4章 西の都市編 9話 呪縛の宝石
朝陽を浴びながら馬車を走らせ、ニシバル北の地下ダンジョンへ向かう。
地図を片手に進んでいると、気配探知スキルに大勢の人族が集まっている反応があった。
「きっと・・あそこだな」
遠くにテントが立ち並んでいるのが見え確信に変わる。
ゆっくり近づいて行くと、テントの周囲に柵を配置し警戒をしている様子だった。
一ヶ所だけある出入口に冒険者が5人等間隔に配置され警戒している。
一番近い冒険者の男の側に馬車を止めて降りて話を聞くことにした・・
「あの、ここで何かあったのですか?」
長剣を持った男が警戒しながら近づいてくる。
「せっかくだが、関係の無い者には話せないんだ・・」
「そうですか・・それなら、冒険者ギルドでダンジョンの捜索依頼できたのですが・・」
持っていたギルドの依頼票を冒険者に見せる。
「なんと・・君も手助けをしてくれるのか?・・確認するから、依頼票をこちらに」
俺は手に持っていた依頼票を男に渡すと、男はギルド発行の依頼票か確認している。
「ありがとう、本物の依頼票だ。今から案内するから、代表の君だけついて来てくれ」
男から依頼票を受け取り胸元にしまっていると、先ほどまであった男の顔から警戒心が薄れたようだ。
「わかりました」
獣人シスターズに念話で馬車の中で残るよう伝えるとともに、周囲の警戒を忘れないようにとも言った。
男に案内されて、立ち並ぶテントの1つに入ると重苦しい空気に包まれ殺気だっていた・・。
「なんか、すごいですね・・」
俺の前を歩く男に小声で話しかけると、男は周囲を気にしながら小声で教えてくれた。
「じつはな・・20日くらい前にダンジョンに入った王都から来たという勇者様一行が、帰還予定日を3日過ぎても戻らないらしいんだ」
「それは、騎士団もこうなるわけだ・・」
しばらくテントで待っていると、仕切り幕が捲られて奥に入るよう騎士に指示され中に入る。
そこには、銀色の鎧を纏った騎士が数人テーブルを囲い座っている光景は、戦場に想定外の敵が出現し対応に苦慮しているような空気に包まれている。
一番奥に座りテーブルに肘をつき俯いている騎士に見覚えがある。
その他の騎士は俺をチラ見した後、興味がないようで中断していた話を再開している。
空気を読んでいただろう、俺を招き入れた騎士が報告する。
「報告します。冒険者ギルドに依頼していた依頼が受理され、冒険者パーティーの代表者が到着しました」
そう言って、騎士は出て行き俺は1人取り残される・・。
「・・・・・・」
この重たい空気の中で放置されている俺はこの空間から早く出たくて仕方ない気持ちを抑え、隅のほうで黙り反応を待つ。
「・・はぁ〜打開策が見つからない。私は、いったいどうすればいいんだ・・」
テーブルに肘をつき項垂れている騎士は、大きめの声で独り言のように呟いている。
周囲に座る騎士達は、この言葉を聞いた途端に腕を組み目を閉じて考え込む仕草を一斉にしはじめる。
この状況が続くことにイラだって来た俺は、時間の無駄と思い出ることにした。
この場から、無言で立ち去ろうと後退りをしたと同時に背後からリルの声が聞こえた。
「ハル?どうしたの?」
振り返ると、仕切り幕を捲りヒョコッと顔を出すリルと目が合う。
「あっリルか・・ここまで案内されたけど全然相手にされないから、今からみんなのところへ戻るとこだよ」
「そうなの?いっしょに帰ろうよ」
頷いた俺は、リルと手を繋ぎ一緒に出るため仕切り幕を捲って出ようとした時に呼び止められた。
「おい!そこの冒険者殿・・待ってくれないか?」
この声の主は、アイナ副団長だった。俺は振り向かないまま口を開く。
「依頼を出しておいて、冒険者の・・この雑な扱いは無いよな・・」
そう言い残した俺は、仕切り幕を下ろしリルを連れて、みんなの待つ馬車へと向かう。
テントから出て、馬車に向かい歩いていると荷台のテントの幕の隙間からミオとミリナとクウコが上から順に顔だけを出してこっちを見ている。
俺は3人に手を振ると笑顔で応えてくれる。
「ただいま!」
「「「おかえり(なさい)」」」
3人のピコッと同時に動くケモ耳が可愛くて仕方ないと思いながら、隣で歩いているリルのケモ耳を触りながら頭を撫でて、リルの腰を持って抱き上げて荷台に乗せて俺も乗ろうとしたら背後から声を掛けられた。
ダッダッダ・・
「おい!待ってくれと言っているではないか・・・・あぅ・・」
俺を呼び止める声の主へ振り向き視線を合わせると、彼女はすぐに俺から視線を外す。
呼んだくせに視線を外した行為に苛立ちを覚え、そのまま荷台に乗り込む。
「みんな、とりあえず今日はここで野営して、明日の朝に地下ダンジョンに入ろう」
みんなは頷き了承してくれていると、外から呼び続ける彼女を黙らせるため1人で馬車から降りる。
「・・お願いだから、出てきてくれないか・・たのむ・・」
「王国騎士団の副団長様が、わざわざ平民の冒険者パーティーに何かご用ですか?・・」
とりあえず、放置されたことの腹いせのため、冷たく他人行儀な態度をとる。
「え?・・あの、その・・なんだ・・もう一度、騎士団のテントに来てくれないか?」
俺は無言で、アイナをジッと凝視する。
「お・・お願いだ」
アイナはしどろもどろになりながら、なんとか俺を騎士団テントへ連れて行きたいらしい。
「・・ちょっといいか?」
アイナの右腕を強引に掴み、テント側からは見えない馬車の反対側へ連れて行く。
「ちょ・・なにする気・・」
アイナの背中を馬車に押し付け、俺は少し距離をとる。
「アイナ・・・・」
「こ・・ここは外だぞ・・」
俺は、アイナの顔をジッと見つめ視線を外さず近く。
「な・・なんだ?・・ハル、その・・近くないか・」
スッと右手を伸ばし、アイナの胸元に近づける。
「はぇ・・・・」
アイナの顔が赤くなり動揺する姿に、騎士団副団長の威厳は失われているが構わず胸元に右手を近づける。
「アワワワ・・・・いっ」
アイナの胸元に触れるか触れないかの距離まで近づけた瞬間に隠密スキルを発動し、右手を素早く動かし胸元に身につけられているネックレスを一気に引き千切ると同時に隠密スキルを解除する。
ブチッ
「いたっ・・ハルッ!痛いじゃないか!」
俺は右手で引き千切ったネックレスをアイナの顔の前でぶら下げて静かに口を開く。
「アイナ・・コレは、ハイド騎士団長から貰ったんだよな?」
「・・あぁ、そうだけど」
首をさすっているアイナに質問を続ける。
「いつ貰ったか憶えているか?」
アイナは、しばらく考え思いだようとしてるが思い出せないようだ。
「・・すまない。思い出せない」
これはきっと、アイナの本心だろう。そして、1つの疑問を聞いてみる。
「最後に1つ聞いていいか?」
アイナは頷く。
「アイナが俺を、王城の地下独房と訓練場で蹴り飛ばしたことを覚えてる?」
俺の言葉に、アイナの表情が固まり蒼白へと変わっていく。
「あぅ・・それは・・私じゃない私が・・」
アイナは涙ながら、口を震わせて言う。その場に崩れ落ち、涙ながら謝罪している。
俺は、泣き崩れたアイナの前でしゃがみネックレスを見せながら伝えた。
「アイナ・・コレはな、身に付けた者を洗脳し思うがままに行動させる危険な代物だ。一緒に居る猫人族のミオもコレと同じ物を身に付けさせられていたんだ」
「・・そんな、どうして」
アイナは信頼し尊敬していたハイド騎士団長から譲り受けた物がこんなにアブナイ物だと知らず、大切に身に付けていたことを悔やんでいる。
「まぁ、コレのおかげで全力で俺を蹴り飛ばすことができたんだよな・・」
「なぜだ・・うっうっ・・ゴメンなさい」
静かに泣き崩れているアイナを抱き起こし、耳元で囁く。
「そろそろ戻れよ。部下が近くに待っているんだろ?」
「そ、そうだったな。私としたことが・・」
涙を拭き、立ち去ろうとするアイナを抱き寄せる。
「な・・ハル、なにを・・」
ビクッと全身が強張り一瞬だけ抵抗を見せたアイナだが、すぐ大人しくなった。
「アイナ、やっと君をハイドからの呪縛から解放できたよ・・」
「・・ハル」
俺の言葉に応えるように、ギュッとアイナが抱き締め返してくる。
密着していた体を離し、アイナの目を見つめた後に短い口付けを交わし離れる。
「ん・・あっ・・」
アイナの表情が少しだけ女の顔になっていたことに俺は満足し、近寄るアイナの部下が駆け付けたと同時に片膝をついた姿勢になり、仕事の話に切り替えた。
「騎士団副団長様、ギルドの依頼により地下ダンジョンの冒険者捜索に参りました」
「ふぇ?・・え?・・はい?・・」
ザッザッ
「アイナ副団長!もうじき作戦会議の時間になりますので、お戻りください」
まだ同様しているアイナは、焦りながら部下に答える。
「んなぁ・・あぁ、わかった。すぐ行くから準備を整えていてくれ」
「「 はっ!!」」
騎士2人は、敬礼し戻っていく。
「・・それじゃ、作戦会議とやらを頑張れよ・・」
俺は右手を振りながら、馬車の荷台の後ろに戻るためアイナに背中を向け歩き出すと、呼び止められたため振り返る。
「ハルッ!」
「なんだよ、早くテントに・・ん・・」
目の前に赤い顔をしたアイナに不意に口を塞がれてしまった。
「ふふ・・お返しだ・・」
そう呟き走ってテントへ戻って行くアイナの姿を呆然としたまま見送る。
「ちっ・・あいつの方が上手だったか」
なんか負けたような気分で、俺は荷台のテントに入っていった・・。
地下ダンジョンに入る前に動きを入れました。
西の都市ニシバルの北門で別れた勇者達の行動は、まだ先になりますが投稿します。
それまでは、ダンジョンでの物語を続けます。




