5章 王都マーカー編 7話 意識ない空白の時間①
長い眠りから目覚めたような感覚の中、モヤモヤした意識が少しづつだがハッキリとしてきた。
俺は起き上がろうとしたが、酷い倦怠感の影響で体が重たく感じ動くのを諦めた。
「ここは・・どこだ?」
見上げる木目調の天井は、初めて見る。宿屋の天井とは質感が高級だ。起き上がるのを諦めた俺は、寝返りを左へ右へとして部屋に誰もおらず、置かれた家具は最低限で質素な印象を感じた。
右へ寝返り窓から差し込む陽射しと僅かに開いた窓のから穏やかな風が気持ちよく、窓から見える四角い青空を眺めていると部屋のドアが開いた。
コンコン・・ガチャッ
「ご主人さま、今日はですね街へ買い物に行って肉屋のダンさんがお肉を安く売ってくれたのですよ〜!それでですね、帰り道に出店の肉串の誘惑に負けて買っちゃいました・・えへへ・・ゴメンなさい」
部屋に入ってきた女性が、外を眺め返事をしない俺を気にすることなくずっと喋っている。
「それで他のみんなは、朝から森へ討伐に出かけました・・だから今日はわたしが、ご主人の当番なんで・・す・・よ」
背後で喋り続ける彼女にゆっくりと寝返り顔を向けて誰かなのか確認する。
部屋の机に置いてある桶を手に振り返った彼女と俺は視線が重ねり、彼女の言葉が途切れる途切れに・・。
そして、口を先に開いたのは俺だった・・。
「ミオ・・・・」
頭に浮かんだ名前を呼んだ少女は、黒髪オッドアイの猫人族のミオだと、なぜかそう感じた。
ミオは、手に持っていた桶を床に落とし震える手を口元を覆いながら俺に抱き付いてくる。
「ご主人さま・・良かった・・良かったです」
俺の胸元に顔を埋めるミオのネコ耳が眼前にあり、無意識に撫でる。手に伝わる感触が懐かしい。
「・・ミオ、1人では起き上がれないんだ・・手伝ってくれないか?」
「もちろんです。無理はしないでください」
俺から離れたミオに手伝ってもらい上半身を起こす。隣に座るミオは俺に抱き付き、首筋に顔を擦り付けている。やっぱり猫だな・・。
しばらくして落ち着いてきたミオに水を飲ませてもらい、湿らせたタオルで全身を拭いてもらった後に眠たくなってきたため、また眠りについてしまった。
『ハル・・・・』
誰かが読んだせいなのか、体が反応し目を開けると目の前に金髪ロングの大人びた女性と目が合い彼女は驚いたようで一瞬目を見開いた。
「・・どうした?」
「どうしたじゃない・・バカッ」
泣き顔を見せないよう俺に抱き付いて、小さく嗚咽を漏らしている彼女の頭を撫でながらささやいた。
「アイナ・・心配かけさせちゃったみたいだね」
「・・もう、会えないかと思ってた・・」
すると、部屋のドアが開きミオが入ってきた。
「アイナさん、ここにいらしゃったのですね」
アイナは、俺から離れてベッドに腰掛ける。
「すまない・・ハルの顔が見たくてこの部屋に居たんだ」
「いいんですよ。ここは、アイナさんの家ですから」
「ここは、アイナの家なのか?」
俺は、アイナに問い掛ける。
「あぁ、この家は王都から離れた山間部にある私の別荘なんだ」
「アイナ・・王国騎士副団長の君は何者なの?」
「こ・・これでも、中流階級貴族家の長女なんだからな。今は、ただの女だけどな」
「どういうこと?」
アイナの表情が固くなり、ミオを見ている。
「ご主人さま、あのですね・・」
「どうした?」
アイナからミオに視線を移動させる。
「アイナさんは・・除隊されました」
「除隊?・・騎士団を?」
「はい」
ミオからアイナへ視線を向けると、アイナは唇を噛んでいるようだった。
「そうか・・アイナにも迷惑をかけたんだな・・」
「ち・・違う!迷惑だなんて思っていない!私の独断なんだ・・だから・・」
俺は、そっとアイナを抱きしめるとアイナも俺に手を回し抱きしめてきた。
そして俺は、ミオとアイナに支えてもらいながら立ち上がり部屋を出てリビングへと連れて行ってもらった。
広いリビングに入り、3人掛けのソファに3人一緒に座り俺は2人に聞いた。
「そういえば、あれからどうやってこの別荘まで来たんだ?」
そして、苦しそうな表情をするミオとアイナの話はこうだった。
ミオが酒場で目覚めた時には、席に俺の姿はなくトイレに行っているとトニーが教えてくれた。しばらく経っても俺が戻って来ないため不安になったリサとカラが席を立つが、トニーが何度も阻んだらしい。
最初は、リサとカラはトニーの言ううことを聞いて3人で会話を交わしていたが、何人もの周囲にいる男客がトイレに行って席に戻ってくる光景を見て痺れを切らしリサとカラが迎えに行こうとしたが、またもやトニーが男の都合だと言って2人を行かせなかったと」
とうとう酒場の閉店時間になった頃にトニーが自らトイレに行って迎えに行って、席に戻るとリサ達に俺の姿が見えないと言い先に帰ったのかもと言いながら席を離れ店の周囲を探すと行って酒場を出たらしい。
俺の姿が無いと聞いたリサとカラは、慌てて男トイレに駆け込み自らの目で確認した2人は席に戻り寝ているリルとクウコを強引に起こして俺がいなくなったことを伝えた。
目を覚ましたリルとクウコは酩酊状態で、まともに会話もできない程のどうしようもない状態だったため宿屋に帰ることになった。
宿屋に辿り着き、ミオは水浴びをして1人で深夜の街へ繰り出し捜索をしていると、王城方面へ急ぐ不審な集団を見つけ追いかけて行ったが、途中に待ち伏せをしていた存在に急襲を受けて対処している間に不審な集団は王城へ入って行き、その場は諦めて撤退したと。
そして、アイナが口を開く。
朝の定例会議に参加していると、巡回騎士の報告で昨夜に国家転覆を企んでいた男を拘束したの報告があり会議後から警備レベルが上がり、そのまま王城の近衛兵と共同で謁見の間を警備していたと。
警備レベルが上がったせいなのか、謁見の間に大勢の騎士が入って行くのを見送り、しばらくすると召喚された勇者達一行も謁見の間に入って行ったため、重要なことがあるのだろうと。
勇者達一行が入り、しばらく穏やかな時間が流れていると謁見の間から少年少女達の叫び声が聞こえたため、急いで扉を開き中に入った時には、2人の少女が奥のドアを叩き叫んでいる光景を見たとのことだった。
そして・・ミオとアイナが顔を合わせた後に、ミオが続きを話し始めた・・・・。




