6章 帝国編 9話 アルシアとの旅・・からの少女は冒険者になりたい
「王国と帝国間保護条約第45号第2条1項に基づき、王国第3王女マリア=スパイルの保護を要請します」
「「「・・・・・・」」」
凛とした姿勢で、とんでもないことを言い放つマリア王女様。
「聞いてましたか?ハル」
(いきなり呼び捨てきたぁ〜)
「・・は、はい聞いてましたけど、もう一度分かりやすくお願いします」
「コホン・・ですから、王国第3王女の私をあなた達が保護し、王国へ送り届けてください」
「俺達が・・?」
「はい」
「王国へ?」
「もちろんです」
(めちゃくちゃ笑顔だけど目が笑ってないよ・・)
「えっと・・了解しました。なんちゃら条約に基づいて、王国第3王女マリア=スパイル様を王国へ送り届けます」
「ありがとう、ハル」
俺はが馬車から降りると、マリア王女は周囲を見渡しながら降りる。
「ハル、私以外の生存者は?」
「残念ながら・・。ここに辿り着いて来た時点で、生きていたのは王女様だけでしたから」
「そうですか。彼等をこのままにするわけには・・・・」
「もちろんです。火葬か土葬どちらにしますか?」
「・・火葬でお願いします」
王女様の本音はきっと、全員を王国に連れ帰って弔いたいのだろう。だけど、現実的じゃ無いことがわかっている顔をしている。
「わかりました。中にいるメイドも騎士達の所へ運びます。最後の別れが終わりましたら声を掛けてください」
「ありがとう」
俺は、馬車の中にいるメイド3人を丁重に運び執事の近くに並ぶように置く。その行為を見守るように俺の後ろを黙ってついてくるマリア王女様。
「マリア王女様。俺は、あの彼女らがいる場所で待っていますから」
「・・はい」
俺は、自然と騎士達に一礼をして、マリア王女様から離れる。程よく離れた馬車から俺たち3人はマリア王女様の様子を見守る。
1人1人に声を掛けているのだろう。端の騎士から順に膝を突き遺体に触れながら別れを告げているようだ。
最後に執事への別れが終わると、俺は呼ばれてマリア王女様の横に並ぶ。
「・・お待たせしました。お願いします」
「わかりました。危ないので、馬車の位置までお下がりください」
「いえ・・最後まで見守ります」
「ですが・・わかりました。俺の背中側にいてください」
「・・はい」
熱波を感じないくらいの距離を取り、火魔法ファイヤーウォールを放ち遺体を火葬する。
中途半端に残らぬよう魔力を込めて、赤い炎から青白い炎へ変化させより高温にさせていく。
背後から嗚咽が聞こえ、背中に押し付けてくる感覚が伝わる。
俺は振り向くことなく、彼等を天へ導かれるよう務めるだけだと思い集中しさらに魔力を送る。
ほぼ全てが燃え尽きたことを確認したところで、マリア王女様に聞く。
「マリア王女様・・最後に彼等を天へと送り出してよろしいでしょうか?」
「はい・・お願いします」
「それでは、いきます」
俺は幅広く広がっていたファイヤーウォールを中心に圧縮させて1つの青白いを作り出し、一気に青空へと打ち上げる。
シュボンッ!!・・ゴォォォォ!!
地面から打ち上げられた青白い炎が一気に加速し、炎の尾を伸ばしながらどんどん空へと昇っていくその様子にマリア王女様から声が漏れる。
「うわぁ〜綺麗・・」
空高く昇っていく炎が白い雲を吹き飛ばし、そのまま空の果てまで昇っていき見えなくなってしまった。
「なんだか本当に天へと旅立って行ったみたいですね」
「・・そうですねマリア王女様」
決心が付いたマリア王女様は、掴んでいた俺の服を放すと踵を返しアルシア達がいる馬車へ歩き出した。
「あの・・王女様」
「はい。あなたは?」
「私は、アルシアと申します」
「なんでしょう?」
「王女様のお荷物は残って無いのでしょうか?」
「全て賊に盗られたので、今着ている服だけですね」
「それなら予備の服に着替えてもらいますか」
俺はアイテムボックスからマリア王女様が着れそうな平民服を渡し、荷台で着替えてもらうことにした。
「ハル、どうかしら?」
着替え終わったマリア王女様は、荷台から降りてクルッと1回転して俺に感想を求めてくる。
「マリア王女様。とても可愛いですよ」
「ふふっ・・ありがとう」
俺達の旅に王族のマリアが加わるとともに、隣国の王国へ送り届けなければならなくなった。
アイツから言われた魔王討伐への道のりはまだまだ先かな・・と思いながら馬車に乗り込み要塞都市へ向け出発する。
今は、要塞都市へ向かう馬車に揺られている。御者がアルシアしかできないため、ずっと頼りっぱなしになっている。アルシアの背中を見つめる。
「ハル?どうしました?」
ふと荷台に座っているマリア王女様に声をかけられた俺は、御者はアルシアにしかできないと伝える。
すると、向かい側に座っていた王女様が、アルシアの方を1度見てから俺の隣に座る。
すると、賊に襲撃されるまでの経緯を話してくれる。
「王国で勇者召喚を行い、王国の戦力拡大を目指しました。しかし、とある冒険者が勇者様と衝突し王国で大変な事態になりました。そして、冒険者は捕らえられ処刑される寸前で逃亡し関係者達を捕まえ処刑したそうです。そして私は、帝国へ向かい召喚勇者様に逆らうことがないよう伝えに参ったのです」
マリア王女様は、深呼吸をして続きを話す。
「そして、国王から与えられたことは無事に達成できたのですが、予定より2日程遅れていたため十分な休息も取らずに王国へ帰る道中に賊に囲まれてしまったのです。最高戦力を誇る騎士達が次々に死んでいき、戦闘に特化したメイド達も私を庇うがために命を落としてしまいました」
マリア王女の両膝に置いた手が強く握り締められている。
「そこで、薄れゆく意識の中で、私に止めを刺す寸前に慌てて馬車から降りて逃げていく姿を見ながら意識を手放したのです」
「その後に、俺達が辿り着いたんだ・・もっと早く行ければ、みんなを助けれたかもしれないな・・」
「それは、もう運命だと思っています。私だけが生き残れたのはハルのおかげです」
「でも、どうして俺達に同行する気になったんだ?王女様なら男の俺を警戒すると思うのですが」
すると、マリア王女様は申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
「ごめんなさい。実は、ハルを鑑定させてもらったの。そしたら問題がないことがわかったから」
「・・そうか。だから、あの時にジッと俺を見ていたのですね」
「正解よ・・」
マリア王女様と話をしていると不意に馬車が止まり、アルシアがここで野営をすると言ってきた。
俺は気配探知スキルを発動し、周囲に魔物達がいないことを確認して荷台を降りてマリア王女様が荷台から降りるのを補佐する。
「マリア王女様、このイスに座ってお待ちください」
トコトコと歩いて来たマリア王女様を座らせた後にシェルと手際良くテントを立てて、その他の野営キットを配置した頃にアルシアは夕飯の支度を始める。
手際良く野営の準備をしていると、イスに座っていたマリア王女念話まの声が何度か聞こえたが設営中だったので無視させてもらった。
陽が沈む前にアルシアは、慣れた手付きで焚き火に火を起こし置いた鍋に水を入れて沸かしている。
その間に俺が渡していた魔物の肉と野菜おを調理して仕込みを終わらせている。
今夜の夕食が出来上がったのを初めて見たマリア王女様の開きっぱなしの口が、なかなか閉まろうとしない。
「あの・・旅の食事といえば、携行食では?」
「マリア王女様。俺がアイテムボックスを持っているので、時間に余裕がある時は自炊にしているんですよ」
「王女様・・肉と野菜の煮込みスープとパンです」
アルシアがマリア王女様に料理を渡して、4人一緒に食事を摂った。食べ終わると、アルシアの片付けを珍しくシェラが手伝う光景に驚き、心を落ち着かせるためマリア王女様に食後のハーブティーを入れたコップを渡す。
ハーブティーを飲み終えた俺は、3人を残し周辺に魔物避けグッズを焚いて夜の態勢を整える。当然のことながら、テントにマリア王女様、護衛にアルシアとシェルをテントで寝かせて、俺は馬車の荷台で寝袋に入り寝ることにする。
明け方に何者かが近付いて来る気配が気配探知に反応し目が覚めるが、害意がないため放置して眠りにつく。
モゾモゾ・・モゾモゾ・・
「・・ん?」
目を開けると、小さな銀狼のシェルが必死に鼻先を寝袋に突っ込み潜り込もうとしている。
「シェル?」
「寒いから入れるのだ・・」
俺は、寝袋の紐を緩めて口を大きくしてやるとスポッと中に入り中で体を丸めてモソモソ動き寝やすい場所を探しているが冷えた体が俺に伝わってくる。
「シェルの体が冷たいよ・・」
「1人だとこの時間帯は冷えるから寝れないのだ・・仕方ないのだ」
「・・もう」
モソモソと動いていい場所を探していたシェルが動かなくなり寝息を立て始める。少し冷えたせいで寝付けなくなった俺は、シェルのケモ耳と尻尾を弄りまくり始める。
するとシェルの息遣いが荒くなり体温も急激に上昇しはじめて、しばらくした時に強く短い声を漏らしたシェルが人化してビクンと体を伸ばし動かなくなったところで弄るのをやめて満足し眠りについた。
短時間に熟睡してしまったせいなのか、背後に1人いることに気付く。しかもピッタリと背中にくっついている。目の前にはシェルの顔があってもう1人は・・。
「ハルゥ〜もっと飲むのらぁ〜」
寝言の主はアルシアだった。きっとテントを抜け出したシェラに気付いて、悩んだ結果ここに来たのだろう。俺は、ゆっくりと寝袋から抜け出し荷台から降りてテント前のイスに座る。
消えかけた焚き火に新たに薪を組んで火魔法ファイヤで種火を作り薪に火がついたことを確認してから水を入れた小さな鍋を火にかける。
水が沸いてハーブティーをコップに注ぎ、静かな世界を1人で過ごしているとテントからマリア王女様が出てきて目が合う。
「おはようございます。マリア王女様。寝起きにハーブティーでもどうですか?」
「おはようハル。それでは、お願いします」
隣のイスに座るマリア王女様にハーブティーを入れたコップを手渡すと、嬉しそうな表情で飲んでくれるのを見つめてしまっていた。
「・・私の顔になにか?」
「あっ・・いえ。なんでもありません、マリア王女様」
「肌寒い朝に、この暖かいハーブティーは体が中から温まりますね」
「そうですね。次は違うハーブティーにしますね」
「・・ハル。1ついいかしら」
急に神妙そうな面持ちになるマリア王女。
「はい。なんでしょう」
「しばらくは、ハル達共に行動がしたいのです」
「王国に向かいながらしてるじゃないですか」
「違うのです。すぐに王国に向かう必要はありません。ですから、私を旅に同行させてください!」
「・・・・いったいどうしたんですか?」
マリア王女の言葉に理解が追い付かない俺は、すぐに返事ができなかった。
「この一晩考えて見ました。所詮私は、第3王女で王位継承第3位の三女です。このまま王国に帰っても、見知らぬ男と政略結婚するのがオチです」
「王族の都合はよくわからないので、なんとも言えませんが・・」
「これから、私のことをマリアと呼んでください。そして、ハルの旅のパーティー入れてください」
マリア王女様はイスから立ち上がり、俺の前で立って見下ろしている。
「マリア王女様・・?」
「マリアです!」
「マリアおうじょ・・」
「マリア!!」
「はっはい。マリア」
「なに、ハル?」
「こんな俺と一緒にいると将来きっと後悔するよ」
「後悔なんかしないわ。あの時に、王女マリアは死んだの。この助けてもらった命は、ただのマリアなのですから」
さすが王族出身であるせいか、見た目とはかけ離れている威圧感が半端ない。
「いいんだな、マリア?」
「・・はい」
「次の要塞都市に行ったら、冒険者登録してもらうよ?」
「ぼ・・冒険者!・・1度やって見たかったのよ冒険者って!楽しみだわ」
期待に満ちた顔になるマリアを見ながら、俺はきっとこの先何かが待ち構えているだろうなっと思う予感でいっぱいだった。
「王族がパーティ仲間か・・どう隠蔽したらいいんだろう・・誰か助けて・・」
「さぁ、決まれば出発よ!早く要塞都市に行って、私は冒険者登録をするのよ!」
早朝の林縁で、朝日に指を指し少女が冒険者になると宣言する姿を見た俺は、一抹の不安を感じていた。




