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6章 帝国編 3話 冒険者登録


 まどろみの中で、サラサラの毛並みの感触が両腕を包んでいる感覚でいることにゆっくり気付いたと同時にスルスルッと腕から離れていくのを離さないよう手を伸ばすがそれをもう一度感じることが出来ずに、ただ空振りをする。



(あれ・・気のせいか・・・・)


 上半身を起こし微かに残るさっきまで側にいた、あの毛並みの感覚が訳もなく懐かしく感じる俺がいる。



「なんだったんだろ・・とりあえず、目も覚めたしギルドに行くか・・・・」


 軽く支度を整えて部屋を出た俺は、受付にいるアリーシャに部屋の鍵を渡すついでに冒険者ギルドの場所を聞いた。


「おはようアリーシャさん。この街の冒険者ギルドはどこにありますか?」


「おはようハルさん。ギルドなら宿屋街を出て最初の角を左に曲がった先にありますよ」


「ありがとう。ちょっと出掛けてきますね」


「はい。お気を付けて」


 アリーシャに見送られ宿屋を出た俺は、アリーシャの説明通りに歩くと、冒険者達が同じ建物に入るのを見つけた。


「あれがギルドだな」


 冒険者達が入った建物に俺も続いてドアを開けて入ると早朝の割には大勢の冒険者達で賑わっている。


 右側に冒険者達の列があり、その先に受付窓口が3つあり1つは無人だ。


(登録する窓口はどれかな?)


 窓口の掲示板に書かれている対応業務を見ていると、どうやら無人の窓口が新規登録者用の窓口と書いてありそこへ向かう。


 窓口に受付嬢が不在のため視線をカウンターに落とすと隅に埃を被った呼び鈴がヒッソリと置かれてあるのをみつけ、控えめに音を鳴らす。


 チリ〜ン・・・・


 しばらく経っても受付嬢がやって来る気配が無く、背後から複数の視線を感じつつも振り向くことはせずにもう1度呼び鈴を鳴らした。


 チリーン!


 「「「「 ワッハッハッハッハ!!!! 」」」」


 ギルド中が爆笑の渦に包まれる。


 突然笑い出す周囲の冒険者の行動が理解できない俺は、頭を掻きながら呼び鈴を鳴らす。


 チリ〜ン・・チリ〜ン・・


「おい坊主!こんな朝っぱらから冒険者登録か?」


 背後から声を掛けられ振り向くと、両手剣を帯刀した男がニヤつきながら腕を組み立っている。


 その後ろにはパーティー仲間なのか、男2人女3人も不敵な笑みを浮かべている。


「あぁ、どうも。あなたがギルド職員?俺、冒険者登録に来たんだけど」


 初対面の人間に見下された俺は、内心イラついていたため、皮肉を込めて聞いた。


「なっ・・てめぇ!!」


 男が剣を掴み1歩近づいて来たところで窓口の方から警告する女の声が響く。


「そこまでです!・・ワイズさん、新人のその子が可哀想ですよ」


「ちっ!なんだよ、つまんねーな」


 ワイズという男は、踵を返しパーティー仲間達と奥の席へと移動する姿を見ていると、先程の女が俺に声を掛ける。


「はいはい。坊やも本気にしない。新人のあなたが、Aランク冒険者のワイズさんに勝てる要素がないでしょ?」


 その言葉を聞いて、俺は振り返り女を見るとカウンター越しに座る赤髪赤目の受付嬢を視認し口を開く。


「ここのギルドは、新人イビリが正当化されてんだな・・まぁ、とりあえず登録頼むよ」


 受付嬢は、左の頬をひきつらせ声を荒げる。


「な・・なんてガキなの!おしおき・・コホン。さっさと手続きしてあげるから、この水晶玉に手を置きなさい」


 傲慢な受付嬢の言う通りに手を置いて、能力を検知させ終わると受付嬢が笑い出す。


「アハハハ!なんなの、このゴミステータスは」


 水晶玉が認識した俺のステータスは、隠蔽工作により人並み以下となっている。


 魔法具からギルドカードを取り出した受付場が投げ捨てるかのようにカウンターに置き、それを取った俺は自分の名前とFと記載されたランクを確認し手数料の銀貨5枚を支払い無事に冒険者となれた。


「・・すぐに死なないでね・・クックック」


 そう言い残した受付嬢は席を離れ他の冒険者へ移動して行き、俺は依頼掲示板が設置されている場所へと移動する。


(Fランクの俺が受けれる依頼はどこかな・・・・)


 掲示板を見渡してもEランク以上の依頼票ばかりで、Fランク向けの依頼は皆無だった。


 仕方なく一度ギルドを出ようとした時に右後ろから伸びて来た手が掲示板に新たな依頼票を貼っている。


 明らかに他の依頼票と仕様が異なるが、大きくFランクの文字が見えた瞬間に嬉しさの余り貼られたばかりの依頼票を掲示板から剥がし手に取った。


「あっ・・・・」


 右後ろから小さな声が聞こえ振り向くと、フードを深く被り顔は見えないが、子供ぐらいの背丈の子が俺の方を見ていた。


「これは・・君が受けるやつだったかな?」


「・・い・・いえ・・その・・」


 声を出した子は、なぜか動揺しているようで言葉がハッキリしないままでいると、またあの男が声を掛けて来る。


「おい新人!」


(ガキ呼ばわりから新人呼ばわりか・・)


「・・・・・・」


「無視するな!そのガキの依頼は違法だぞ!」


 ビクッ!!


 あの男の違法と言う言葉に萎縮し俯く子供を見て、俺は口を開いた。


「・・何が違法なんだよ、おっさん」


「はぁ?おっさんじゃねーし!そもそもギルドを通してない依頼だから違法なんだよ!そんなことも知らないのか?」


「じゃーなんで、この子の依頼をギルドが受付け無い?」


 腕組をする男は、勝ち誇る表情をしたままこちらに近づきながら言い放った。


「決まってんだろ?亜人ごときの依頼を人間様である冒険者が受ける必要がないからさ!」


 バサッ!!


 近づいて来た男が、子供のフードを一気に捲り子供の顔があらわになり周囲の冒険者がエルフだと騒ぎはじめる。


「ほら見ろ!亜人だったろ?だから、依頼なんざ受ける必要が無いのさ!」


 周囲から突き刺さる視線で金髪碧眼のエルフの少女が俯き拳を握り、悔しくてたまらない表情で涙を流し彼女の足元の床が涙で濡れていく。


 俺は、泣いているエルフ少女から男へ視線を向けて言った。


「おっさん・・エルフだからどうした?彼女の依頼が違法だと騒ぐなら、俺は、彼女の用事を受けるから違法じゃ無いだろ?友人の頼み事であれば何も問題は無い」


 エルフ少女のフードを優しく被せて、ポンポンっと軽く頭を叩いてやると彼女はゆっくりと顔を上げて俺を見つめる。


「大丈夫だよ・・何も心配はいらないから」


「・・ですが」


 俺は、エルフ少女の頭を優しく撫でると彼女は少しだけ笑顔を取り戻してくれた。


「Fランクの新人が粋がってんじゃねー・・あがぁ・・」


 まだ吠える男に殺気をぶつけて黙らせると、男はまともに呼吸ができなくなり青い顔で後ずさっていく。


「さぁ、行こう」


 エルフ少女の手を握りギルドから出た俺は、無言のまま大通りの先の広場にあった長椅子に座る。


「嫌な思いさせてゴメンな・・」


 少し離れた位置で座るエルフ少女に謝る。


「いえ・・わかっていたことなので」


 力無く答える彼女の両膝に置かれた手は小刻みに震えたままだった。


「・・そっか。君の依頼は、俺が受けるから」


 エルフ少女は顔を上げて俺を見る。


「まぁ、駆け出し冒険者だけどね」


「あ・・亜人に嫌悪感はないのですか?」


「そんなもの無いよ」


「初めてです・・わたし、エルナです」


「Fランク冒険者のハルだ。よろしくね、エルナ」


「はいっ」


 ギュッと両手で握手を交わしたときのエルナのはにかむ笑顔が印象的だった。


「・・ハル、1つ質問していい?」


「なんだい?」


 何か躊躇っているような仕草をするエルナに、どんな質問でもいいよと伝えると深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。


「あの・・あのね、ハルは黒髪黒目だから勇者様なの?」


 ズキンッと頭痛に襲われ反応できなかった俺が機嫌を損ねたと勘違いしたエルナが慌てて謝ってくる。


「ご・・ごめんなさい!そんなつもりじゃなくて・・」


「エルナ、怒って無いよ。ただ、勇者って言われてビックリしちゃったんだ」


 そう言ってエルナを落ち着かせることが出来たが、勇者様という言葉と同時に襲って来た頭痛の原因を考えるが思い当たる節はなく有耶無耶にしてエルナと会話を続けた。


「エルナ、依頼内容を詳しく教えてくれるかい?」


「わかった」


 小さく呟いたエルナが教えてくれた依頼内容はこうだった。


 エルナが住むエルフの森は、結界により外部の脅威から長年守られて来たが突然現れた魔物によって無効化されてしまい、今まで通り森で狩が出来なくなったため、魔物の排除する依頼だった。


「なるほどね・・でもさ、Fランク向けの依頼じゃないよね?」


 俺の言葉に当時のことを思い出したのか俯きながら答えてくれる。


「それは・・最初はAランク指定の依頼でギルドに出したけど、報酬が少ないから下位のランクに指定しろと言われてBランク指定の依頼に変更して再依頼したら、手数料だけ取られて却下されちゃって。終いには、Fランク指定にしろと言われたからその通りにして依頼を出したら、亜人からの依頼をギルドが承認するわけないだろって・・・・」


 最後の方は言葉にならずエルナは静かに涙を流し泣いている。


「エルナ・・嫌なこと思い出させちゃたね」


「いえ、大丈夫・・はい」


 この重苦しくなった空気を変えたくなった俺は、エルナに提案した。


「とりあえずさ、飯食って気分転換でもしよう!・・な?」


 キョトンとしたエルナは一瞬理解できてなかった。


「ふぇ?・・お、お腹はすいて・・」


 くぅ〜〜


 俺の誘いに乗るかのようにエルナのお腹が鳴り、真っ赤な顔でお腹を押さえる仕草が子供っぽい。


「あぅ〜〜」


「じゃぁ行こっか!」


 椅子から立ち上がり、お腹を押さえ座ったままのエルナの手を引っ張り立たせて飯屋を探すことにしたのだった。



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