5章 王都マーカー編 1話 日常と変化
王都には二度と来ないと決めていた俺は、王都に入ろうとしている。
西門前で止まった俺達の馬車は、門兵の検査があるため列に並んでいる。先に走っていた騎士団と勇者様一行の馬車は、止められることなく王都へ消えていった。
「おいていかれちゃったね〜」
俺の横に立っているクウコがポツリと呟く。
「・・そうだな。まぁ、いいんじゃないかな?」
それから30分ぐらい待ちやっと西門から王都に入り、馬車を馬車預け屋に預けてから皆で泊まる予定の宿屋スーピーに向かった。
「こんちは〜!今晩の空き部屋ありますかー?」
宿屋に入りながら、受付にいるだろう宿主に向けて声を掛けると、ヒョコっと受付から姿を現した少女と目が合う。
「いらしゃい!・・あっ・・ハル兄さん?やっぱハル兄さんだ”!」
「久しぶり!元気そうだねルミナ。8人で泊まりたいけど、部屋ある?」
「8人が泊まれる大部屋は無いので、4人部屋を2部屋でいいですか?」
「そうか、ならそれで頼むよ!」
ルミナはニコッと笑い、お金の勘定をしてくれる。
「1部屋で銀貨4枚なので、銀貨8枚お願いします」
俺は、宿代を支払いルミナから部屋の鍵を2本受け取り部屋へと向かい、1つの部屋に全員で入る。
「とりあえず、今夜の部屋割りなんだけど・・・・」
ルーシーは即決で別部屋だが、他のメンバーが熾烈な争いをしているのを部屋の隅で見守る俺が居る。
「あの・・部屋割り決まったかな?」
みんなの反応は無い。無視されているようで、少し悲しい。
そして、まだ決まりそうに無い。
みんなが、俺との同室を主張し平行線のままです。
「そしたらさ・・日替わりなんかでどうかな?」
ルーシーを除いた全員が動きを止めて、俺を凝視している。
とりあえず、渋々だけど了承してくれた。今夜は、俺とリルとクウコとミオの4人。ルーシーの部屋にはリサ、カラとミリナに決まった。
やっと部屋割りが決まり、それぞれが部屋に荷物を置いた後は、俺の部屋に集まってくつろいでいる。
獣人シスターズは陽の当たる場所でゴロゴロしていてもう眠そうな顔をしていて、リサ達はベッドに腰掛け談笑しているため時間を持て余してしまったため出掛けることにした。
「ちょっと買い出しに行ってくる。夕飯の時間には戻るから」
リサ達にそう伝え1人で宿屋を出て街へと繰り出す。目的地は、冒険者ギルドだ。
都市ニシバルに比べて人通りが多い人波をすり抜けて噴水広場近くにある冒険者ギルドに着きドアを開けて入ると、暇そうな受付嬢が1人見つけた。
「・・相変わらず暇そうにしてるね」
「はっ!・・な、いきなりなんてご冗談を!
意識がどこかに飛んでたアメリアが、目を覚まして取り乱している姿が面白い。
「なんてね。久しぶりアメリア。元気そうだね」
「あっ!ハ・・ハル!久しぶり」
カウンター越しに久しぶりに会ったアメリアと最近の王都の状況や都市ニシバルの話をしていると、ギルドに王国騎士が3人入って来てギルド職員に声をかけている。
「そこの君!ギルドマスターを呼んで欲しい」
そう告げると、呼び止められた男性職員が慌てて階段を上がり、2階のマスタールームへ向かった。
しばらくして、ゆっくりと階段を降りてくる女性職員がいる。
「なぁ、アメリア。あの階段を下りている人は?」
「あの人がギルドマスターのエリーナ=ソーラスさんだよ」
「えっ?そうなの?」
あの憎きギルドマスターと違い、スラッとした体格で茶髪を肩まで伸ばしメガネをしている外見は、商人ギルド職員にいそうな風貌だ。
俺は、気付かれぬよう王国騎士とギルドマスターの会話に聞き耳をたてる。
「私が、ギルドマスターのエリーナ=ソーラスですわ。王国騎士が冒険者ギルドに来るとは、どんな緊急案件かしら?」
「王国騎士団機動偵察隊所属のファスト=イライザと申します。我々はハイド騎士団長の命ににより、とある冒険者の行方を捜しております」
どうやら騎士達は冒険者を捜しているようで、情報紙をギルドマスターに数枚手渡して話を続けている。
「アメリア、そういえばギルドマスターはいつから着任してるの?」
「確か、前任者が行方不明になってから十数日経ってから地方都市のデサリウスから来たと言ってましたよ」
「へぇ〜デサリウスからね〜」
地方都市デサリウスは、王都マーカーから南へ遠く離れた場所にあり、海に面していると聞いたことがあるだけで、どんな都市なのかはわからない。
アメリアと話していると、騎士とギルドマスターの会話も終わったようで騎士はギルドから出て行きギルドマスターは2階のマスタールームに戻って行くようだ。
階段を上っている途中に立ち止まり振り返ったギルドマスターと一瞬視線が重なったような気がした時に、ギルドマスターが微笑んだように見えたが意図はわからなかった。
アメリアから王都の近況を聞くことができた俺は、ギルドを出て大通りを歩く。次の目的地はルーシーの商店があった場所へ。
大通りを歩き、どこか懐かしさを感じながら歩いていると目的地のルーシーの商店があった建物の前に辿り着いた。
何者かが侵入したのだろうか、建物の中は荒らされ散乱している。
「これはヒドイな・・」
鍵の掛かって無いドアを開けて中に入り奥の部屋の状態を確認しに行くが、どの部屋も荒らされ散らかっている。
奥の部屋を出た時に2階へと続く階段が目に入る。
思い出したくはない記憶が蘇る。あの3人を守りきれなかったあの時を。
気付くと無意識に階段を上がり、あの部屋へと向かっている。
あの部屋のドアの前に立ち、手汗をかいた右手でドアノブを握りゆっくりとドアを開ける。
ドアを開けると、壁や床が赤黒く染められている。
あの時の部屋で3人が横たわる光景が見えてしまい、全身の震えと冷や汗が止まらず乱れた呼吸を落ち着かせるため急いで部屋を出て階段を下りる。
近くのドアを開けると、裏口だったようで裏道に出てしまったようだ。
「はぁ・・はぁ・・」
心と呼吸を落ち着かせた俺は、裏道を歩き大通りに出て宿屋に帰ることにした。
飯屋が並ぶ通りを歩いていると、向こうから見たことがある顔の男が歩いてくる。
俺は、通りの端っこを気付かないふりをしながら歩いてすれ違う瞬間に男から声をかけられた。
「いやいやいや、ちょっと待てよ!幼馴染をシカトするか?普通に」
「あっ・・トニーだったの?気付かなかったよ」
「そんなわけないだろ?何回か見てたじゃないか」
「ちっバレてたか・・」
「・・まぁ、そんなことより久しぶりだな」
「だね。今日、ニシバルから戻って来たんだよ」
トニーは非番のようで、ラフな格好をしている。彼も、遠征から帰ってきたばかりで数日は非番らしい。
「ハル、今夜予定あるか?」
「今夜?別にないけど・・」
「そしたら、あの酒場で久しぶりに飲まないか?」
「おぉ、良いね。リサ達も連れて来て良いか?」
「あぁ、もちろんさ!」
トニーと今夜久しぶりに飲む約束をして別れ、宿屋へと帰った。




