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1章 はじまり 4話 これからのふたり

 窓越しに獣人族と見つめ合う。


 口から自然と溢れ出た名前・・・・。


 共に過ごした時間は、ほんの少しだけ。


 だけど彼女の目に惹かれていたことを、この胸が覚えている。


 黒髪でオッドアイの猫人族の少女。間違いなくミオだ。



「ハル・・やっぱハルだ・・」



「なんと!ハル様は417番をご存知でしたか」


 モンスの方を向き頷いて、過去に会っていたことを話し終える頃には、ミオを引き取ることに決めた。


「モンスさん、ミオを引き取らせてください」


「ありがとうございます。それでは契約の手続きのため先程の部屋へ移動しましょう」


 奴隷居住区を出て、二階の商談室のソファに座りモンスと対面する。


「それでは、戦闘奴隷417番獣人族の契約手続きをいたします」


 モンスは、後ろに立つ男店員から紙を受け取り、テーブルに広げる。


「まずは、売人からの購入代金と本日までの経費が金貨20枚。今の相場で金貨100枚になりますので合計で金貨120枚です」


「き・・金貨120枚ですか」


 想像以上より高値だ。貴族しか買えない訳だな。しばらく考える仕草をモンスに見せつける。


「はっはっは。ハル様、これでもお安くしてるんですよ」


 モンスは笑いながら俺を見てくる。金貨120枚から安くする気は無いようだ。これ以上は時間の無駄と判断し、アイテムボックスから金貨を出し、素早くテーブルに積み上げる。


「はぇ?」


「金貨120枚です。ご確認を」


 余裕ぶった顔のモンスは驚愕の表情になり、俺の顔とテーブルに積まれた金貨を何往復も見ている。


「か・・確認させていただきます・・・・確かに120枚確認しました」


 モンスは後ろの男店員を呼び指示を出し終えると、男店員は部屋を出て戻ってくることはなかった。


「417番奴隷の支度をしていますので、しばらくお待ちください」


 部屋のドアからノック音がなりドアが開くと、先程とは違い女店員が入ってくると入り口にミオが立っている。


 先程の簡素な奴隷服とは違い、白シャツに短パン姿になっている。黒髪は腰まで伸びていて手入れが足りず、綺麗に手入れされていた髪はボサボサだ。


「417番。部屋に入りなさい」


 モンスに417番と呼ばれて部屋に入ってきたミオは、俯いたままモンスの横で立ち止まる。


「ハル様。彼女の前にお立ちください」


「・・はい」


 モンスに言われたままミオの前に立つが、何をしたらいいかわからないため視線が定まらない。


「ハル様。大丈夫ですよ。そんな難しいことはありません」


「そうですか」


 モンスが黒い棒をミオの胸元にそっと触れると濃紺の奴隷紋が浮かび上がってきた。


「くっ・・・・」


 ミオが少し前屈みになり呼吸が乱れている。


「ハル様。奴隷紋に触れてください。主人の交代儀式を行います。少しづつ魔力を流し込んでください」


 右手でミオの奴隷紋に触れ魔力を流すと、グッと吸い付かれるような感覚になり多少の痛みを感じる。ミオにも痛みがあるのか両手で俺の手を強く握りしめてくる。


「では、そのままでお願いします。  マスターディスアーム・モンス。マスターアーム・ハル」


 ミオの胸元に浮き上がっていた奴隷紋が消えて、新たに淡い水色の小さな奴隷紋が浮き上がったてきた。


「ほぅ。これはなかなか綺麗な奴隷紋ですね。ハル様、魔力を止めてこの奴隷紋にあなたの血を数滴垂らしてください」


 左手を使いアイテムボックスから解体用のナイフを出し、添えている右手の指を軽く切った。


 傷口から血が垂れて奴隷紋に触れた瞬間、水色に強く輝き放ち消えると奴隷紋は跡形もなく消えていた。


「お疲れ様でした。これで仮契約完了です。どうぞお座りください」


 俺とモンスが座ると、ミオは俺の後ろに立っている。


「ミオ?ソファに座りなよ」


「ご主人様。わたしは奴隷ですので」


「そっか・・まぁいいけど」


 初めての奴隷購入者には、奴隷の扱いに関する事項を聞いた。特に奴隷が犯した責任は主人の責任を問われ、最悪は奴隷没収になることを強く強調していた。


「以上で奴隷契約に関する説明を終わります。こちらの契約書に直筆のサインを」


 テーブルに出された契約書に署名するると、モンスは契約書を四つ折りにして一気に燃やした。


「本契約が完了いたしました。ミオさん、ご主人様の役に立つよう励んでください」


「はい。これからはご主人様と共に生きていきます」


「モンスさんお世話になりました」


 俺とミオは奴隷商を出る。出入り口までモンスが見送ってきたのは驚いた。裏道を抜けて大通りに出ると、あの赤髪肉串売りの男店主を見つけた。


「こんちは。肉串2本ください


「らっしゃい。おっ?今朝の少年!連れがいたのか?銅貨6枚な」


 銅貨6枚を支払い、肉串2本を受け取り1本をミオに渡す。


「ありがとうございます」


 ミオは、熱々の牛串を美味しそうに頬張っている。ほっぺにタレが付いているから、食べ終わった後に拭いてあげるかな。


「あの、オススメの武器屋と宿を教えてもらえませんか?」


「宿屋なら妹夫婦がやっている、宿屋リメインがいいぞ。ん〜店主がクセのある奴だが、あそこがいいな」


「教えてくれてありがとうございます」


「良いってことよ。そうだ、俺はグリスだ」


「俺は、ハルです。この子はミオ」


「ミオです」


「おぅ、よろしくな二人とも!」


 グリスと別れ、まずは武器屋に行くことにした。奴隷商へ向かう裏道の途中にあるようだ。


「たしか・・緑色のドアが目印だったな・・あったあそこだ」


 パッと見は武器屋に見えないが、緑色のドアを開けてミオと店内に入るとたくさんの武器が並んでいるが店主らしき人いないようだ。


「すいませーん。誰かいますかー?」


 しばらくすると、奥からガタガタと音がして扉が開き男が出てきた。


「なんだ、若い奴らがこんな武器屋に来るなんて」


「はい。グリスさんの紹介で来ました」


「ふん・・それで何を探してる?」


 グリスさんが言ってた通りクセのある人だ。けど、うまくいけば長い付き合いになるかもな。


「彼女の武器を探しに来ました。あっミオは双剣だったよね?」


「はい」


 すると店主が黙り込んで、カウンター越しにミオへ近づいてくる。しばらくミオ見続けていたが、何も言わずに店の奥へ入っていき、戻ってきたらその手に双剣を持っていた。


「承諾もなく申し訳ないが、ちょいと鑑定スキルを使わせてもらった。嬢ちゃんにはこの双剣と相性がいいはずだ」


 店主から双剣を受け取りミオに渡す。ミオは慣れた手つきで腰に固定する。


 俺から数歩離れてから、ゆっくりと抜刀し感触を確かめている。


 ずっと無言だが、とても嬉しそうに尻尾を振っている。

「どうだい嬢ちゃん」


「はい。とても手に馴染みます」


 さっきと違い笑顔で双剣を持っている。


「気に入ったみたいだね、ミオ」


「・・・・こんな高価な武器をわたしが持つなんて贅沢です」


 店主はニヤニヤしながらミオを誘惑し、ミオの表情の変化を楽しんでいる感じにイラつきを覚えてくる。


「まぁ嬢ちゃん。ちょっとした仕掛けがあるから、魔力を込めてみな。きっと手放せなくなるぜ」


 ミオは双剣を鞘に収めて俺を見て指示を待っているようだ。頷いて魔力を込めて見るように伝えると、目を閉じて魔力を込めて抜刀するミオ。


「おぉ!儂の思った通りじゃった。嬢ちゃんはなかなかの適性じゃな」


 ミオの双剣が先程と違い、右手に持つ剣は紅く染まり左手に持つ剣は青白く染まり輝いている。


「店主これはどういうこと?」


 俺は理解できずに店主に聞くと、嬉しそうな顔で答えてくる。


「嬢ちゃんはもう感覚で理解しているが、アレはな紅く染まる剣は火属性で青白く染まる剣は水属性を宿すんだ。どうだ!シビれるだろ?」


「最高だよ店主!」


「グーズと呼びな坊主!」


「俺は、ハルだ」


 グースと握手を交わすと、お互いの何かが繋がった感覚になり笑いあっているとミオが持つ双剣は輝きが消えて元の双剣に姿を戻している。


「グーズ、あの双剣の値段は?」


「アレは、儂が作り出した双剣だ。数年も適性者がいなくて困っていたんだ。大事に使ってくれるなら金はいらん。遠慮なく持って行ってくれ」


「ありがとう、恩に着るよ」


「グーズ様、ありがとうございます」


「良いってことよ。双剣も喜んでいるさ」


 この後は、ミオの胸当てやグローブを購入し武器屋を出るともう夕方になっていたため、このまま宿屋に向かうことにした。


 宿屋リメインは、西門へ向かい大通りに面したところにあり使い勝手がとても良さそうな立地にある。入り口に入ると、受付に赤髪の恰幅の良い女性が迎えてくれる。


「いらっしゃい。宿屋リメインへようこそ」


「あの・・グリスさんの紹介で来ました」


「そうなのかい?あのバカ兄貴もたまには役に立つもんだ! わたしはモーナ」


「ハルです。この子はミオ」


 1人一泊朝飯付きで銀貨5枚だったが、サービスで夕食をつけてくれた。


 モーナにギルドカードを提示し、銀貨10枚を支払い部屋の鍵を受け取る。

 部屋は2階にある5番部屋。ミオと1階の食堂を抜けて奥の階段を上がり部屋に入る。


 幅の広いベッドとソファがあるだけの質素な部屋だ。


 ミオを先に部屋に入れてドアを閉める。二人きりにの部屋でミオが余所余所しいけど、ソファに座り寛ぎことにした。


「ミオ、立ってないで座ったら?」


「はい・・失礼します」


 そのまま床に座ってしまい、じっとこっちを見ている。


「いやいや、床じゃなくてベッドにでもさ」


「いえ・・奴隷のわたしは床で十分です」


 この距離感に溜息をついて、立ち上がりミオの手を取る俺は、ソファに座らせてその隣に俺も座るが沈黙が続く。


「・・・・ミオ。あのさ、この街の北にある地下ダンジョン探索を一緒にやってくれないか?」


「はい。喜んでお受けします」


「ありがと。とりあえず、明日はギルドに行ってミオの登録を済ませよう」


「はい・・でも、しばらく戦闘から離れていたので、できれば森で勘を取り戻したいのですが・・」


「おっけー。明日はギルドによってから森へ行こう」


 明日の行動が決まり、一安心した頃にドアからノック音が鳴ったため返事をした。


「お客さーん。夕飯の時間だよー」


「わかりましたー」


 ソファを立ち上がり、1階の食堂へ移動する。食堂には数組の冒険者パーティたちが夕飯を摂っている。

 空いている席に座ると、モーナが調理場から料理を運んで来た。


 焼き魚と野菜と肉を混ぜて炒めた料理だったが、香辛料が絶妙に効いて食欲をそそる。遅れて、女の子が果実水を運んできてくれた。


「はい、どうぞ〜」


「ありがとう」


 ニコっと笑う少女は、10才くらいだろうかモーテと同じ赤髪で笑った時に見える八重歯が印象的だった。

 そのまま、彼女は調理場へ戻っていく。


 夕食を食べ終えて部屋に戻ると、どこで寝るか悩むことになる。ミオにベットを薦めるが床で寝ると言い張る。

 しばらく譲り合いを続けるがキリがない。


「よし・・一緒にベッドで寝よう」


「・・・・はい」


 生活魔法クリーンで互いの全身をリフレッシュさせる。互いに背中を向けて寝間着に着替え終わると、部屋の魔法ランプの灯りを消す。


 急に真っ暗になったため前が見えない。手探りでベッドを探していると、不意に右手を掴まれる。


「暗視はわたしにおまかせください」


「ありがとう」


 暗闇の部屋で、少女にベッドまで案内されるとは、複雑な気分だなと思い彼女の誘導に従いベットにたどり着く。

 

 二人でベットに入るが、思ったより狭くは感じなかった。


 布団の中で握られていた手は離れて、仰向けになる。ミオとのこんな近い距離は、あの森でウォーウルフを見ているとき以来だ。


 恥ずかしさのあまり、ミオに背を向けた姿勢になる。


 一つの布団に二人で入っているためか、気持ちいい温かさに包まれて眠気が襲ってきてそのまま意識を手放した。





  ミオ Side


 奴隷商で生きる意味を失ったわたしは、ずっと壁を見ていた。何人も人族がやってきてわたしを買おうとする。

 だけど、溜め息をついて帰っていく。ここに連れてこられてどれくらい経つのだろう。そう思うことも減ってきていたある日、また人族が奴隷を見にきた見たい。


 顔を見せたくないわたしは今日も壁を見ることにする。突然、店主がこっちを向けと言ってくる。言うことを聞かなくても罰はない。また店主が指示をするが無視を貫く。


 奴隷を見にきた人族も諦めたようで、店主からの指示はなくなり出口へ向かう足音がする。だけど、まだ見られている気がする。


 早く帰ればいいのに。少し顔を動かし横目で窓の方を見るわたしは、なぜか懐かしい気持ちが芽生えていた。あの腕にあるアクセサリーに。


「ハル様!大丈夫ですかー?」


 ハル?・・どこかで聞いたことあったけな?


「はーい!大丈夫です。いま行きますから」


 あれ?この声聞いたことあるかも・・。理性より本能がわたしを動かしてくれた。


「待っでぇー!・・待ってーーー!!」   


 バタン!


 はぁはぁ・・叫ぶように発した声で彼らを引き止めようとしたが、間に合わなかった。


 これもわたしの運命なんだろう。覗き窓に縋り俯いたまま動けなかった。


 あろうことか、店主がわたしの前にやってきた。今まで見せたことない表情に驚いたのか、連れてきていた人族を呼んでいるようだ。


 店主が覗き窓から離れると、窓にもう一人の人族の手が見えた。その手首には、あのアクセサリーがある。

 一気に涙が溢れ出し感情が高ぶっていると、アクセサリーの持ち主が覗き込んできてわたしと視線が重なる。


 間違いない。あの森で出会った彼だ。


 そして・・・・わたしのことを憶えていてくれた。


「・・・・・・ミオ」




 そして、今は彼の背中がわたしの目の前にある。


 こんな形で再会するとは夢にも思っていなかったけど。


 なんだか幸せだと感じる。


 ずっとずっと、そばにいたい。


「ごしゅ・・ハル・・・・大好きです。ずっとそばに・・・・・・」


 顔が熱くなっていることを自覚する。きっと耳まで赤いのかな。


 恥ずかしさのあまり、ハルの大きな背中に顔をゆっくり埋めて目を瞑るわたし。




 久しぶりの安心感に包まれたわたしは、いつの間にか意識を手放していた・・・・。




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