1章 はじまり 8話 新人騎士団員護衛
おいおい、新人騎士達の護衛?
アイナ副団長様が、とんでもないことを言っている。流石に集まっていた冒険者達も騒めく。
「静まれ!」
アイナ副団長様の一声で静かになる冒険者達。要は騎士団が忙しいから、冒険者達よ手伝え!と言うことだろう。
熱が入って来たのだろうか、兜を脱いで力強く喋り始めている。
バサっと長い金髪をなびかせ整った顔立ちの女騎士だった。
そんな彼女を俺は、きっとどこかの貴族令嬢なのだろうと思いながら途中からアイテムボックスにある野営セットのイスを出してミオと並んで座る。
「ご主人さま〜お話が長いですね〜お腹すきましたよ〜」
隣に座るミオが上目遣いで俺を見ている。
「だよな・・ミオ、アーンして」
「あ〜〜ん」
ミオの口に肉串の肉を1個放り込む。
パク・・・・あむあむあむ
「おいひぃへふぅ〜」
「だろう? あそこの店の肉串は最高だよなー」
ミオと二人だけの幸せな空間を作り、ミオに肉を与える。
近くの冒険者が見てくるが気にしない。さっさと副団長の長い話が終わらないかと思っていると、前方から殺気を持った誰かが近づいて来る。
ミオから視線を外し前を見ると、そこには副団長が仁王立ちし俺を睨みつけている。
「ひぃ・・・・」
隣のミオが小さく悲鳴をあげたと同時に・・。
「貴様!この私の話を聞いてなかったのか!」
「・・・・よしよし」
怖がりネコ耳が力なく倒れたミオの頭を撫でて落ち着かせることを優先する。
「聞いているのか!!」
「・・・・は?」
「ふ・・・・不敬罪だ!」
副団長は顔を真っ赤にし、ワナワナと震えている。今にも抜剣しそうだ。
「ムリ・・・・断る」
ブチィ!!
何かが切れる音がしたような錯覚になっていると、副団長が抜刀し殺気を込めて上段構えをしているのが視界に入った。
俺は、目の前で構える副団長のみに殺気を強めにぶつける。
「ぐはぁ・・くっ・・き・・きさまは・・いったい・・」
蒼白い顔をした副団長の額から大粒の汗が流れ頬を伝い顎から地面へとポタポタ落ちていく。
必死に抗おうとしているのか、彼女の長剣が小刻みに震えている。
「アイナ副団長! いかがされましたか?」
後方から騎士が急ぎ足で近づいて来た。
彼女の側に着く寸前に殺気を鎮めると振り上げた長剣を地面に突き刺し杖代わりにしている。
「いや・・なんでもない」
副団長は肩を揺らして呼吸をしている。小刻みに震えている手で長剣を鞘にしまうと、踵を返し元の場所へと騎士と共に戻っていく。
「怖かったです、ご主人さま」
「もう大丈夫だよ」
ミオを抱きしめて、頭を撫でてやると落ち着いてくれたようだ。
今は、男の騎士が冒険者に指示を出して隊列の編成指示をしているようだ。
「前方警戒のパーティーはこちらへ。後方警戒のパーティーはあちらへ」
指示する騎士は、冒険者パーティーのランクごとに分けて戦力の平均化をしているようだ。
まだ実績のない俺達は後方のさらに後方の位置に配置されることになった。
列の後方に並んでいると、王城正門が開かれた。そこには隊列を組んだ騎士達が数百人が行進している。
皆はキズ1つ無い銀色の鎧を身に纏い歩き、兜は全員脱いでいるようで女騎士だけの隊列もあった。
「ご主人さま・・列のあそこにいる人ってトニーさんじゃ」
「え?トニーが?・・・・どこ?」
「ほら、あそこですよ」
ミオが指差す方向を、ジッと見つめていると・・見つけた。
「おぉ・・トニーじゃん!マジかよ?」
格好だけは一人前の騎士様だが、ガチガチに緊張した顔がイケてない。
護衛中に会えたら、おもいっきり冷やかしてやろうと心に誓う俺だった。
新人騎士達の隊列を冒険者達で囲い王都を出発する。
ぱっと見は軍隊が何処かに移動するようにしか見えない。
他国の人間が見れば、どこかに戦争を仕掛けるんじゃないかと勘違いされそうだ。
王都南門を出てひたすら歩いて移動する。こまめに休憩するため、なかなか目的地に着かないようだ。
「なぁ、今日はどこまで行くのか知ってる?」
俺の前を歩く冒険者に話しかけて見ると、彼は知っているようだった。
「あぁ、南の森へ行くようだぞ」
「そうか・・ありがとう」
「ご主人さまと初めて会った森ですね」
ミオは一歩前に出て振り向き、笑顔で言ってくる。
「そうだな・・あの頃は、ミオは奴隷じゃなかったんだけどな」
「はい・・でもご主人さまに再び会えました」
「ははは。確かにな」
頭を搔く俺は苦笑いしかできなかった。
「きっと運命です。神様に感謝です」
そう言ったミオは、いつもの位置に戻り俺の後をついて来る。
数時間歩いた俺達は、日が沈む前に宿営地を選定し野営をすることになった。
騎乗している騎士が、明日の出発時間を告げて走り去ると冒険者達で夜の見張り番を決める。
戦力外とみられている俺達は頼りないということで今夜は免除されてしまったが、少し離れた場所で過ごすよう言われた。
「夜の見張りが無い代わりに、肉壁というやつをやらされているのか?」
「そんなことは無いさ。オメェ相棒は獣人族で若い女だろ?だからさ」
「そういうことか・・わかった。行くぞミオ」
ミオを連れて、冒険者達から距離を取り、野営セットのテントを設営を素早く済ませ、日が落ちる前に焚き火をして明かりを確保する。
「軽く夕飯を済ませて、早めに寝よう」
「そうですね。久しぶりに歩き疲れました」
調理セットを取り出して、商店で買った食料を出す。
それと、朝残った野菜スープを鍋に入れて温めなおし追加に肉詰めを数個入れてみる。
ミオに料理をまだ教えてないから、しばらくの料理当番は俺になる。
煮込んでいた料理を待つ間に酒場で買っていたエール樽をと果実酒が入った瓶を出して、果実酒を入れたコップをミオに渡す。
「ありがとうございます。外でも果実酒を飲めるなんて幸せです」
「そうか・・それは良かった」
「「カンパーイ」」
エールを一気に飲み干した俺は、ミオが固まっていることに気づいた。
「ミオ、どうした・・」
「貴様はここで何をしている?」
昼に最悪な出会いをしたアイナ副団長が立っていた。害意を感じなかったため気づかなかった。
「何をしているって、野営ですが」
「そんなことは・・わかっている・・その・・」
今のアイナ副団長は、ハッキリしないな。昼の時と正反対の人格だ。
「副団長様、部下が見当たりませんが、お一人ですか?」
「そ・・そうだ。ひ・・一人だとダメなのか?」
あーそういうことか。何かを理解した俺は、突然やってきた副団長を受け入れることにした。
「副団長様。ずっと立ってないでどうぞ座ってください」
アイテムボックスからイスを出して、副団長様が座る席を用意する。
「な・・な・・どこからイスが・・」
突然出てきたイスに驚きを隠せない副団長様は俺とイスを交互に見るだけで、なかなか座ろうとしない。
「いいですから座ってください」
「きゃっ・・」
立ち上がった俺は、座ろうとしない副団長様の肩に触れて無理矢理座らせた時に、女の子らしい声を副団長様が発したように聞こえた。
焚き火のせいなのか、副団長様の顔は赤い。新たにコップを出して飲みたい方を聞く。
「エールとミオが飲んでいる果実酒どちらがいいですか?」
「な・・酒があるのか?」
「・・・・あるよー」
なぜか、このセリフを言いたくなった。
「では、エールを」
冷えたエールをコップに注ぎ、副団長に渡す。目を見開いてエールを見つめる副団長の表情が面白い。
「それじゃー今日の無事を祝って、カンパーイ」
「カンパーイにゃ」
「か・・カンパイだ」
語尾に、にゃをつけたミオは酔っ払っていた。俺が副団長の相手をしている間に果実酒の瓶が半分以上減っている。
おっと、煮込んだ野菜スープが出来上がったようだ。
調理セットから椀を3個出して、野菜スープを副団長に渡す。
「どうぞ。自家製の野菜スープです」
「あ・・ありがとう・・その右手につけている物は?」
「あぁ、コレですか。ミサンガというらしいです。俺も詳しいことはわかんないですけどね」
「ん・・痛・・そうか。すまなかった」
副団長のコップの中身が無くなりそうだったので、エールを注ぎ足し俺のコップにも入れる。
「お・・美味しいな」
「そうですか?大変光栄であります」
「おいしかったにゃ〜」
ミオは野菜スープを完食したと思ったら、ふらふらと船をこぎ始めた。
「おっと、副団長様ちょっと失礼します」
「あぁ、構わぬ」
ミオをお姫様抱っこをしてテントへ連れて行くその背後で羨ましい、と聞こえたが聞いてない仕草でテントへ入った。
テントの奥に横にさせて毛布をかけてやると、体を丸くして寝息をたてはじめたミオを確認しテントからでる。
テントから出ると、副団長様と視線が重なる。
「あの獣人とは、どんな関係なのだ?」
「ミオですか?ミオは相棒ですよ」
ここでは戦闘奴隷ということは伏せておこう。
「そうか・・あの子が飲んでた果実酒をもらっても?」
「いいですよ。飲みやすいですが、強い酒ですからね」
空になっていたコップに果実酒を注ぐと一口飲んで気に入ったのか、一気に飲み干してしまった。
「あぁ、一気に飲んだらダメですよ」
「うまい果実酒だ。もう一杯頼む。私は酒に酔ったことはないのだ。 あっはっはっはっは」
仕方なく二杯目の果実酒をコップに注ぎ終わった瞬間に一気にグイっと飲み干す副団長様。
慌てて彼女のコップを持つ手を掴むが。すでに時遅し。
「ほらみりょ。わたしひぃは、酔ってにゃいのら。だからもういっぴゃいりゃ」
「もう、何言っているかわかりません。寝床のテントまで送りますよ」
「うるしゃいぞ。ぼーけんしゃのくしぇにぃ・・にゃまいきだゃ〜」
「ほら、立ってくださいって・・おわっ」
副団長様を立たせた瞬間、不意を突かれて抱き寄せられ押し倒されてしまった。
その衝撃で背中を打ち、上から落ちてくる副団長様が俺の首に手を回したまま自由落下してくる。
俺は、抵抗できることなく落ちてくる彼女の衝撃を全身で受け止めた。
「ん・・・・」
不意に俺の唇と彼女の唇が重なっていた。俺から動いたわけじゃないぞ。
彼女からキスをしてきたんだと混乱している間に唇同士がゆっくり離れた。
副団長と重なっってしまった体をずらし、動揺を抑え仕方なく抱きかかえて俺達が寝るテントに入れて横にさせる。
昼に見た彼女とは違い、色白で腰まで伸びた金髪がサラサラで、とても騎士とは思えない容姿だった。
完全に熟睡している副団長様に毛布をかけて、テントを出る。
流石に同じテントで寝るわけにはいかないため、毛布を持ちイスで寝ることにした。
「明日の朝起きたら、全身バキバキだな・・」
そう呟き、焚き火の火を消して眠りについた。




