーンをかけて二人とも汚れを落とし昼食を摂って寝ることにした。
「ミオ・・おいで」
「はい」
別々の毛布に包まって寝ようと思ったが、しばらく同衾していないことを思い出し、毛布を捲りミオを呼んだ。
ミオは嬉しそうに近づき、ゴロンと毛布の中に入り抱きついてくる。
人族より若干体温が高い猫人族のミオと一緒に寝るのは心地いいものだ。
足元で尻尾がリズムよくゆっくり動き、胸元には彼女の頭があるためネコ耳が触り放題なのだ。
そして、だんだんとお互いの体温が上がっていき眠気に身を任せて意識を手放していく・・・・・・。
この至福な時間を妨げる存在が近づいていることに、この時は気付いていなかった・・・・。




