6章 帝国編 8話 アルシアとの旅・・思わぬ同行者と惨劇の生還者
暗闇の中で柔らかな感触が手に伝わり、その存在に癒され独占欲が湧き手放さないよう触り続け、ゆっくりと意識が覚醒し始める。
モミモミ・・
(こんな柔らかい素材なんて持っていたかな・・)
モミモミ・・
目を開けると、白銀の髪の女が俺の横で寝ている。
(誰だコイツ・・美人だからいっか・・)
「・・・・いやいやいや、普通にアウトだろコレ」
「んぅ・・朝から激しいご褒美じゃ・・」
ぱちっと目を開き銀色の滲んだ瞳が俺をまっすぐ見つめている。
「・・シェルさんよ・・なんで隣で寝てるんだ?」
シェルは、目を細めて俺の胸元の顔をこすりつけてくる。
「ハルの温もりを感じていたかったからな・・それに朝は冷える」
そう言いながら、俺の体に擦り寄ってくるのを止めようとする気配がない。
そのまま俺の体の上に乗ってきてモソモソと動いている。俺は、悪くない感触に包まれていたため、このままシェルにされるがまま夜空が少しづつ明るくなり消えていく星を無言で数えていた。
ガサガサッ
どうやらアルシアが起きて、テントから出てくる音がする。
その方向に顔だけを動かしアルシアがテントから出てくるのを待つ。
「おはよう、ハル。今回もテントを使わせてもらってすまな・・」
アルシアの視線が若干俺から逸れているような気がするが、もう手遅れだ。
「オハヨウ・・アルシア。支度が終わったら出発しような・・ふっ」
「なな・・なんで毛布がそんなに動いている?」
「ぷはぁ〜」
タイミングよく、潜っていたシェルが毛布から顔を出す。
「ぬぁ!・・誰だ!・・なぜそこにいる!・・私もまだ○☆♫※♡」
アルシアは、俺が見知らぬ女と同衾している姿に動揺し後半何を言っているのか聞き取れなかった。
「チクショー!すぐにそこから出るんだ!」
「朝から騒がしい女じゃ・・あっ・・やめ!やめろ・・尻尾を、引っ張るんじゃない・・バカモノ!」
アルシアがシェルの尻尾を掴んで強引に毛布から引き摺り出し、取っ組み合いを始めた2人に放置されてしまう俺は、その光景を横目で見ながら毛布から出てイスに座る。
「・・朝からなかなかのモノを見せてもらってるぞ、アルシア、シェルよ」
取っ組み合いが激しさを増して、アルシアの服がはだけていき立派な胸があらわになっていることに気付かない本人は、シェルを抑え込むのに夢中だった。
それを黙って見ている俺は、2人の胸がプルンプルン揺れているのを眺めて終わるのを待つこと数分、身体能力の高いシェルがアルシアを抑え込み勝ち誇り右手を突き上げて叫ぶ。
「っしゃー!勝ったどぉ〜!」
シュッ!!
ゴッ!!
「んきゅ!」
バタン・・
朝から大声を出したシェルに苛立って、無意識に足元にあった小石を投げてシェルのこめかみにヒットさせ意識を刈り取ってやった。
「アルシア・・怪我はないか?」
地面に伏せて悔し涙を流し起き上がろうとしないアルシアを抱き抱えて、イスに座らせ土だらけの体にクリーンをかけて綺麗にして、はだけた服をなおしてやる。
「ゔぅ・・ヒック・・」
「アルシア、あいつの名前はシェルだ。エルフの村で現れたフェンリルなんだよ。今は、人化しているからわからないと思うけど」
「え?フェンリル?あれが?」
「あぁ、フェンリルなんだよ。あそこまで持ち堪えたアルシアは、十分強いんだぞ。だから気にするな」
「・・そうか。なら勝てる相手じゃないな」
いまだに気を失い全裸で倒れているシェルを放置したままアルシアを宥める。
「朝飯も携行食だけどいいかな?」
「もちろん。旅の食事は携行食が基本だから」
アイテムボックスから干し肉とパンを出して先に渡してから、アルシアの水筒を手渡した。
2人で一緒に朝食を食べ終えても、シェルが起き上がる気配がない。
「・・ハル、シェルは死んだのか?」
「・・生きているけど死んだことにして、ここに残置して森の住人に処分してもらうのがいいかもな」
「でも・・」
アルシアが心配そうに顔を見上げて俺を見る。
「平気さ、だってあいつはフェンリルだぞ?この森の魔物なんて羽虫同然さ」
「た・・たしかにそうだ」
「それじゃ、テント片付けて出発しよう」
「あぁ・・」
俺とアルシアで片付けを済ませて、未だ横たわっているシェルを見た俺は深く溜息をつく。
「アルシア・・ちょっと待ってて」
「わかった」
アルシアは、少し微笑み頷く。
俺は、シェルの元に行きしゃがんで顔を覗くと、目を開けていたシェルと目が合う。
「ほら・・行くぞシェル。立てるだろ?」
シェルは、俺が置いて行かないことを知っていたかのように特に責めることなく俺の首に手を回し抱きついてくる。
「待ってた・・」
「はぁ・・仕方ないなお前」
そのままシェルを抱き上げて立ち上がり、アルシアの元へ戻るといつの間にか、シェルは昨夜渡した服を着ていた。
「アルシア、我はシェルじゃ。よろしくな」
「よ・・よろしく。シェル。でも、いつまでハルにくっついているの?離れてよ」
「嫌じゃ。シェルはこのままでいいのじゃ」
「シェル、俺が疲れるから却下だ」
嫌がるシェルを下ろして歩かせることにする。下ろされたシェルは、口では嫌がっているものの素直に歩いて付いてくる。
シェルが同行し森を2日移動し街道を歩いて、無事にフカヒーニの街にたどり着いたが、身分を証明する物を持っていないシェルの扱いに悩んでいると、シェルは小型犬サイズのフェンリルに姿を変えて俺の服の中に潜り込み無事に街に入れた。
「シェルの変化は便利だな」
「ふふっ・・そう褒めるな」
街に入り、裏路地でシェルを人化させてから通りに出て宿屋に向かう俺達は、途中の商店でシェルの日用品や服などを購入し、アルシアと俺の必要な消耗品と少なくなった魔物避けグッズを買い揃えて宿屋に向かう。
この街での移動中に、アルシアとの距離が近くなった気がする。
こないだまでは、後ろを付いてくる位置取りだったが今は横に並んで腕が触れそうな位置で歩き、たまに視線が重なる。
「ハル・・今夜は、私が泊まったことのある宿でもいいかな?」
「もちろん。案内してくれる?」
「こっちだ」
俺の腕を掴み宿屋へと案内してくれるアルシアの足取りは早い。通りを歩き3つ角を曲がった先に宿屋があった。
受付で、3人1部屋に決めて銀貨12枚を支払い部屋の鍵を受け取り部屋に入る。
俺達が泊まる部屋は、ベッドが3つ並んでいるだけの簡素な部屋だ。
真ん中のベッドが俺で窓側はシェルで壁側がアルシアとなった。
「夕飯は宿屋の食堂でいい?」
2人は同意してくれたため、夕飯が始まる時間まで部屋でゆっくりと過ごした後に食堂で夕飯を食べて部屋に戻り、そのまま寝ることになった。
部屋の魔法ランプの明かりを消すと、窓から差し込む月明かりに照らされたシェルの髪が白銀に輝き見入ってしまう俺がいた。
そのうち、自然と眠りが近付いてきた俺は天井を見つめ明日の行動を考えながら意識を手放していった。
久しぶりに何も起きなかった夜を過ごせた俺は、蓄積された疲労感が抜けてスッキリと目が覚める。
左右の2人を見ると、まだ気持ちよさそうに寝ているため音を出さないようベッドから立ち上がる。
ガシッ
「どこ行く?」
「うぉ・・シェル?」
寝ていたはずのシェルが、俺の腰に抱きついていた。
「・・どこ行く?」
「どこも行かないさ、ベッドから立ち上がっただけだし」
「・・・・」
シェルは何も言わずに、俺のベッドへ当たり前のように潜り込んでいく。
しばらくして、アルシアが目を覚まし支度を整え終わったところで宿屋を出て馬車を引き取りフカヒーニを出発する。
前の冒険者パーティーに所属していた時に一度行ったことがあるアルシアが、要塞都市に向けて馬車を走らせる。
荷台で俺は流れる風景を見ながら、ボーッと眺めていると隣にいるシェルが警戒した声を出す。
「あ・・ハル。この先に死人がおる」
俺は、気配探知スキルを発動し周囲を確認するが反応がないため範囲を広げると、この先に多数の人間の存在を捉えた。
「アルシア!飛ばしてくれ!」
「わ、わかった!
アルシアは鞭を馬に打ち速度を上げさせる。そして、気配探知スキルで捉えた場所に辿り着くと街道に無残にも破壊された馬車が2台放置されている。
手前の馬車の中に4人と遠くの馬車に2人を捉え、周囲には30人程の気配があるが静観しているようだ。
「アルシア、これ以上は危険だ。馬車を止めてくれ」
馬車が止まったところで俺は荷台から飛び降りて、アルシアの横に立つ。
「破壊された馬車を見てくるから、ここでシェルと警戒をしていてくれ」
「あぁ。気を付けて・・」
俺は、周囲の気配の動向に注意しながら、手前の馬車の扉をこじ開けて中に入ると、悲惨な状態の中に1人を3人が庇うように覆い被さっていた。
服装から見て、覆い被さっているのはメイドのようで、一番下にいる真っ赤に染まった子を庇うように背中や手足を斬られていて、すでに事切れていた。
俺は、メイド3人をゆっくりと抱き抱えて横にさせると、赤く染まったドレスを身に纏っている少女の肩が僅かながら動いているのが確認でき、すぐに治癒魔法をかけて傷を癒す。
「おい!大丈夫か?」
「・・・・」
少女の傷は癒されたが、意識が戻る様子がない。焦った俺は、上級治癒魔法のエクストラヒールをかけるとともに生活魔法クリーンもかけて全身血だらけだった少女は綺麗になり元の白い肌に戻っていく。
ガン・・ガガガン!
馬車に何かが当たる音が連続して鳴り響き、攻撃され始めたためアイテムボックスから片手剣を取り出し矢を剣で捌きながら外に出る。
すると、俺に向かっていた矢が襲いかからなくなり代わりに1人の男が目の前に姿を表してきた。
「そこの冒険者!大人しく投降し、馬車にいる死体を引き渡せ!」
「それはできない!・・お前らは何者だ?」
「・・・・・・」
「2人とも、俺の近くに来てくれ・・っと」
俺が言い切る前に隣にシェルが立っていて数秒遅れてアルシアが到着した。
「アルシア、シェル・・この馬車にいるあの子を守ってくれ」
2人は頷いたところで、あの男が声を荒上げる。
「少数の戦力で強がるな!お前ら・・あのガキは殺せ!その後は、あのあの女2人を好きにしていいぞ!」
周囲から盛り上がる男達が発狂し声を轟かせ、横一線に俺達へ襲い掛かってくる。
「な・・ど、どうするんだハル?こんなの対処できないぞ・・」
「大丈夫・・任せな。クソ野郎ども!自分らの足元を気を付けろよ!」
俺は迫りくる男達の距離を確認し、火魔法ファイヤーウォールを燃え上がらせ男達は炎に包まれパニック状態に陥り炎から逃れようと必死に地面を転がり回る。
ぐぁ〜熱い熱い!
だずげてぐでぇ〜
一帯は、炎に包まれ灰と化す男達が、1人また1人と増えていく。
この光景に集団のリーダーは、俺が剣士だと思い込んでいて魔法を使ったことで、冷静さを失い残りの仲間と一気に押し寄せてくる。
「クソがぁー!!」
連携の取れない集団は、ただの的でしかない。躊躇いなく俺は、腰を落とし剣を引いてタメを作る姿勢になる。
真っ直ぐ統制の取れたような陣形で迫り来る男達に向けて、切っ先に乗せた風魔法ウインドカッターを横一線に放つ。
グヘェッ
ドサドサ・・
右側の5人が、まともにくらい上半身と下半身が綺麗に分断され地面に転がり肉塊へとなる。
「・・な、なんて奴だ!逃げろ!」
集団のリーダーは立ち止まり、背中を見せながら逃走していく。他の4人も同じように逃げ去って行く。
「・・引き際が、1番危険だぞっと」
警戒もせずに、ただ逃げ惑う男達に向けて火魔法ファイヤーアローを放ち後頭部に命中させ、力無く倒れ込みそのまま灰と化した。
「もう一つの馬車を見てくる」
俺は、急ぎ足でもう一つの馬車の中を確認したが、執事の格好をした老人と騎士2人の亡骸があった。
そのまま周囲を捜索すると、20人程の騎士の遺体が見つかり1カ所に集めた。
「・・ハル。騎士がこんなにやられるものだろうか?」
アルシアが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「たしかにそうだな。騎士と言えば、国の最高戦力だったよな」
しばらく考えてみるが、思い当たる節はない。
「ハル!アルシア!来て来て!」
シェルに呼ばれて、最初の馬車の位置に戻ると意識を取り戻した少女が椅子に座り俯いて震えている姿が視界に入る。
(なんか、どこかの貴族娘なのか?)
「これは・・重症だね・・どう思うアルシア?」
「たしかに重症かも・・ハルに任せる」
「・・・・わかった」
俺は片手剣をアイテムボックスに収納し、意を決して優しい口調で声をかける。
「あの・・すべての賊を我々が掃討しましたので、もう安全ですよ」
震える少女は、ゆっくりと蒼白の顔をあげる少女と視線が重なると、少女は目を見開き両手で口を押さえ呟く。
「く・・黒髪黒目・・あなた様は勇者様ですか?」
金髪碧眼少女の瞳の奥に微かな希望が宿ったように見え、心苦しくなる。
「ゴメン・・よく間違われるけど違うんだ。俺は、平民冒険者なんだ」
「そ・・そうですか・・すいません」
金髪碧眼の少女は謝罪した後に、力無く立ち上がる。
「俺は、平民冒険者のハル。そして、アルシアとシェルです」
「申し遅れました。私は・・・・」
言葉の途中で止まった彼女の視線が俺をジッと見つめた後に覚悟をしたのか続きを告げる。
「・・私は、隣国のスパイル王国第3王女のマリア=スパイルと申します」
「「「 え??? 」」」
どうやら、ただ1人助けることができたのは、隣国の王女様だった・・・・。




