5章 王都マーカー編 5話 処刑台へ・・・・
何か外部からの衝撃を受けたせいなのか、本能的に意識が覚醒した瞬間に喉の渇きと空腹感に襲われた。
「・・なんだこれ」
ガチャ・・ギィ・・
「起きろ」
背後から男の声がするが、倦怠感に包まれていて思うように体が動かない。
「いい具合になってるな」
先ほど声をかけた男と違う男の声だ。
「そうみたいだな。あの魔導士の連中が魔法かけて放置していったからな」
どうやら2人の男が来ているようで会話を聞く限りだと、意識を失った後に魔導士が俺に何かの魔法をかけていたらしい。
「・・仕方ない。やるしかないか」
「だな・・これも団長の計画通りだからな」
ん?仕方ない?この男達にとっては不本意なのか?これは、ハイド騎士団長の思惑なのか?そう考えていると、男達が背後から両脇に腕を入れて、俺を支え立ち上がらせる。
強制的に立たされた俺だが、魔法の影響なのか上手く足に力が入らない。しばらく無理やり引き摺られるように歩いて何処かへ連れて行かれる。
簡易的なドアを開けて、小さな部屋に入ると真ん中に1つの椅子が置いてあり座らされた。
「この先に目的地がある。そこまでは、コレを被らせるからな」
そう言った男は麻袋を持っていて、そのまま俺の頭に被せる。
「よし、立て。このまま目的地に連れて行くからな」
男達に立たされ無理やり歩かされた俺は、2つ目のドアを出た時に空気が変わったことに気付いた。
目的地に着いたのか、肩を押されて椅子のような物に座らされ両腕を持ち上げられ両手首にロープが結ばれる感覚が伝わり固定された。
周囲からは、金属が擦れる音が俺を囲んでいるように聞こえてから静かになり、視界が奪われている俺だが本能的に首を左右に動かして周囲を見る行動を取ってしまっていた。
そして、この場を統制している主の声が響き渡る。
「我が王国の国民よ!よくぞ集まってくれた。ただいまより、マーカー王国の転覆を企み勇者様の命を狙った男の処刑を行う」
男の言葉の後に大歓声に包まれた。きっと、喋り方からしてスパイル国王なのだろう・・。
「そして今、処刑台に上がった反逆者の男の正体を見せる!・・・・騎士団長!!」
「ははっ!仰せのままに」
被せられていた麻袋を強引に剥ぎ取られ、俺は集まった民衆に素顔を晒すことになってしまった。
周囲が見えた俺は場所を確認すると、どうやら王城正門前の広場に設置され高台となった処刑台に張り付けられて身動きが取れない。
被せられた麻袋が剥ぎ取られた後から、周囲の声が騒めく。
「「くろ・・くろ(くろよ)・・黒だ!!・・黒髪だ(黒目よ!)」」
俺を見る民衆から、くろだ!黒髪だと騒ぐ声が、彼方此方から聞こえてくる。
俺に向けてくる、興味本位の視線、殺意を込めた視線、興味のない視線、そして悪意を込めた視線が俺に向けられている。
これは、スキルで感じるのではなく人間の本能の部分で感じ取っているのだろう。
そう思っていると、打開策の無い俺に一つの希望の光景が視界に入ってきた。
広場の向こう側に立ち並ぶ家屋の屋根から獣人シスターズが広場に集まっている民衆を見渡しているように感じる。
「リル・・クウコ・・ミオ・・ミリナ・・」
呟くように4人の名を呼ぶ。
スッと4人が俺の方をジッと見るが、容姿が変わった俺に気付かないのか獣人シスターズ同士で顔を見合わせ何度かこちらを見るが、それ以上の進展はなかった。
「・・黒髪黒目で声も変わったし、あいつらには俺と認識できないんだろうな・・・・」
1人で落胆して俯いていると、1人の人間の影に入ったことに気付き顔をあげると勇者の沖田が見下ろしていた。
「・・椎名先輩・・イヤ、もう先輩じゃないな。冒険者ハル、ほんと無様な状況に陥ったな?」
民衆に背を向けて周囲にの人間に聞こえないようにして、ニヤつきながら俺に話しかけてきた。
「・・なんだ、冒険者以下の戦力しかない勇者様か」
勇者沖田のニヤついた顔から苛立った顔に急変するから弄りがいのある勇者だ。
「てめぇ!・・ちっまぁ、いいだろう。最後に言い遺す言葉は・」
「・・なんだ・随分と罪人に優しい勇者様だな?」
グサッ!
「いっ・・・・てぇ・・・・」
勇者沖田が右手に持っていた短剣を俺の左脇腹に無言で浅く刺した。
無言で俺の左脇腹を突き刺した勇者沖田は、表情を変えずに告げる。
「・・最後に言い遺す言葉は?」
「あ、ある。できたら・・みんなに懺悔したいから、俺の声が・・広場にいる民衆に聞こえるようにしてもらえないか?」
「・・・・その痛みをゆっくり感じながら待ってろ」
「・・わかった」
勇者沖田は、俺の血が付着した短剣を処刑台の床に刺し、スパイル王国とミリア第1王女のところへ向かった。
3人が何か短く会話をしたのちに、スパイル国王が民衆に語りかける。
「国民の皆よ!たったいま、勇者様の寛大なるご慈悲により罪深き反逆者に最後の懺悔を聞かせたいとのことだ」
スパイル国王の言葉を聞き入った民衆が拍手をして、勇者を賞賛する声に広場が包まれていき勇者沖田が右手を上げると静まり返る。
「みなさん!改めまして、勇者のオキタです。この反逆者である男に・・僕の我が儘かもしれませんが、慈悲を与え最後に懺悔をみなさんに告白させることにしました!」
民衆から大歓声を浴びて、満足そうな顔をする勇者沖田。
若い女性からの黄色い声援に笑顔で答える勇者沖田。
その正反対の立場で拘束され、命の終焉を迎えようとする俺は、ジッと勇者沖田を見据える。
民衆からの声援に満足したのか、民衆に手を振りながら俺の元へ戻って来て口を開く。
「・・・・琴音と美音は、俺に任せてください。必ず幸せにしますよ・・そうだ、櫻田先輩もね」
俺1人に向ける勇者沖田の顔が下衆な表情になる。
「・・この、この状況じゃ・・もう、俺には無理だな・・悔しいが仕方ない。お前に任せるか・・」
俺の敗北宣言に満足な笑みを浮かべる勇者沖田。
「意外と潔いですね・・それなら、先輩の墓参りをさせるぐらいは許可してやるか・・」
「・・あぁ。ありがとう。あいつらもきっと喜ぶだろうな」
勇者沖田は、一歩離れて帯剣している両手剣を抜剣し高く掲げると、陽に反射したのか自ら輝きを放ったのかわからないが、白く輝きを放っている。
そして、切っ先を俺の喉元に向けて告げる。
「それでは、今までお疲れ様でした・・・・」
ハイド騎士団長の方に顔を向けた勇者沖田が頷くと、ハイド騎士団長が騎士達に指示を出す。すると、俺の両手首を固定したロープが上へ引っ張られていき、体が持ち上げられていく。
俺は爪先状態で立たされてしまい、全体重を両手首で支えることになってしまい両手首にロープが食い込んでいく。
その状態を確認した勇者沖田は、俺に背を向けて民衆に語り始める。
「え〜〜それでは国民の皆さん、この反逆者の最後の懺悔をお聴きください!」
そう言い終えた後に振り返り口を開く。
「このまま素直に喋らす訳がないだろ?だから、制限時間付きにさせてもらうから」
腰から細長い針状のモノを取り出して、右脇腹から突き刺してゆっくりと引き抜く。
「ぐぅ・・あっ・・ヒュ・・ヒュー」
「さぁ、思う存分泣き叫べばいい!肺に穴を開けたから、一番苦しい方法で死んでいけ!」
俺は、差し込まれたモノが抜かれてから、呼吸が上手くできないことに気付く。吸いたいけど吸えない。
「・・な・・なんだこれ・・くっくるし・・い・・」
「くっくっくっ・・なんか顔色が悪くなっているぞ?大勢の前で喋ることに緊張しているのか?さぁ、どうした?早く懺悔しろよ・・なぁ?」
目の前で、苦しむ俺を挑発する勇者沖田を無視して、俺は燃え尽きていく人生最後に出す大声を出す準備を整えた。
「・・・・俺は!冒険者ハルだー!・・・・お前ら!・・肉串!食うかーー!!!!????」
「はい?」
なんとか肺に確保した空気を使い切ると、もう吸えない俺がいる。視野がだんだん暗く狭くなっていき意識が朦朧となり暗く深い世界へと沈んで行く感覚に包まれていく途中に4つの光が見えた。
銀色と金色の光跡と黒色と茶色の光跡を見つけた時、苦しみの中で自然と笑みが溢れた気がして呟く。
「とても綺麗な輝きだな・・・・」
目を開けているはずなのに暗闇に包まれ、もうあの輝きを見ることはできない。周囲の音もこもり今ではハッキリと聞こえないんだ。
でも・・でも、最後の最後にあの声達だけは聴き取れた・・・・。
「「「「 ハル!!!! 」」」」




