6章 帝国編 4話 エルナとの旅・・からの女剣士
この街の亜人に対する嫌悪感は、驚くほど徹底されている。
何軒か飯屋に入ったが、エルナがエルフとわかると問答無用で追い出されてしまい諦めた俺は、エルナに謝り出店の売っている物で腹を満たす。
(ここは、人族が幸せならいい街なんだろうな・・)
声に出すことなく呟き出店で買った肉サンドを広場の椅子に座り食べるている隣で、一心不乱に肉サンドを齧り付くエルナがいる。
「んぐっ・・ぐぅぁ・・ん〜ん〜!」
目を見開き青い顔に変化していくエルナは、肉サンドを喉に詰まらせ悶えているので口に果実水入りの瓶を強引に咥えさせ流し込んでやる。
ゴクッゴクッ・・
「ぷはぁ〜・・し、死ぬかと思った・・」
「落ち着いて食べろよな〜」
口の周りをソース塗れにして笑うエルナを見て、アイテムボックスからタオルを出し拭いてやる。
「ん〜ありがとです」
口の周りがスッキリしたエルナは、残りの肉サンドを食べ始める。
その姿を見て誰かに似ていると思い思い出そうとするが頭の中にモヤモヤする部分があり考えるのをやめて自分の肉サンドを完食した。
「エルナ、これからどうする?」
「そうですね・・この街で宿は取れないので近くの森で夜を明かします」
「えっ?冗談キツいよ」
エルナは不思議そうな顔で俺を見つめ暴露した。
「ここ数日は森で寝てましたし。今朝も森で起きて街に来ましたから」
さすが森の民でも結界のないただの森では危険すぎると思ったが口にせずに1つ提案する。
「そうなんだ・・良かったら依頼達成まで一緒に行動しない?俺、野営キット持ってるし」
「いいんですか?わたし亜人ですよ?・・エルフなんですよ?」
「全然気にしないし・・エルナがオッケーなら決まりだな」
「はぃ〜?」
固まるエルナの手を掴み通りを歩き出す。とりあえず目についた商店に入り旅に生活必需品と寝袋と毛布を購入し食料調達でゴーブの店に向かう途中に武器屋でエルナの得意とする弓矢を購入した。
「ゴーブさんいる?」
「・・ちょっと待ってなー!」
店の奥からゴーブが姿を現し、隣にいるエルナを凝視する。
「・・ハル、その子は・・」
「まぁ、ゴーブさん。何も言わずに店の商品全部売ってくれる?」
ゴーブは視線をエルナから俺に向ける。
「・・はぁ。わかった。何も聞かないから全部持って行きな」
「助かるよゴーブさん」
俺は、陳列された野菜や果物を全て箱のまま全てアイテムボックスに収納し店の奥にある商品も収納し、金貨20枚をゴーブび手渡す。
「ありがとう。代金はコレぐらいで足りるかな?」
「ぬぁ!・・こりゃ貰いすぎだぜ!」
ゴーブが差額分を返そうとしてきたが受け取りを拒否し、逃げるようにゴーブの店から立ち去りイティカの街をあとにした。
街を出て街道を歩く俺は、並んで歩くエルナに大事なことを思い出し聞いてみた。
「エルナの住む森までどれくらいかかるの?」
「そうですね・・ここから北へ2日ほど歩いた所にカフヒーニっていう街がありまして、その街からさらに3日歩いた場所に広がる森の中に存在しますよ」
「そ、そうなんだ。まぁまぁ距離あるよね」
「はい!!わたし頑張りました」
無邪気な笑顔のエルナに遠いじゃないかと文句を言う心が折れた俺は、偉いねって褒めてあげることが限界だった。
街道を歩き適当な場所で野営することにした。アイテムボックスからテントを出して、エルナと連携して設営したが、なかなか器用な子で思ったより短時間で完了する。
「次は夕飯の支度だな・・はいコレ」
「コレは、マジックポーチですよね?」
「そうだよ。エルナに必要なものが入ってるから確認してね。それと・・料理できる?」
「あっはい。料理は得意ですよ」
アイテムボックスから、調理グッズと食材を取り出してエルナに夕飯を任せて俺は周囲に魔物避けグッズを配置するためエルナから離れた。
魔物避けを置いた俺は、気配探知スキルで近辺を捜索し魔物の脅威が低いことを確認しエルナの元へ戻る。
「ただいまエルナ。いい匂いがしてるね」
「おかえりなさい。もらった食材で肉と野菜の煮込みスープを作りました」
火起こしと料理が得意なエルナはいい奥さんになるだろうと思いながら、配膳を手伝い一緒に夕食を摂る。
「うん。おいしいよエルナ。ありがとう」
「えへへ・・なんか照れるな。ちゃんとできて良かった」
夕食を食べ終え2人で片付けを済ませた後は、早めに寝ることにしてテントをエルナに使わせ、俺はイスに座り毛布をかけて火の番をしながら夜を明かすことにした。
気配探知スキルが反応する存在が近付いてこなかったようで、一度も目を覚ますことなく朝を迎え陽が山から顔を出し寝ている俺の顔に日差しが当たることで俺は目が覚める。
「ん・・もう朝か・・」
消えかけていた焚き火に薪を足して、生活魔法で小さな火種を落とし焚き火の火力を上げてやっているとエルナがテントから出て来て、俺を見つけ歩いて来る。
朝飯は昨日の残りとパンを食べて、テントとかの撤収を終えた俺達は次の街へ向けて出発する。
街道を歩いている間に何組かの冒険者パーティーとすれ違ったが、エルナのを見つけると視線を逸らすようにしてすれ違って行く。
街道が終わり、馬車が通れる程度に整備された山道を歩き中腹に着いた辺りで気配探知スキルに反応があり勢力を確認したが影響が無いため気にせず歩き続ける。
「止まれ!人間と亜人が一緒にいるとは・・そのエルフは性奴隷か?とりあえず、金目の物を全て置いて行け!もちろんそのエルフもな」
俺達を囲んだ山賊のリーダーが2人の旅人の末路を握っているかのような立ち振る舞いで命令してくる。
俺はエルナを庇うような態勢を取って山賊達の動きを伺っていると山賊リーダーが俺から視線を外す。
すると、気配探知スキルに異様な速度で近づく者を捉える。
その方向は、山賊リーダーが見ている方向と同じで背後にいるエルナが慌てて俺に教えてくれた。
「ハル!なんか物凄い勢いで馬車が迫ってくるよ!見て見て、何あれ?」
山賊リーダーの姿を視界に入れつつ振り向き、迫り来る存在を視認すると、質素な馬車を黒髪女の御者が鬼のような表情になっていることに気付く。
「あれは・・末期だな。エルナ・・諦めよう」
「え?どういうこと?」
暴走馬車が近づくにつれて山賊達が騒ぎ始める。山賊リーダーは、数人の部下を馬車の襲撃に回し残りを俺に差しむける指示を出した。
すると馬車の御者と思われる女の声が響き渡った。
「そぉ〜この少年!!いま助けるぞぉ〜〜!ウラァァァァァ」
馬が鳴き馬車が急停止した時には、御者の女が消えて・・いや山賊リーダーと馬車の中間地点を走っているところだったが、山賊達は女を見失って動揺している。
(そんな目で追えない程の速さじゃ無いんだけどな・・)
片手剣を抜刀し問答無用で山賊リーダーに向けた上段斬りを躱され見事に地面へ突き刺してしまい隙だらけの状態になったが、飛び散る小石が山賊リーダーの顔に直撃し山賊の反撃のタイミングを失わせ突き刺さった片手剣を捻り上げて腹部を斬り裂く。
流石に防御態勢のままだった山賊リーダーは血飛沫と悲鳴を上げて絶命し、リーダーを失った山賊達は慌てながらも陣形を組み直していた。
「お前達・・元冒険者だな?」
女の問い掛けに僅かながら反応を示した山賊達はそれぞれの武器を構え攻撃の機会を伺い、この場にいる人間達から放たれる殺気に支配された空間には生者側と死者側への振り分けが始まろうとしている。
もちろん、この火蓋を切って落とした犯人は俺だ。
エルナの肩を叩き、行動開始の合図を送る。エルナは事前の打ち合わせ通りに弓矢を取り出し後方へ素早くさがり距離を取らせると同時に、俺は隠密スキルを発動し山賊達の陣形の中央へ突っ込みながら片手剣をアイテムボックスから抜刀し横一線で斬り捨てる。
ぐぁ・・がはぁ・・
陣形の中央に立っていた戦斧と両刀使いが俺に斬り捨てられて悲鳴を上げながら倒れ込み絶命した。
仲間の異変に気付いた周囲の山賊達は遅れて反応し、俺に斬り掛かってくるがエルナの放った矢が俺の左側の空気を切り裂きながら突き進み順次山賊4人の頭部に命中し絶命させる。
エルナに俺の左側の山賊を任せていたため、右側の山賊に集中し風魔法ウインドカッターを片手剣に乗せて斬り放ち残りの山賊の上半身と下半身が分断し地面に転がる。
これで、俺達を襲撃して来た山賊一味は全滅した。
「エルナ・・お疲れ様。なかなかの弓術だったよ」
「うん。役に立てて良かった」
「このまま、目的の街へ進もう・・」
「あれ・・私の討伐1人だけ・・なのかな・・夢なのかな?」
「エルナ怪我は無い?」
「大丈夫だよ・・」
俺は、近くにいる黒髪の女剣士に絡まれないようこの場を視線わ合わせることなく素早く去ろうとした・・・・。
「ちょっと・・お2人さん!」
「よし、行こう!」
「はい!!」
「・・あれ?・・私が存在してない事になってるの?ウソ・・ウソよね?」
本能的に面倒臭い予感がしていた俺は、ぶつぶつ呟いている女に気付いていない素振りでエルナと逃げようとしたが思うようにいかない。
「まさかの放置ですかーーー!!」
俺は溜息をついて、仕方なく対応する。
「あっお疲れ様でした・・・・じゃ・・」
女と視線を合わせる事なく片手を上げて簡単な挨拶ですませエルナの手を取り逃げ去ろうとしたが、女が泣き付いて来たため諦めた。
「まっでぇ〜!1人にしないでぇ〜お願いだからぁ〜!」
別れの挨拶で軽く挙げた手を両手でガッチリ握られてしまい、妙に体を近寄せてくる。
「と・・とりあえず落ち着こうな・・な?」
「・・す・・すまぬ取り乱してしまった」
女は手を離し2歩離れると、なぜかエルナが俺に体を寄せて立っている。
「申し遅れたが、私はアルシア。Cランク冒険者で、訳あっって今はソロ活動をしている」
「俺はFランク冒険者のハル。この子はエルナだ。よろしくな」
アルシアは、黒髪茶目で俺より少し背が低く長い髪をポニーテールにして女剣士が似合う容姿だった。
「もし良かったら私の馬車に乗らないか?ハルの目的地まで運ぶけど・・」
「本当にいいのか?」
「もちろんだ!私も仲間に入れてくれ!」
「わかった。けど、ソロになった理由を教えてくれないか?」
「・・・・わかった。馬車で話すよ」
アルシアとの出会いで馬車に乗ることが出来た俺は、徒歩の旅にそろそろ心が折れそうになっていたのだ。そして、アルシアの話はこうだった。
アルシアは、Cランク冒険者パーティーに所属し前衛として活動していたが、最近になって討伐でのミスが続きパーティーリーダーとの不和で3日前に追放され、自棄になり手持ちの資金全てを使い馬車を購入し1人旅をしている途中だったと。
その話を聞いたエルナは、自分の境遇と重ねたのか涙し、その後からエルナとアルシアの距離が縮まったように見える俺は、移動する馬車の荷台に座り御者をするアルシアの横に座るエルナは楽しそうに会話を続けていた。
俺は男1人と女2人になったこの状況で、ボッチになっていることを自覚する。
なぜなら、2人は前で楽しそうに会話をして1人俺はただ空や景色を見ているだけだったからだ。
「なんか、寂しいな・・・・」
そう俺にしか聞こえない声で呟き、楽しそうにしている2人を眺めていると御者台に座っていたエルナがヒョイッと荷台へ移動し俺の横にちょこんと座る。
「・・ハル」
「どうしたエルナ?」
「ううん。なんでもないよ」
「そうか・・・・」
そう呟くエルナは、俺の右肩にピタッと頭を預けそれ以降何も言わず目を閉じてしまった。
(まさか・・俺の呟きが聞こえたのかな・・)
ゆっくりとした時間が流れ、青かった空もオレンジ色に染まって来たタイミングで今夜の野営場所を選定することにする。
「アルシア!そろそろ野営場所決めないか〜?」
「もう少し行った先に良さそうな場所を見つけているから、そこで野営しよう」
「わかった〜」
馬車が止まり、アルシアからここを野営場所にすると聞いて荷台から飛び降り背伸びをしながら周囲を確認する。
「野営に良い場所みたいだな」
「そうだろう?長年の経験のおかげかな」
俺は、アイテムボックスからテントと野営キットを出して、アルシアとテントを設営するがエルナより少し時間がかかってしまったが不器用ではなかった。
テントの設営が終わった後は、エウナとアルシアで夕飯を任せて、快眠のため周囲に魔物避けグッズを置いて近辺に魔物が徘徊していないか確認すると3つの反応があった。
隠密スキルを発動し捉えた魔物に近づくと、ゴブリンと判明したため問答無用で火魔法ファイヤーアローを放ちゴブリン達は灰と化した。
ゴブリンを討伐した俺は、野営地に近づく前に隠密スキルを解除しエルナとアルシアの前に姿を現す。
「おかえりハル。どうだった?」
「ただいまエルナ。ゴブリンがいたから討伐して来たよ」
「ありがとう。夕飯できたよ」
「良いタイミングだったね。食べよう」
今夜は3人で夕飯を食べて、片付けはエルナとアルシアが終わらせてくれた。
テントにエルナとアルシアが寝て俺は馬車の荷台で寝袋に入り寝る事にした。
そして旅の1日目が終わり翌日も旅は順調に進み余裕で陽が沈む前に最初の目的地の街フカヒーニに辿り着いたのだった。




